トランプ大統領、イランに「無条件降伏」要求-ディールを否定
(ブルームバーグ): トランプ米大統領は6日、イランに対して降伏を要求し、戦争終結をめぐる交渉は望んでいないと語った。米国・イスラエルによる対イラン空爆は続いており、事態が収束に向かう兆しはほとんどみられない。
トランプ氏は「イランとのディールは、無条件降伏以外にはあり得ない!」とトゥルース・ソーシャルに投稿。イランの降伏後、米国と同盟国が「偉大で受け入れられる指導者」を選ぶだろうと述べた。
米政府当局者はこれまで、対イラン攻撃の目的は体制転換ではないと強調してきた。しかし、トランプ氏の今回の発言は、ホワイトハウスが長期戦を視野に入れつつある可能性を示している。
これまでにイラン国内では少なくとも1332人が死亡。イランによる報復攻撃により、中東の他の国々でも数十人が犠牲となった。米国防総省は米兵6人が死亡したと明らかにしている。
イランは死亡した最高指導者ハメネイ師の後継者選びを控えており、候補としてハメネイ師の次男であるモジタバ師の名前も挙がっている。しかし、トランプ氏はモジタバ師を「軽量級だ」と切り捨て、次期最高指導者の選定には自ら関与する意向を表明している。
NBCニュースとの5日の電話インタビューでトランプ氏は、イランの指導体制を「一掃」したいと考えており、後任として想定している人物の名前もあると発言。具体名の公表は避けたが、自身のリストにある人物が戦争を生き延びられるよう手を打っているとし、「10年かけて再建するような人物は望んでいない」とも述べた。
米国と共同で対イラン攻撃を行っているイスラエルは5日、作戦が次の段階に入ったと発表。この段階では、イラン政権の軍事能力に対する攻撃を強化する計画だとしている。
一方でイランは、中東の少なくとも5カ国に弾道ミサイルやドローンを相次いで発射。サウジアラビア、クウェート、バーレーンなど湾岸諸国が標的となった。
【解説】米vsイラン戦闘今後は? 想定される3つのシナリオ
米イスラエルとイランの戦闘が始まってからまもなく1週間。トランプ大統領からは4日(現地時間)、「10点満点中15点。我々は非常に強い立場にある」などと、軍事作戦が順調に進んでいることを強調する言葉が飛び出した。だが米国は本当に短期間で圧倒的に勝利することができるのか、今後予想されるシナリオを検証する。
■シナリオ①「イラン徹底抗戦…戦闘長期化」
アメリカ軍は5日、イラン軍の艦艇24隻を撃沈し、イラン海軍をすでに無力化したと発表。米軍とイスラエル軍による猛烈な攻撃で、イラン軍の継戦能力は落ちている。米軍によるとイランによる弾道ミサイルやドローンの攻撃は5日朝までに大幅に減少したという(弾道ミサイル:開戦初日に比べ90%減、自爆型ドローン同83%減)。
トランプ政権は連日の会見で戦果を列挙し、勝利は確実と強調している。ただ、トランプ氏が言う「4~5週間かそれ以上」の期間にイラン軍が完全に瓦解するか、というとそれは不可能だ。
イラン軍は60万人以上、この他に革命防衛隊が十数万、さらに民兵組織があり、加えて60万人の動員が可能とされている。また、大量の無人機を保有し、毎日数百機を製造する能力も持つとされる。
イランがいま仕掛けているのは「非対称戦」という、弱者が強者に対抗する戦い方だ。ホルムズ海峡を航行する船舶への攻撃を宣言したことで、海峡の両側に世界各国のあわせて約1500隻が足止めされている。
トランプ大統領は米軍が航行の安全を保障すると説明しているが、無人機やミサイルなど、空からの脅威から完全に守ることは容易ではない。また民間船の方も、イランから無人機が1機でも飛んでくる可能性が残る限り、海峡の航行を決断するのは難しい。
イランの現体制は1980年代、西側諸国が支援するイラクとの「イラン・イラク戦争」を9年間戦い抜き、2010年代には核開発をめぐる国連制裁もくぐり抜けてきた、世界屈指の「耐久力」を誇っている。そのイランが「負けない戦い」に徹した場合、米イスラエルがいかに空から大量の爆弾を投下しても、屈服させることは簡単ではない。
イランが数か月にわたり徹底抗戦を続け、ホルムズ海峡の封鎖解除をしなければ、世界の経済は極めて深刻な影響を受けることになる。イランは世界経済を“人質”に、トランプ大統領に撤退を迫る戦術をとる可能性がある。
■シナリオ②「イラン後継者と米国が停戦」
イランは近く、殺害されたハメネイ師に代わる最高指導者を選出する方針で、一部では「結論に近づいている」との見方も示されている。トランプ大統領もしばしば「イランの新たな指導部との対話」を口にしており、イラン側を徹底的な攻撃で追い込んだ上で、事実上の降伏を迫り、早期に幕を引きたいというトランプ氏のホンネも垣間見える。
イラン側との水面下の交渉があった場合、米国が停戦の条件に挙げそうな内容は、トランプ氏が今回の軍事作戦に絡んで掲げた4つの目標から推測できる。4つの目標とは、①ミサイル能力の排除、②海軍の壊滅、③核兵器取得を断念させる、④国外テロ組織への支援阻止、だ。
しかし、ミサイル能力の制限や核開発の放棄、さらにレバノンに拠点置く親イランのシーア派組織ヒズボラへの支援停止などは、従来のイラン指導部であれば決して受け入れられない高いハードルとなる。
このため、後継者に誰が選ばれるかがカギとなる。ハメネイ師の後継者として、取り沙汰されているのが、ハメネイ師の次男、モジタバ・ハメネイ師(56)。トランプ大統領も「彼らはいま息子に注目している」と語った。
モジタバ師はこれまでハメネイ師の実務的な補佐を務め、精鋭部隊「革命防衛隊」とも密接な関係を持つとされる。また、核開発問題に絡んで、欧米と妥協することには反対の立場を取ってきた「対米強硬派」ともされている。さらに今回の空爆で父ハメネイ師や家族の多くを殺害されている。
この他、後継候補としては暫定的な指導部として発足した「臨時評議会」のメンバーであるアラフィ師、イラン革命を指導した故ホメイニ師の孫ハッサン・ホメイニ師らの名前も挙がっているが、いずれも対米強硬派とみられている。こうした候補が最高指導者に選出された場合、新指導部は米国との対決姿勢を維持する可能性がある。
事態の早期収拾に向けては、ハメネイ師の後継者に誰が選ばれ、米国などにどのようなメッセージを発するのか、またトランプ政権が新指導部にどこまで高いハードルを設定するか、という点になる。
■シナリオ③「イラン指導部崩壊…内戦状態に」
トランプ大統領はイラン国内に向けては体制転換を呼びかけている。5日には改めて軍や警察、革命防衛隊に武器を捨てるよう求め「今こそイラン国民のために立ち上がり、祖国を取り戻す手助けをする時だ」と述べた。しかし、これまでのところ政権側や軍の一部が離反する動きは伝わっていない。
イラン国内からの情報は限られているが、人々の反応はハメネイ師の死をきっかけに、これまでの市民に対する抑圧的な統治が変わるかもしれないと歓迎する声も聞かれる一方、多くは米イスラエルによる空爆への怒りの声が占めている。現時点で、今年はじめに起きたような、大規模な反体制デモが再燃する兆候もない。
一方で、イスラエルは新しい指導者が選ばれても、人物次第では再び殺害を目指す考えを公言しており、イランの指導部も米イスラエルによる攻撃を避けるため、ハメネイ師の葬儀を延期するなど新体制の発足への動きは滞っている。米イスラエルによる激しい空爆で体制の弱体化は避けられず、指揮系統が寸断されていく展開も予想される。
イランでは、南東部で分離独立を目指す組織によるテロ事件がこれまでも起きているほか、IS=イスラム国が犯行声明を出すテロ事件も起きている。さらに西部のトルコやイラクとの国境地帯ではやはり分離独立を目指すクルド人勢力もいて、こうした勢力が活動を活発化させる可能性はある。
アメリカメディアは、トランプ政権がクルド人勢力と協力について協議していると報じていて、クルド人勢力がイラン国内へ攻撃を開始するとの見方について「彼らがそれを望んでいるのは素晴らしいことだと思うし、私は全面的に賛成だ」と歓迎の意向を示した。
現時点で、イランの現体制がすぐに崩壊するとは考えにくいが、仮にイランが分裂と混乱の状態に陥った場合、中東地域全体に深刻な影響が及ぶことになる。アメリカが、イラクでフセイン政権を打倒したあと、IS=イスラム国の下地ができたように、広大なテロ組織の巣を生み出してしまうことにもなりかねない。
■影響長期化も視野…市場も警戒
アメリカとイスラエルが、イランへの攻撃に踏み切って1週間を前に、5日のニューヨーク株式市場のダウ平均株価は再び急落した。トランプ政権から、明確な出口戦略が聞かれない中、市場もイラン情勢が泥沼の長期戦に向かう分岐点に立っていることを意識し始めている。
