右? それとも左!? なぜクルマの「給油口」位置は“統一”されない? 「左右バラバラ」になってしまった複雑な理由とは
「給油口の位置バラバラ」問題には深い理由があった!?
ガソリンスタンドに入ってから「あれ、このクルマの給油口どっちだっけ!?」と焦った経験、一度はあるのではないでしょうか。
なぜクルマの給油口の位置は統一されないのでしょうか。
給油口の位置に関しては、国土交通省が定める「道路運送車両の保安基準第15条(燃料装置)」において、「燃料への引火などのおそれのない構造であること」と定められており、さらにその詳細を示す「保安基準の細目告示」第96条(燃料装置)で、燃料タンクや注入口などの構造要件が具体的に規定されています。
この中では、燃料が漏れにくい構造であることや、露出した電気端子から200mm以上離すことなど、安全性を確保するための細かな基準が設けられています。
かつては「排気管の開口部から300mm以上離れていること」という規定もありましたが、近年の改正によって、現在は熱源から十分な距離を確保する構造であることとして、包括的に定めるかたちに変更となりました。
そうした歴史的経緯を受け、かつてのクルマではガソリンがこぼれた際に排気管の熱で引火しないよう、給油口は排気管の反対側に設けるケースが多く見られました。
現在でも、排気管を右側に配置することが多いトヨタやホンダなどの国産メーカーでは左給油口が多く、逆に排気管を左寄りに設計する日産やスバル、そして欧州メーカー(メルセデス・ベンツ、BMW、フォルクスワーゲンなど)では右給油口が主流となっています。
ただ給油口の位置に関しては、設計思想の違いもあるようです。
日産の車体設計エンジニアによると、日産では「運転席側(右側)に給油口があるほうが給油しやすい」という考え方があるようです。日本では右ハンドル車が主流のため、右側に給油口を設置するケースが多いのだといいます。
一方でトヨタやホンダは、左側通行の日本では、歩行者のいる左側に高温になる排気管を設けるのは望ましくないとの考えから、排気管を右、給油口を左とする設計が一般化され、この方向でグローバル統一しているようです。
ただ近年は、排気管が左右に分かれるタイプの車種や、そもそも排気管が後方へ露出していないモデルも増えています。
そのため「排気管と反対側」という原則は徐々に形骸化し、現在では車体構造や燃料タンクの形状、生産効率など「設計上の都合」が優先される傾向にあります。
プラットフォームを複数車種で共有するのが当たり前になった現代では、燃料タンクや配管のレイアウトも共通化されるため、モデルごとに給油口の位置を左右で変えるのは非効率。その結果、いつの間にかメーカーそれぞれで「お決まりの方向」が生まれていったのです。
給油口に関しては、「開け方」にも文化的な違いがあります。
日本車では、車内にあるレバーやスイッチで開けるタイプが主流でした。これは、かつて日本のガソリンスタンドがフルサービス制(店員が給油する形式)しか認められていなかったため。
ドアをロックしたままでも給油できるよう、車内からロック解除できる構造が重宝されたのです。
一方、欧米では昔からセルフサービスが主流。そのため、ドアを開けると自動でロックが解除され、外から押すだけで開く「プッシュ式」が一般的です。日本でもセルフスタンドが普及した今では、この方式を採用する車種も増えています。
このように、給油口の位置が統一されていないのには、安全基準・排気管配置・設計効率・文化の違いなど、複数の要素が関係しています。
右でも左でも、まずは落ち着いてメーター内の「給油マークの三角印」を確認すれば左右の位置が示されているので確認してみましょう。
給油口の位置が違うのも、クルマがそれぞれの国や文化を背負って作られている証。それもまた、クルマの「個性」のひとつなのです。
