マツダのディーゼル撤退は吉と出るか? 新型CX-5に見る「脱ディーゼル」の勝算とリスク
クリーンディーゼル「SKYACTIV-D」を武器に、国内のSUV市場で独自の存在感を発揮してきたマツダが、大きなターニングポイントを迎えている。長年ブランドの屋台骨を支えてきたミドルSUV「CX-5」のフルモデルチェンジや、コンパクトSUV「CX-30」の改良時に、これまで販売の中核を担っていたディーゼル車が相次いで廃止されているのだ。
「マツダ=ディーゼル」の終焉? 主力CX-5が舵を切った理由
日本のSUV市場でマツダの存在感を確固たるものにした功労者が、2.2Lの直4を中心としたディーゼルターボであったことは疑いようもない。
圧倒的な低速トルクがもたらす動力性能の余裕はドライバーから高く評価され、「走りのマツダ」というブランドイメージを確実なものとした。さらに、優れた燃費性能と安価な軽油がもたらす高い経済性も、長距離移動が多いドライバーを強く引きつけてきた。
このようにユーザー視点ではメリットが多いディーゼル車だが、第3世代となった新型CX-5ではディーゼル車の設定そのものが見送られ、2.5Lガソリン+マイルドハイブリッド(M Hybrid)へと一本化されることになった。マツダ車の既存オーナー、特にCX-5を購入していたユーザーはこの知らせに大きく驚いたことだろう。
ユーザーにとっては、メリットが多いディーゼル車。なぜ消えることになったのかといえば、世界的な「脱ディーゼル」の影響が一段と厳しくなってきたことが挙げられる。
この手の環境基準は、年を重ねるごとに厳しくなるものだが、厳しい基準をクリアするには、エンジンの改良だけではとうてい追いつかず、補機類も含めたアップデートが不可欠。なかでもディーゼルだと排ガス中の有害物質を抑えるための浄化システム(DPFや尿素SCRなど)のさらなる進化は避けられない。
当然、パワーユニットは複雑化し、それに伴いコストも高騰していく。当然それは、車両価格の上昇に直結していくので、商品力を維持するのが極めて困難になっていく。自動車メーカーもがんばっているが、どうしてもコスト増は価格に転嫁されてしまう。
300万〜400万円台のミドルSUVは比較的コスト増を許容しやすいカテゴリーといえるが、それにも限界がある。
さらに、ディーゼル車は日本国内では絶大な人気を誇っているが、世界全体で見ればディーゼル需要はすでにわずか数パーセントに過ぎない。特定地域のためだけに多額の規制対応コストを掛け続けることは、採算の面でも現実的ではない。
ラージ商品群「CX-60」「CX-80」は、さらに上を目指す戦略に
こんな流れを考えると、CX-5よりも上に位置する縦置き(FRプラットフォーム)のラージ商品群「CX-60」「CX-80」の動向も気になるところ。こちらのディーゼルターボは、設計年次の新しい直6ユニットということもあって、環境性能は直4ユニットよりは進んでいるが、世界的なディーゼル衰退の流れの中では明らかに少数派といえる。
そこでこの2モデルは、新型CX-5が発売される直前に一部改良を実施してラインナップを再編。従来設定されていたベーシックグレードが全廃され、内装と装備を強化した上級SUV中心に変更している。
依然としてディーゼル車も選ぶことができるが、改良前と比べるとその価格帯は大きく上昇してしまった格好だ。
ただ、その副産物として、マツダのミドルSUVの立ち位置がとても分かりやすくなっている。CX-5は走りと実用性のバランスを強く意識したモデル、CX-60は走り優先のスポーツSUV、CX-80は3列シート&豪華内装を武器とした最上級SUVというキャラが際立っている。
先代CX-5が販売されていた昨年までは、CX-5の上級グレードとCX-60のベーシックグレードの価格帯が重複していたこともあって、販売現場からも「売りにくい」という声も聞かれていたのだが、この変化により錯綜しがちだったマツダのSUVラインナップにおける各モデルの立ち位置は、驚くほどくっきりと整理されたのだ。
このラインナップ再編に合わせるように、新型CX-5のキャラクターも変化。先代CX-5は「魂動デザイン」と「人馬一体の走り」を打ち出していてたが、ドライバー優先の設計もあって、同乗者の快適性や実用面(特に後席の広さや荷室容量)ではライバルに一歩譲る感が強かった。
しかし新型CX-5は、全長とホイールベースを先代比で115mm拡大し、その恩恵の大部分を後席と荷室に還元。サスペンションも急激な横Gや突き上げを抑え、同乗者が揺すられない優しさを備えた乗り味へと大きく進化させている。ほかにも車載ITを「Googleビルトイン」に変更したことで、日常の使い勝手を劇的に向上させている。
これまでの走り志向やラグジュアリーを求めるユーザーをFRレイアウトのCX-60とCX-80に引き継ぐことで、新型CX-5は、ミドルSUVに実用性を求めるファミリー層にちょうどハマるモデルになった格好だ。
多くのユーザーが快適に使い倒せる「ファミリー&レジャー」を強く意識した優等生となることで、キャラをチェンジ。実際、発売1か月で1万台を超える初期受注(月間販売計画2000台の約5倍)を集めるなど、新型CX-5は予想以上の好発進となっている。
ライバルとの争いとマツダの目論見
そんな変革期を迎えているマツダSUVだが、気になるのは、「ディーゼル車の廃止」で市場でのシェアはどうなるのだろうか?ということだ。
これは「短期的な影響」と「中長期的展望」に分けて捉える必要がある。
短期的な影響に関しては、ディーゼルを指名買いしていた層の流出は避けられないだろう。ライバルたちは強力なストロングハイブリッドを選べるが、新型CX-5は現状では2.5Lマイルドハイブリッドのみ。燃費面で不利なのは否めない。2027年にストロングハイブリッドモデルの追加がアナウンスされているが、それまではシェア維持に苦心する展開が予想される。
しかし中長期で見れば、この再編はシェアの再拡大とブランド価値の向上をもたらす可能性が高いだろう。第一に、先代の弱点だった「狭い後席スペース」や「乗り心地の硬さ」を解消したことで、実用性や快適性を重視する一般的なファミリー層を確実に取り込めるようになった。
第二に、環境規制で開発コストが高騰するディーゼルをラージ商品群へ集約し、コストの最適化を図ることができている。さらにCX-60やCX-80をプレミアム路線へ集約したことで、単なる台数勝負から脱却し、1台あたりの収益性を高める体制が整った。ターゲット層が明確になったことで、販売スタッフも動きやすくなるはずだ。
キャラ付けの明確化で見えた「新しいマツダ」
マツダのSUVラインナップ再編は、一見すると「定番」を捨てるという、かなり思い切ったリスクに見える。だがその裏側を覗くと、車種ごとのキャラ付けを改めて整理し直した、なかなか計算された戦略が見えてくる。
街乗りでの扱いやすさや実用性を磨いたCX-5。一方で、FRというマニア心をくすぐる走りと上質さを前面に出したCX-60、CX-80。こうして役割を分けたことで、ユーザーとしても「今の自分に必要なのはどれか」に迷わずに済むようになったわけだ。
もちろん、長年売れ筋だったディーゼルを引っ込めるリスクは決して小さくない。ただ、この痛みを伴うラインナップの整理こそが、マツダのSUV戦略が次のステップへ進むためには欠かせない改革なのだ。
