人の寿命の限界は「遺伝子のメカニズム」で決まる可能性
人の寿命の限界は、どの遺伝子が活性化しているか、そして、それらの遺伝子が生成する指令を細胞がどう編集するかによって決まる可能性がある。
哺乳類26種を対象とした最新の研究により、短命種と長寿種のあいだで、選択的スプライシング(alternative splicing:選択的な切り貼り)と呼ばれるプロセスが、正確かつ予測可能な形で異なることが明らかになった。
この発見は、寿命調節におけるまったく新しい生物学的な軸を特定するものだ。この軸は、以前から研究されてきた遺伝子発現の変化とは独立して機能するものであり、将来的には加齢関連疾患への介入につながる可能性がある。
種の寿命を決定する分子機構は、単一の生物学的階層に固定されているわけではない。それは、少なくとも2つの階層すなわち「遺伝子の活性」と「遺伝子(RNA)の編集」にまたがっている。この「編集」という階層は、今ようやくその全貌が明らかになりつつある領域だ。
■細胞は指令をどのように扱うのか
人の遺伝子はすべて、そのタンパク質産物を複数パターンで生成することが可能であり、このプロセスは選択的スプライシングと呼ばれる。遺伝子がmRNA前駆体に転写された後、細胞の機構は、どのセグメント(部分)を残し、どのセグメントを使わないかを取捨選択した上で、最終的な指令セットを組み立てる。遺伝子の中でタンパク質の構成要素を実際にコードしているセグメントは、エキソン(exon:発現配列)と呼ばれる。
レゴのブロックをイメージしてほしい。それぞれのブロックは、最終的な組み立てモデルを構成する小さなパーツにあたる。ブロックの組み合わせを変えることで、同じレゴのセットから、さまざまな構造をつくり出すことができるが、それと同じように細胞も、異なるエキソンをつなぎ合わせることで、それぞれ独自の形状と機能を持つタンパク質をつくり出すことができる(これらは、「アイソフォーム[isoform]」またはバリアント[variant]と呼ばれる)。
複数の部位を持つヒト遺伝子のうち最大95%が、こうした編集を受ける。その結果、有限数の遺伝子から、タンパク質の多様性が拡大する。こうしたプロセスは以前から、疾患と関連付けられてきた。遺伝性疾患やがんの約15%に、スプライシングのエラーが関与している。
依然として不明なのは、最大寿命が異なる種のあいだで、スプライシングのパターンに体系的な違いがあるかどうか。そして、そうした違いに生物学的な意味があるかどうかだ。
慢性疾患を抱える人が増加するなか、この研究は根本的な問いを再定義する
■26種に見られるパターン
今回の研究では、寿命が2年強から37年までの哺乳類26種に関して、脳、心臓、腎臓、肝臓、肺、皮膚という6つの組織におけるスプライシングパターンを分析した。その結果、最大寿命と相関するパターンを示す731のスプライシング事象を特定した。タンパク質をコードする遺伝子の一部であるエキソンの数(最終的な産物に取り込まれる数)が増加していたが、残りの約半数は、真逆の傾向を示していた。
こうしたスプライシング事象が見られる遺伝子群は、全体的な発現レベルが寿命と相関する遺伝子群とは、大部分が別のものだ。つまりスプライシングは、標準的な遺伝子活性(遺伝子の発現量)の測定では完全に見逃されてしまうような、寿命に関する情報を捉えている。
転写とスプライシングという2つの調節機構は、並行して機能しており、それぞれが、ある種を長寿にし、別の種を短命にする要因の異なる側面をコードしている。
ほとんどの臓器組織において、寿命と、(個体のサイズを示す)体重の影響は密接に関連している。しかし、脳のスプライシングパターンはこの制約に縛られない。脳は、その生物種の寿命と結び付いた、独自のスプライシングプログラムを維持している。
脳には、特定の組織にのみ見られる「寿命に関連したスプライシング事象」が、他の臓器と比べて2~3倍多く存在している。また、寿命との関連が指摘されているスプライシング関連遺伝子の主要グループにおいて、その15%以上を占めているのは、脳細胞の通信や変化をつかさどる遺伝子群(ニューロン間の接続形成、神経線維の構築、化学信号の放出を助けるものなど)だ。
■この研究が、加齢にとって意味すること
この研究は、治療法をもたらすものではなく、地図をもたらすものだ。この研究で特定された、遺伝子やシグナル伝達経路、調節タンパク質が構成するネットワークは、健康寿命を伸ばすことを目的とした介入のターゲットになる可能性がある。
分子レベルの柔軟性を与えるタンパク質領域において、長寿種が、寿命に関連するスプライシングに富んでいることは、彼らがスプライシングレベルの微調整を通じて、ストレスや代謝的負荷に適応する細胞の能力を維持している可能性を示唆している。
80代、90代まで生き、慢性疾患を抱える人が増加するなか、この研究は根本的な問いを再定義する。老化とは、単にどの遺伝子がオンまたはオフになるかという問題ではない。それは、細胞がそれらの遺伝子から送られるメッセージをどのように編集するか、そして、自然がすでに長寿のために選別したパターンへと導くことができるかどうかにかかっているのだ。
