日産が「リストラ地獄」にハマった理由が詰まっている…利益9割減の決算発表で飛び出した「呆れた社長発言」
日産自動車はなぜ経営危機から抜け出せなかったのか。日経クロステック編集委員の近岡裕さんは「日産はEVシフトを読み違えたのではない。現場がつかんでいた市場の変化を経営陣が生かせず、リストラも成長戦略も中途半端に終わったことが、今日の苦境につながった」という。
米国、日本より新興国を優先した結果
日産ネクストの中身は「第2のリバイバル・プラン」、すなわちリストラ計画だ。日産自動車は2011年に日産パワー88で拡大戦略を打ち出し、新興国市場を成長源と位置付けて生産能力を拡大させた。2013年に復活させた小型車ブランド「ダットサン」はその象徴だった。ところが、想定ほど売れずに余剰生産能力を抱えた。
その上、新興国市場向けに経営リソースを集中させ過ぎた結果、米国や日本といった先進国市場向けの新型車開発が滞った。モデルチェンジされずに車齢の長くなった製品が増え、競合製品に販売面で負ける。そこに新型コロナ禍が重なり、日産自動車は最終赤字に転落したのである。
こうした事態を受けて同社が2020年5月末に打ち出したのが、この日産ネクストだ。狙いは、過度な拡大路線を反省し、「利益を確保した着実な成長を果たす」(内田誠氏)ことにあった。
2018年度で年間720万台だった生産能力を年間540万台まで減らし、車種の数を2023年度までに69から55に削減する。このリストラ計画により、2023年度に営業利益率を5.0%に、世界販売シェアを6%まで高める目標を内田氏は掲げた。
中途半端に終わった「リストラ計画」
当初は計画を上回るペースで進んだ。2021年度第1四半期までに固定費を3500億円以上削減。損益分岐点となる生産台数も、2018年度の約500万台から約440万台まで引き下げた。併せて、販売の質も改善させた。
販売奨励金(インセンティブ)を減らし、1台当たりの売上高を2019年度から16%も向上させた。車両組み立て工場であるバルセロナ工場とインドネシア工場も閉鎖した。だが、その後は失速。営業利益率は4.5%、世界販売シェアは3.7%にとどまり、結局はこの経営計画も未達に終わった。この結果はリストラが中途半端であり、成長戦略への転換も果たせなかったことを意味する。
その反省がないまま、内田氏が率いる日産自動車は、2024~2026年度を対象とした「The Arc(ジ・アーク)」に突き進んだ。日産ネクストで打ち出したリストラによる絞り込みの時期は終えたとばかりに、再び拡大を目指した。販売台数を2023年度比で100万台も増やした上で、営業利益率を6%以上に高めることを目標に掲げたのである。
ところが、世界の他の自動車メーカーと同じく「EVシフト」にのめり込み過ぎ、EV販売の失速という市場変化を見誤った。
社長から飛び出したあり得ない発言
この経営判断ミスが、現在の経営再建計画「Re:Nissan(リ・ニッサン)」につながっている。
日産自動車は2024年度の中間決算において、営業利益を前年同期と比べて9割も減らした。最大の理由は、米国市場における販売不振だ。新車不足で古いモデルの在庫が積み上がり、販売奨励金が増加。要は、在庫処分的に割引販売したために、利益が大幅に悪化したというわけだ。
これではブランド価値が毀損する一方だ。なぜ、こんなことになったのか。驚いたのは、この中間決算発表における内田氏の次の発言だ。
「去年の今ごろ(2023年11月ごろ)まで、我々はハイブリッド車がここまで急速に上がってくる状況というのを読めていなかった」
米国市場は日産自動車にとって「生命線」だ。その極めて重要な市場において、新型車の投入計画を立てていないばかりか、トヨタ自動車やホンダのハイブリッド車の好調な販売状況を見ていなかったというのである。
実は、日産自動車はパワートレーンの技術戦略において的を外していなかった。
なぜハイブリッド車ブームを逃したのか
ハイブリッドシステム「e-POWER(イー・パワー)」を搭載したハイブリッド車とEVの両方を電動化戦略の柱に据えていたからだ。これにより、当面はハイブリッド車の開発に力を入れ、市場の動向を見ながら将来的にはEVの開発にシフトさせていくと、同社の技術担当役員がメディアに明らかにしていた。
確かに、経営リソースが限られるために「選択と集中」の必要があり、日産自動車はプラグインハイブリッド車とマイルドハイブリッド車は手掛けないという戦略を選んだ。それでも、ハイブリッド車を「現実解」と見るトヨタ自動車と方向性は合致していた。
もちろん、エンジンの開発をやめるつもりもなかった。e-POWER向けに発電専用エンジンの効率向上を進める一方で、ガソリンエンジン車についても「顧客がいて、ビジネス(利益)になるなら続ける」(日産自動車)と語ってきたのだ。にもかかわらず、e-POWER搭載のハイブリッド車を米国市場に投入できず、販売機会を逸した。
他の自動車メーカーからは「日産自動車はマーケティングが悪い」という声も聞こえてくる。だが、現在の自動車メーカーの中で市場でのクルマの売れ行きを調べていない企業など考えられない。
現場の声を無視し、多くの社員が犠牲に
世間に流布するEVシフトのイメージとは異なり、中国市場を除くとEVの販売が伸びなかったことや、EVの販売は補助金に大きく依存していること、ピックアップトラックのような大型のエンジン車が好まれる米国市場ですらハイブリッド車の販売が伸びているという「現実」を、マーケティング部門が突き止めていないはずはない。
では、EVの販売はどうかというと、それもいまひとつだ。2010年に三菱自動車と共に世界に先駆けてEVを発売し、市場実績の点で優位性を持つはずが、高級EVでは米テスラの、大衆EVでは中国・比亜迪(BYD)の後塵じんを拝した。社内に技術があり、市場分析もしているはずなのに、なぜ米国市場がここまでぼろぼろなのか。
自動車系アナリストからは「社長である内田氏が、技術担当役員をはじめ他の役員の報告をまともに聞いていなかったとしか考えられない」(Touson自動車戦略研究所代表の藤村俊夫氏)という厳しい指摘が上がっている。
こうして日産ネクストでリストラに失敗したために、さらに大きなリストラであるリ・ニッサンの実行を余儀なくされた。それが、現在の日産自動車というわけだ。
下請けの「日産離れ」が加速する…メーカーの困り事に「8時間向き合うトヨタ」と「耳を貸さない日産」の"格の違い"
日産自動車が経営再建に追われる一方、トヨタ自動車は日本企業で初めて売上50兆円を突破した。何が2社の明暗を分けたのか。日経クロステック編集委員の近岡裕さんの著書『日産 最後のサバイバルプラン』(日経BP)より一部を紹介する。
■約500社の部品メーカーが切り捨てられる
カルロス・ゴーン氏による経営再建計画「日産リバイバル・プラン」により、日産自動車は取引する部品メーカーを1145社から600社に絞り込んだ。これは部品メーカーから見れば、半分が切り捨てられたことを意味する。
だがその一方で、残った半数の部品メーカーは、受注量が増えて売り上げが増加すると期待した。ところが、それは皮算用に過ぎなかった。リバイバル・プランで示された3年間で20%のコスト削減については、日産自動車を救うために部品メーカーは受け入れた。
だが、日産自動車が業績を回復させた後に、多くの部品メーカーは期待したほどの業績を上げられなかった。むしろ、部品メーカーにはリバイバル・プラン以前よりも厳しい条件が課されるようになった。
ゴーン氏の下で日産自動車はいわゆる「系列解体」に踏み切った。株式を売却して系列部品メーカーとの資本関係を解消したり弱めたりした上で、部品調達に競争原理を働かせるための施策だ。それ以前の日産自動車は、系列部品メーカーから部品を購入するのが当たり前だった。
■癒着から生まれた部品コストの上昇
「ケーレツ」という言葉で知られる系列内取引には、部品を安定的に調達できるという利点がある。その一方で、甘えも生んだ。日産自動車は幹部を系列部品メーカーの重要ポストに「天下り」させてもらう一方で、系列部品メーカーは日産自動車に部品調達を確約してもらうという癒着関係が生まれたのである。
これが行き過ぎた結果、日産自動車の部品の購買コストは跳ね上がり、経営危機に陥る大きな要因となった。日本ではよく見られるこうした「しがらみ」をゴーン氏は断ち切り、部品の調達改革を進めたのである。
こうして系列解体を進めた日産自動車は、契約に基づく欧米型の取引に移行。「世界最適調達」を合言葉に、新型車の開発のたびに最も低コストな部品を提供できるメーカーを調達先に選ぶようになった。その一方で、割を食ったのが部品メーカーだ。
安定的な取引という利点を失った上に、厳しい低コスト競争まで強いられることになったからである。おまけに、日産車の付加価値の向上を支える新技術の開発については、従来通り継続することを求められた。
■日産と部品メーカーは「運命共同体」
こうした厳しい環境に置かれた上に、部品メーカーへの発注量は減少していった。日産自動車の販売台数が2017年度のピークから2025年度までに260万台以上も落ち込んだからだ。これが部品メーカーの売り上げを直撃。
日産自動車への取引割合が大きい部品メーカーほど業績の低迷に苦しんでいるというのが現状だ。その顕著な部品メーカーの1つに、ヨロズがある。サスペンションを手掛けており、日産自動車との取引比率が60%を超えるヨロズは、中国市場の販売台数が2024年度までの5年間で6割も減った。
この状況に歯止めはかかっておらず、現場の改善活動では到底カバーできずに減損処理を余儀なくされた。結果、2023年度と2024年度の2年連続で最終赤字に沈んだ。「2025年度は正念場」とヨロズ社長の平中勉氏は語り、合理化活動などに努めて40億円ほどの営業利益を捻出して黒字転換したものの、厳しい状況は続いている。
部品メーカーは搾取の対象ではない。自動車メーカーと部品メーカーとは、いわば「運命共同体」である。部品メーカーにこれ以上厳しい要求を一方的に突き付けるなら、日産自動車の復活は遠のいてしまうだろう。
部品メーカーと良好な連携関係を築くために、日産自動車がまず心掛けるべきは、部品メーカーの声にもっと真摯に耳を傾けることだ。中でも、「本音」を聞き出すことに心を砕かなければならない。どの部品メーカーも日産自動車の復活に期待を寄せている。
■彼らは日産を助けようと必死だが…
日産自動車の業績が低迷したままでは、自社の業績も良くならないことは、誰よりも部品メーカーが理解しているからだ。そのため、彼らは自社の競争力を高めるためだけではなく、日産自動車にも付加価値を提供しようと日々、アイデアを練っている。
ただし、そうしたアイデアの大半は自社だけでは実現しない。そのため、部品メーカーは日産自動車に対して「もっと困り事に耳を傾けてほしい」と訴えている。現に、日本自動車部品工業会で会長を務めた経験もある元ニッパツ社長の玉村和己氏は、同社の名誉会長だった2021年に、「日翔会」の会長として次のように述べている。日翔会とは、日産自動車に部品を供給する主要メーカーで構成された協力会である。
「日翔会の役割は、会則によれば『会員相互の信頼を基に日産自動車と部品メーカーの相互の発展と親睦を図ること』だ。その通りなのだが、より大切なのは、日産自動車の経営方針を我々が部品メーカーとして理解し、同じ方向に向かって実践していくことである。
その意味で、日産自動車の経営方針や考えを日翔会の会員全体にどのように浸透させるかが、会長である私に課せられた大切な役目だと感じている」
■最大の懸念は「生産台数が落ちること」
「日産自動車は復活するかという問い掛けには日翔会会長か、ニッパツの名誉会長か、私個人かでいろいろと思うところはある。しかし、どの立場でも言えるのは、『復活してほしい』の一言だ。
特に、関東経済圏を発展させるには、やはり日産自動車が元気になるというのが不可欠。日翔会の会員が何よりも喜ぶのも、日産自動車が元気になってくれることだ。顧客(自動車メーカー)が元気ではないのに、協力会だけが元気いっぱいで発展するなんてあり得ない。
日産自動車が元気になって復活してくれることが、日翔会を構成する部品メーカー各社の発展にもつながるのだ。我々部品メーカーにとって最も重大な事項は、生産台数である。従って、日産自動車に元気がなくなり、生産台数が落ちていくのを非常に心配していた。
中でも重要なのは、国内の生産台数だ。日本の生産台数がある程度確保されなければ、我々部品メーカーは日本の拠点を維持できないからである。生産拠点としてだけではない。開発拠点としてもだ。この点について、日産自動車が将来どのような方向に進むのかについて心配してきた」
■現場の“困り事”に耳を傾けない姿勢に疑問
「日産自動車と日翔会との連携について話を戻すと、日翔会としては日産自動車の経営方針をよく理解するというのが基本姿勢であり、大切だ。
これが日産自動車の復活の条件であり、共に発展するための条件でもあると私は考えている。ただし、ここにもう1つの条件を加えたい。日産自動車にも部品メーカーが困っている事に、より耳を傾けてほしいということだ。
確かに、値引きをきつくしないでほしいとか、宣言した分の生産台数を造ってほしいとかいった内容は、部品メーカーにとって共通の関心事だと思う。だが、それらは各部品メーカー個別の問題であり、日翔会全体の問題ではない。日翔会は日産自動車に対して団体交渉を行って要求を迫るという組織ではない。日翔会の困り事とは、もっと全体に関わるものだ。
例えば、日産自動車が『部品の開発期間をもっと短くしてほしい』という要望を出したとする。すると、日翔会から『それなら、日産自動車は最初の段階からこうしたデータを我々に提供してほしい』といった意見が出る。
こうした声をもっと聞いてほしいのだ。そうすれば、日産自動車と日翔会との間により強固な関係が構築され、互いにもっと発展できると思う」
ところが、日産自動車は部品メーカーのこうした切実な声に、十分に耳を傾けているとは言いがたい。ヨロズの平中氏はこう証言する。
■度重なる「値引き要求」に悲痛な叫び
「確かに、日産自動車は他の自動車メーカーよりも部品メーカーへの値引き要求が厳しい。だが、かつての日産自動車はその厳しい要求に合わせて、部品メーカーからの様々な提案に耳を傾けて柔軟に対応していた。それなのに、今の日産からはそうした姿勢が徐々に失われてしまっているように感じる」と。
平中氏は日翔会の会長を務めていた2020年に、同会の会員企業である200社以上に対し、「日産自動車とのビジネスにおいて困り事はないか」と聞いて、部品メーカーのリアルな声を集めた。
そして、それを基に改善提案書を作成。
「これが日翔会の総意だ。改善して根本的に変えてほしい。この声に応えなければ、部品メーカーは離れていく」と言って、当時社長を務めていた内田誠氏をはじめ日産自動車の全役員の前で改善を迫った。
改善提案書の中身は、
「生産計画の出し方がおかしい。日産自動車は内示数量と確定オーダーの変動が激しく、実際の生産数量ががくっと下がる。これでは生産体制をまともに組めない」
「値引き要請があまりにも厳し過ぎる。互いに利益のあるリーズナブルな価格になっていない」
「大切なのは売れるクルマを出すこと。サプライヤー(部品メーカー)からの提案を聞いてほしい」
といったものだ。
平中氏は数多くの注文を出した。「それらの改善要求は今でも変わらないが、いまだに実現されていない」と言う。
■部品会社社長が感じた「トヨタとの差」
日産自動車のこうした消極的な姿勢に、部品メーカーは失望し始めている。2025年に日産自動車はサプライヤーミーティングを緊急開催した。参加したのは220社。重要な会合故に通常は社長が出席する。ところが、その中で社長が出席したのはヨロズのみだったという。
「こんなことは(リバイバル・プランを実施した)25年前にはあり得なかった」(平中氏)。
長年にわたって不信感が募り、日産自動車の求心力が薄れていることを証明する一件だ。対照的に、部品メーカーが期待を寄せるのは、トヨタ自動車との新規取引もしくは取引の拡大である。なぜなら、トヨタ自動車は部品メーカーの声に耳を傾けると受け止められているからだ。
2025年2月に、トヨタ自動車は東京でサプライヤー総会「トヨタサプライヤーズコンベンション」を開催した。約500社が参加し、「参加者はほぼ全社が社長だった」と平中氏は言う。ミーティング時間は8時間にもおよび、そのうち3時間は改善をテーマとした勉強会を実施。トヨタ自動車が部品メーカーから募った改善テーマについて、参加者同士で議論したのだ。
平中氏が最も驚いたのは、このミーティングにトヨタ自動車の佐藤恒治社長(当時)をはじめ、全役員が出席していたことである。この姿勢に、トヨタ自動車は部品メーカーの困り事をしっかりと聞いてくれると感じたという。
「トヨタ自動車は我々と本気で向き合ってくれていると感じる。残念ながら日産自動車とは大きな差を感じた」(平中氏)
