ホンダ巨額赤字 中途半端で迷走したEV戦略
電気自動車(EV)戦略で出遅れた日本勢の中で、ホンダは巻き返しの先頭に立つ、と期待されていただけに残念だ。
ホンダは2026年3月期連結決算で、最終利益が最大6900億円の赤字になる見通しだと発表した。主力の米国市場でEVの販売が振るわず、旗艦車種の開発中止などで最大1・3兆円の損失を計上する。
最終赤字に陥るのは、上場以来、初めてだという。EV関連の損失は、27年3月期までに最大2・5兆円にまで膨らむ可能性があるというから深刻である。
ホンダは21年、世界で販売する全ての新車を40年にEVか燃料電池車(FCV)にする戦略を打ち出した。完全な「脱ガソリン」の方針は国内メーカー初だった。
だが、世界市場は今、米中勢が席巻する。25年のEV販売台数はトップの中国BYDが約226万台、2位の米テスラが約164万台で、圧倒的な競争力を誇る。
EVは、長距離走行を可能にするバッテリーや、自動運転と走行制御を行うソフトウェアなど、ガソリン車とは異なる技術が競争力を左右する。ホンダは、こうした技術開発で、米中勢に後れを取ったというのが実情だろう。
航続距離の短さや充電の不便さで需要が想定ほど伸びず、また欧米でEVを優遇する政策が見直されたことは誤算と言える。米ゼネラル・モーターズや、独フォルクスワーゲンも巨額の損失を計上するなど共通の課題は重い。
ただし、脱炭素の重要性を踏まえれば、中長期的に見て、EVへの移行が進むとの見方はなお強い。普及スピードを再点検し、柔軟な戦略を取ることが重要だ。
EV戦略の再構築に向け、まず収益の回復を急ぎたい。強みを持つ、エンジンとモーターを併用するハイブリッド車の車種拡大などを進めて販売を伸ばすという。
提携戦略の練り直しも必須だ。EVの開発には巨額の費用を要するため、ホンダには提携相手が必要だとの見方は強かった。日産自動車との経営統合へと動いたのは、そうした危機感が背景にあったのではなかったか。
しかし、ホンダと日産の経営統合は昨年2月、破談となった。経営の迷走が、EV戦略の遅れを招いたことは否めない。
BYDは今年、軽自動車のEVを日本に投入する計画で、日本勢にとって脅威となる可能性がある。ホンダはEVの技術力で何が足りないのか、徹底した分析で競争力の回復を図ってほしい。
ホンダ三部社長、北米8か所目の生産拠点に意欲…巨額赤字「ここまでやってやめるのかというのは心の中にある」
ホンダの三部敏宏社長(65)が読売新聞の単独インタビューに応じた。重点市場と位置づける北米について「もう一つ生産拠点がいる」と述べ、新工場建設を含む生産体制の強化に意欲を示した。米国で投入予定だった電気自動車(EV)の開発を3月に中止したが、ハイブリッド車(HV)を強化し、販売増を目指す考えも示した。
ホンダにとって、北米は世界販売の4割超を占める最大の市場で、昨年度の販売台数は160万台だった。2029年には、燃費性能を1割以上向上させた大型HVの北米での発売計画もある。三部氏は、北米の販売台数を「かなり上積みしたい」と述べ、課題として、生産体制の強化を挙げた。北米の7拠点の年間生産能力は計167万台で、増産の余地が少ない。三部氏は「ほぼフル生産している。バッファー(余裕)を持たないと挽回生産ができない」と述べた。
また、米国の関税政策の影響で利益が出にくい状況を踏まえ、「需要がある場所で生産するのが基本的な考えだ」と説明した。
ホンダは、EV開発の中止による生産設備の減損損失などで、26年3月期に上場以来初の赤字に陥った。三部氏は「米国ではEVの時代は5年は来ない」として、開発中止の判断を「全体で考えれば、正しい」とした。また、ソニーとの合弁会社では、ソフトウェアを更新して機能を追加する次世代車「SDV」の技術開発などを進めていたが、販売を中止し、事業を大幅縮小した。この判断について、三部氏は「知見をホンダの商品に入れようと思う」と述べた。
業績の回復に向けては、SDVで先行する中国勢との競争は避けられない。25年の中国でのホンダの販売台数はピーク時の20年から6割減の状況だ。三部氏は、日本の視点で開発した車を中国に持ち込み「痛い目にあった」として、現地の技術を活用する方針を示し、日産自動車や三菱自動車とのSDV分野での協業について「(中国勢に対する)戦い方として有効だ。個社よりは圧倒的な競争力がある」と述べた。
日本市場については、5月に北米とともに重点市場に設定した。三部氏はその意図について「軽自動車と小型ミニバンの会社と言われている。そこを変えたい」と述べ、自動運転技術を安価な小型車にも搭載し、「高齢者が移動の自由を確保できる新しい価値を作り、立て直したい」と話した。
三部社長との主なやりとりは次の通り。
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――電気自動車(EV)開発の中止を決断した。
「米国のバイデン前政権は非常に厳しい排ガス規制を提案し、対応できないとホンダが北米市場から撤退しなければいけないリスクがあった。24年にはEVの開発は終わり、生産準備に入っていた。しかし、(トランプ政権発足後の)25年9月にEVの購入補助が廃止となった。米国では5年はEVの時代が来ないと考えた。無理して売り続けると赤字が累積する。当時の状況を考えると(開発中止は)避けようがなかった。ここまでやってやめるのかというのは心の中にはある」
「温暖化への対応は、企業として果たす責任がある。(開発中止した0シリーズとは別の)次世代EVの研究開発は続けている」
――当面はハイブリッド車(HV)に力を入れる方針を示している。
「『三部はEV』という言われ方をすることもあるが、30年までは四輪事業の柱はHVだという方針は変わっていない。コストは下がるが、性能は上がるようなHVを出していく」
――北米市場は今後も強化するのか。
「四輪事業は中国やアジアで苦戦している。米国は伸ばしていく地域の一つ。シビックやアコードのHVが好調で、今後は販売台数もかなり上積みしたい」
――日本を北米と同列の重点市場に設定したのはなぜか。
「軽自動車と小型ミニバンの会社みたいだと言われている。そこを変えたいという意思表示だ。高級車を出すのではなく、新しい価値のある商品で立て直しをはかる」
「自動運転技術は、踏み間違いや逆走がなくなり、高齢化社会の一つの解決策になる。(スポーツ用多目的車の)ヴェゼルから自動運転技術を搭載する」
――中国メーカーへの対抗策は。
「これからの自動車産業は中国メーカーを軸に回っていく。彼らのコスト競争力が業界の標準にある。中国との勝負を避けた時点で、負けたことと同じなので、(合弁会社など)中国と繋がりを絶つのは得策ではない。中国の良い部分はグローバルで活用していく」
――日産自動車や三菱自動車との協業の必要性は。
「(中国勢に対する)戦い方として有効だ。スケールメリットが出るため、個社で開発するより圧倒的な競争力がある。資本関係に関わらず、自動車会社も緩やかなグループが形成されていくのではないか。勢力図も大きく変わるだろう」
――四輪車以外で強化する事業は。
「総合モビリティカンパニーとして、(空飛ぶクルマの)「eVTOL(電動垂直離着陸機)」を米国で初飛行した。今やらないと将来、機体にホンダ(のロゴ)が描かれている世界観にはならない。ロボットも(人型の)アシモ以来ずっと開発している。フィジカルAI(人工知能)に重要な手のロボットは、事業軸にしようと思っている」
