《引退競走馬年7000頭ほぼ“行方不明”に…》「人からの愛情知るがゆえに残酷で…」保護団体代表が語る「愛された馬たちの最期」とは

《引退競走馬年7000頭ほぼ“行方不明”に…》「人からの愛情知るがゆえに残酷で…」保護団体代表が語る「愛された馬たちの最期」とは

「空を飛ぶ」とその走りを称されたディープインパクト、トウカイテイオーの奇跡の復活──数々のドラマを生み出し、時にはファン以外の層も熱狂に巻き込む競馬の世界。しかし、トップスターの陰に隠れた多くの競走馬の引退後の姿はあまり知られていない。

 実は年7000頭に及ぶ引退競走馬の多くが"行方不明"となっており、そのほとんどが馬肉として消費されている可能性があるという。引退競走馬の保護活動を行う「Retouch(リタッチ)」の代表を務める野口佳槻さんに実態を聞いた。【前後編の前編】

 約3兆円。これは日本中央競馬会(JRA)の年間売り上げだ。地方競馬を含めるとさらにその金額は膨らむ。この巨大市場を支えているのが、毎年約7000~8000頭生産される馬たちの存在。この中でスターホースになることができるのはほんの一握りで、毎年同じくらいの数の競走馬が引退している。

「JRAや地方競馬、それらを統括する農林水産省が詳細な数値を公表していないため、引退競走馬の正確な余生を知ることは我々もできない」

 野口さんはこう話す。

 一方で馬肉に転用される競走馬の数はある程度推測ができるようだ。農林水産省が発表している「畜産物流通調査」によると、令和4年には1万1198頭が馬肉となっている。この数字には食肉の馬も含まれるため、そうした数字を引くと年6000頭近い引退馬が馬肉として消費されているとみられる。

「大きなレースに勝った有名な馬だったりすると、引退後は『北海道の牧場でのんびり過ごしています』と報道されることもあるので、ファンの方は引退競走馬がみんな牧場に戻ったり、乗馬クラブに行ったりしていると考えているかもしれません。しかし、実はそうした馬はごく一部。この事実に少なからずショックを受ける競馬ファンも多いでしょうから、各機関は情報を公表していないのかもしれません」(同前)

 役目を終えた馬たちがたどり着くのは「肥育場(ひいくじょう)」という食肉馬専用の施設だ。肥育場とは、引退競走馬を食肉として処理施設に運ぶ前に、体脂肪を増やし食肉として相応しい馬の体をつくるための場所を指す。それまで人々の歓声を受けて華麗にコースを駆け抜けていた馬も、乗馬クラブで笑顔の子供たちを背に乗せていた馬も、肥育場に送られたその日から"家畜"として扱われることになる。

野口さんに頭を優しく撫でられる一頭の馬。その姿は、競馬場や乗馬クラブなどで見かける馬とは異なり毛並みは荒れ、汚れがこびりついている。厩舎もとても簡素だ。

 野口さんが代表を務める「リタッチ」では、肥育場に送られた引退競走馬を引き取る活動を行っている。

 肥育場にいる馬の多くは経歴が分からない。競走馬として活躍しているときには「馬の検査、注射、薬浴、投薬証明手帳」(通称「健康手帳」)に個体識別に必要な情報や、予防接種履歴、検査履歴などが事細かく記載され馬の移動時の携行が義務付けられるが、肥育場に運ばれたとたん、その手帳は不要となり破棄されることが多い。

 引退競走馬の保護を行う団体は他にもあるが、肥育場から馬を引き取っているのはリタッチだけだという。「肥育場の皆さんとも根気強く対話を重ね信頼関係を築いた結果」(野口さん)だ。

 引き取った馬には再度トレーニングを施し、リタッチと提携している「東関東馬事高等学院」などの教育現場で学生たちが馬の世話を学ぶパートナーとして活躍するほか、個人オーナーや乗馬クラブへ譲渡するマッチングも行っている。

 野口さんは「馬肉を食べるという食文化自体を否定しているわけではありません。問題は、産業として生み出した命に対して、どこまで制度として責任を持つかという点です」と力を込める。

「多くが食肉用として育てられている牛や豚の農家さんたちだって、愛情を持って動物たちを育てている。それに多くの日本人の心の中には『いただきます』という言葉に表されるように、食べられる動物に対して敬意を払う習慣があります」

 このような前提の下、競走馬の特殊性を指摘する。

「競争馬が違うのは、人間が娯楽のために相当の数を生み出し、レースで勝つことを目標に人と一緒に過ごして、人の愛情やときには厳しさを与えられながら過ごしていることです。そして活躍できないとなったら、途端に今までと全く環境の違うところに連れていかれて家畜として扱われるわけです。

 馬は賢く多くのことを理解します。人からの愛情を知っているが故に、このことを残酷に感じてしまうんです。私は馬が好きだし、たくさんのドラマを生み出し人々を感動させる競馬も好きです。だからこそ現状の出口戦略が制度として十分なのか、と問いかけていきたい」(同前)

 野口さんは競馬業界全体の将来にも懸念を示す。

「これだけの規模の業界なので、多くの雇用を支え人材も育成しています。しかし、実際に業界を目指してやってくる子供たちはやはり馬好きな子が多いわけです。いざ業界に入っても、実際に可愛がっている馬たちが『この馬たちの最期? ほとんど馬肉になるよ、当然でしょ』という状態が続くようでは辛くて離れてしまう子がいるでしょう。

 それに今はSNSやインターネットでいろいろなことが把握できる時代で、業界が沈黙していても真実は伝わっていく。若い人たちが希望をもって入ってきてくれる業界にしなければいけない」(同前)

 野口さんが感じている業界への課題感。しかしそこには光明も指している。いま、彼らが見据え、実現しようとしている「未来」とは。

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