デュアルOSでスマホを守る、スイス政府とデジタル主権を目指す「ソヴァーリ」とは

デュアルOSでスマホを守る、スイス政府とデジタル主権を目指す「ソヴァーリ」とは

スマートフォンセキュリティの革新に挑むスイス発のスタートアップ「ソヴァーリ(Soverli)」は12月15日、プレシードラウンドで260万ドル(約4億円)を調達した。チューリッヒに本拠を置く同社は、2026年の本格成長を見据え、スイス政府を含む複数の顧客と実証実験を進めている。

ソヴァーリが取り組むのは、深刻化するスマートフォンのセキュリティ脆弱性という課題だ。最近、グーグルとアップルはスパイウェアを用いたハッキングの試みを検知し、150ヵ国以上のユーザーに警告を発した。さらに先月には、フランスの国家サイバーセキュリティ機関が、スマートフォンがサイバー攻撃者にとって主要な標的となっているとして警鐘を鳴らしている。今年に入ってからも攻撃は後を絶たず、セキュリティ企業カスペルスキーによれば、スマートフォンへのマルウェア侵入件数は前年比で27%増加したという。

スマートフォン上のデータを安全に管理したいユーザーにとって、これは看過できない問題だ。とりわけ業務でスマートフォンを利用している場合、壊滅的な事態を招く可能性がある。特に機密情報を扱う企業や、市民向けのサービス提供と保護を担う公共機関の職員にとって、そのリスクは一層高まる。

「スマートフォンは、今やほぼ全ての人の日常生活の中核を担い、政府機関や緊急サービス、重要産業までもが依存している。その一方で、AndroidやiOSは内部構造が把握できないブラックボックス状態にある」と、ソヴァーリの共同創業者兼CEO(最高経営責任者)、イヴァン・プドゥは指摘する。ユーザーは自らの端末のOSを制御できず、内部の動作を把握できないため、セキュリティ面でOS提供者に依存せざるを得ないのだ。

ソヴァーリは、スマートフォン上で二つの異なるOSを同時に稼働させるソリューションを開発した。普段使うiOSやAndroidなどの既存OSは従来通り機能する一方、ユーザーはより堅牢でセキュアに設計された別のOSに切り替えることができる。ソヴァーリは標準のセキュアOSを提供するが、企業は独自のカスタムOSを構築することもできる。

操作は簡単だ。友人へのメッセージ送信やスポーツのスコア確認など、日常的な用途では従来通りスマートフォンを使用する。一方で、業務や機密性の高い作業では、ホーム画面のボタンを押すだけでより安全なOSに切り替えられる。ソヴァーリが実施したデモでは、Android OSが侵害された場合、人気メッセージアプリ「Signal」のユーザーも攻撃にさらされる可能性が示されたが、セキュアOS上ではメッセージの内容は安全に保たれていた。

プドゥは、この技術がミッションクリティカルなシステムを守りたい政府機関や、データ漏洩を懸念する企業など、幅広い組織に大きな価値を提供すると考えている。また、敵対的国家勢力から標的にされやすいジャーナリストや人権活動家も、顧客となり得る。

利便性を犠牲にしないセキュリティ強化で差別化

欧州において、デジタル主権(自国のデジタル資産を安全かつ独立して運用する仕組み)への関心が高まる中、ソヴァーリは既にスイス政府とパイロットプロジェクトを進めている。「海外製技術を無条件に信頼すべきではないという認識が広がっている一方で、現状では依存度が高すぎる」とプドゥは、指摘する。

同社の技術は、技術系スタートアップを多数輩出しているスイス連邦工科大学チューリッヒ校(ETH Zurich)で4年かけて開発された。しかし、ソヴァーリの技術が市場を独占しているわけではなく、携帯電話大手をはじめ、中小企業もこの領域に参入している。

例えば、アップルとグーグルはいずれも高度な保護モードを提供しており、機能を制限することで脆弱性を最小化し、端末をロックダウンすることが可能だ。ソヴァーリのより直接的な競合として挙げられるのが、フィンランドの急成長スタートアップ「ビッティウム(Bittium)」である。同社はこれまでに約2000万ドル(約31億円)を調達しており、1台の端末で複数のOSを利用可能にする、類似の技術を提供している。

これに対しソヴァーリは、使いやすさと煩雑さの少なさを武器に差別化を図る。同社は、セキュリティ確保のために利便性や機能性を犠牲にする必要はないと強調し、代替OSへの切り替えも端末の再起動を伴わず、ホーム画面から行えるようにしている。「使い勝手が悪ければ、ユーザーは回避策を探すだけだ」とプドゥは語る。

ソヴァーリに出資する投資家たちは、現在進行中のパイロットプロジェクトを足がかりに、同社が急速な事業拡大を遂げる可能性を見込んでいる。現時点では、同社の技術を搭載したスマートフォンの利用者数に応じて、企業からライセンス料を徴収するモデルを想定しているが、将来的には携帯電話メーカーに技術をライセンス供与し、ソリューションを端末にプリインストールする展開も視野に入れている。

今回のプレシードラウンドは、スイスの投資会社「ファウンダーフル(Founderful)」が主導し、ETHチューリッヒ財団やベンチャーキックに加え、サイバーセキュリティ業界を代表する有力人物が名を連ねた。ファウンダーフルで投資を担当するアントニア・アルバートは、ソヴァーリについてこう評価する。「人々には真に信頼できるスマートフォンが必要であり、メーカーにはそれを提供する責任がある。ソヴァーリのデジタル主権を実装したスイス製セキュリティ基盤は、モバイルセキュリティを書き換え得るブレークスルーだ」。

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