ツキノワグマ襲撃による死亡事件「攻撃性の高さ」に専門家も驚愕  「人食いグマ」の連鎖を止めるには

ツキノワグマ襲撃による死亡事件「攻撃性の高さ」に専門家も驚愕  「人食いグマ」の連鎖を止めるには

クマに襲われて死亡した人が、今年度は過去最悪の8人となった(10月17日時点)。専門家が指摘するのは、被害の「連鎖」だ。人間の味を覚えたクマを放置すれば、重大な人身被害が続く可能性がある、と指摘する。

■専門家も「見たことがない」攻撃性の高さ

 クマのあまりに攻撃的な襲撃が相次いでいる。今年7月から10月かけて岩手県北上市和賀町では3人がクマに襲われて亡くなった。クマを研究して半世紀になる日本ツキノワグマ研究所代表の米田一彦さんでさえも、「これほどの事例は見たことがない」というほど、攻撃性が高いクマだという。

 7月4日、和賀町の住宅で、この家に住む高齢の女性が居間で血を流し倒れているのを、訪れた息子が見つけた。遺体の全身には多数の傷痕があった。室内にはクマと見られる足跡が残されていた。屋内にいたにもかかわらず、侵入したクマに襲われたとみられる。

 クマが家の中まで押し入り人を死にいたらしめたケースは、史上最悪のクマ被害として知られる1915年の「三毛別ヒグマ事件」(現・北海道苫前町、死者7人、負傷者3人)くらいで、ほとんど例がないという。

■胴体から離れた場所に頭部

 7月11日、同町内でクマが駆除され、DNA解析の結果、高齢女性に加害したクマと同一個体であることが判明した。

 住民は安どした。だが、「攻撃的なクマ」による被害はこれで終わりではなかった。

 10月8日、被害女性の自宅から南へ約7キロ離れた山林で、損傷の激しい性別不明の遺体が見つかったのだ。前日からキノコ採りに出かけて行方不明になっていた高齢男性だった。

 報道によると、「胴体からやや離れた位置に頭部が転がっていた」という。腹部には多くの爪痕があり、四肢も一部欠損していた。

「大きなオスグマの一撃を受けて、頭蓋骨に穴が開いてしまうことはあります。だが、頭が胴体からとれるケースを聞いたのは初めて。遺体がバラバラになるほどの損傷は、複数のクマが関与した可能性があります」(米田さん)

■クマは「エサ」と見なした遺体に執着

 10月16日には、高齢男性の発見現場から東へ約2キロ離れた瀬美温泉で、60代の男性従業員が行方不明になった。翌朝、近くの山林で遺体が発見された。そばにいたクマはその場で駆除された。遺体はひどく損傷し、一部がなくなっていたという。

「クマは遺体を『エサ』とみなすと、それに執着する習性があります。だから捜索隊が近づいても遺体から離れなかったのでしょう」(同)

 今後、駆除されたクマのDNA解析が行われ、10日前に高齢男性を襲ったクマと同一個体なのか、調べられる。米田さんは、こう話す。

「7月4日に高齢女性を襲ったクマとの関係も明らかにしてほしい。同様の性質を受け継いだ血縁関係のあるクマである可能性があります」

■同行女性は現在も行方不明

 クマ被害はほかの地域でも報告されている。

 10月の3連休、宮城、秋田、岩手の3県にまたがる栗駒山の木々は赤やオレンジ色に染まった。「神のじゅうたん」と称される山頂から中腹にかけての鮮やかな紅葉を一目見ようと、大勢の登山者が訪れた。

 そんなにぎわいとは裏腹に、中腹(宮城県北部の栗原市)では10月3日、キノコ採りをしていた女性がクマに襲われて死亡し、一緒にいた別の女性が行方不明になった。2週間がたつが、女性は現在も行方不明のままだ。捜索は、二次被害の恐れに加え、急峻な地形に阻まれて難航し、いまだに手がかりも見つかっていない。

■被害者収容が長引くほど危険

 栗原警察署の担当者は「現場にはまだクマが居座っている可能性があります。崖のような場所に草木が生い茂っている。クマが隠れていてもわからない」と話す。

 となりの秋田県では、24年5月、鹿角市でクマに襲われた可能性のある遺体を収容しようとした警察官2人がクマに襲撃された。これを契機に、秋田県警は対クマ用の防護服を配備した。だが、宮城県警に対クマ用の防護服は導入されていない。

 米田さんが指摘するのは、「被害者の収容が長引くほど、別の危険性が上がる」ということだ。

「放置された被害者を複数のクマが食べることによって、人間の味を覚えたクマが増えます。そうしたクマは、人間を『獲物』と見なすようになる。クマは通常経験のないことに対しては慎重な行動をとる習性がありますが、人間を『獲物』と学習してしまえば、新たな事件を引き起こす可能性があります」(同)

■遺体を何頭ものクマが食害

 遺体が収容されず、複数のクマが食害することによって、人食いクマが増えてしまう――。

 米田さんには苦い思い出がある。16年に秋田県鹿角市で発生した「十和利山クマ襲撃事件」だ。死者4人、負傷者4人という日本史上ワースト2の獣害事件だ。

 ある男性は、タケノコ採りに山に入って被害にあったが、収容されるまで時間がかかった。

「切れ込んだ谷の急斜面にササが密生し、見通しがきかない場所でした。クマと遭遇すれば、二次被害が発生する可能性が高かった。遺体は収容されるまでの5日間、何頭ものクマに食べられた」(同)

■関与したクマは現在も

 男性の遺族によると、包帯に包まれた遺体は「手足を触ったが、肉のようなものはなかった。内臓もなかった」という状態だった。

 米田さんはこの事件発生直後から現地入りし、関係者の証言を集めた。3年ほど前までは、現場でクマの個体識別調査を続けてきた。

「事件の直接の加害グマは駆除されましたが、食害に関与したクマはいまも残存している疑いが強い」(同)

 事件発生時、警察や消防はヘリを投入し、現場付近をなめるように飛行してクマを捜索した。ヘリの爆音に驚いたクマが逃げる様子も目撃された。それはつまり、食害に関わった可能性のあるクマが移動した、ということではなかったか。

「また人身被害が発生するのでは、と心配していたが、その通りになった」(同)

 昨年5月、現場近くでタケノコ採りをしていた男性の遺体に近づいた警官らは、ササやぶから飛び出してきたクマに襲われて、顔や両腕をえぐられた。体中にかみ傷のある遺体が収容されたのは、行方不明になってから1週間後だった。

■クマによる死亡事故の「連続性」

 米田さんは「人を襲ったクマは、また人を襲う恐れがある」と警鐘を鳴らしてきた。昔からハンターや地域住民の間で言われてきたことだ。だが、エビデンスに乏しいとされ、クマ襲撃による死亡事故は個別のクマによる人身被害とみなされることが多く、積極的な「再発防止策」はとられてこなかった。

 そのエビデンスも得られつつある。今年7月、北海道福島町で新聞配達員の男性がクマに襲われて死亡した事件。現場に残されたクマの体毛を採取してDNA解析した結果、21年に同町で農作業中の女性を襲い、死亡させたクマと同一個体であると判明した。死亡事故の連続性が明らかになったといえる。

■「人食いグマ」の懸念

 米田さんはこうも話す。

「何頭ものクマが出没し人身被害が多発しているように見える地域がある。けれども、現地を調査すると、血縁関係のある複数のクマが人身被害を起こしているのではないかと推察される地域が長野県から東北地方にかけて、複数あります」

 血縁関係のあるクマとは、親子、あるいはきょうだいなどで、人間を獲物であると学習してしまったクマではないかと、米田さんは言う。

■「人食い」の連鎖を止めるには

「食害」をともなう死亡事故が発生したら、どうすればいいのか。米田さんは、「自治体や警察、消防、猟友会など関係者が情報を共有し、ただちに加害グマを駆除して、『人食い』の連鎖を止めるべきだ」と話す。

 悩ましいのが周知の問題だ。住民感情や観光産業に配慮してか、自治体の通知や報道で「食害」と言及されることはめったにない。大抵は「全身に多数の爪痕」などと表現される。

「風評被害は防ぎながらも、クマに襲われる危険性が高まっていることを伝える努力が必要だと考えています」(同)

 クマによる人身被害を連鎖させず、食い止めるための対策が求められている。

🍎たったひとつの真実見抜く、見た目は大人、頭脳は子供、その名は名馬鹿ヒカル!🍏