「ルンバ」のアイロボット破産、買収に手を挙げた中国企業の正体:製造パートナーのPiceaが買収

「ルンバ」のアイロボット破産、買収に手を挙げた中国企業の正体

ロボット掃除機「ルンバ」で知られる米アイロボットは12月14日、日本の民事再生法に相当する米連邦破産法第11条(チャプター11)の適用を申請したと発表した。

中国企業の台頭でシェアを奪われ、「事業継続に相当な疑義がある」と表明して9カ月。有力な事業売却候補先との交渉は決裂し、12月初めには中国・深センのロボットメーカー「杉川機器人(Picea Robotics)」の傘下企業が最大の債権者になるなど、破産は秒読みだった。今後は杉川機器人の傘下に入り再建を目指す。

最大債権者に浮上

アイロボットは2024年3月に発表した2024年10〜12月期決算で、「今後1年、事業を継続できるか相当な疑義がある」と表明。その後、2025年10月末に長期間にわたって交渉していた売却候補先と協議が決裂したことも明らかにした。

そしてアイロボットは12月14日、杉川機器人及びの傘下企業「Santrum(サントラム)」と買収のための再建支援契約(PSA)を締結したと発表した。杉川機器人はアイロボットの株式の100%を取得する計画だ。

アイロボットの業績悪化を巡り杉川機器人の名前が表に出たのは12月に入ってからだ。

米投資会社カーライルの関連会社がアイロボットに対する1億9070万ドル(元本と利息の合計で約296億円、1ドル=155円換算)の債権を、杉川機器人の傘下企業である同業の「Santrum(サントラム)」に売却したことが、アイロボットがSEC(米証券取引委員会)に提出した報告書で判明した。

報告書によると、アイロボットは11月24日時点で杉川機器人に対して1億6150万ドル(約250億円)の製造委託費も未払いとなっていた(そのうち9090万ドルが支払期限を過ぎている)。カーライルが売却した債権と合わせて、杉川がアイロボットに対して保有する債権は3億5000万ドル(約540億円)超に達し、同社の最大の債権者になったという。

日本ではトップシェアだが……

アイロボットを巡っては米アマゾンが2022年に買収を表明したが、米欧規制当局の反対で2024年1月に中止された。その後、当時のCEOが退任し、全従業員の3割に相当する350人を削減した。

アマゾンの買収計画がとん挫して以降、アイロボットの経営は徐々に深刻さを増していた。背景にあるのは中国企業の台頭だ。

日本では相変わらずルンバの存在感が高く、ロボット掃除機ではトップシェアを維持している。しかしグローバル市場では凋落が止まらない。

IDCの調査によると、グローバルのスマート(ロボット)掃除機市場におけるアイロボットのシェアは、2024年1~3月に首位だったのが、2025年1~3月は5位、4~6月は5位圏外にはじき出された。同期間の上位5社は全て中国企業だった。

中国はロボットの中核部品の生産、組み立て、大量生産のためのサプライチェーンが充実し、価格競争力を支えている。後述するが、カーライルが債権を売却した杉川はアイロボットの製品の生産を一手に引き受けている。

さらに中国のAI・ロボット産業はイノベーションが活発で、ロボット掃除機はさながら技術実装の場になっている。

水拭き、窓ふきなど製品の多様化が進み、最近ではAIで周囲の環境を識別し、段差を超えたり落ちたものを拾って片付ける製品も登場した。

価格競争力とテクノロジー

前述したように、日本はアイロボット一強の特殊な市場だ。ただ、共働き世帯の増加やコロナ禍でのテレワークの浸透などで、高性能ロボット掃除機への需要が高まっているとみて、中国勢は日本市場に攻勢をかけている。

グローバルでの上位5社はいずれも日本に進出し、多くの機種を展開しているので簡単に紹介する。

Roborock(ロボロック)

2014年に設立された北京の企業。近年破竹の勢いで成長しており、中国では頻繁にニュースになっている。IDCによると2025年1~6月の出荷台数は前年同期比67.9%増の233万台。北欧、ドイツ、韓国、トルコなどで首位に立ち、トルコでは市場シェアが50%を超えた。アメリカの4~6月の出荷台数は前年比65.3%増。

2025年のCESでは、落ちているものをアームで拾って片付ける機能を持つロボット掃除機を披露して注目された。

Ecovacs(エコバックス)

1998年、蘇州で設立。もともとは海外企業の掃除機のOEM(相手先ブランドによる生産)などを手掛けていた。中国内ではトップのシェアを持つ。高価格帯に注力しグローバル市場も強化。直近で海外市場シェアは14.1%に上昇した。

Dreame(ドリーミー)

2017年、蘇州で設立。研究開発に投資し、AIやロボットアームなどテクノロジーでの差別化をアピールしている。2025年4~6月期は欧州市場で25.5%のシェアを獲得して首位に立った。中東、アフリカ、北米でも高い成長を示している。

Xiaomi(シャオミ)

スマホメーカー大手で、IoT家電にも強い。ブランド力、コストパフォーマンス、流通網のいずれも定評があり、新興市場におけるミドルレンジ製品で好調を維持している。日本市場では2025年9月、1万円未満のコードレス掃除機から10万円超のハイエンドロボット掃除機まで4機種を投入した。

Narwal(ナーワル)

2016年に中国の広東省で設立。 2025年4~6月に市場シェア8.5%を獲得し初めてトップ5入りを果たし、アイロボットを5位圏内から蹴り出した。普及率の低い地域を狙った差別化戦略により国際展開を拡大しており、今後も新興市場を重視する計画。

その他、中国ドローン大手のDJIが今年、ドローンの技術を活用したロボット掃除機を発売した。ドローンの主要市場であるアメリカから締め出されるリスクが高まり、新たな収益源としてロボット掃除機に目をつけた。

アイロボット債権取得の狙いは

ここまで読んでお気づきの人もいるだろう。アイロボットの最大の債権者になった杉川機器人はロボット掃除機メーカーだが、ランキングには登場していない。

2016年設立の同社はアイロボットのほか、シャオミ、フィリップス、ハイアールなどの製品を受託製造するOEMメーカーだ。自社ブランドの展開はわずかなため知名度が低いものの、ロボット掃除機の年間生産量力は850万台を超え、世界の高級ロボット掃除機の3割を生産しているとも言われる。

業界のトップブランドと協業していることから、生産・製造だけでなく研究開発でもトップクラスの実力を持つと評されている。

杉山がアイロボットの債権を買い取った背景は、2つの見方が提示されていた。

一つ目は世界的な知名度を持つアイロボットのブランド力や特許に注目したという見方だ。レノボが2004年にIBMのPC事業を買収したときと近い構図で、OEMメーカーからの脱却の手段として活用したい意図があるかもしれない。

もう一つは、アイロボットの経営破たんを見据え、将来的な再編や資産売却の場面でより大きな発言力を得るために、債権者との存在感を高めているとの見方。

アマゾンによるアイロボット買収計画は、独占禁止法抵触を懸念する規制当局の反対で行き詰まった。協議が難航する2年間で中国企業が急成長し、同社の経営は厳しくなった。結果、中国企業に飲み込まれた。トランプ政権が中国企業を締め出そうとしていることを思えば、皮肉な成り行きである。

ルンバのiRobotが経営再建を申請。中国の製造パートナーが買収へ

ロボット掃除機の代名詞が…。

iRobot(アイロボット)と言えば誰もが知るロボット掃除機のパイオニアです。2002年にロボット掃除機「ルンバ」が登場してから23年。ロボット掃除機という概念すらなかったところから、ここまで普及したロボット掃除機市場。たくさんの競争相手の出現で、その王座はいつのまにか揺らいでいたようです。

製造パートナーのPiceaが買収

iRobotはチャプター11(米連邦破産法11章)を申請し、iRobotの契約製造業者である Picea Robotics に買収されると発表しました。中国に拠点を置くこの企業は、今月初めに iRobot の1億9,000万ドルの融資を引き受けています。iRobot 再建条件のもと、その負債に加え、ロボット製造に関して iRobot が負っている 1億6,150万ドルの債務も放棄する見返りとして、Picea (ピセア)は iRobot を完全に所有することになります。

iRobotを買収したPiceaってどんな会社?

Picea(深セン杉川机器人有限公司)は、中国・広東省深センに本拠を置くロボット技術の企業です。もともとはロボット掃除機メーカーやOEM/ODM(他社ブランド向け設計・製造)として事業を拡大してきました。

Picea は、ODM(Original Design Manufacturer:設計・製造委託)として多数のロボット掃除機を製造してきた実績があり、iRobot(ルンバ)、Shark(シャーク)、Anker(アンカー・Eufy ブランド)などの大手ブランドの製造パートナーとして関与していることが報じられています。

2024年1月、Amazon によるiRobot売却計画が破談となった後、iRobot は中核ではないエンジニアリング業務を海外へ移し、製造コスト削減を図ると発表していました。 その際、契約製造業者として Picea を採用し、翌年には新しいルンバ製品ラインを投入していました。

日本のアイロボットジャパンはどうなる?

アイロボットジャパンは米本社の戦略的取引発表につきましてとして、プレスリリースを発表しています。詳細はリリースをご覧いただきたいのですが、概要は以下の3点です。

Piceaとの間で実質的な買収合意をしたこと

米裁判所の管理下のもと、チャプター11 の手続きを開始したこと

全てのサービス、サポート、販売活動はこれまで通り継続すること

またリリースにも、

チャプター11 とは企業が事業を継続しながら再建計画を策定できる米国独自の制度で、日本における民事再生法とは若干異なり、自主的な再編を可能にし、経営陣も継続して業務を行うものです。

とある通り、これまで通りアイロボットジャパンによるサービスサポート提供は継続されます。現iRobotユーザーやこれから購入を検討している方もご安心を。

そして再建に向けて歩み出したiRobot。ロボット掃除機というジャンルの選択肢が多様化する中でどこでどんな差別化をはかれるか。これからのiRobotの製品に注目です。

🍎たったひとつの真実見抜く、見た目は大人、頭脳は子供、その名は名馬鹿ヒカル!🍏