トヨタも問題視する仕様とモデルの複雑さ。自動車メーカーは断捨離の時代に突入している
中国自動車メーカーの台頭やEV投資の巨額損失、トランプ政権による関税圧力に直面する大手自動車メーカーは、ラインナップや部品の整理整頓でコスト削減を図っている。フォルクスワーゲンは2030年までに世界展開モデルを最大50%、製品のバリエーションを最大75%削減する方針を示し、トヨタの経営陣も仕様や派生モデルの増加によるコスト高を問題視している。テスラやBYDに倣い、共通プラットフォームの活用や部品点数の削減を推進することで製造コストを下げ、消費者に提供する車両価格の引き下げを目指す。
低価格を武器にする中国系自動車メーカーがグローバル市場への進出を強める中、既存の自動車メーカー各社の経営幹部は、より低コストで車両を製造する方法の模索に追われている。
業界全体で立ち上がりつつある新たな戦略には、ひとつの明確な共通点が存在する。それは「断捨離(整理整頓)」だ。
自動車メーカー各社は、市場で重複するモデルを整理統合し、より少ない部品点数で車両を組み上げ、技術開発や生産コストを提携他社と共有するとともに、デザインスタジオから組み立てラインに至る開発プロセス全体の見直しを進めている。
最大の狙いは、製造コストの大幅な圧縮だ。既存メーカーは同時に、数十億ドル規模にのぼるEV関連損失の吸収、各国の関税対応、そして自社よりもはるかに安価に車両を生産する中国勢との熾烈な競争という複合的な課題に対処しなければならない。
市場調査会社テレメトリーで市場調査部門バイスプレジデントを務めるサム・アブエルサミド氏は、「多くの自動車メーカーが自社のモデルラインナップを真剣に見直しています。車種が増えるほど、製造、マーケティング、エンジニアリングにおける複雑性が増すからです。工場で在庫管理すべき部品のバリエーションも膨らみ、それらがすべてコスト上昇となって跳ね返ってくるのです」と指摘する。
経営幹部らが口にし始めた「複雑性」への懸念
この問題に対して最も明確な危機感を示しているのが、フォルクスワーゲン(Volkswagen)だ。
フォルクスワーゲンのアルノ・アントリッツ最高財務責任者(CFO)は、CNBCのインタビューにおいて「複雑性の削減に取り組まなければならない。顧客の視点から見ても、現在のモデル数は多すぎる」と語った。
世界第2位の販売台数を誇るフォルクスワーゲン・グループは、2030年までにグローバル市場におけるモデルラインナップを最大50%削減する計画を掲げる。さらに、派生モデルや、複数のパワートレインの選択肢を含む製品の複雑性についても、最大75%削減することを目指している。
背景には同社の業績低迷がある。同社は直近の販売予測を下方修正し、2026年の納車台数が前年比で3%から7%減少する見通しだと発表した。
また、世界最大の自動車メーカーであるトヨタ自動車の経営幹部も、製造上の複雑性について危機感を深めている。
トヨタの近 健太CEOはAutomotive Newsの取材に対し、「開発部門に足を踏み入れると、派生モデルや仕様の数が膨らみ続け、それがコスト上昇を招いている実態が見えてくる。そうした業務の中に、真の付加価値を生み出していない作業や効率性を欠くプロセスがあるならば、精査を重ねる必要がある」と語っている。
情報補足:ここで指している派生モデルとは、カローラにおけるカローラ、カローラクロス、カローラスポーツ、カローラツーリング、GRカローラといったファミリー構成を指すと思われる。また、仕様の複雑性はグレード設定に伴うトランスミッション、FF/4WDといった駆動方式、パワートレインの複雑性もあるだろう。例えば、同一車種内での「ガソリン車 / ハイブリッド(HEV) / プラグインハイブリッド(PHEV) / ディーゼル / 異なる排気量エンジン」の作り分けの結果、先代RAV4は世界市場全体で12種類ものエンジン仕様が存在していた。
廃止されるモデルと集約されるラインナップ
アブエルサミド氏によれば、自動車メーカーは長年にわたり、細分化する市場ニーズを網羅すべく、わずかな違いしかない派生車両を作り続けてきたという。
しかし近年の製品戦略からは、業界の整理整頓がどのような形で進行しているかが窺える。
アブエルサミド氏は例として、フォードが「エスケープ」を廃止し、同等サイズの「ブロンコ・スポーツ」へ一本化した判断を挙げる。両車はデザインやターゲット層こそ微妙に異なるものの、市場で互いのシェアを食い合う(カニバリゼーションを起こす)側面が強かったと同氏は分析する。
クライスラーが2027年モデルで「ボイジャー」の生産終了を決めた事例も同様だ。同社はより高価格帯で基本構造がほぼ共通するミニバン「パシフィカ」にリソースを集中させる。
テスラやBYDを手本とした「プラットフォームの共通化」
各社は、存続させるモデルについても、より少ない部品点数で組み上げる手法の確立を進めている。
モーニングスターで自動車業界を担当する株式ストラテジスト、セス・ゴールドスタイン氏は「既存の自動車メーカーはテスラやBYDの生産手法を手本にしています」とBusiness Insiderに語った。
「テスラやBYDは、同一のプラットフォームをベースに多大な台数を販売し、非常に高い収益性を確保しています。既存メーカーは『彼らの手法から何を学び、組み立てラインで必要な部品数をいかに削減できるか』を模索している段階です」
フォードが開発を進める「ユニバーサルEV(UEV)」プラットフォームはその代表例と言える。同社は2027年に約3万ドル(約480万円)の中型電動ピックアップトラックを投入し、同一の基本アーキテクチャを用いたモデル群を展開する計画だ。この新システムにより、従来の生産工程と比較して部品点数と組付工程の大幅な削減が可能になるという。
同様の動きは他社にも広がる。ステランティス(Stellantis)や日産自動車も、複数モデル間でコンポーネントを共通化できるモジュール化システムの開発を進めている。新興EVメーカーのリビアンも、次世代「R2」プラットフォームの製造コストについて、初代「R1」と比較して大幅に削減できると説明している。
コンポーネントの共通化は、必ずしもデザインの均一化を意味しない。同一のアーキテクチャであっても、外観の異なるセダン、SUV、ピックアップトラックを出し分けることは可能だ。
一方で、業界全体が車両構造の共通化を進めることで、既存のラインナップがより画一的で退屈なものになりかねないというリスクも懸念されている。
しかしゴールドスタイン氏は、製造コストの低下が最終的に車体価格の引き下げにつながるメリットを強調する。
「自動車メーカーが採算を確保しながらコストを抑え、より手頃な価格の車両を提供できるのであれば、それは現在も市場から強く求められている要素でしょう」と同氏は結んだ。
