“ジブリ風”など…AI隆盛で「アニメ業界」に生じる混乱 絵だけでなく、声やグッズの権利をどう守っていくのか

“ジブリ風”など…AI隆盛で「アニメ業界」に生じる混乱 絵だけでなく、声やグッズの権利をどう守っていくのか

生成AIの隆盛が日本のアニメ業界にも影響を与え始めています。

 「ジブリ風」の絵柄が問題視されたことが記憶に新しいと思いますが、AIが影響を与えているのはアニメの「絵(画)」だけに限りません。

 アニメ業界ではAIの何が期待・問題視され、どのような混乱や取り組みが生じているのでしょうか。

■公式イラストが生成AI製と疑われる事態も

 アニメは1枚1枚の絵をはじめ、文章(脚本)や音声といったさまざまな要素が集まって完成する映像作品です。AIはそうしたアニメの各セクションに影響を与え、時に混乱も招いています。

 特に絵を巡っては、正式な作品コラボで時代考証などがおろそかにされた生成AI製らしきイラストが使用されたり、イラストコンテストで生成AI製疑惑の絵が散見されたりしたことで、アニメファンの間で生成AI画像へのネガティブな印象が蓄積され続けてきました。

 そうした「AIっぽい」イラストへの警戒心は人々の疑心暗鬼を生み、2024年には「プリキュア」シリーズの公式イラストがファンにより生成AI製を疑われ、公式が生成AI製ではない旨をわざわざ表明する事態まで起こっています。

 現状では、生成AIイラストであることを見分ける手段も、生成AIではないことを証明する手段のどちらも十分には確立されていません。ゆえに、創作物が好きだからこそ、それが蔑ろにされて生成AIが使われることに対して拒絶反応を抱くファンと、そうしたファンの懐疑心に対し「悪魔の証明」をするしかない製作者との間で、しばしば混乱も生じてしまっているのです。

 アニメに欠かせない音声、特に声をめぐっても、現在日本国内外でさまざまな混乱が生じています。国内で特に問題視されているのは、声優の声を無断で使用した生成AI製の朗読や歌がネットで公開され、全く関係のない第三者によって販売までされてしまっていることです。

 また海外では25年12月、アメリカAmazonのプライムビデオで、「BANANA FISH」をはじめとするアニメのAI製英語音声版が配信されたことが大きな反発を生みました。質の悪いAI音声への不満に加え、英語圏の声優からは「修正しなければ今後Amazonと仕事は行わない」と声の仕事への敬意のなさに怒りをあらわにする声も上がっています。

 こうした混乱が続く中で、日本ではAI製の脚本を用いた声優の朗読劇が批判を受けて中止になる出来事もありました。一見AIに対する過剰な反応にも思えますが、好きな作品や応援する人の声が無断学習され続けている中で、扱う人でさえデータの潔白さや懸念点を把握しきれているのかわからない技術に対して不安を感じてしまうファンの心情もわからないではありません。

 アニメ業界ではAIが本格的に普及し始めた2年ほど前から、こうした混乱がたびたび生じてきました。そうした中では、AI技術そのものやそれらがもたらしうる恩恵は理解されつつも、アニメに対しAIが悪用されることへの懸念の方が、今は勝り気味となってしまっている印象です。

■AI技術そのものを排斥したいわけではない

 ただし、そうした生成AIによる混乱を問題視するファンやクリエイターの多くは「AIの悪用」に反対しているのであり、AI技術そのものを全否定・排斥しようとしているわけではありません。

 むしろ、現在のアニメ業界ではAIによる混乱を受け、問題をどう解決し、どのようにAIを活用していけるのかといった建設的な議論や取り組みも積極的に行われています。

 近年こうした動きが特に活発化しているのが声優業界です。無断生成AIにまつわる問題の周知として「NOMORE無断生成AI」の動画を公開すると同時に、「声の権利を守りながらAIをどう活用していけるのか」についても、大手声優事務所がAI企業と正式にパートナーシップを結んで模索し続けています。

 そうしたAIとの「共存」を目指す取り組みの1つには、声優の梶裕貴さんが主導する音声AIプロジェクトもあります。無断で声を学習/生成されるAI音声に対し、「ガイドラインに守られた、本人公認の高品質ソフト」を用いてAI音声を提供しようとするこの試みは、00年代に動画プラットフォームでアニメの無断アップロードが横行した際の流れも彷彿させる動きです。

 動画配信技術が普及し始めた当時は、無断アップロードされたアニメがプラットフォームに溢れていましたが、規約やガイドラインが生まれ、公式配信の体制が徐々に整えられていったことで、今では正規配信がメインストリームとなりました。

 この時と同じく、今は急速なAI技術の発達と普及に対応が追いつかず、ガイドラインの制定やステークホルダーの権利を守りながらAI技術を生かす体制が整っていない状態といえます。

 しかし10数年かけて、人々が正規の配信でアニメを視聴することが当たり前になっていったように、権利が不当に侵害されることなくAIを活用できる環境を整えていくこともできるはずです。

 多くの問題や混乱を抱えながらも、現在アニメ業界がAI技術を全否定・排斥するのではなく共存の道を模索すべく動き始めているのは、そうした未来にたどり着くためでもあるのだと思います。

■まさに過渡期の現在

 近年はアニメグッズに関しても、既存キャラクターのAI製イラストをポスターにしたものを販売して書類送検される人がいたりするなど、AIの技術が悪用される事例が後を絶ちません。

 一方で、AIソフトを補助的に用いながらアニメ映像のリマスターが行われるなど、AIに本来期待されている作業効率化や映像技術の進化が実現している事例も生まれてきています。

 かつて動画配信プラットフォームが普及したときのように、急速に広がるAIの普及はもはや誰にも止めることはできません。そんな中で権利の侵害や悪用をいかに防ぎ、AI技術との共存の道を探していけるのか。アニメ業界はAIとの関係において、まさに今その過渡期にあるといえます。

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