「暑ければ我慢すればいい」エアコン普及率3%、教室内40℃、猛暑5000人超死亡…のドイツがそこまで我慢をする理由
「暑いのは我慢すればよい」昭和の日本人もビックリのドイツ人の「暑さ対策」
先日、ドイツはミュンヘンの中心部マリエンプラッツ付近を歩いていた時のこと。1450年創業の老舗のバイエルン料理の店Spöckmeierの前に手書きの看板が設置されていました。看板にはこう書かれています。
「当店、エアコンあります」
ドイツで「エアコンを設置している店」はそう多くはありませんから、「店内にエアコンがある」ということが「お店のアピールポイント」になるのです。
エアコン慣れしている日本人は笑ってしまいそうですが、ヨーロッパのエアコン事情は笑えないことばかりです。今夏、ヨーロッパは猛暑です。フランスでは6月に最高気温が43.8度を記録し、ドイツでも41.7度を記録しました。ところがエアコンに慣れ親しんでいる日本人とは違い、フランスのエアコン普及率は24%、ドイツにいたっては3%、新築でさえわずか4%なのです。
猛暑であるにもかかわらず、ドイツを含むヨーロッパには「エアコンなんかいらない」と声高く主張する人たちが一定数います。理由は「エアコンが電気を使い、二酸化炭素(CO2)
を出すから」です。
ちなみに飛行機も大量のCO2
を出しますが、どういうわけだか「休暇に飛行機に乗って遠出する」ことを疑問に思うドイツ人はあまり見かけません。
■教室の温度は40℃近く、でもドイツ「扇風機を使ってはならない」
ドイツで先日バーデン・ヴュルテンベルク州の公立校に勤める女性教師の体験が話題になりました。
連日、教室の中の温度が40℃近かったため、このままでは熱中症の生徒が出るのではないかと心配した女性教師が扇風機を持参し教室に設置したところ、後日、州の管轄の役所から学校に対して文書で「扇風機の使用をやめるように」という注意がされました。
厳密には「教師や保護者が自身の判断で扇風機を教室に持ち込み使用することは労働災害防止の観点および不法行為法の面で問題であるため禁止されています」と書かれていました。しかし教室のなかの温度は40℃近く。州の管轄の役所が扇風機を手配してくれるわけでもありません。
「暑い日はオフィスの窓のブラインドを下ろせばよい」
ずいぶん前から猛暑日、そして近年は酷暑日が続く日本では「夏は暑いため、対策(つまりはエアコン)が必要である」という社会や世間の共通認識があります。しかしドイツにいたっては夏が暑いのは「ごく最近のこと」なので、ドイツには「暑さ対策」という概念がまるでないのです!
ですから、ドイツ人の口からは「昭和の日本人もビックリの体育会系的な発言」が出ることがあります。「暑いぐらいで、エアコンを設置するだなんて大袈裟だ」「暑さぐらい我慢すればいい」といった発言は枚挙にいとまがありません。
ドイツ最大の労働組合IGメタルのホームページを見ると、「室内の温度が26℃を超える場合、雇用主は室内温度が下がるよう努めなければならない」とあります。しかし暑さ対策としてエアコンの設置は勧めておらず「オフィスの部屋にある窓のブライドを下ろすこと」「換気扇を夜中もつけておくこと」「就業前の早朝に窓を全開にして換気をすること」が推奨されています。
笑ってしまったのは「プリンターやコピー機はオフィスの部屋の温度を上げるので、部屋の外に出すべき。または使用を控えるべき」と書いてあることです。猛暑のなか、職場によってはオフィスで仕事をするのではなく在宅勤務をしてもよい、としているところもありますが、家に帰ってもエアコンがないので、あまり意味がないようにも思えます。
■政治家のオフィスにはエアコンが、でも「国民は暑さに耐えろ」のフランス
驚いたことにドイツの隣国フランスでも、こと暑さについては暴論がまかり通っています。先日はフランスの環境大臣モニーク・バルビュ氏が「エアコンをいたるところに設置すればいいという人たちにゾッとします」と語りました。
同氏は続けて「エアコンをつけることで山火事は防げません。(エアコンをつけることで)作物は枯れないのですか? 動物は死なないのですか?」と疑問を投げかけ、「それよりも人が暑さで倒れないためには気候変動への対策をする必要がある」と述べ、医療・介護現場を中心にフランスの国民の怒りを買っています。
後者の「人が暑さで倒れないためには気候変動への対策をする必要がある」はごもっともな意見のように聞こえますが、この時すでにフランスでは猛暑が続いており死亡者も複数出ていました。そのような中で「気候変動」という「そもそも論」を挙げるのは、溺れている人に対して「水の大切さ」を説くようなものです。
さらに、その後、バルビュ氏を含む複数のフランスの政治家のオフィスにエアコンが設置されていることが判明し、それが「政治家は自分が特権階級だと思っている。国民をバカにしている」と人々の怒りに更に火を注ぐ形となりました。
フランスやドイツの夏が近年は「昔だったら考えられないような暑さ」であるにもかかわらず、その事実から目を背け「人間にそもそもエアコンは必要ない」というような、「そもそも論」に徹してしまうのはよくも悪くも「昔からの伝統」にこだわるヨーロッパの考え方が関係しています。
■屋外も屋内も暑いのに…伝統を愛し現実から目を背ける人々
フランスやドイツでは「古い建物を大事にすること」が大事にされ、街の景観が重視されています。それゆえに、「エアコンの設置」は「建物の外観や景観を損なう可能性がある」ため、設置には自治体からの許可が必要なのです。
そもそも古い建物の場合、エアコンを取り付けることが技術的に難しい場合もあります。共同住宅にエアコンを設置する場合、大家さんはもちろん管理組合の承諾を得る必要があり、なかなかハードルが高いのです。
筆者は2026年7月に10日間ほど、南ドイツはミュンヘンの実家に帰っていました。実家は集合住宅の5階です。耳を澄ませると、そう遠く離れていない高速道路を走る車の音がかすかに聞こえることがあるものの、ミュンヘンの端っこにある静かな場所です。
ところが、今回7月に実家に帰った時、朝早くに目を覚ますと、明らかに「外の音」がいつもよりも聞こえてくるのです。不思議に思い、マンションの共有部分に出てみると、最上階から1階までの共有部分の窓がすべて「全開」になっていました。
そして、また次の日の早朝もマンションの共有部分の窓が全開でした。そうなのです……。この集合住宅の各部屋にも共有部分にもエアコンはありませんから、「管理人が気を利かせて早朝に共有部分の窓を一定の時間、全開にし、建物の中に熱がこもらないように配慮してくれていた」のでした。
毎朝、早起きしてくれていた管理人に感謝しつつも、日本での生活が長い筆者は「暑い時に窓をあけるなんて、なんだか原始的…」とちょっぴり上から目線で笑ってしまいました。
ドイツの人は昔から「どんな気候の時も、いかなる時も、換気をすればすべてオーライ」と考えています。「夜、眠れなかったら窓を全開にしてよい睡眠を誘う」「頭がぼーっとして来たら、空気が悪いから窓を開ける」「冬に風邪気味の人がいたら、家中の窓を全開にして空気の入れかえをする」といった具合です。
当然ながら暑い時も思考回路は変わりません。近年の地球温暖化による暑さが正常な範囲内の暑さではないことを直視せずに、従来の「暑ければ窓を開ける」という思考回路のままなのです。
■原始的な「ドイツ流」は今後もう通用しない
そうはいっても、前述通り、わが実家に関しても、どの部屋にもエアコンなんてありませんから、悪口ばかりも言ってられません。筆者も10日間、実家の窓という窓を全開にしては換気をしていました。
日中は暑いものの、日本とは違い空気は乾燥していますし、夕方や夜になればだいぶ涼しくなるのですから、昼間だけの我慢です。でも、困るのは外からハエなどの虫が部屋の中に入ってきてしまうこと。実家には現在誰も住んでいませんから、筆者が日本へ帰国後はマンションに閉じ込められたハエたちが死んで、明るい色のじゅうたんに次々と落ちていくことを想像すると、ちょっとホラーです。
ドイツの週刊誌『シュピーゲル』によると、ドイツでは気温が30度を超えると、多くの人が仕事で集中できず生産性が下がるため、ドイツの経済に4.3億ユーロ(約800億円)の損失が生じるそうです。またドイツの研究機関ロベルト・コッホ研究所(RKI)は26年6月の猛暑でドイツで5100人が熱中症で死亡し、間接的に暑さで死亡した人の数はそれよりもさらに多いと発表しました。
ドイツではかつて「Hitzefrei」という制度が絶賛されていました。これはドイツの学校で、あまりにも暑い日に授業を早く切り上げ休みにする制度のことです。
このHitzefreiは、19世紀(1892年、明治25年)にプロイセンの文部省が導入したもので「午前10時に日陰の気温が25度を超える場合、学校の授業は4時間目以降は中止すべし」というものでした。現在は多くの州で「教室の温度が27度を超えた場合にHitzefreiが可能」とされているものの、Hitzefreiにするか否かの判断は学校の経営陣に委ねられることが多いのです。
一昔前、27℃を超える日はそう長く続かなかったため、Hitzefreiは生徒にとって「嬉しいサプライズ」でした。11時台に学校が終わると生徒は皆大はしゃぎだったものです。しかし暑い日が続く今では状況が違います。通常より短いとはいえ猛暑のなか教室にいる時間は苦痛ですし、Hitzefreiで早く学校が終わっても、家の中で涼めるわけではありません。理由は言うまでもなく、家にもエアコンがないからです。
今後は「暑かったら生徒を早く家に帰せばよい」「暑かったら窓を開ければよい」なんて原始的なことは言わずに「現在のドイツの夏は猛暑日が続く」という現実を直視し、暑さへの現実的な対策を行うことが求められます。
