iPhoneの開封ってなんであんなに気持ち良いの?

iPhoneの開封ってなんであんなに気持ち良いの?

たかが箱、されど箱。

iPhoneの箱をピーッと破る瞬間が大好きです。フタを持ち上げたときの空気圧とか、突っかかりがない滑らかな手触りとか。大げさに聞こえますが、あの箱でしか得られない栄養があると思っています。

そんなパッケージをつくってくれたのが、Apple本社と同じカリフォルニア州にある「パッケージングラボ」。

10年以上、製品パッケージ一筋で研究を続けているラボなんですが、今回日本のメディアとして初めて現地にお邪魔させていただきました。

いま私たちの手に渡っている箱が、どのようなプロセスを経て生まれたのか。話を聞けば聞くほど、あの体験の背景には工学的な裏付けがあることがわかったんです。

脱プラスチック。100%紙素材へ

製品パッケージは現在、隅から隅まで100%紙素材で作られています。

こちらが2013年ごろのiPhone用パッケージ一式。 外箱や充電器を包んでいたラベルや、本体が収まっていたトレイ、懐かしきEarPodsが入っていた容器も、思い起こせばどれも光沢のあるツヤツヤなプラスチック素材だったんですよね。

プラスチックは保護性も高いうえに透明なので、Magic Mouseの外箱なんかは内部が見えるような設計になっていたり。今とはまた違った体験を与えてくれていました。

そしていま、Appleはサプライチェーン全体でカーボンニュートラルを達成する「Apple 2030」を掲げています。その一環として、昨年2025年までにこれらプラスチック素材を製品パッケージから完全に排除。

そこでプラスチックの代わりとなったのが紙素材でした。でも、「ただの紙」で「ただ包む」というわけではありません。

このパッケージングラボでは、素材を変えても体験を損なわぬよう、「パッケージングエンジニア」と呼ばれる専門家たちが、紙をさまざまな角度で研究。繊維の特性(滑らかさ、伸縮性、強度など)を理解し、それぞれの製品に適した紙を使い分けているんです。

ラボの一角には、引き出しに収められた大きな紙素材ライブラリーが。素人目には同じ紙に見えますが、これはすべて異なる特性を持っている紙なんだそう。

たとえば製品に直接触れるパッケージの場合は、製品を傷つけないように滑らかで柔らかいものが求められます。

こちらの左2種類(白とグレー)はアルミニウムや研磨されたポリカーボネートでできた製品の表面に近い部分で使う柔らかい紙。

右2種類(ピンクと紺)は、日本のサプライヤーである大王製紙から取り寄せている紙。伸縮性があり伸ばしやすいのが特徴で、複雑な形状であるApple Watch本体の保護に使用されています。

さらに、Appleはパッケージ背面の「ラベルステッカー」をなくすために直接印刷をする技術を開発。プラズマによってボックス表面を洗浄してからインクをしっかり定着させる必要があり、そのためには滑らかで高品質な紙が必要なんだそう。

世界中のサプライヤーと協力しながら、質感や触感、そしてグラフィックの印刷適性まで、製品のクオリティに合った紙を手に入れることから始まるAppleのパッケージジャーニー。パッケージの世界ってこんなに奥深いのか...。

日本の技術から生まれたデザイン

100%紙素材に移行したことで見えてきたのが、「折り紙」の発想。実は、Appleの製品パッケージには日本の折り紙にヒントを得て設計しているパーツがいくつもあったんです。

たとえば、Apple Watch本体とバンドを重ねて組み合わせるパッケージ。Apple Watchを買ったことがある人なら見たことがあるはず。

通称「折り紙ラップ」と呼ばれる構造で、特殊な折り目の入れ方をすることで、素材を減らしつつ、硬い折り筋を作らずにきれいに折りたためるようになっています。

単に見た目が折り紙っぽいという話だけではなく、実際に折り紙で折る発想を応用して設計されているそうで、店舗のスタッフが誰でも力を入れず直感的に組み立てられる、というのもこの構造のおかげ。バンドの組み合わせを店頭でカスタマイズできる裏側には、こんな箱のトリビアがあったんです。

このパッケージによって、本体とバンドの2製品がカスタマイズされ、Apple Watchという製品のパーソナライゼーションの側面においても役割を果たしています。製品だけでなく、パッケージを含めた体験全体が重要、とはまさにこのこと。

iMacなどの大型製品では、この折り紙の発想がクッション性能を生み出しています。もともとiMacのパッケージは発泡スチロール製。軽くて保護性は抜群だったものの、リサイクルが難しいのが課題でした。実際に海岸などでどこからか流れてきた発泡スチロールを見かけますよね。

そこで最終的に辿り着いたのが、段ボールを折り紙のように折り込んだクッション。衝撃を受けると圧縮し、また元に戻るバネのような働き方をします。紙をどう設計するかによっても、ケースバイケースで必要な特性を持たせることができるんだとか。

ぱっと見シンプルに見えるiMacの現パッケージ、完成するのに約5年もかかったそう。いまこそ工場で量産していますが、実際に出荷した最初の年は手作業で折られていました。紙ベースですべてをイチから作り出すのって簡単なものじゃないんですよね。

こうした「折り紙」のアイデアがどう形になっていくのか、出荷用ボックスのプロトタイプをつくる現場も見せてもらいました。

プロトタイピング室には、大きな裁断テーブルが2台。設計データをCADから取り込むと、紙や段ボールがものの数分で切り込み/折り目付けされていきます。

切り込まれたあと、パッケージングエンジニアが手作業で折っていくのですが、ここではとくに「人が実際に触れる部分」をしっかり詰めていきます。タブのサイズや、すべてのパネルがどう折り重なるかなど、どんな人にとっても簡単で直感的であることを大事にしていました。

そして最後に紙袋について。サテンリボンやロープだったり、意外とブランドを象徴する要素でもあるショピングバッグの「紐(ハンドル)」部分。Appleの場合はもちろん紙でできています。

紙をひねって糸状にし、それを編むことで100%紙製のハンドルができるのですが、製造しているのは日本にある織物工房。実はメイド・イン・ジャパンなんです。

あまりにもしっかり編まれているので合成繊維に見えますが、ほどいてみるとちゃんと紙。感触的にはティッシュをよじって作る「こより」に似ています。

大型製品のパッケージについているハンドルも紙製で、同じように紙をひねって糸状にしたものを、こちらは紙の芯に巻きつけて強度を出していました。

世界最大級のテストデータ

とはいえ、紙そのものはプラスチックほど頑丈ではありません。木から作られる紙は湿気を吸収し、しわができたり破れやすいのが弱点ですよね。

実はこのラボにはプロトタイプパッケージのテストルームがあり、製品と同じように衝撃、振動、湿度・温度への耐久性を検証しています。

衝撃耐久のテストでは、iMacの箱が1mの高さから、面・辺・角のすべてのパターンで計10回も落下。撮影したものをスローモーションで見ると、さきほどの折り紙クッションが衝撃を受けて潰れ、また元に戻る様子が確認できました。

この「1mで10回」という基準、適当に決めているわけではありません。

ラボには、各製品と同じ大きさ&重さの「デコイパッケージ」と呼ばれる木箱があり、これを実際にお金を払って世界中(アメリカ、ヨーロッパ、中国など)へ発送。

なかにセンサーを仕込むことで、その道中で何回、どの向きで、どれくらいの高さから落とされたかをモニタリング。振動、落下、衝撃、温度、湿度も記録し、そのデータすべてを使ってテスト仕様を決めているんです。

ちなみに、10年以上かけて集めたこのデータ、(この分野において)世界最大級のデータなんだとか。すごすぎる。

こうした検証結果は、紙の種類や接着剤の選定、そして紙袋のハンドルのような細部の設計にまで常にフィードバックされていきます。だからこそ、製品をしっかり保護しつつも、いつどこで買っても"あの体験"が届けられるというわけなんです。

ここで出会ったパッケージングエンジニアたちは、紙の種類ひとつ、折り目ひとつに長い時間をかけて向き合っていました。「ただの紙」で「ただ包む」という発想がそもそもないんですよね。

自分がこれまで味わってきたあの感動は、ただのフィーリング的なものではありません。10年以上かけて積み上げられてきた、素材・デザイン・耐久性にわたる研究の成果だったんです。ジョブズのお言葉をお借りすると「Connecting the dots」、まさに点と線がつながったような瞬間でした。

🍎たったひとつの真実見抜く、見た目は大人、頭脳は子供、その名は名馬鹿ヒカル!🍏