ポルシェのハイブリッドはひと味違う! 速さを追求するための「e-Turbo」を積んだ911の超絶レスポンスが圧巻
ポルシェ911に新たに加わった「e-Turbo」とは何か
2025年に発表されたポルシェ911 GTS(992.2・T-Hybrid)は、ハイブリッド技術の使い方を根底から更新するモデルだ。一般的にハイブリッドといえば燃費向上や静粛性のための電動化が思い浮かぶが、911 GTSはその逆で、走りのレスポンスとドライバビリティのためだけにハイブリッド技術が使われている。エンジン車の魅力を次の時代へ残すための“攻めの電動化”といえるのだ。
ポルシェがハイブリッドにこだわる背景には、2027年から施行される欧州排ガス規制・ユーロ7がある。従来のように濃い燃料を噴射してシリンダーを冷却し、過給圧を稼ぐ手法は規制によって制限され、ガソリンエンジンは常に理論空燃比(ラムダ1)に近い状態で燃焼しなければならなくなる。これはターボエンジンにとって大きな制約で、従来のような鋭い過給は得にくくなる。パワーの確保が難しくなる状況で、ポルシェが選んだ答えが「電動ターボ(e-Turbo)」という新しいアプローチだった。
e-Turboの構造は、排気タービンとコンプレッサーの間に48Vで駆動する小型モーター兼ジェネレーターを組み込んだもの。排気流量が足りずターボが立ち上がりにくい低回転域では、このモーターがタービンを先にまわし、従来のターボに必ずあったターボラグをほぼ消し去ってしまう。逆に減速時には、排気エネルギーでタービンがまわり、その回転が発電に使われる。これはF1のMGU-Hやル・マンのLMPカーが使ってきた技術と同じ思想で、モーターとターボを双方向で働かせる点が特徴だ。
発電された電力はインバーターで昇圧され、400Vの小型バッテリー(容量1.9kWh)に蓄えられる。この電気は、変速機PDKの内部に組み込まれた走行モーター(最大54馬力/150Nm)にも供給される。発進時や回転が落ち込む領域でこのモーターがサポートすることで、アクセルをわずかに踏んだだけでクルマが前に強く押し出される、独特の“ロケット的な蹴り出し”が生まれる。
新開発の3.6リッター水平対向6気筒エンジンは、この電動システムと組み合わされることで最大541馬力/610Nmを発揮する。ハイブリッド化にもかかわらず重量増はわずか50kgに抑えられており、0-100km/h加速は約3秒。
実際の走行では、数値以上の速さを体感できる。スロットルを踏んだ瞬間にターボとモーターが一斉に立ち上がり、ドライバーが構える間もなく加速が始まる。雑誌CARトップでテストしたとき、日産GT-Rと比較してもレスポンスは上まわるほどで、街なかでもスーパーカー的なパンチのある加速が味わえる。
自然吸気4.0リッターを積む911 GT3とはキャラクターが異なるものの、日常的なやんちゃさという意味ではGTSのほうが上かもしれない。どの速度域でもトルクが強く、軽く踏んだだけで鋭い加速が返ってくるからだ。
ポルシェは「走りの快感」を決して忘れない
一方、2025年のマイナーチェンジで登場した新型911Turbo Sでは、さらに進化した「ツインe-Turbo」が採用されている。
左右の気筒バンクにそれぞれ1基ずつ、合計2基のe-Turboを搭載。水平対向6気筒は左右独立の構造をもつため、それぞれのターボを電動化することで両バンクのレスポンスを完全に揃えるという狙いだ。左右のターボが同時に速く立ち上がるため、アクセルを踏んだ瞬間の応答は従来のターボ車とは別次元に鋭い。
低回転から大トルクをもち、高回転域でも排気流量が減ってもモーターが補助するためパワーが落ちにくい。結果として0-100km/hは2.4秒台に短縮されている。これは約2倍の価格の新型フェラーリ・テスタロッサと同等の速さなのだ。
さらに、超低速でもエンジンが1000回転もまわっていれば、想像を絶するトルクを発揮できる。3.6リッターツインe-Turboは、まるで大型ディーゼル車なみのトルクなのだ。これは街なかではとても使いやすい。重量増はシングルe-Turboが+50Kgに対して、ツインe-Turboは80Kg(推定)で済む。大きなバッテリーを使わない点もポルシェらしい。
じつはポルシェとハイブリッドの関係はいまに始まったものではない。1900年のパリ博覧会でポルシェの創業者フェルディナント・ポルシェ博士は、エンジンで発電しインホイールモーターで走る「ローナーポルシェ」を発表しており、世界初のハイブリッドシステムといわれているが、ポルシェの名前が一夜にして欧州に知れ渡るほどの先進技術だった。残念ながら量産は叶わなかった。
また、2010年のニュルブルクリンク24時間レースでは、911 GT3 Rに電気式フライホイール(KERS)を組み合わせたレーシングハイブリッドを実戦投入し、23時間目まで総合トップを走るなど、その技術力を見せつけた。筆者は同じレースにスバル・インプレッサ WRX STIで参加していたので、じつは記憶に新しい。
こうした歴史が示すように、ポルシェにとってハイブリッドは単なる環境対応技術ではない。レースの現場で鍛えた技術を走りのために生かすというDNAの延長線上にある。いまの911 GTS T-Hybridや911 Turbo Sのe-Turboは、その集大成ともいえる存在だ。電動化が広がる時代にあっても、ポルシェは「走りの快感」というブランドの核心を失わないために、ハイブリッドを積極的に使いこなしているのである。
ローナーポルシェ
ローナーポルシェ(Lohner-Porsche)はローナーがフェルディナント・ポルシェの設計で製作した電気自動車(二次電池式電気自動車 = BEV)である[1]。
概略
ローナーは1821年に設立された老舗の馬車製造商社で、非常に豪華なものも製造してオーストリア王室御用達の宮廷馬車メーカーとなっていたが、1896年12月1日に自動車製造に乗り出す意思を固めた[1]。
内燃機関はまだ騒音が激しく操作しにくかったため、特に宮廷や劇場に乗り付けられるような自動車を考えていたローナーは電気自動車を作ることとした[1]。
1898年にローナーはフェルディナント・ポルシェを雇い入れ、1899年秋に前輪ハブにモーターを組込んだ車両を計画した[1]。ローナーは自社工場だけで10週間という極めて短期間にこの車両を完成させた[1]。
総重量は980 kgで、このうち蓄電池が410 kg、モーター付き前車輪が115 kg[1]。出力は2.5 PS / 120 rpmだが15 – 20分なら7 PSまで過負荷運転が可能だった[1]。コントローラーは17 km/hまでと37 km/hまでの二種の速度があるが、スピードレースを目的とする場合60 km/hが可能であり、これは当時の絶対的世界記録が105.8 km/hであったことからすると驚異的な高性能であった[1]。当時二輪制動が当然であった中、ブレーキ装置は後輪にしかついてなかったが、実際には電気モーターで前輪は制動できたので、実質四輪制動であった[1]。トランスミッション、チェーン、差動装置など中間歯車装置は全くなく、トランスミッションのない世界最初の自動車となった[1]。
1900年のパリ万国博覧会のオーストリア館に展示され、当時すでに有名だったメーカーが際立った新しい製品を出品しなかった中で、万博を報じた当時の専門誌は「ヤーコプ・ローナー社のローナーポルシェ製電気自動車がもっともすぐれている」と評した[1]。
フェルディナント・ポルシェはこの電気自動車をレーシングカーに改造し、30 PSで90 km/h近い速度を得た[2]。
後にフェルディナント・ポルシェは重い電池の代わりにガソリンエンジンでダイナモを回して発電しモーターを回す折衷案を考え、軍用トラクターにも応用した[2]。
復刻再現
2011年3月に開催のジュネーブショーにて、111年前の「Panamera S Hybrid」の資料・図面から再現レプリカ「Semper Vivus」を復元した。同年5月10日から6月13日の期間にはポルシェ本社でも特別展「フェルディナンド・ポルシェ=ハイブリッドシステムのパイオニア」でも展示される計画であり、同年5月21日-翌22日にはデモンストレーション走行も行われる[3][4]。
