ホンダ旧経営陣の三部氏解任劇、直談判も翻意ならず 揺らぐ求心力
ホンダが未曽有の危機にある。電気自動車(EV)戦略のミスにより上場以来初の年間最終赤字を招いた三部敏宏社長(64)に対し、歴代社長経験者らOBが直接辞任を迫ったが、三部氏の続投の意思は固く、翻意はならなかった。中国での苦戦に加えて、社内では二輪と四輪の事業間対立が深まり、サプライヤーからは補償やコスト削減要求に対する不安や動揺が広がる。
1年以上前の日産自動車との経営統合の交渉破談以降も検討を続けている同社や三菱自動車との協業を巡っても、具体策はいまだ公表されず「検討中」を繰り返すばかり。今月26日に開催するホンダ株主総会では、経営陣への厳しい批判と追及が避けられない情勢だ。
ロイターは元幹部、現役幹部、サプライヤーなど計12人の関係者を取材。OBたちが三部氏に辞任要求を直談判するに至った会話の詳細を初めて報じるとともに、取締役会の後ろ盾を得て辞任圧力をかわす三部社長、三部体制下で低下する社員の士気や停滞する協業戦略、サプライヤーの動揺などを詳報する。
<有力OBが「辞任」を直談判>
ロイターが入手した元幹部らの議論の書面要約と、実際に議論に加わった2人への独自取材によると、ホンダの元経営幹部数人は昨年末から非公式の会合を重ね始めた。三部氏がもたらした経営問題、その責任の所在について話し合うためだ。元幹部らは数カ月にわたり食事会やメッセージアプリを通じて協議を続け、時には現役幹部が加わることもあった。
元幹部らの批判は多岐にわたる。三部氏が最重要市場である中国を軽視し、EVへの賭けに「失敗」したことが、1957年の東証上場以来、約70年で初となる年間最終赤字を招いた。三部氏は工場や販売店などの「現場」に出向くよりも、ホンダがスポンサーを務めるプロゴルフのほうに「執心」――批判の矛先は個人的な領域にまで及んだ。
関係者3人によると、元幹部たちの忍耐は4月に限界を迎える。議論の一部に加わっていた4代目社長の川本信彦氏(90)が本社を訪れ、三部氏に辞任を直談判した。川本氏を含む旧経営幹部は引退後も大きな影響力を持っており、過去にもホンダの危機の際に社長を退陣させてきた経緯がある。
しかし今回、三部氏は首を縦に振らなかった。同氏は上場以来初の赤字決算となった責任を取るため、辞任ではなく、2026年3月期の業績連動型報酬の不支給、27年3月期の月額報酬30%・3カ月分の自主返上を選んだ。
ロイターの取材に対し、川本氏は副社長経験者とともに三部氏と面会した件について「すでに会社側から外部に伝わった話で、現在では広く知られる事実」と認めつつ、「私たちと三部氏との間で交わされた社内秘の話」として会話の内容については口を閉ざした。
ホンダ広報は、OBの協議、OBと三部氏との面会について「そのような情報は把握していない」とコメント。三部氏が現場を軽視し、ゴルフに熱心というOBからの批判に対しては「スポンサー活動への関与はブランド価値向上や企業の社会的責任の一環として適切に対応している」と述べた。
5月に発表した2026年3月期決算では、開発を中止したEV3車種などに伴うEV関連損失1兆4536億円を計上し、27年3月期には5000億円の損失が発生する見込みで、累計で最大2兆5000億円と試算。40年までに販売する新車全てを燃料電池車を含むEVにするとの目標も撤回。EV事業からは撤退しないが、ハイブリッド車(HV)強化へと戦略を見直した。
その背景には、SDV(ソフトウェア搭載車)を超低価格で大量生産する中国EVメーカーの攻勢など「想定をはるかに上回るスピードの市場環境の変化」(三部社長)がある。売上高の半分以上を米国で稼ぐホンダは、トランプ関税やEV補助金撤廃からも痛手を被っている。
「彼らが活路を見出す方法がわからない。このままでは、間違いなく近いうちに手遅れになる」。「日本人の知らないHONDA(原題:Driving Honda)」でホンダを論じた著者のジェフリー・ロスフェダー氏はそう話す。
ホンダは今後の業績について、29年3月期に四輪の再構築に加え、二輪や金融事業の成長と合わせて過去最高の営業利益1兆4000億円以上を目指すV字回復シナリオを示している。
<「現場を見ていない」>
ホンダは長年にわたり、創業者・本田宗一郎氏の精神を受け継いできた。鍛冶屋の息子として生まれた宗一郎氏は強烈な独立心とエンジンへの執念を持ち、「シビック」「アコード」という世界で最も売れた乗用車、史上最も普及した二輪の「スーパーカブ」を世に送り出した。
ホンダの成功の鍵は「現場」への徹底した注力にあり、現場を見失うことは経営者にとって許されないという。しかしOBたちは、三部体制下では「オヤジ(宗一郎氏)」の精神が失われつつあると憂慮する。三部氏ら現経営陣は「現場を見ない、顧客の声を聴かない」──。OBたちの協議の要約にはそう記されていた。
21年4月に社長に就任した三部氏。就任初期が中国のゼロコロナ政策(20年1月23日から23年1月8日まで)と重なり、中国出張が不可能だったという事情はあったにせよ、関係者の1人は、三部氏は「中国への訪問は少なかった」と嘆く。多くの競合他社のトップが登壇する業界最大のイベントである中国の自動車ショーも「視察したことはあるが、一度も登壇したことはない」との印象を語った。
三部社長の在任期間中、ホンダの中国市場シェアは急落。20年の8%から昨年は3%未満に低下した。ホンダ広報はOBからの指摘に対し、「現場主義は変わることはない」と強調。三部氏の中国訪問回数は明示しなかったが、「必要に応じて各市場への視察を行っている」と話した。
三部氏は23年4月下旬、登壇はしていないが「久しぶりに上海モーターショーに行って現実を見てきたが、相当、(ホンダの)先を行っていると認識している。このままでいいとは考えていない」と報道陣との取材会で危機感を吐露している。
OBたちはさらに、ホンダ所属のプロゴルファーで双子の姉妹である岩井明愛・千怜両選手とのラウンドを含め、三部氏がスポンサーゴルフに多くの時間を割いているとも非難。三部氏のコミュニケーションは時に状況認識を欠き、社員の士気を損なうものだったとも批判している。
関係者によれば、川本氏が4月に本社を訪問した時点で、取締役会の指名委員会はすでに三部氏の社長続投を決めていた。多くの日本企業と同様、ホンダもコーポレートガバナンス改善に向けた規制当局の要請を受け、近年は社外取締役の数を増やした指名委員会等設置会社に移行しており、OBの影響力は以前に比べ大幅に低下した、と関係者の1人は語る。
指名委員会は三部氏と社外取締役4人で構成されていたが、三部氏は6月の株主総会を持って同委員会から退く。
ホンダ広報は、三部氏が自身の進退に関する指名委員会の議論に参加したかどうかについて回答を控え、トップ人事は「適切なプロセスを経て決定する」とコメントした。
<低下する士気、協業の空転>
上場以来初の赤字に「社内は非常にしらけている」(ホンダ幹部)。経営責任の取り方が報酬面だけで、全く辞める気を示さない三部社長の姿に首を傾げる人は多いといい、この幹部は「脱エンジンや日産との協業推進という流れでホンダを去った社員も多い。戦略見直しの決断が遅かった」と残念がる。
三部氏の発言に違和感を示す声もある。同氏のコミュニケーション能力は、社内で必ずしも自身の立場を有利にするものではなかった。例えば、現在は撤回したEV優先戦略を擁護する三部氏の発言は、時として的外れに聞こえ、社員の士気を低下させた、と幹部らは述べている。
四輪事業の収益悪化は業績以外にも深刻な影を落としている。関係者5人によると、社内では二輪と四輪の事業間対立がさらに深まっている。26年3月期の四輪事業は1兆4111億円の営業赤字。一方、7319億円と過去最高の営業利益を達成した二輪事業の社員たちは「不振にあえぐ四輪事業の穴埋めをさせられている」として、不満を一段と募らせている。
三部氏は今年に入り、EV事業を切り離して外部投資家を受け入れるという銀行からの提案を断ったという。この協議を知る関係者によると、三部氏は自身でEV事業を立て直すとの意向を示した。
三部氏は5月の決算会見後、ロイターの取材に対し、EV事業の分社化について、以前は検討していたが、「スピンオフは一長一短ある。今はその方向での検討をやめている」と明かした。「四輪のほうでできた技術は、二輪に使えるものもある」として二輪だけを切り離すことも予定していないと語った。
日産、三菱自との協業の具体策も「検討中」を繰り返すだけで、正式発表できずにいる。ホンダと日産の経営統合協議の破談から1年余り。その後も三菱自を含む3社による協業の枠組みは維持され、米国での車両共同生産などを検討中だが、ホンダと日産の5月半ばの決算会見では特に具体的な内容は公表されなかった。同月下旬に開かれた三菱自の中長期ビジョン説明会でも、同社はこの時期までに決めたい意向だったが、ホンダとの協業内容の詳細は示されなかった。
関係者2人によると、三菱自は説明会に先立ち、協業内容を説明会で触れていいかどうかをホンダに打診したが、ホンダはこれを拒否。当日、ホンダとの協業の進捗を問われた三菱自の加藤隆雄CEO(最高経営責任者)は「さまざまな可能性を検討している」との従来の回答にとどまった。
協業案は、三部氏の腹心の1人だった小沢学・執行役常務らのもとで検討が続けられてきた。その小沢氏も6月の株主総会をもって退任する。三部体制の主要戦略が行き詰まりを見せる中、三部氏らが主導してきた協業案もあらためて精査しているという。
ホンダ広報は、ロイターの取材に対し、「そのような情報は把握していない」とし、日産・三菱自との協業については「現在も継続してさまざまな検討を行っている段階」とした。
<サプライヤーの動揺>
三部氏は5月の決算会見で四輪事業の再建計画を示した。EV事業からは撤退しないが、主力市場の北米を中心に30年3月期までに世界でHV15車種を投入するほか、中国企業の開発手法や部品の低コスト調達を学び、標準化して世界展開する。「四輪のコスト競争力は不十分だった」と認め、「インドや中国のサプライヤーのコスト力を基準にして部品を調達する」と説明。次世代HVシステムは23年モデルに比べて3割以上のコスト削減を目指す方針を打ち出した。
この方針により、サプライヤーの間には動揺が広がっている。ホンダが見積もるEV関連損失には、EV開発中止に伴うサプライヤーへの補償費用も含まれるが、ロイターが取材したサプライヤー2社の幹部は、請求する補償が全額支払われるのか不安を口にした。また、いつになるかわからないEV普及期まで関連の設備や人材を維持し続けなければならず、「儲からないのに負担だけが膨らみ続けるのでは」と先行きを懸念する。
3割以上のコスト削減についても、ホンダから一方的に宣言されたと両幹部は話し、「どうすれば、それだけの削減が実現できるのか」と戸惑いを隠せない。ホンダ広報は事前にサプライヤーに相談したかどうかは明言しなかったが、「今後、サプライヤーとも連携しながら構造的なコスト改革を進める」とした。
専門家はどうみているのか。「ホンダの四輪事業の問題は開発能力が低下し、コストが下がっていないことだ」。SBI証券チーフエグゼクティブアナリストの遠藤功治氏はそう断言する。
上場以来初の赤字、三部社長の経営責任の取り方、社員の士気低下、サプライヤーの不安、協業の空転――。6月26日の株主総会では、株主からの厳しい追及が三部社長ら経営陣を待ち受けている。
【巨額赤字で“お家騒動”】ホンダ三部敏宏社長をホテルに呼び出し、川本信彦元社長(90)と雨宮高一元副社長(85)が放った“痛烈な一言”
上場以来初の最終赤字に転落したホンダは、株主総会を目前に控えた5月14日、人事案を急遽変更した。子会社の本田技術研究所で常務執行役員を務めていた48歳の四竈真人(しかままひと)氏を新たに取締役候補に加えた。
一部取締役と社長経験者らが結託し“三部降ろし”を画策
この人事案変更に至るまで、一部の経営幹部によって“内紛”が繰り広げられていたことが、ジャーナリストの井上久男氏の取材で明らかになった。 「文藝春秋」7月号 (6月10日発売)に掲載されている レポート では、次のように詳しく述べられている。
〈この人事案変更について、同社役員のA氏は、こう打ち明ける。
「4人の社外取締役と三部敏宏社長で構成される指名委員会では、早ければ来年4月1日付で、四竈氏を社長に昇格させる方針が固まっているのです」
別の役員B氏が続ける。
「人事案を変更した背景には、一部の取締役と社長経験者らが結託して、“三部降ろし”を画策したことがあります。こんなガバナンス無視の行動を許していては、ホンダの将来は危ういと言わざるを得ない」〉
元社長・元副社長コンビが三部社長に辞任を勧告
こうした異常事態が生じたのは、4239億円もの最終赤字を計上することになったからだ。赤字の原因は三部社長が進めた電気自動車(EV)戦略の失敗だった。
三部社長は就任早々に「脱エンジン計画」を打ち出し、EVへの投資を加速させた。だが、2025年に第2次トランプ政権が誕生すると、世界的に脱炭素への流れが止まった。EVの販売が伸びず、EV戦略を見直さざるを得なくなったホンダは、金型や生産ラインなど資産の減損処理と、部品メーカーへの補償金などで、1兆5778億円もの損失を計上することになった。
〈EV戦略を見直し、業績の下方修正を決断する頃から、三部氏に対して一部取締役から退任を求める声が出始めたという。そして、大物OBたちが三部氏に直接引導を渡そうとしたのだ〉
4月9日、三部社長は貝原典也副社長と一緒に、2人のOBから都内のホテルに呼び出された。
〈待ち受けていたのは、元社長の川本信彦氏(90)と元副社長の雨宮高一氏(85)だった。
川本氏はホンダF1の草創期から携わってきた技術者で、1990年から1998年まで社長を務めた。川本社長時代に副社長(1997年〜2005年在任)となった雨宮氏は海外営業畑が長く、米国ホンダの社長・会長を兼任。営業部門のドンとして知られる。
「三部、お前辞めろ」
そう言って、雨宮氏は三部氏に辞任を迫ったという〉
実は、この元社長・元副社長コンビが三部社長の経営方針に口出しをしたのは、この時だけではない。
また、三部社長続投に異を唱えた女性取締役の動きや、詰め腹を切らされた三部社長の側近、そして川本元社長が本誌の取材に明かした三部氏とのやり取りについてなど、「文藝春秋」7月号、および文藝春秋の電子版「 文藝春秋PLUS 」掲載のレポート「 ホンダ三部社長降ろし全内幕 」では、一部始終が明かされている。
F1やってる場合じゃない!? ホンダEV撤退に評論家たちが辛口評価! 計画中止で見えた課題とは
2026年3月。衝撃のニュースが飛び込んできた。ホンダが四輪電動化戦略の見直しを表明し、発売を間近に控えていたゼロシリーズなど3台のBEVの発売&開発中止を発表。ホンダの苦渋の決断を、7人の自動車評論家が忖度なく評価する。
※本稿は2026年4月のものです
文:桃田健史、井元康一郎、鈴木直也、松田秀士、山本シンヤ、西川 淳、小沢コージ/写真:ホンダ ほか
初出:『ベストカー』2026年5月10日号
※星の数は多いほうがホンダの決断がよかったことを意味しています
モビリティショーで方針転換を表明すべきだった(桃田健史)
●ホンダの決断への評価:★★☆☆☆
決断が遅い。原因は、世の中の流れに対して企業としての対応が半歩から一歩遅れていたからだ。
時計の針を戻せば、BEVバブルが始まったのは2015年のCOP21(国連気候変動枠組条約締約国会議)で採択されたパリ協定が起点。
アメリカ、中国、欧州で環境向けの投資バブルが起こり、そこにBEVが巻き込まれた形だ。BEVバブルのピークは2010年代末から2020年代初頭。ちょうどホンダが2040年BEV・FCEV100%宣言をした頃にあたる。
2022年から2023年頃は、環境関連の投資バブルが下降するなか、ホンダとしては焦りが出てきた。
BEVへの移行期間では次世代HEV開発も考慮してきたものの、移行期間がホンダの想定よりかなり長くなりそうだという雰囲気が社内に広がり始めていた。しかし報道陣向け対応を含め、次世代HEV強化の動きが遅れた。
こうした遅れを取り戻す特効薬がないまま、第2次トランプ政権の環境政策転換の影響を見誤った。結果的に「0シリーズ」やソニー・ホンダモビリティの抜本的な事業計画見直しをせざるを得ない状況に追い込まれたといえる。
最も遅くても、ジャパンモビリティショー2025の時点でBEV事業転換を打ち出すべきだった。
現時点でホンダ社内外の人たちにとって、ホンダのBEV普及期に向けた勝ち筋が見えてこない。ホンダはいまこそ、次世代の「ホンダらしさ」の在り方を自問自答するべきだ。
トップで戦えるBEVの技術力などに欠いていた(井元康一郎)
●ホンダの決断への評価:★☆☆☆☆
次世代BEV商品群「0シリーズ」のうち、対米戦略車2モデル、およびソニーとのコラボレーションブランド「アフィーラ」からの撤退というホンダの決断。
2兆5000億円という損失額は大きな痛手であるものの、北米市場を四輪のお得意様としているホンダとしてはやむなしの措置だったといえる。
が、この失敗を市場環境の激変という視点でのみ捉えると、ホンダの実情を見誤る。ホンダにとって最も深刻な問題は、トップ水準で戦えるBEVを作るだけの技術力や部品調達力を欠いていたことだ。
0シリーズのうち今回お蔵入りになった「サルーン」「SUV」は度外れてアバンギャルドなスタイリングを持っていた。もしこれで電気的性能や自動運転などの機能が月並みだったら見掛け倒しと嘲笑されるのは必定というレベルだ。
次世代商品をあえてそういうものにしたのは不退転の決意の表れといえたが、2025年秋のジャパンモビリティショーの段階でも性能目標ひとつ出せなかった時点で暗雲が垂れ込めていた。
アフィーラも10万ドル(1600万円)カーなら自動運転レベル4くらい実現させられなければ、これまた張りぼての謗りを免れない。
ホンダはこれまでリテール向けの純電動車で成功した試しがない。今回の撤退は一見賢明だが、何もやらないうちに撤退したというのでは顧客から信頼を得ることも失敗から学ぶこともできない。できるだけ早く次なる手を打つべきだ。
北米偏重の電動化戦略は経営陣の判断ミス(鈴木直也)
●ホンダの決断への評価:★★★☆☆
唯一評価できる点は、現在進行中の電動化戦略の誤りを認めて軌道修正を図ったこと。経営陣に正常な判断力が残っていたのは幸いだった。いただけないのは、危機に至った原因としてトランプ政権の環境政策の迷走を挙げていること。
もちろん、IRA打ち切りや環境規制の大幅緩和などで目算が狂ったのは事実。GMやフォードも巨額の減損処理を強いられている。
しかし、GMやフォードが北米最優先なのはわかるが、ホンダには中国やアジアもあるうえ、2輪からの移行を考えると途上国も将来有望な市場のはず。それなのに、チップをすべて北米市場に賭ける極端な電動化戦略を採ったのは、経営陣の判断ミスと言わざるを得ない。
ではどうするか? ホンダにとって死活的に重要な北米は、HEVの強化などしかるべき手を打っているのでそれほど心配はない。
「軽しか売れない」と言われて久しい日本も、ホンダファンはしびれを切らしているが業績は横ばい。
ただ、最もヤバイのは中国およびアジア市場。
中国ではまさにボコボコで、ピークの2020年から100万台以上減らして64.6万台。タイ、マレーシア、インドネシアでも中国勢に相当食われている。
先日の電動化戦略見直し会見で、三部社長は「インドを日本・米国と並ぶ重点市場に指定する」と述べたが、2年や3年で攻略できる国ではない。ホンダ復活に近道はない。スズキを見習って泥臭い長期戦を耐え抜く覚悟が必要だね。
また極端に振れたのか! というホンダらしさ(松田秀士)
●ホンダの決断への評価:★★☆☆☆
2021年の脱エンジン宣言は株価対策が込められているなと感じていた。ホンダは新発明/新開発技術を公表し、しかしいつまでたっても実用化されないままお蔵入り、というパターンをいくつも見てきたからだ。
もともとエンジンのホンダでしょ! 対サプライヤーを含めて、脱エンジン宣言でいいのかよ!? ともね。
いま、やっと目が覚めたか! というよりも、それにしてもまた思い切った改革だよね。せっかく開発したBEV3車種はお蔵入り。さらにソニーとのアフィーラの開発も中止。
この思い切りのよさ、というか、右か左か? ONかOFFか? という社風。
今回も逆に、それでいいの? ともね。もう少し優柔不断でもよいのでは、と。
いずれBEVは必要になるわけで、もちろん完全にやめてしまうわけではないのだが、巨額損失を大々的に発表して「あれもこれもBEVのせい」のように振る舞うのは伝統ある日本の企業としてあまりにも懐が浅い。
本田宗一郎さんは極楽浄土でどう思っているだろう? 生きてたらメガトン級の雷を落とすだろうね。
S2000、S660、ホンダe。魅力あるクルマが年を追うごとに姿を消し、そして今回も。F1をやってる場合じゃないよ。
デザイン、商品力、開発スピードなどが問題(山本シンヤ)
●ホンダの決断への評価:★★★★☆
新聞・経済紙は0サルーン/SUVの発売中止を「BEVの問題」にしていますが、筆者はデザインや商品力、そして開発スピードなどに問題があったと分析しています。
電動化はどの自動車メーカーもやっていく必要があることですが、現在(=過渡期)は儲けられる“術”もないと事業は続けられません。
多くのメーカーはBEVとHEVで共用できるマルチプラットフォームを使用していますが、ホンダは技術オリエンテッドかつ独自性にこだわり過ぎたのでしょう。
さらにホンダの将来戦略を正確に伝えられなかったのも原因のひとつです。
2021年に「BEV/FCEVの販売比率を2040年に100%」と発表しましたが、質疑応答では「特定技術(=電動化)に対して決め打ちでシナリオを描かない」、「いろいろな技術に対して可能性を残しておくべきだと思う」と。筆者は今でもこれこそがホンダの“本心”だと思っています。
確かに“軌道修正”に若干時間を要し、資金的にも猛烈な痛みを伴っていますが、中長期的に考えれば一旦リセットで仕切り直しでしょう。今は「高い勉強代」と割り切るべき。そして、今後のホンダは何を目標にするのか? 気になる所です。
個人的には0サルーン/SUVで培った技術・ノウハウが無駄になることだけは避けてほしいです。願わくばこれらに搭載可能な超小型・超高効率な新エンジンを開発、PHEVもしくはレンジエクステンダーEVとして復活させてほしい。
幸い何をしでかそうとホンダは愛されている(西川 淳)
●ホンダの決断への評価:★★☆☆☆
結果論としては問題ない。ただ最初からボタンの掛け違いがあったし、臨機応変さも必要だった。一方で、脱エンジン宣言に代表される威勢のよさもまた“ホンダ”らしさ。そういう個性がなければホンダの存在意義が薄まることもまた事実。
ホンダという会社は世間の抱くイメージと微妙に違うんじゃないか、と思っている。以前、とあるサプライヤーの社長が「ホンダさんって石橋を叩いても渡らないんだよね」と言っていたことを思い出した。
内実もイメージとは異なる。投資家からは四輪事業を廃せばホンダの未来は明るいとさえ言われるほどだ。生き残るためにはよくある話。
でも、そうなればもはや本田宗一郎の興したホンダではなくなる。儲けまくる企業になるのか、社会的に存在意義のある会社として生き残るのか。今回の決断は、まずは後者だろう。
そんなわけで、歴史的にみても時にファンを落胆させる一方で、時に大逆転劇でファンを喜ばせてきた。それがホンダだ。
折しも鈴鹿ではアストンマーティンホンダが予想外の初完走を果たしている。アロンソの忍ドラに感動しつつ、これでまたドン尻から頂点を目指してくれるという期待をホンダファンは抱いたに違いない。
幸い何をしでかそうとホンダはまだ愛されている。引き続きBEV(とSDV)の開発もしっかり続けてほしい。ゼロもアフィーラも最大の敗因は“遅すぎたこと”。石橋を叩く人に拙速を求めることは難しいだろうけど。
BEV&FCV全フリを決断できたことが謎(小沢コージ)
●ホンダの決断への評価:★★☆☆☆
「そもそも2021年、ホンダはなぜ2040年のBEV&FCV全フリ」を決断できたのか? が最大の謎。
テスラバカ売れだったがEV材料のレアアースは高騰、コロナ禍の半導体不足も出始め、そうでなくとも中国有利なEVシフト。ホンダが中国産レアアース半分でほかと同等の電池を作れない限り、EVシフトバカ勝ち&高利益率はないだろう。
少なくとも5年先も読めないこの時代に(トランプ就任にしろ完璧に読めない)19年先の予言なんて無謀すぎ。表向きEVシフト! と言っといては主要エンジンサプライヤーは売らないぐらいの二枚舌は当然。その後もやめ時はあった。
少なくともトランプ就任直後の2025年1月「2030年までに北米新車販売の50%をEVに」の即時撤廃や7月の最大7500ドルのEV購入税額控除廃止で、ああ北米でBEV売れなくなる! 儲からない! は予想できたはず。
だから2025年末にフォードは最大3兆円の損失を見込んでBEV版F150トラック生産終了ほかを決断した。そこから約3カ月、ホンダはなぜ粘ったのと。
もちろん損切りは難しく、誰も塩漬け株は持っている。しかし「遅い」と言われて反論できないのでは。ソニーアフィーラも北米スタジオ公開の4日後に「発売停止」だなんてねぇ……。
