兵庫県に全国でも珍しい高齢ドライバー専門の自動車教習所があります。講習を受ける高齢者の中には免許を返納できない事情を抱える人もいます。
■高齢者講習 各地で混雑
兵庫県高砂市にある自動車教習所。ここの特徴は、全国でも珍しい高齢者専門の教習所。過去には100歳の高齢者や遠くは青森から訪れる人も。
70歳以上の高齢ドライバーが免許を更新するには、免許センターなどで高齢者講習を受けるよう、法律で義務付けられています。
しかし、高齢者講習の枠は限られているため各地で混雑が相次ぐ状態に。ここ高砂市でも「予約が全く取れない」という声が上がり、6年前の2020年に開校。こちらで講習を受けることで、免許を更新することができるといいます。
■高齢者専門校ならではの取り組み
この学校で行われているのは、主に2つ。実際に車に乗り、教習所内のコースを走って指導を受ける「実車指導」と、75歳以上が受ける必要のある「認知機能検査」です。
実車指導では、高齢者専門校ならではの取り組みがあります。
指導員
「センターラインを見ると、センターラインに寄っちゃうから、道路の真ん中をずーっと見て運転してください。できるだけ遠くを見る。目線が近いと(センターラインを)見てしまう」
道路の真ん中を走る簡単な走行でも、指導員による丁寧な声掛け。すると、センターラインに寄っていた運転が真ん中をキープできるように。さらに…。
受講者
「いったん停止や」
指導員
「しっかりよ、はいストップ。左にウィンカーつけたらミラー見てな。もうちょっと寄ってほしいね、ほら、こんだけ開いとる」
受講者
「ほんまや」
指導員
「ちゅうことは、原付とか横入ってくるわな」
高齢者の運転を熟知した指導員から、きめ細かいアドバイスが送られます。
さらに、車にも配慮が。教習車は、セダンタイプの車が一般的ですが、ここでは軽自動車を導入。高齢者は軽自動車を運転する人が多いことから去年、5台に増やしました。
「実車指導」では、思い通りに車を運転できるのでしょうか。
■20km保つ課題で速度超過
80代
「年齢と共にボケ入ってくるから。私はまだボケていないつもりだけど。一人暮らしだからね、ボケとるひまないのよ」
これまで一回も事故を起こしたことがないという一人暮らしの男性。講習が始まると…。
指導員
「よろしくお願いします」
受講者
「こちらこそお願いします」
指導員
「ブレーキ踏んでみて、その位置で。ブレーキ踏んでみて。違う違う、右足で踏むんでしょブレーキ」
受講者
「あーブレーキ、ブレーキ」
指導員
「しっかり踏み込める?右足」
受講者
「え?」
右足で踏むはずのブレーキを左足で踏んでしまいます。
さらに、スピードを20キロで保つ課題では、アクセルを強く踏みすぎて速度超過してしまいました。
■標識を見逃し停止線越え
別の男性は、左折するため交差点に差し掛かると…。
指導員
「ゆっくり丁寧にいきましょうね。ちょっと待った。今この車の右前どこ走っていますか?」
受講者
「え?」
指導員
「この車の右前は、どこ走っていますか?」
受講者
「あー白線の上ですね」
無意識のうちに、車体は対向車線へはみ出てしまいました。このままだと衝突の可能性も。
他にも、散見されたミスがあります。
一時停止の標識を見逃し、停止線から車体が半分出てしまいました。
この時、車内では…。
指導員
「突き当たりしか言わないんで気をつけてください」
受講者
「分かりました」
指導員
「はい、止まれ。ほら、言うたやんか」
■乗り上げた車を止める課題
高齢者事故の中で高い割合を占める誤ったペダル操作による事故。
講習の中でも、ペダル操作に苦戦する人がいました。
指導員
「乗り上がったら急ブレーキ踏んで車1メートルぐらいに止めましょうか」
受講者(70代)
「はい」
アクセルを踏み、段差に乗り上げて止める課題。前輪を段差に乗り上げてから1メートル以内に停車しなければいけないのですが、段差を越え、規定の停車位置を通過してしまいました。
【1回目】
指導員
「1メートル以内に止めようって言うたやん」
受講者
「あーごめんなさい」
指導員
「もう1回やってみよう」
受講者
「はい」
【2回目】
指導員
「上がったらすぐ急ブレーキね」
受講者
「ここで止まるんですね(乗り上げ失敗)」
指導員
「1メートル以内って言いましたやんか」
「この線が1メートルです。前輪をここで止めなければいけないんですよ」
受講者
「そこに止めるんですね」
■免許返納についてどう考える?
なかなか思い通りにはいかない車の運転。自らの衰えに気づく人も多い中、高齢者は免許返納についてどう考えているのでしょうか。
70代
「いくつまで乗るのって息子には言われる。80歳ぐらいまでって言ってある。別に自信なかったら乗れへんし、変に自信ある」
80代
「一人暮らしで、免許返したい気持ちはあるんだけど、(免許を)返してしまうと動きが取れん。病院は行けない、買い物行けない。あの世に行くしかないのよ」
免許返納について、はりま高齢者講習専門校の指導員・岡部正裕さんはこう話します。
「返納は難しい地域だと思います。車がなければ生活に困難をきたす場所だと考えております」
この地域は、民間の路線バスがほとんど廃止になり高齢者の移動は困難をきたすといいます。しかし、それでも…。
「よほど危険な運転をされている方は、ちょっと危ないですよっていうことをご本人に申し上げます。ご家族の方と相談して返納するかどうかを検討してみてくださいというアドバイスはさせていただきます」
■最後の更新 返納決意
免許返納が進まない地域事情がある中、返納を決心する人もいます。
岸野紘子さん(80)
「私もだいぶ年を取っているので、やめようかなって思っています。息子は年いってるから危ないからやめたらどうって言ってたんですけど、今やめると畑に行けないから、もう一回だけ取るねって言って」
息子のイチゴ農園を手伝うため、免許の更新を行う岸野さん。しかし、更新は今回が最後と決めました。
指導員
「20キロぐらいで走る練習」
岸野さん
「今何キロ?」
指導員
「今15キロぐらい。これぐらいでずっと走って。うん、こんな感じ」
実車も認知機能検査も無事に終了。ひとまず目標の免許更新を果たしました。
迎えに来てくれたのは、息子の弘和さん(53)。免許更新の理由でもある畑へと一緒に向かいます。
岸野さん
「(Q.普段、車でこの辺とか走る?)畑行く時はここ。スーパーがそこにある。スーパー行ってる」
「(Q.いつもはお母さんが車でここに来て作業したりとか?)していました。ずっと主人も」
弘和さん
「でも80超えたら、あんまり積極的に来させないようにしています」
今まではイチゴの収穫の時期になると車で畑に来て手伝っていましたが、今は徐々に減らしているといいます。
「(運転がまだ)いけそうな気がする時にやめないと危ない。何かあってからやめたって遅いから」
3年後、免許返納した後はどうするのでしょうか?
「車がいる用事ができたら僕が出ざるを得ないんで、生活はちょっと変わると思うけど」
岸野さん
「(Q.家族の支えもあって返納するかもしれない?)そうですね」
弘和さん
「返納は決定事項です」
