「敵の懐に飛び込む」TV戦略の成否は 中国企業とソニーは合弁、パナニックは欧米で協業

「敵の懐に飛び込む」TV戦略の成否は 中国企業とソニーは合弁、パナニックは欧米で協業

かつて「家電の王様」と呼ばれたテレビ。利益率の低さから中国系資本のブランドが市場を席巻している状況を踏まえ、国内勢が収益構造を変革している。ソニーグループは中国TCLと合弁会社を設立し、パナソニックホールディングス(HD)は欧州・北米で中国企業と協業。開発から販売までを自社で抱え込まずに、価格競争で優位にあるライバルと組むことで、自社ブランドや優れた技術を生かす戦略だ。

多くの家電量販店のテレビ売り場で近年、目立つようになっているのが「TCL」「ハイセンス」などの中国ブランドだ。比較的安いだけでなく、品質も上げてきている。こうした情勢をみて、国内勢は相次ぎ戦略的転換に打って出た。

ソニーグループは今年3月、TCLと合弁会社「BRAVIA」を設立し、テレビなどホームエンターテインメント事業を移管すると発表した。新会社にはTCLが51%、ソニーが49%を出資する。

ソニーは「培ってきた高画質・高音質技術やブランド力、サプライチェーン(供給網)などを基盤に、TCLの先端ディスプレー技術や世界規模の事業基盤、コスト競争力、垂直統合型サプライチェーンの強みを生かす」と説明。製品には「ソニー」「BRAVIA」の名称を付け、「設計思想」を重要な基盤として活用していくと強調する。

パナソニックHD傘下の事業会社も4月から、欧州・北米で中国スカイワースとの協業に踏み切った。スカイワースが販売・物流を主導するが、パナソニックHDは「画質・音質などの当社DNAを生かす共同開発を進め、パナソニックTVとしての技術・品質水準を確保する」と説明する。

「敵の懐に飛び込む」とも呼べそうな両社の動きの背景にあるのは、シェア低下だけでなく、テレビ1台あたりの利益がじわじわとやせ細っている事情がある。

調査会社オムディアによると、売れ筋の65型4K液晶テレビの平均的な販売価格は2024年時点で427ドル(約6万9000円)。この売り上げから、画面となる液晶パネルや半導体、輸送費、宣伝費、購入後の修理対応といった費用を差し引くと、手元に残る利益はわずかだ。

なかでも費用の大半を占めるのがパネル。調査会社トレンドフォースによると、テレビ用パネルは今年1月から4月にかけて値上がりが続いた。サッカーワールドカップも需要を押し上げた。韓国LGエレクトロニクスが25年、テレビを含む部門で約7509億ウォンの営業赤字に陥っていることからも、利益を出しづらい構造が見て取れる。

戦略転換により、家電売り場を彩ってきた国内のテレビブランドが生き残れるかどうかが、これから試される。

「亀山モデル」の栄華、今は昔

日本のテレビ事業はかつて、ブラウン管から薄型テレビへの転換で主導的役割を果たした。「AQUOS(アクオス)」ブランドで一世を風靡(ふうび)したのがシャープだ。同社は三重県亀山市で液晶パネルから組み立てまで一貫生産する「亀山モデル」で高画質テレビの象徴となった。

ところが、2009年に堺市に大型液晶パネル工場を建てるなど投資を拡大した後、11年までの地上デジタル放送への移行による特需の反動と価格下落に直面。液晶への集中投資は経営悪化の一因となり、16年に台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業の傘下入りを余儀なくされた。

東芝も18年、テレビ事業を中国家電大手の海信集団(ハイセンス)に売却。ブランド「REGZA(レグザ)」は、ハイセンスの子会社「TVS REGZA」に引き継がれた。

こうした事業再編の結果、現在は開発から製造、販売まで自社で抱える国内メーカーは一部に限られている。販売面でも中国勢の伸長と国内勢の退潮が目立つ。

調査会社BCN総研によると、国内薄型テレビ販売台数シェアは12年にシャープが首位の34.9%、パナソニックが2位の18.7%を占めていたが、25年には「TVS REGZA」が首位の26.0%、ハイセンスが3位の16.6%、TCLが4位の10.2%となった。(桑島浩任)

早大大学院の長内厚教授(経営学)「日本企業に問われるのは品質とブランドの信用」

テレビは、エンターテインメントを家庭に届ける出口としての意味をなお持っている。一方で、工場で画質を作り込む製品から、ソフトで制御する製品に変わった。数を売らなければ利益が出にくいテレビ事業で、(ソニーが)規模を持つTCLと組み、基盤を共通化しながら差別化するのは合理的だ。

日本メーカーの画質はなお強みだが、それだけで巨大な事業を支えるのは難しい。パナソニックHDのスカイワースとの協業も同じ流れにある。ただ、欧米事業を実質的に切り離す形で、ソニーほど自社の事業として残す構図には見えにくい。世界で見ればテレビ事業はいまだに大きいだけに、良い市場だけを相手に渡した面もある。

中国企業と組むことを負けや技術流出のリスクと見る必要はない。相手の製造力や販売力、規模を使いながら、自社の技術を生かすオープンイノベーションと捉えるべきだ。通信機能を持つテレビは安全保障上の懸念も意識されるため、完全な中国ブランドではなく、日本企業が関与する意味は残る。問われるのは、日本企業が品質とブランドの信用を担保する立ち位置を築けるかどうかだ。

「ソニーのテレビ事業分離、中国企業と合弁会社設立」を残念がる日本人が知らない“ソニー家電の復活シナリオ”

まさかソニーまで中国に――。テレビ事業を分離し、設立する新会社の出資比率の過半を中国TCLが握るというニュースに、ショックを受けた人も少なくないでしょう。かつて技術力で世界を席巻した「日の丸家電」の終焉とも言えるこの決断。しかし、経営学の視点で見ると、これは“敗北”ではなく、驚くべき「復活シナリオ」の始まりかもしれません。なぜソニーは祖業を切り離したのか? 感情的なノスタルジーを捨て、冷徹なビジネスの論理でその真意を読み解きます。

ソニーのテレビ事業分離に

悲しむ人が知らない事実

 ある意味で歴史的なニュースではないでしょうか。ソニーは中国家電大手TCLと合弁会社を設立し、テレビ事業を分離する。

 日本のテレビ市場シェアは直近でレグザ(旧東芝)が一位、シャープが二位、三位が中国のハイセンス、四位がTCLで、ソニーは五位です。レグザは東芝からハイセンスに売却されましたし、シャープは台湾の鴻海の子会社です。これでソニーのブラビアも中国資本が過半ということになるわけです。

 なぜソニーグループがある意味で祖業ともいうべきテレビを売却するのでしょうか。経営学の観点からは簡単に説明できます。

 大企業が企業価値を高める経営をするためには、投資収益率の低い事業を売却し、収益率の高い事業とポートフォリオを入れ替えるべきなのです。

 ソニーグループの経営陣は株主に対して企業価値を高める責任を持っています。ですから投資がかかるわりに収益性が低いテレビ事業を売却することが経営的に正しいのです。

 そして売却で得られたキャッシュでたとえば収益性が高いアニメのIP(知的財産)に投資をするのが経営的には正解になるのです。

 実はコンサルティング業界には古い笑い話があります。たぶん実話ではないかと思うのですが、2000年代にあるコンサルティング会社がソニーの経営陣に提言したのだそうです。

「収益性を高めるためにテレビと携帯電話事業を売却しなさい」と。それでソニーの経営陣に怒られたというのがこの話のオチでした。

 この話の笑いどころは、「正しいけれども経営陣が受け入れるわけがない提言をするコンサルタントは無能だ」という部分です。

 この話にはもうひとつ古い伏線があって、当時、飛ぶ鳥を落とす勢いで、世界の経営の教科書ともいわれていたGEで、ジャック・ウェルチがまさにそれをやってみせたのです。

 GEは略さずに言えばゼネラル・エレクトリックが社名、つまり総合電機メーカーなのです。

 そのGEのCEOに就任したジャック・ウェルチが、「一番か二番になれない事業は売却するぞ」と社内に号令をかけました。

 新任CEOのこういった掛け声について社内は冷ややかで、やれるものならやってみろぐらいの反応だったのですが、ジャック・ウェルチはGEのテレビ部門を即座に売り払ってしまったのです。

 結果的にGEは脱電機を推し進め金融機関へと変貌します。そのGEも現在では没落しているのですがそれはまた別の話。

 当時の教えに話を戻すと、経営学にはセオリー的に正しい定石があるけれども、それをやるのはぶっ飛んだ経営者だけだというものです。

 それで時計の針が進んで2026年になったわけですが、時代は明確に変わりました。

 ソニーがテレビ事業を売却するというニュースを耳にしても、誰も「ソニーの社長はイカれている」などと口にしないのです。

 20年前には社会の誰もが受け入れるわけがないと考えることを、時が移り、普通に受け入れられるまでに社会の構造が変わってしまいました。

 とはいえ日本企業の技術力に対するノスタルジーを感じる日本人には、今回のニュースは残念な話です。

 実はかくいうわたしも父親の代からのソニー信者で、歴代の我が家のリビングに置かれてきたのはソニーのテレビばかりでした。

 ちょっとだけソニー製テレビの性能について話させてください。

 1970年代に我が家にやってきたのがソニーのトリニトロンでした。その前の他社のカラーテレビとは子どもでも気づくぐらい画質が違いました。

それまでのブラウン管と違い、トリニトロン技術では光線銃が一か所から放たれることで画像にブレが起きないのです。

 個人的にソニーのテレビで一番お気に入りだったのが2000年前後に購入したWEGAでした。まだアナログ放送の最終盤の時期でしたが、ソニーの異端者と呼ばれた近藤哲二郎さん発明のDRC(Digital Reality Creation)という技術が搭載されていました。

 これは480本のテレビ放送の走査線を瞬間的に解析して960本のハイビジョン画質に変換する技術でした。

 今なら生成AIでたとえば画質の低いアナログ放送の『鬼平犯科帳』を4Kデジタルリマスターに画質変換する技術が確立されていますが、30年近く前の生成AIのない時代にこれをソニーはアナログ波でやってのけていたのです。

 ただソニー信者の我が家でもソニーのブラビアがリビングに鎮座するのは現行機が最後かもしれません。85インチのMini LED大画面テレビで、画質にはまったく文句をつけようがありません。

 しかし最近気になるのがホーム画面の遅さです。最近のテレビらしいと思うのですがテレビのスイッチをつけるとOSはソニーではなくグーグルの画面になります。この画面が最近、遅くなってきたのです。

 パソコンでOSのダウンロードを繰り返しているうちにどんどん遅くなって、ついにパソコンを買い替える現象は理解できます。しかしテレビでソフトウェアをダウンロードしているうちに遅くなるのは技術としてはどうなのかなと不満に感じます。

 実はソニーの場合、10年くらい前からブルーレイレコーダーのOSが遅くて使い物にならないと悪評判が立ち始めていました。

 要するに得意な技術とそうでない技術があって、いわゆるGAFAMが当たり前のように強みにしている技術ではソニーのテレビ・ビデオ部門は遅れをとっているのでしょう。

 もともと高品質に定評があったソニーが、製品として徐々にじり貧になってきたのはなぜか?

理由はテレビ市場が低収益になってきたからです。価格競争が進み、先述したようにレグザやハイセンス、TCLの安価な大画面テレビのほうが飛ぶように売れる時代です。

 そうなると経営としてもローコスト経営に徹するしかなくなる。技術者への投資余力が減ることになり、長期的には商品の品質が下がっていく。

 これこそが長年日本メーカーのテレビ事業を悩ませてきた経済現象です。そしてこの先はそれだけではありません。

 テレビのこれからについて少し衝撃的なデータを紹介しましょう。

 アメリカのニールセンの調査によれば、アメリカ人が大画面テレビで地上波テレビ番組を見る時間はすでにテレビをつけている時間の中の20%まで減っています。

 アメリカ人がテレビで見るものの最大シェアはストリーミングでこれが全体の45%。その中でも最大はユーチューブを観ている時間の12.5%です。

 これから日本もそうなります。パソコンのようにアプリを切り替えて動画を楽しむのが主流の時代です。そうなると重要なのはテレビ番組の画質よりも操作性になります。

 ソフトウェアを切り替えてユーチューブを観たりネットフリックスを観たりプライムビデオを観たりするための道具としてテレビが使われます。

 ひょっとすると近い将来ではテレビを通じて生成AIにコンテンツを生成させる視聴者も出てくるでしょう。

 だとすれば、これからのテレビ市場で生き残るためには、次の2つが重要になります。

1 低コストでテレビを製造販売する力

2 テレビを動かすソフトウェアへの知見

 そう考えると、どちらの能力もソニーが得意分野ではないようです。ではどうすればいいでしょう?経営学的な解決策としては外に頼るのが一番いいわけです。

そしてその際の選択肢は、ソニーが過半数を持ちながら他社の力を借りるか、それともソニーが少数株主になり力のある他社に過半数を売却するかです。

 この判断は、どれだけ大きく変革するか次第です。時代に合わせて大幅に変えるのであれば、TCLに過半数を持たせたほうがやる気スイッチがONになりやすいでしょう。日本市場で先を行くレグザ・ハイセンス連合に対して、ブラビア・TCL連合なら市場トップが狙える可能性があるのです。これがソニーグループの選択だったのです。

 まだ最終契約の詰めはこれからで、TCLとの合弁事業がスタートするのは来年です。ソニーの株式は49%残ります。報道されている契約内容ではブラビアに「SONY」の4文字を残すことができそうです。それが低コストかつ高性能となれば、家電市場でのソニー製品の復活も実現するかもしれません。

 どうでしょう。家電ニッポンに対するノスタルジーの感情からは今回のニュースは物悲しく感じられたのですが、これも時代だと割り切ってとらえれば、今回のテレビ事業の分離は、日本人にとっても悪い未来ではないのかもしれませんね。

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