ソフトバンク、F1鈴鹿で5Gスライシングの大規模実証 6つのスライスを同時運用
ソフトバンクは、3月27〜29日に鈴鹿サーキットで開催中のF1日本グランプリで、5G SA(スタンドアローン)とミリ波を活用したネットワークスライシングの実証実験を実施した。エリクソン・ジャパンとの共同での実施で、商用ネットワーク上で6つのスライスを同時に運用した。同社によれば、これだけの数のスライスを大規模イベントで同時提供するのは国内初だという。
5つのスライスで用途ごとに品質を変える
ネットワークスライシングは、1つの物理ネットワークを仮想的に分割し、用途に応じて通信品質を変える技術だ。5G SAで初めて利用できる。
今回の鈴鹿では5つのスライスを商用提供し、デモ用を含めると計6つが同時に稼働していた。それぞれ求められる通信品質が異なる。
Slice 1は5G SAユーザー向けの高品質通信だ。他の5Gより多くの帯域を割り当て、スループットを最大化する。サーキット全域のソフトバンクユーザーが対象で、SA対応端末があれば申し込み不要で利用できる。
Slice 2はXRコンテンツ向けだ。コンテンツに必要な速度の担保に加え、遅延の最適化に重点を置いた。トレーラーハウス内でVR体験のデモが行われた。
Slice 3はキャッシュレス決済用で、速度は数Mbpsで十分だが途切れないことが最優先だ。最低速度を保証する制御を無線側に入れている。
Slice 4はミリ波をバックホールにしたWi-Fiだ。ミリ波非対応のスマホにも大容量通信を届ける。ソフトバンクとワイモバイルの全ユーザーが対象になる。
Slice 5はフジテレビのカメラ向けミリ波映像伝送で、25Mbpsの上りビットレートを安定して確保する。
6スライスすべてが所定の性能を記録
取材した金曜時点で、6つのスライスはいずれも商用で期待されたスループットを達成していた。高品質SA通信(Slice 1)は筆者の端末でDL 1Gbps超を記録し、フルHD動画をスムーズに再生できた。
デモ用プレミアムスライスは、サーキット横に設置されたトレーラーハウス内でのデモンストレーションで通常SAの約2倍の速度を安定して出した。キャッシュレス決済(Slice 3)は出店者から通信エラーゼロとの報告があった。
ミリ波Wi-Fi(Slice 4)はソフトバンクの計測で約200人が同時接続した状態でDL 58Mbpsを記録した。映像伝送(Slice 5)は上り25Mbpsのターゲットビットレートでフジテレビの情報番組での生中継を成立させた。XR向け(Slice 2)のVR体験では、トレーラーハウス内で高品質な動画再生を実現した。
帯域の最大化、遅延の抑制、最低速度の保証と、本来トレードオフになりやすい品質要件を、1つの物理ネットワーク上で同時に満たせたことが今回の成果だ。
キャッシュレス決済はプライベート5Gで分離
物販エリアのGPスクエアに19台、ウエストスタンドに5台のモバイルルーターを配備し、プライベート5Gで出店者の決済端末を接続した。今年が初の導入だ。昨年まではピーク時に通信エラーで現金販売に切り替えることがあったが、決済用のスライスを一般通信から分離したことで解消された。
万博のミリ波基地局を鈴鹿に転用
基地局の整備にも力を入れた。Massive MIMOのセル数は昨年の約10セルから27セルへ倍増した。エリクソン製の3 Band Massive MIMOは3.4/3.5/3.9GHz帯を1筐体に集約し、従来の2台分を1台に統合した。
グランドスタンドのビジョン下への設置は年明けから2カ月半の突貫工事で、天候による遅延が許されない中、複数のバックアッププランを用意して間に合わせた。
ネットワーク設計の担当者は「昨年はNRDC(NR Dual Connectivity)を入れていなかったので、5Gだけでミリ波が完結できなかった。今年はアンテナも設定もすべて見直して、5Gだけで完結する環境を整えた」と語った。SA化に伴うネットワーク設計の全面的な作り直しが、今回の6スライス同時運用を支えている。
道路沿いの基地局には、4G、5G Sub-6基地局に加えて、大阪・関西万博で使用していたミリ波基地局がそのまま転用されたという。景観条例対応の茶色い塗装が残ったままだが、これが鈴鹿の常設局になる。その隣には富士ソフト製のCPE(構内設置機器)とWi-Fiアクセスポイントが設置された。CPEがミリ波の電波を受信し、Wi-Fiに変換して来場者のスマホに配信する。ミリ波対応スマホを持っていなくても、Wi-Fi経由でミリ波の大容量を利用できる仕組みだ。
フジテレビが「サン! シャイン」で活用
フジテレビはミリ波とプライベート5Gを使った無線カメラで、情報番組「サン! シャイン」の生中継を行った。カメラ本体にソニー製エンコーダー(RPU-7)とミリ波端末(PDT-FP1)を組み合わせた。技術担当者は「従来の衛星中継装置より画質が良く遅延も少ない。電源を入れればすぐ使える」と評価した。
1分間隔でネットワークを自動制御
もう一つの技術的な柱が、1分間隔のリアルタイム制御だ。通常は15分〜1時間間隔で確認するネットワークのKPIを、1分ごとに把握して無線パラメータを自動最適化する。
取材日は初日の金曜で、グランドスタンドにはまだ空席が目立った。決勝日の日曜には数万人がスタンドを埋め、席でスマホのレース映像を同時視聴する。金曜時点の実測値はほぼ無負荷の環境で得られたものであり、この点は留保が必要だ。
ソフトバンク テクノロジーユニット統括 インフラ技術戦略室室長の藤野矩之氏は今後の展開について「F1で実現したものを他のイベントやテーマパークに広げていきたい」と語った。エリクソンとの協業では、T-Mobileとのラスベガスでの取り組みなど海外のF1実証実績を踏まえて日本初の実施に至った。ソフトバンクのSAエリアは今年度後半から急拡大しており、スライシングを載せる土台は広がりつつある。
