映画「火垂るの墓」に幻の脚本見つかる…深沢一夫さんが執筆、高畑脚本の「兄妹の亡霊」登場せず

映画「火垂るの墓」に幻の脚本見つかる…深沢一夫さんが執筆、高畑脚本の「兄妹の亡霊」登場せず

太平洋戦争中の神戸に生きた兄妹(きょうだい)を描いたアニメ映画「火垂(ほた)るの墓」に、高畑勲監督による脚本とは別の「幻の脚本」があったことが分かった。強い印象を残す兄妹の“亡霊”が登場しないなど、公開作品とは異なる部分も多く、専門家は「高畑脚本に至った経緯がうかがえる重要なものだ」と評価している。

 この脚本は、2018年に亡くなった高畑さんの自宅から見つかった。執筆したのは、脚本家の深沢一夫さん(16年に死去)と確認された。深沢さんは、高畑さんが演出を務めたテレビアニメシリーズ「母をたずねて三千里」や、アニメ映画「太陽の王子 ホルスの大冒険」で脚本を担当。高畑さんが深沢さん宅に泊まり込みで仕事をする時期があるなど信頼関係が厚く、高畑さんが執筆を依頼したのではないかとみられている。

 手書きの深沢脚本は原稿用紙で114枚あり、タイトルや署名はなかった。一緒に見つかった高畑さんのノートには、1987年3月に脱稿したとの記述があった。二つの脚本は基本的に、原作の野坂昭如(あきゆき)さんの小説に沿っているため筋は変わらない。だが深沢脚本には、高畑脚本では冒頭やラストなどに現れる兄妹の亡霊が出てこない。

一方、孤児となった兄妹が世話になる親戚一家や、井戸端会議をする主婦など、兄妹以外の人物の描写も多い群像劇になっている。また、高畑脚本では冷淡な農家が情け深い人物として描かれ、ラストにも登場するなど重要な役回りとなっている。軍国主義を批判するような描写やセリフも多い。

 高畑さんの作品に関する論考も多い早稲田大の細馬宏通教授は、「高畑さんは、観客に解決できない塊を残そうとする監督。深沢さんははっきりとした悲劇を書いた。それを読んだ高畑さんは何か塊が足りないと気づき、亡霊のアイデアを思いついたのではないか。深沢脚本があったからこそ高畑脚本が生まれたといえ、非常に重要なものだ」と話している。

深沢脚本がなぜ採用されなかったのかは記録がなく、関係者も亡くなっており分からない。深沢さんの長男で、舞台演出などを手がけてきた勲夫さん(67)は「ボツになったこと自体はおやじから聞いていたが、理由は聞けなかった。もう失われたと思っていたのでうれしい。一目見ておやじの字だとわかった。高畑さんの脚本との違いについて、考えていきたい」と話している。

 幻の脚本の発見については、24日に発売される書籍「高畑勲と『火垂るの墓』 『幻の脚本』と『7冊の構想ノート』を読み解く」(新潮社、寺越陽子著)に掲載される。

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