なぜ日本の家電は「弱い」のか。ドイツの「ハイパワー家電」と比較して見えてきた文化の違い

なぜ日本の家電は「弱い」のか。ドイツの「ハイパワー家電」と比較して見えてきた文化の違い

日本の電気ケトルの容量は少なすぎる。ドイツで7年ほど暮らしているが、日本に一時帰国する度に思っていた。大抵のものは1L程度で、飲み物を作る用途にしか使えない。一方ドイツでは、1.7L程度のものが主流だ。これだと、パスタを茹でるお湯なんかにも使うことができる。他にもドイツのものと比べると、日本のドライヤーは風量が弱く、オーブンの温度も低い。「日本企業の家電は質が高い」というイメージを漠然と持っていただけに、この違いは不思議に思えた。

暮らして気づいた「電圧の違い」

この「家電のパワーの違い」の大きな原因は、コンセントの電圧だ。電圧とは、電源が電気を流そうとする力のことで、日本の一般家庭用のコンセントでは100Vになっている。一方、ドイツをはじめとしたヨーロッパでは、これが倍の200Vなのだ。おかげで、日本では一つの家電が使える電力は大体1500W程度が限界なのに対し、ドイツでは電気ケトルが2200Wだったり、中には3000Wを超える家電も珍しくない。

そもそも日本の100Vという規格は、世界でも珍しく低い値のようだ。木造家屋の多い日本の住宅事情を前提に、漏電時の火災リスクを減らすためだとか、感電時の人体への影響を小さくするために、低めの値に設定されたと言われている。確かに安心感はあるが、その分どうしても家電のパワーは抑えられてしまう傾向にあるのだろう。

ハイパワーで便利なドイツの家電たち

電圧の違いによって、家電の力にもかなり違いを感じる。例えば電気ケトルは日本では5分ほどかかる1リットルのお湯も、2分ほどで沸騰させることができる。他にもドイツは電熱式のIHが普及しており、調理にガス火が使われることはほとんどない。いわゆる「オール電化」になっている家が多い。

またオーブンは特にパン食文化で使用頻度が多いのもあってか、日本で見かけるものよりもかなり大きくビルトイン式になっているものが一般的。温度も240℃以上に設定できるような強力なものが多い。

食洗機はどの家庭でもビルトイン式のことが多く、一気にたくさんの食器類を熱水でしっかりと洗ってくれる。家族全員分の食器だけでなく、鍋やフライパンも入れることができ、手洗いよりもきれいに洗えるのでとても重宝している。食洗機自体の普及率もかなり高いので、洗い物は食洗機任せというのがスタンダードな考え方になっているように思う。

洗濯機もヒーター機能がしっかり使える設計になっていて、温度設定のノブがついているものが一般的。「衣類は温水で洗う」というのが文化として根付いているように感じる。

文化の違いが生む「家電のあり方」

ドイツで一般的なハイパワーな家電は非常に便利だが、デメリットもある。それは消費電力が大きく、また本体サイズも大きく場所をとってしまうこと。「そのまま日本に持ってきて使えたら便利なのに」と思うこともあるが、日本の狭いキッチンにはビルトインの巨大な食洗機やオーブンを設置する場所がないことも多いだろう。

他方、日本で親しまれている家電はどれもコンパクトで省エネ設計のものが多い。一人暮らしや少人数世帯でも使いやすく、決して広くないスペースを最大限に活用したいという希望をしっかり叶えてくれる。

電圧という見えないインフラの違いが、普段の暮らしにこれほど影響を与えていると思うと非常に面白い。日本では安全性と省エネを重視して100Vが選ばれた。その結果、家電は小型で省スペース、静かに動くものが多くなり、それらは日本の住宅環境にとても良くフィットしているように思う。一方ドイツをはじめヨーロッパなどでは、高電圧を前提に「効率よく家事を終わらせる」方向へ進化したのだろう。

同じ「便利さ」を追求していても、その背景にある地理的条件や暮らしの価値観によってインフラの形も変わり、結果として家電の形も進化の方向も変わっていく。そしてそれは、その地域に暮らす人の生活スタイルにも影響しているように思える。日本とドイツの家電を見比べると、その社会が何を大切にしてきたのかが透けて見えてくるようだ。

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