【BEV延期は後退なのか】スバルが「トヨタ車」と「フォレスター」を同じラインで生産へ。矢島工場で見えた混流生産の現実解

【BEV延期は後退なのか】スバルが「トヨタ車」と「フォレスター」を同じラインで生産へ。矢島工場で見えた混流生産の現実解

柔軟性を選んだスバルのBEV戦略。「撤退」ではなく「現実解」へのシフト

2026年5月の決算説明会において、スバルは「自社開発BEV(電気自動車)の導入時期延期」と「開発リソースのICE(内燃機関)系商品へのシフト」を発表した。一部では「EVシフトからの後退」と受け止められることもあるが、スバル社内の認識は少し異なる。

今回、スバルの主力完成車工場である矢島工場(群馬県太田市)の新生産ラインがメディア向けに公開され、筆者も現地を取材した。そこで見えてきたのは、市場環境の変化に向き合う小規模メーカーとしての、柔軟な生産戦略だった。

スバルは2023年に「2030年に世界販売の50%(60万台)をBEVにする」という電動化目標を掲げたが、直近のEV需要の変化を受けて、その計画を見直している。現在は需要の先行きを慎重に見極める必要がある状況にある。

インタビューの中で担当者が率直に口にしたのは、「アメリカの環境政策などの変更に影響を受けた」という、市場変化への対応をめぐる課題認識だ。

当初、矢島工場にはBEV専用ラインを新設する計画もあった。しかし、需要動向が不確実な中で特定の技術に投資を集中させることは、規模の小さい自動車メーカーにとって大きな経営リスクになりかねない。

そのためスバルはBEV専用ラインを見送り、ICE車とBEVを1本のラインで作る「混流生産」へと計画を見直した。

この方針転換は矢島工場にとどまらず、現在新設中の「大泉新工場」に関しても同様だ。当初はBEV専用工場とする予定だったが、こちらも途中で混流ラインへと計画が変更されている。現場からの「完成前の見直しで対応できた」との声は、現在の不透明な市場環境に対応するうえで、柔軟な生産体制の重要性を示している。

初の自社工場生産BEV。「トレイルシーカー」に込めた自社生産へのこだわり

スバルが長年培ってきた「変種変量短生産」のノウハウを活かした混流ラインで、2026年2月から生産が開始されたのが、新型BEV「トレイルシーカー」と、トヨタとの共同開発車である「bZ4X ツーリング」だ。

ここでひとつの疑問が浮かぶ。スバル初のBEV「ソルテラ」や兄弟車の「bZ4X」はトヨタの工場で生産されている。なぜ派生モデルである今回の2車種は、一見すると投資や手間の増える「スバルの工場で生産する」という道を選んだのだろうか。

担当者は「どこで作るのが合理的なのかを比較検討した結果」とした上で、「自社でBEVの生産ノウハウを蓄積し、独自のサプライチェーンを構築したかった」とその理由を明かす。

実は、このトレイルシーカーはスバル側からトヨタへ企画を持ち込んだモデルだという。

往年の「レガシィツーリングワゴン」や「アウトバック」を彷彿とさせるスタイルのBEVを、トヨタに生産を委託するのではなく、独自のモノづくりを象徴するモデルとして自社で作り上げたいという、スバルとしてのこだわりがあったのだ。

トヨタの設計をスバルで作る「長年の協業が支えた混流生産」

しかし、スバルの工場でトヨタベースの車両構造を持つクルマを作るのは、容易なことではない。矢島工場では、BEVとICE車という違いだけでなく、「トヨタ車」と「スバル車」という設計思想の違いを1本のラインで吸収するため、複雑な対応が求められている。

顕著なのがサスペンションの組み付け工程だ。従来のスバル車は車体にサスペンションを付けた後にショック&コイルを搭載するが、トヨタ車はショック&コイルをサブASSYし、車体へ一括搭載するという異なる工順を採用している。

これを成立させるため、矢島工場では基準位置を柔軟に変更できる可動式設備を導入し、スバルの従来工順を、トヨタの工順にも対応できる形へ調整している。

両社で異なる品質保証のプロセスやソフトウェアのアップデート対応など、現場では多くの調整が必要だった。しかし、こうした対応が進められた背景には、長年にわたるトヨタとの協業(アライアンス)の歴史があり、かねてより現場レベルで密な連携体制が築かれていたからこそと言える。

また、中京圏のサプライヤーが増加したことで生じた「部品輸送の効率化」という課題についても、西濃運輸と共同で集約倉庫を設けるなどして着実に対応を進めている。

「柔軟性」という名の生産戦略。市場動向を見極める

実際のトリム(組立)ラインを見学すると、ホイールベースの異なる車両に対応するため、車体を吊るすハンガーが自在に伸縮する光景が見られた。

また、プレス型のメンテナンス工場を改修して新造されたバッテリー工場(2026年2月量産開始)では、エンジン製造時のノウハウを活かした「プラズマ洗浄」が導入されている。微細な汚れを洗浄してバッテリーパックと本体の接着力を高め、熱逃げや短絡を防ぐなど、スバルが長年培ってきたICEの技術がBEV生産にも活かされている。

スバルは今年8月ごろから、このBEV生産ラインにICE車である「フォレスター」を流す混流ブリッジ生産を本格スタートさせる予定だ。実際の工場見学時にも、完成車の検査コースにフォレスターがテスト的に流れており、BEVとICE車の混流化が現場レベルで着々と進んでいるのを目の当たりにした。

「BEVか、ICEか」という二元論で語れるほど、自動車市場は単純ではない。

アメリカの環境政策などの変化に影響を受けた経験からスバルが選んだのは、市場動向を見極めながら、1本のラインで柔軟に作り分けるという道だ。BEV専用投資に過度に偏らず、自らの規模と強みを踏まえたスバルの選択は、不確実な時代に対応するための、極めて現実的な生産戦略と言えるだろう。

さらに、2026年5月の決算発表でも示された通り、今後は開発リソースをICE系商品にも重点的に振り向けていく方針だ。この決断によって、スバル独自の水平対向エンジンを活かしたモデルや、ファンの期待を集めるスポーティなモデルの展開にも注目したい。

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