銅が盗まれる時代に…バッテリーの銅をフィルムに置き換える東レの発明
銅がいま、あちこちで盗まれています。
太陽光発電所のケーブル、団地の水道メーター、農業用ハウスの配線などなど。ここ最近、金属を狙った窃盗のニュースが本当に絶えません。
銅の価格はこの5年で約2.5倍になり、今年に入って過去最高値を更新。警察庁のまとめでも、金属盗の被害額のうち銅がおよそ7割を占めています。狙われる理由はシンプルで、換金しやすく、そして世界的に値上がりしているから。
では、なぜそんなに値上がりしているのか。EVも、太陽光や風力も、AIを動かすデータセンターも、こぞって銅を欲しがっているからです。
それなら銅を使わない道はないの?
そんな取り合いのさなかにある銅を、私たちがいちばん身近に持ち歩いている電池から減らせるかもしれない。
東レが2026年7月29日、リチウムイオン電池の「負極集電体」を、従来の銅箔から樹脂フィルムに置き換えられる高性能フィルムを開発したと発表しました。集電体に必要な4つの性質を同時に満たすフィルムは世界初(※東レ調べ)で、すでに顧客へのサンプル提供も始まっています。
まず、集電体、とはなんぞや。
電池は、中の「活物質」という材料が化学反応で電気をつくります。でも、つくった電気は集めて外に出さないと使えません。その"集めて運び出す係"が集電体。活物質を乗せる薄い金属の板、と思ってください。リチウムイオン電池では、プラス側にアルミ箔、マイナス(負極)側に銅箔を使うのが定番です。
それが替えられると。東レのフィルムは薄い銅の層でサンドイッチした構造で、銅だけの箔にくらべて50〜60%軽くできるそうです。中身の大部分がプラスチックになるぶん、ぐっと軽くなるわけですね。
理由がわかっていても、なかなか実現しなかった。プラス側ではPETフィルムを使った集電体がすでに実用化されているのに、マイナス側だけは長らく足踏みしていたんです。理由は、負極側が「還元」と呼ばれる、化学的にかなり過酷な環境だから。
プラスチックがじわじわ傷んでしまう。PETをそのまま持ってくると劣化してしまうし、ほかの樹脂も、過酷さへの耐性・銅とのくっつきやすさ・強度・熱への強さ、この4つを同時には満たせませんでした。
技術で超える素材の強さ
東レはここを、独自の「ポリマーアロイ」で突破したと説明しています。アロイは合金のこと。2種類以上のプラスチックを混ぜて、単体では出せない性質を引き出す、いわば金属の合金のプラスチック版です。これで4つの条件をすべてクリアし、実際の電池でも従来の銅箔と同等の性能を確認できた、とのこと。
軽さの手応えも見ておきましょう。集電体そのものは約50〜60%軽くなり、電池セル全体でも約10%の軽量化が見込めるといいます。厚みは、6µm以上あった銅箔が、プラスチックのフィルム(4.5µm)に極薄の銅をまとわせた構成に。4.5µmは、キッチンの食品用ラップ(10µmくらい)よりさらに薄いくらいです。
この軽さは、スマホの駆動時間や、ドローンの飛行時間にそのまま効いてくる。EVなら、軽くなった余力で活物質を増やす前提の同社試算で、航続距離が最大約10%延びる可能性があるそうです(あくまで試算の話ですが、満充電500kmのクルマで50kmぶん。ちょっとした寄り道が一回増える計算になります)。
ケーブルが切り取られるほど値上がりした銅を、電池が少しずつ手放していく。手のひらのスマホの中身が金属からプラスチックへ入れ替わっていくことは、遠い鉱山の綱引きとも、すぐ近所の物騒なニュースとも、案外まっすぐつながっているのかもしれません。
