“過走行テスラ”の健康状態は? 4年弱で22万km乗った「モデル3」オーナーに聞く

“過走行テスラ”の健康状態は? 4年弱で22万km乗った「モデル3」オーナーに聞く

「iPhoneにタイヤをつけたようなクルマ」と表現される米Tesla。IT・ビジネス分野のライターである山崎潤一郎が、デジタルガジェットとして、そしてときには、ファミリーカーとしての視点で、この未来からやってきたクルマを連載形式でリポートします。

22万km乗ってもバッテリー健全

 Teslaについて情報発信を行っていると、ネットを通じてさまざまなご意見を頂戴します。連載開始から4年を過ぎた現在も、メイン(駆動)バッテリーの劣化についての所見を一定数頂戴します。いわく、「5年も乗ればバッテリーが劣化して使い物にならない」「劣化バッテリーの換装に200万円以上必要」などです。

 そこで、過走行のModel 3のバッテリーの様子、あるいは、クルマとしてどのような状態にあるのかを探るべく、4年弱で22万4000km走ったオーナーに本音で語ってもらいました。

 今回の取材対象である政岡恵太朗氏のもとにModel 3 ロングレンジが納車されたのは、2021年10月です。筆者の個体より約1カ月遅いだけで、上海工場製造、韓国LGエナジーソリューション製のNMC系バッテリー、装着タイヤ、外装色などまったく同じです。筆者所有のModel 3(約3万5000km走行)の行く末を予測する上で大いに参考になると考え今回の取材に協力してもらいました。

 ちなみに、Model 3 ロングレンジのバッテリー保証は、納車日から8年間、19万2000kmいずれか早い方で、70%の容量を保証、と規定されています。つまり、22万4000km以上を走った政岡氏のバッテリーは保証が切れた状態です。

 「保証上限に達する直前にTeslaのサービスにバッテリーの遠隔診断をお願いしました。それによると、まったく問題はなく、他の個体の平均より良好であるとのことでした」(以下、コメントは政岡氏)

 加えて別の方法でも診断を実施したそうです。先頃のソフトウェアアップデートにおいて、自宅等の場所でセルフでバッテリー診断を可能にする機能が実装されました。このセルフ診断を実施したところ、「診断に半日かかりましたが、結果は残存率86%(劣化率14%)と過走行の個体にしては良好でした」

 航続距離に換算すると「スクリーンの予測距離表示において、購入時は、100%で541kmでしたが、現在は480kmまで減りました。走行距離換算で88.7%です」と明かします。予測航続距離表示は直近の運転状況に左右されるのでバッテリーの劣化率と完全に合致するものではありませんが、おおむね妥当な数字といえるでしょう。

だからEVは使えない? 4年で航続距離が14%減

 さて、読者の皆さんは、この劣化率14%という数字から何を思うでしょうか?「4年で航続距離が86%になるなんて! だからEVは使えない」と見るか、「それだけの過走行状態で86%も残っているなら問題ない」と見るか……。

 筆者は後者の意見です。旅行など、これまでの長距離運用の実績から、満充電で480km先まで到達できるのであれば、不便さも不自由さも感じません。高速道路を200~300km強も走れば、1時間は休憩や食事をしているので、その間に充電すれば済むことです。

 ちなみに、筆者の最長連続走行記録は、横浜の自宅から岡崎サービスエリア(SA)までで、約4時間弱、距離294kmで約50%のバッテリーを消費しています。480km(86%)ならまだまだ余裕があります。ちなみに、300kmに迫る連続走行は過去にこの1回だけで、もう2度とこのような疲れる運転をすることはないでしょう。そもそも、無休憩走行は危険です。

 といった話をしてもなお、「ハイブリッド車なら1回5分の給油で800~1000km以上は走れるのに」とのご意見を頂戴します。確かにおっしゃる通りなのですが、クルマは「航続距離」という機能面での評価軸が全てではありません。

 EVであるからこそ、Teslaであるからこその所有する、あるいは、走る歓びがあるのも事実です。「航続距離」という機能的なベネフィットに重きを置くのか、情緒的な価値を重視するのかという部分で、各人の評価が分かれるということだと思います。

 さらに付け加えると、「5年も乗ればバッテリーが劣化して下取り価格は二束三文」という意見も目にしますが、これにしても「下取り価格」という便益的な価値に重きを置く意見だと感じます。

 Teslaであるからこその歓びがどのようなものであるのかは、筆者の4年にも及ぶ過去の連載で詳述しています。ぜひ、ご覧ください。下取り価格を気にするあまり、本来乗りたいクルマに乗れないなんてちょっと寂しいではないですか。

EVの先駆者らしい優れた温度管理システムを搭載

 SNS等を見ていると、EVのバッテリー劣化を気にする人の中には、初代の日産リーフの印象を引きずっている御仁がいるように見受けられます。確かに初代リーフはバッテリーの劣化が課題でした。ただ、注意すべきは初代リーフにはバッテリーの温度管理システムが搭載されていないという点です。そのため高速走行などを行った場合、高い負荷がかかり温度上昇による劣化が進行するというのが定説です。

 しかし、Teslaの車両には温度管理システムが搭載されています。外気温、高速走行などでバッテリーの温度が上昇すると、自動的に温度管理機能が作動することで劣化を最小限に食い止めることができます。

 以前、富士スバルラインで5合目まで走行した際、駐車場に駐めている間、普段よりバッテリー消費が多くなった経験があります。後からログを確認すると、温度管理システムが作動したことが記録されていました。急峻な坂道を上ってきたことでバッテリーの温度が上昇したようです。

 また、バッテリー劣化の要因のひとつに、急速充電の多用があるといわれています。大きな電力量を短時間で充電するわけですから、バッテリーにもそれなりの負荷がかかり、劣化の要因となるという意見です。ただ、政岡氏は、急速充電を多用しているそうです。スーパーチャージャーを14.4%、CHAdeMOを50%以上と合わせて65%以上が急速充電です。

 Tesla専用のスーパーチャージャーではなく、CHAdeMOの利用が多いのには、理由があります。「高速道路料金の負担を軽減するために、深夜割引の時間帯を狙って移動するようにしています。スーパーチャージャーを利用するためには、いったん、インターチェンジから外に出る必要があり、時間帯によっては以後のルートでは割引きがリセットされることもあるため、SA/PAに設置されたCHAdeMOで急速充電を行うことが多くなります」(政岡氏)

 ライフタイムの充電ポートフォリオを示したグラフをご覧いただくと分かるように、約65%は急速充電を実施しています。これだけ急速充電を多用してもなお、比較的健全な状態を保っているわけですから、普段から急速充電を多用しがちな集合住宅ユーザーには朗報でしょう。

 政岡氏が4年弱で22万km以上も走行したのには理由があります。職業はITのエンジニアであり、愛知や大阪の高校で非常勤講師として情報やプログラミングの授業を担当しています。また、ロボットクリエーターでもあり、ロボットコンテストの運営にも携わっています。

 加えて、本業として関東、三重、京都などの取引先企業に出向きプログラム、ネットワーク関連の仕事を行っています。さらに、実家は香川県にあり、それらの移動は全てModel 3を利用しているそうです。それ以外にも、観光目的で九州、東北などを巡ったことで、4年弱で22万kmオーバーという走行距離をたたき出す結果となりました。確かに走行距離が伸びるはずです。

EVは重いのでタイヤの減りが早いのか?

 では、駆動バッテリー以外の部分における劣化や消耗の状況はどうでしょうか。まず結論から言うと「同じクラスのガソリン車と比較して、点検費用、消耗品、エネルギー費用といった総合的な面で、維持費が圧倒的に安く済んでいる実感があります」と顔をほころばせます。確かに、ガソリン車で22万4000kmも走れば、仮に総合燃費を15km/Lとして160円/Lで240万円、20km/Lであれば約180万円です。

 その一方で政岡氏のModel 3の場合「これまでの総充電コストは約120万円程度だと思います」と振り返ります。

 タイヤの消耗はどうでしょうか?「納車時の標準タイヤ、スタッドレス、中古タイヤなど、個別に何回か交換しているので、1セットのタイヤで何km走行、という明確な数字は不明ですが、スタッドレスを除いて、おおむね1セット6万km程度は走行しています」

 筆者もこの数字には同意します。約3万5000km走行の筆者のModel 3のタイヤは、スリップサインまではまだまだ十分溝が残っています。ただ、溝が新品時の半分になると排水性が低下することは心に留めておく必要がありスリップサインぎりぎりまで使うつもりはありません。

 また、筆者の場合、サイドウォールに多少のクラックが見受けられますが、日本自動車タイヤ協会が示すクラック発生レベルに計ると要経過観察を伴う継続使用可能という段階なので注意しながらもう少し乗れそうです。ちなみに、タイヤメーカーは、一般論として使用開始後4~5年での交換を推奨しています。

 SNS等で「EVは重いのでタイヤの摩耗が激しく環境破壊につながる」という意見を目にしますが、普通の乗用車と大きな違いはないことが分かります。

 21年型Model 3には駆動用バッテリーの他に、車内外の電装系に電力を供給するための12V低電圧鉛バッテリーが搭載されています。ガソリン車と同等の役目を担っているとお考えください。ガソリン車はオルタネーターで発電してこのバッテリーに充電しますが、Teslaの場合は、駆動用バッテリーから電気を蓄える仕組みです。

 この低電圧バッテリーにも寿命があり、いわゆる「バッテリー上がり」の状態になることがあります。その際は、スクリーンにアラートが表示されるので、新品に交換します。政岡氏は「22万km弱走行で初めて交換しました」と驚きの事実を教えてくれました。期間は4年弱とはいえ22万km走行の状況で低電圧バッテリーの交換が1回とは驚愕以外の何ものでもありません。ただし、このバッテリーの寿命が原因で、後に移動中にトラブルに見舞われます。

バッテリーが突然死の怪

 「湾岸長島PAで充電中、突然クルマがシャットダウンし、再起動しなくなりました。スクリーンはブラックアウト状態で完全に走行不能です。結局、JAFに連絡し名古屋のTeslaのサービスセンターまで運んでもらいました」

 原因は、低電圧バッテリーの寿命でした。駆動バッテリーへの急速充電中は、低電圧バッテリーへの電力が遮断されます。遮断された瞬間に寿命を迎えた低電圧バッテリーからメインコンピュータ等への電力供給が途絶え、突然のシャットダウンが起きたわけです。

 通常なら、低電圧バッテリーの寿命が近くなると、スクリーンにアラートが表示されるのですが、なぜか表示されなかったようです。また、「昨年10月の初回車検時、低電圧バッテリーの異常は見られませんでした」とのこと。

 結局、Teslaのサービスセンターで低電圧バッテリーを交換してもらい、帰路につきましたが「JAFやサービスセンターでの待ち時間を含めて5~6時間を費やしてしまいました。ただ、待ち時間の間、リモート接続で仕事に集中でき、逆に作業がはかどりました」と笑います。ITエンジニアならではの逸話です。

 ちなみに、現行型Model 3の低電圧バッテリーは、鉛からLFP(リン酸鉄リチウム)に変更されています。鉛と比較して長寿命が言われていますが、リアルな実用環境においてどうなのか興味は尽きません。鉛のバッテリーは、耐久性は劣るのかもしれませんが、歴史ある枯れた技術だけにメインテナンスをきちんと実施していれば安心感につながるのは事実です。

 政岡氏によると、上記の鉛バッテリーの事案以外には大きなトラブルは経験していないといいます。ただし「取材時点では」という注釈が付きます。というのは、本稿、脱稿後に政岡氏から「エアコンのコンプレッサーが壊れました!修理にン十万円かかりました!」という残念な知らせが入りました。

 筆者と同時期に生産された個体だけに、エアコンの故障は大いに気になります。修理費にいくらかかったのでしょうか。そのあたりの詳細は、筆者が受けた5年目の法定点検の様子と併せて、次回の本連載でご報告します。

🍎たったひとつの真実見抜く、見た目は大人、頭脳は子供、その名は名馬鹿ヒカル!🍏