俺は馬鹿だった…投資で「資産3,000万円」を築いた64歳会社員。年金月20万円超で“勝ち組”のはずが後悔まみれ。原因は同期との飲み会、高笑いとともに突きつけられた「スマホの画面」

俺は馬鹿だった…投資で「資産3,000万円」を築いた64歳会社員。年金月20万円超で“勝ち組”のはずが後悔まみれ。原因は同期との飲み会、高笑いとともに突きつけられた「スマホの画面」

50代から堅実に投資信託でコツコツ投資を続け、資産を1,500万円から3,000万円まで着実に増やしてきた岡本一さん(64歳・仮名)。年金も月20万円以上受け取れる見込みで、順風満帆の老後設計。しかし、なぜか深い後悔に包まれています。なぜ堅実な投資で成功したはずの岡本さんが後悔しているのか。FPの青山創星氏と一緒に、その心の奥底に潜む感情と、大切な投資の本質について考えてみましょう。

堅実投資で築いた3,000万円の資産…それでも湧き上がる後悔の正体

「俺は勝ち組だと思っていたが、違ったのか? 馬鹿だった……」

そう肩を落とす岡本さん(64歳・仮名)。会社員として長年堅実に働いてきた岡本さんは、52歳の時に夫婦で安心できる老後を送りたいと、貯蓄の一部500万円と毎月7万円の積立で投資信託を始めました。

「リスクは取りたくない」という慎重な性格から、インデックス型ファンドを中心に据え、市場の上下に一喜一憂することなく淡々と続けてきました。

12年間で資産は順調に成長し、総投資額1,500万円の現在の評価額は約3,000万円。J-FLECの「家計の金融行動に関する世論調査 2024年」によると、金融資産を持っていない世帯を含めると60代二人以上世帯の金融資産の中央値(データを順に並べたときのちょうど真ん中の値)は650万円で、岡本さんは上位20%に入る資産家です。

さらに厳しく金融資産を持っている世帯だけで見ても、中央値は1,140万円で、岡本さんは上位25.1%に入る勝ち組なのです。65歳から受け取り始める年金も、夫婦の基礎年金と厚生年金を合わせて月20万円超の見込み。客観的に見れば十分すぎる老後資金を確保できています。

それなのに、岡本さんは「馬鹿だった」と悔やんでいます。きっかけは、同期入社の矢崎さんと久々にお酒を酌み交わしたときのこと。

「岡本、俺の資産見てみろよ。なんと2億超えだ!」

お酒に酔った矢崎さんは、スマホの資産管理アプリを見せてきたのです。その金額に岡本さんは強い衝撃を受けました。

2億円に比べれば、自分の3,000万円のなんと少ないことか……。聞けば、矢崎さんもほとんど同じ頃に似たような金額で投資を始めていましたが、彼が選んだのは仮想通貨と個別株でした。

その時の矢崎さんの高笑いが、岡本さんの心に深い影を落としたのです。

「億り人」の陰に隠された真実

矢崎さんの2億円という数字は確かに魅力的です。しかし、この華々しい成果の裏には、岡本さんには見えない苦悩と代償がありました。

仮想通貨市場の激しい価格の変動を経験した人なら分かるはずです。2017年のバブル、2018年の大暴落、2020年のコロナショック、そして2022年のFTX破綻。矢崎さんは何度も資産の80%以上を失いかけ、夜も眠れない日々を過ごしました。

家族からは「ギャンブルをやめて」と懇願され、時には離婚話まで持ち上がりました。「正直言うと、何度もやめようと思った。でも、損切りできずにずるずると続けてしまった」と矢崎さんは後に回顧。彼の2億円は確かに素晴らしい成果ですが、そこに至るまでの精神的な消耗は計り知れません。

一方、岡本さんの投資生活はどうだったでしょうか。毎月の積立は自動引き落としで設定し、年に1〜2回程度しか残高を確認しませんでした。土日は妻と温泉旅行に行ったり、孫とキャッチボールしたり……。平穏で幸せな日々でした。

統計データを見ても岡本さんは確実に「勝ち組」、しかもゆとりある生活を送ってきました。それなのに、急に「自分は選択を間違えた」と落ち込んでしまう。そこには理由がありました。

人間心理の落とし穴「比較の魔力」が奪う幸福感

岡本さんの後悔の根本には、行動経済学でいう「参照点依存性」と「フォーカシング・イリュージョン」が働いています。

参照点依存性というのは、絶対的な判断に基づいて物事の価値を測るのではなく、参照点(別の物事の価値)との比較によって価値を測る心理的な傾向のことです。岡本さんの築いた3,000万円の老後資産は平均額以上のものですが、同期の矢崎さんの2億円と比較することによって満足感が得られないことになってしまっています。

フォーカシング・イリュージョンというのは、一部の要素だけに焦点が当たり、他の要素の価値が見えなくなっていることをいいます。岡本さんには、3,000万円と2億円という資産額だけに焦点が当たり、矢崎さんが払った代償や自分の持っている妻や孫との平穏で幸せな生活の価値が見えなくなってしまっています。

冷静に考えてみましょう。もし岡本さんが矢崎さんと同じ投資をしていたら、本当に同じ結果が得られたでしょうか? 答えは「ノー」です。

投資における成功は、単に商品選択だけで決まるものではありません。リスク許容度、投資期間、そして何より「継続できる精神力」が重要な要素となります。岡本さんの慎重な性格では、仮想通貨の激しい値動きに耐えられず、途中で投げ出していた可能性が高いのです。

また、矢崎さんの成功は結果論に過ぎません。同じ時期に仮想通貨投資を始めた人の中で、2億円まで増やせた人はごく少数です。損失を抱え、中には老後資金を失った人もいるはずです。

投資の本質は「自分らしい豊かさ」の実現にある

では、岡本さんはどう考えるべきなのでしょうか。投資の本当の目的を思い出してみましょう。

岡本さんが投資を始めた理由は「安心できる老後を送りたい」というものでした。その目標は十分に達成されています。月20万円超の年金に加えて3,000万円の資産、それに退職金があれば、平均的な老後生活費(月28.7万円「家計調査報告家計収支編2024年」総務省統計局)を考慮しても、ゆとりある生活が可能です。

仮想通貨投資を完全に否定する必要はありません。ただし、それは「余裕資金の一部」で行うべきものです。重要なのは、自分の価値観とライフスタイルに合った投資スタイルを見つけることです。岡本さんのような堅実派には、リスクを抑えた分散投資こそが最適解なのです。

実際、多くの資産運用のプロフェッショナルも、顧客には「boring is beautiful(退屈こそ美しい)」という投資哲学を勧めています。ギャンブルのような派手さはないけれど、着実に資産を築く。これこそが真の投資の姿なのです。

投資成功の真の尺度は他人との比較ではない

岡本さんの事例から学べるポイントをまとめます。

・投資成功の基準は他人との比較ではなく、自分の目標達成度で測る

 ・リスク許容度に合わない投資は、結果的に失敗につながりやすい

 ・堅実な投資で築いた資産も、立派な成功事例である

 ・仮想通貨などハイリスク投資は、余裕資金の範囲で楽しむもの

 ・投資の本質は「自分らしい豊かな人生」の実現にある

岡本さんが12年間コツコツと積み重ねた投資の姿勢は、決して地味ではありません。それは「継続する力」「冷静な判断力」「家族を大切にする心」という、お金では買えない貴重な資産を築いた証拠です。

どんな投資額であろうと、自分なりのペースで歩んでいることに誇りを持ちましょう。岡本さんのように他人との比較で後悔する前に、自分が心理的なワナに陥っていないか、今一度見直してみましょう。

🍎たったひとつの真実見抜く、見た目は大人、頭脳は子供、その名は名馬鹿ヒカル!🍏