「人類はスーパーヒューマンへの進化を」 SoftBank World2026、孫氏が2040年のビジョンを予言
ソフトバンクは7月14日、同グループ最大規模の法人向けカンファレンス「SoftBank World2026」を開催した。特別講演では、孫正義会長兼執行役員が登壇し、AIと2040年の未来について持論を展開し、「CEOにとって最も必要なのはビジョンと戦略。一番大切なのはAIを叫び続けて自社をAIネイティブ企業に生まれ変わらせる執念を持つこと」と呼び掛けた。
孫氏は、「日本の経営ではよく人の和や和をもって貴しとなすといった言葉が語られるが、アメリカのトップ経営者でそれを最初に言う人はほとんどいない。いくら仲良くやっても、船が丘の上に上がってしまえば、その船全体がとんでもないところへ行ってしまう。トップにとって最も大切なのは、ビジョンと戦略ではないか。ビジョンを語る際、これからはAIの時代だと漠然と言う人がいるが、どのくらい来るのかと聞かれて『たくさん』や『すごく』といった形容詞で答えてしまうと、鮮明なビジョンにならない。鮮明なビジョンがなければ、戦略は立てづらい。そこであえて明確な期限と数字を持って、私の意見を申し上げたい。1995年に始まったインターネット革命の際、日本ではものづくりにこそ魂がある。インターネットは仮想のバーチャルな世界だと言う人が多くいた。しかし今、世界経済を牽引しているのはインターネットを本業とする会社。AIについても、日本経済が同じ失敗を繰り返さないようにしてほしい。インターネット革命も最初の20年で勝負が決まった。AI革命が始まって数年経った今、2040年(15年先)のASI(人工超知能)の世界がどうなるかを数字で示す」と述べた。
【2040年:ASIエコノミーの到来】
孫氏は、「2040年、世界のGDPの約20%がAI(ASI)の世界に置き換わる。金額にして年間売上7,000兆円(46兆ドル)。残りの80%は今までの生活や産業と大きく変わらないが、この20%が持つ意味は巨大。この領域の利益率は50%近くになり、毎年3500兆円もの利益を稼ぐ企業が生まれるだろう。株式の時価総額で言えば、AI企業が全体の80%を占めるようになると見ている」と予見した。
【100兆個のAIエージェントと10億体のヒューマノイド】
AIエージェントについて、「1年前、私は「AIエージェント元年」になると申し上げたが、まさにその通りになってきた。2040年には、AIエージェントの数は100兆個クラスに達すると予測している。人間はせいぜい100個程度のルーティンワークをこなしているが、100兆個のエージェントが24時間休まず動き、エージェント同士でコミュニケーションを取るようになる。インテリジェンスのやり取りは、人間中心からエージェント中心へと完全に移行する。さらに、これがヒューマノイドに宿る。2040年には10億体のヒューマノイドが誕生しているだろう。10億体という数は、24時間稼働できることを考えると人間30億人分、能力差を含めれば人間100億人分相当の仕事ができることになる。人類史上初めて、肉体労働の主役が人間からヒューマノイドへと交代する。ホワイトカラーの仕事は100兆個のエージェントが、物理的な労働は10億体のヒューマノイドが担うようになる」と述べた。
【3TW(テラワット)のインフラと「クエッタ」の世界】
最新技術を支えるデータセンターについて、「2040年のデータセンターの規模は3TW(テラワット)に達すると確信している。これは現在の全世界の発電量の約1・8倍。電力不足を懸念する声もある、15年後にはフュージョン(核融合)が実用化され、クリーンで安価なエネルギーの主役になると私は考えている。AI自体が核融合の開発を加速させているからだ。計算能力も劇的に進化する。NVIDIAのGB300を1000個繋ぐと20EFLOPS(エクサフロップス、10の18乗)になるが、その先にはzetta(ゼタ、10の21乗)、yotta(10の24乗)、ronna(ロナ、10の27乗)と続き、2040年にはQuetta(クエッタ、10の30乗)という単位の世界になる。これらを実現するためのAIインフラ投資は、年間5兆ドル(800兆円)必要となる。嘘のような話と思われるかもしれないが、AIによる売上が7000兆円あるなら、毎年800兆円を投資しても十分に採算が合う」とした。
【スーパーヒューマン:人類の新たな進化】
孫氏は、AIと共に人類の進化についても言及。「人類は400万年かけて進化してきたが、これからの100年は、過去400万年を遥かに超える進化を遂げることになる。生命の進化の源泉は『自己増殖』と『自己進化』の2つのアルゴリズムだった。今やエージェントがエージェントを作り、自ら進化を始める時代が来る。人間が頂点だった時代は終わるが、それを拒否するのではなく、共に進化することが必要。私たちは、AIという『頭脳の延長』を手に入れることで『スーパーヒューマン』になれる。AIを否定することは、自らの進化を拒絶することと同じ。自らの分身としてのAIエージェントを持ち、自分がテニスや旅行を楽しんでいる間も、分身がせっせと仕事をしてくれる。そんな世界。AIは健康寿命の延伸にも寄与する。パーソナライズされた医療により、寿命をさらに10年、20年と伸ばせるなら、多くの人は喜んで対価を払うだろう」と述べた。
【AIの実力とリスク:防御の重要性】
AIによるセキュリティリスクについては、「既にGPT―5.6 Sol(2026年時点の最新モデル)は、99%のタスクで専門家のスコアを超えている。医療診断、金融、不動産、同時通訳、新薬発見など、あらゆる分野で人間より賢くなっている。例えば、新薬候補の発見にかかる時間は、人間なら424時間かかるところ、AIは2時間(200分の1)で成し遂げる。一方で、AIはサイバーアタックの武器にもなる。ソフトバンクが自社システムを最新AIで診断したところ、1万500件もの脆弱性が見つかった。日本を代表する企業63社を診断した結果も、全社が穴だらけだった。我々は急遽、1000人規模の防御体制を整え、日本のインフラ企業3000社を守る準備を始めている」とした。
【ROA(Return on AI)と経営者の役割】
孫氏は総括として、「ROAといえばこれまでは『リターンオンアセット(Return on Assets)』」を意味していたが、これからは『リターンオンAI(Return on AI)』を経営指標とすべき。AIへの投資に対してどれだけ生産性が上がったか。3年程度のスパンでリターンを見極め、全社を挙げてAI武装を進めるべき。CEOの最も大切な役割は、『AI!』と叫び続けること。自社をAIネイティブ企業へと生まれ変わらせる執念を持つこと。この先AIが仕事を奪うのではなく、AIを使う企業が仕事を奪うことになる。15年後の自社はどうなっているか。業界で1位になるという気概があるか。タイムマシンに乗って未来を見てきたかのように、期限と数値を持ってビジョンを語ってほしい。常識が変わり、過去の経験値は役に立たない。今こそ、スーパーヒューマンの時代、人類未到の世界へ向けて準備をすべき。皆さんの、そして日本経済の再起を願っている」と呼び掛けていた。
特別講演では続いて、社長兼執行役員CEOの宮川潤一氏が登壇し、AIとセキュリティに向けた取り組みについて紹介。併せて、アメリカのAI企業「Sierra(シエラ)」と戦略的パートナーシップを締結し、同社の対話型AIプラットフォームの国内独占販売代理店として提供を開始することを明らかにした。
宮川氏は、155年前にアメリカのシカゴで発生した大火災とその後の復興を例に、AIを活用してサイバー攻撃を受けても「燃えない基盤」へと刷新する必要性を強調した。
宮川氏は、グループ会社のアスクルが被害を受けたサイバー攻撃により、システムが全面停止して多大な影響が出た事案を「苦い経験」として振り返り、「これは決して対岸の火事ではない。サイバー攻撃は売上の減少だけでなく、企業の根幹である『信頼』を失わせ、事業継続そのものを危うくする。私は、サイバーセキュリティこそがサステナビリティの最優先課題であると考えている。企業に求められるのは、止まってから復旧する力ではなく、システム全体を「止まらない基盤」へと刷新すること。AI時代に向けた企業システムの『モダナイゼーション』こそが、今日伝えたい最大のポイント」と述べた。
【モダナイゼーション】
宮川氏は、「なぜ今モダナイゼーションが必要かというと、AIの進化が劇的に加速し、AGI(人工汎用知能)が目前に迫っているため。2023年頃のAIはテキストしか扱えなかったが、現在は画像や音声などあらゆる情報を理解するマルチモーダルへと進化した。また、単なる指示待ちの道具から、自ら考え判断して行動するAIエージェントへと変わりつつある。さらに、デジタル空間だけでなく、ロボットに搭載されることで現実世界でも動くようになっている。知能の成長速度を人間と比較すると、その差は歴然。人間は第1次産業革命から現在までの約250年をかけてIQを85から100へと高めてきたが、AIは人間が250年かけた進化をわずか3年足らずで駆け抜けてしまった。GPT―5・5のIQは150に達しており、次世代モデルはさらにその上を行くだろう。もはや人類の処理能力ではAIに追いつくことはできない。私たちは、人類の叡智を超えた存在であるAGIが誕生する、ポストAGI時代の入り口に立っている。AGIの登場を境に、世界は全く違うものになる」と述べた。
【コミュニケーションの進化】
「直近のAI活用例を2つ紹介する。1つ目はコミュニケーション分野、当社の国産LLM『sarashi』。日本語に特化したsarashiは、深い語彙や地名、文化的な文脈を正確に理解する。リアルタイム通訳のデモでは、約0・5秒という極めて低い遅延で、私の声をボイスクローンした多言語スピーチを実現している。海外モデルと比較しても、アナウンサーレベルの自然な日本語を話すことが可能。2つ目はコールセンターの進化。ジェナックスの「クロスゴースト」は、現場にあるマニュアル化されていないおもてなしの知恵(暗黙知)をAIに学習させ、企業文化に合わせた接客を実現する。また、本日発表したシエラ(Sierra)社との連携により、わずか2週間という驚異的なスピードでAIエージェントを導入できるようになる。デモ動画では、AIが本人確認からプラン変更の提案、手続き完了までを瞬時に、かつ流れるように完結させている。これは、優れたAIエージェントがすでに実用レベルに達していることの証明」。
【AIはサイバー領域で何を変えるのか】
宮川氏は、「私たちが活用している『サイバーモデル』は、安全管理の下で高い分析・攻撃能力を持たせたモデル。最新モデルで当社のシステムを検証したところ、700のシステムから1万500件もの脆弱性が見つかった。また、重要インフラを担う企業を含む約50社のシステム診断でも、平均280件の脆弱性が確認されている。AIモデルのオープン化が進めば、専門家でなくても個人が24時間365日、自律的かつ同時多発的に攻撃を仕掛けられる時代がやってくるとAIを使ったサイバー攻撃の脅威を強調。簡単な指示だけでわずか11分でファイアウォールを突破した模擬攻撃デモを例に、「これまでの人間中心で作られた、ミスや歪みのあるシステムでは、AIの猛攻には太刀打ちできない。AIを前提としたシステムの「モダナイゼーション」が不可欠。AI自身が構築し、AI自身が守れるシステムへと、根本から刷新しなければならない」と強調し、一千人体制の自社ソリューション「PaaS(Patching as a Service)」を提案した。
総括として、「シカゴが焼け野原から『燃えない基盤』を作り上げたように、私たちも企業システムをAI時代の基盤へと抜本的に作り変える必要がある。素早い実行こそが最大の防御であり、それが強い国づくりへと繋がる。ポストAGI時代に向けて、共に強い日本を作っていきましょう」と呼び掛けた。
