OpenAI、「GPT-5.6」と「ChatGPT Work」をリリース--Anthropicに対抗
OpenAIは米国時間7月9日、「GPT-5.6」と「ChatGPT Work」のリリースを発表した。これらはそれ自体が大きなニュースであるが、率直に言えば、昨今Anthropicが巻き起こしている注目に対し、OpenAIが追撃を試みた形と捉えるのが自然である。
発表の目玉は、「GPT-5.6 Sol」「GPT-5.6 Terra」「GPT-5.6 Luna」という3つの新しいモデルだ。6月に米国連邦政府(ホワイトハウス)の介入によりリリースが延期された経緯から、GPT-5.6の登場自体は予測されていた。当然ながらこの動きは、Anthropicが開発した「Fable 5」や「Mythos 5」を巡って同社とホワイトハウスとの間で発生し、大きなニュースとなった騒動の直後を追う形となっている。
同時発表されたChatGPT Workは、明らかにAnthropicの「Claude Cowork」に対抗する製品だ。ChatGPT Workを導入することで、AIがユーザーのデスクトップやブラウザーにアクセスし、各種業務を代行できるようになる。
ただ、OpenAIにとって完全な新機能ではない。以前に同社のエージェント型プログラミングツール「Codex」アプリに組み込まれていた機能だ。OpenAIがAnthropicのブランディング戦略を踏襲し、エージェント型業務アシスタントをプログラミング専用ツールから切り離したことは明白であり、これによりプログラマー以外の一般ユーザーにとっても魅力的な選択肢となる。
筆者は、OpenAIに明確なブランディング戦略が欠如している点を度々批判してきた。今回の分かりやすい名称変更は前向きな兆候だ。プロダクトマーケティング戦略をプログラマー主導体制から脱却した可能性を示唆しており、最上位モデルのGPT-5.6 Sol自体がこの戦略を立案したのかもしれない。
Claudeとのベンチマーク比較
今回の発表でOpenAIは、ベンチマーク結果を用いてClaudeシリーズとの比較を前面に打ち出している。同社がAnthropicを強く意識していることは疑いようがなく、新モデルの発表では、Anthropic製品のテスト結果や価格水準を明確なターゲットとして定めている。ここで、天体に関連する用語を採用した各モデルの名称と位置づけを整理する。
Sol:フラッグシップモデル。Fable 5対抗であり「GPT-5.5」の「思考モード」とほぼ同等
Terra:地球が太陽より小さいように、Solより性能が低い。Terraは標準の主流モデル「GPT-5.6」あり、GPT-5.5と同等
Luna:月が地球より小さいように、Terraより性能が低い。GPT-5.5の高速軽量モデルに相当
55分野でAIモデルが長期かつ多段階の専門的ワークフローをどの程度処理できるかを測定するベンチマーク試験の「Agents' Last Exam」でOpenAIは、GPT-5.6 Solが53.6点を記録したと発表した。これはClaude Fable 5のスコアを13.1ポイント上回る結果になる。
また、複数カテゴリーでモデルの総合的な知性を定量化するベンチマーク「Artificial Analysis Intelligence Index」のデータも公表された。これによると、最高レベルの推論を実行したSolはFable 5のスコアに1ポイント差まで迫りつつ、タスクの完了時間を61%短縮したという。
さらに別のベンチマークである「Artificial Analysis Coding Agent Index」では、GPT-5.6 Solのスコアが80に達し、Fable 5を2.8ポイント上回って新たな最高性能を記録したとOpenAIは主張している。これらの比較から、同社の明確な対抗意図が読み取れる。
価格競争力についても言及されており、GPT-5.6でもとりわけSolは効率性が大幅に向上し、Fable 5よりもコストパフォーマンスが高いとされる。OpenAIによれば、中程度の推論を実行した場合、Solは想定されるコストを約4分の1に抑えながら、Fable 5より11.4ポイント高いスコアを獲得したという。
GPT-5.6は前世代のGPT-5.5と比較しても、高速かつ効率的になっている。AIを活用したコードレビューツールを提供するQodoの共同創業者で最高経営責任者(CEO)のItamar Friedman氏は、「当社のエージェント型コードレビューテストでGPT-5.6は、検証した中で最も強力なモデル。社内外のプルリクエストを用いた同一条件のベンチマークにおいて、1つのプルリクエスト当たりに消費するトークン量を約3分の1に抑え、平均遅延を約2倍に短縮しながら、F1スコアでGPT-5.5を上回った」と評価している。
モデルの安全性や悪用に関する政府との議論を経て、OpenAIはGPT-5.6に強固なセーフガードを組み込んだ。これはモデル自体の保護機能、リアルタイムなチェック、監視体制、そして信頼性とリスクの度合いに応じて調整されたアクセス権限を組み合わせた多層的な構成となっている。発表の中では「GPT-5.6は当社史上で最も強固な安全スタックを備えてローンチされる」と強調されている。
「ChatGPT Work」の機能と信頼性
一方のエージェント型デスクトップ生産性向上ツールであるChatGPT Workは、OpenAIのモデルを搭載したClaude Coworkと言える存在だ。ChatGPT Workは、スプレッドシートやプレゼンテーション資料、さらにはウェブサイト全体の構築に対応する。複雑なプロジェクトを小さなタスクに分解することで、数時間にわたり自律的な作業を実行可能にする能力を持つ。
公開されたデモンストレーションにおいて、OpenAIの担当者が、ChatGPT Workに「Apple Notes」へのアクセスを許可し、全てのメモを完全に再構築させる様子が紹介された。筆者自身、Apple Notesのデータに深く依存しているため、AIが自律的に介入して情報を整理し移動するという実演には、利便性よりも懸念が勝るのが率直な感想である。
これは、ChatGPT Workの強力な処理能力を示す象徴的な事例だが、ここまでの権限移譲には信頼性の面で問題になる。
OpenAIは、「ChatGPT Workの最適な習熟方法は、月末の予算差異分析、資料からのマーケティングキャンペーン概要の作成、営業会議の準備など、ユーザー自身が既に熟知しているタスクを割り当てることだ。処理の進行状況を追跡し、AIからの質問への回答や指示の変更、重要なアクションの承認をユーザーが行うことができる」と説明している。
筆者は、同様の複雑なエージェント型ワークフローの処理にClaude Coworkを使用して高い時間削減効果を得てきた。ChatGPT Workの検証はまだだが、初期ユーザーから同様の利便性が報告されている。
Zapierのエンタープライズマーケティング責任者であるAngela Ferrante氏は、発表の中で「当社はChatGPT Workを活用し、毎月数千件の見込み顧客を評価する自動化システムを構築した。顧客管理システム(CRM)やメール、その他のツールにまたがる顧客との接点を追跡し、フォローアップが停滞している箇所を特定することで、週次のエグゼクティブ向けダッシュボードを自動生成した。結果として、見落とされていた案件が可視化され、7桁に達する潜在的な売上機会が明らかになった」と述べている。
Claude Coworkが外部アプリケーションと連携するのと同様に、ChatGPT Workもプラグインやコネクターを備えている。「Slack」や「Microsoft Teams」「Google Drive」「SharePoint」、各種メール、カレンダー、CRM、プロジェクト管理ツールなど、広範なシステムとの統合に対応する。
ChatGPT Workは、ウェブおよびモバイル版で、「Pro」「Enterprise」「Edu」の各プランを対象に順次展開され、「Plus」「Business」プランも数日以内に展開される予定だ。月額20ドル(日本は月額3000円)のPlusプランでは、この業務支援機能がどの程度実用的に機能するかが関心を集めるだろう。
これまでOpenAIは、ChatGPTとCodexのデスクトップアプリを個別に提供していたが、今後はこれらを1つのアプリケーションに統合する方針だ。対するAnthropicは、通常のチャット機能、プログラミング支援の「Claude Code」、そしてClaude Coworkを既に単一のデスクトップアプリに統合している。今回のOpenAIの発表資料からは、ChatGPT Workが新たに統合されるアプリに含まれるかどうかの詳細は明確にされていない。
