「Xperia 1 VII」不具合、「中国工場」が原因ではない? 原因と対策の詳細明らかに、スマホ事業は継続へ
ソニーは9月12日、ソニーグループ本社で説明会を開き、フラグシップスマートフォン「Xperia 1 VII」で起きた不具合問題の原因と再発防止策を詳細に説明した。登壇したモバイルコミュニケーションズ事業部 事業部長の大島正昭氏は、問題の根幹が基板の製造工程における管理不備にあったことを全面的に認め、ユーザーに対し深く謝罪した。
販売停止から約2カ月、Xperiaブランドイメージが大きく揺らぐ中で開かれた説明会は、品質管理体制を抜本的に強化し、信頼回復に全力を尽くすというソニーの固い決意を表明する場となった。ソニーが信頼回復へ向けてどのように取り組むのか、そして、Xperiaユーザーに対して伝えたいメッセージが何か、この記事では大きく2点に分けて解説する。
大島氏は「責任感じる」硬い表情 ソニーを代表して謝罪
説明会の冒頭、大島氏は硬い表情で口を開き、今回の問題について謝罪した。今回の不具合は、電源が突然落ちる、意図せず再起動を繰り返す、あるいは完全に電源が入らなくなり、最悪の場合、ユーザーが大切なデータを二度と取り出せなくなるといった深刻な事象がまれに発生するというものだった。
6月末に不具合の兆候、7月4日にはソフトウェア更新 時系列で整理
まずはXperia 1 VIIを巡る一連の出来事について振り返る。
発端は、ユーザーの声だった。大島氏は、不具合の報告件数について具体的な件数の公表は避けつつも、「6月の末には急にその兆候が増えてきた」と、解析開始のきっかけを明かした。ユーザーから寄せられる「まれに再起動する」といった声が、明らかに無視できないレベルで増加したのがこの時期だったという。
この際も、ソニーは問題の原因解析を並行して実施しており、「まれに再起動が繰り返される」不具合も把握したという。そのため、「7月4日には、1度ソフトウェアアップデートを実施し、データのバックアップのお願いをした」と大島氏は明かす。
その後の解析で「ハードウェアとしても基板の不具合が発生しているといったところを突き止め」(同氏)、販売停止と全数交換を目指し、極めて慎重かつ重い判断に至った。原因が1つに絞り込めない中、ソニーが問題原因究明と交換対応を最優先に進めていた当時の混乱と苦慮を物語っている。
7月16日には、製品交換対応ページを公開。このページで、Xperia 1 VIIのIMEI(国際移動体装置識別番号)を入力することで、当該端末が製品交換の対象となるロットかどうを判断できた。しかし、このサイトにも不具合が生じた。
大島氏によると、ページ公開から約2時間後に本来は交換対象となる端末(NG)を「問題なし(OK)」と誤って判定してしまう事象が発覚した。nanoSIMとeSIMのそれぞれに割り振られた2つのIMEI(端末識別番号)とソニー側の情報を照合する際にエラーが発生した。この初期対応のつまずきは、既に不安を抱えていたユーザーの混乱に拍車を掛け、ソニーの対応能力そのものへの疑念を抱かせる一因になった。
Xperiaへの信頼が揺らぐ中、8月7日に開催された2025年度第1四半期の業績説明会では、ソニーグループ執行役 CFO(最高財務責任者)の陶琳(たお・りん)氏がスマートフォン事業を今後も継続していくことを言及。不具合について謝罪した。
「中国工場」が原因ではない? 製造工程の変更が不具合につながる
問題の根本原因は、Xperia 1 VIIの製造プロセスの過程にあり、具体的には「基板の製造工程において、温度や湿度の影響を受けたことにより、基板に不具合が生じた」ことだという。スマートフォンの基板の製造過程では精密な熱管理が求められる。ソニーでは、温度や湿度の管理自体は行っていたが、その「管理体制が甘かった」(大島氏)ことから、今回の不具合に直結してしまった。
大島氏は次のように続ける。「製品の輸送中からユーザーの手元に至るまで、不具合はどの段階でも発生しうる。ただし、製造管理工程において温湿度の管理が適切に担保されていれば、その後の運送や使用の段階で不具合が発生することはないと考えている」
Xでは、製造工場が中国だったことも問題の一端なのではないか? という情報が出回っている。この点について大島氏は「今回、われわれは中国の外部協力工場で製造している」と、中国での製造を認めたが、「製造に関してはサプライチェーンの最適化も含め、工場に依存せず工程の変更や最適化を日々行っている。その中で、変更した工程に不備があったと考えている。直接的に工場が変わったことが原因というよりも、工程そのものの変化が原因であると認識している」とした。
同様の不具合は過去に起きていないというが、なぜこの問題を従来の品質保証プロセスで見抜けなかったのだろうか? 大島氏は、「本来は発見しなくてはいけなかった問題」と、率直に非を認めた。さらに、「やはり工程に変化があった段階で、変化した内容についてもっと深く踏み込み、材料の特性やばらつきなどまできちんと評価しておくべきだったと反省している」と補足した。
ソニーの主張を整理すると、ソニーとしては温度や湿度の管理自体は行っていたものの、その管理基準が甘かったことに加え、製造工程の変更も不具合につながってしまったというわけだ。
信頼回復への二本の柱 「総点検」と「新リスク評価体制」
ソニーは二度と同じ過ちを繰り返さないため、具体的な再発防止策を策定し、既に実行に移している。大島氏はその内容を二つの柱で力強く説明した。
第一の柱は「総点検の実施」だ。今回の不具合に直接関連する温湿度管理の工程だけでなく、類似の工程、さらには製品の機能に影響を及ぼす可能性のあるあらゆる設定値に至るまで、Xperia 1 VIIの製造プロセス全体を徹底的に洗い直す総点検を行ったという。「今後の機種の製造においても、品質管理の強化を目的として、製品特性や状況に応じた点検体制を構築、運用していく」と大島氏は話す。
第二の柱が、より本質的な改善策である「製造工程におけるリスク評価体制の強化」だ。これは、まさに「工程の変化点」における評価の甘さという今回の失敗に直接対応するもので、製造工程に変更を加える際に、品質に影響を及ぼしうる潜在的なリスクをより多角的かつ厳格に検証・評価するための新たな管理体制を構築する。
この新体制は、既にXperia 1 VIIの交換用製品や、販売再開後に製造されている製品の生産ラインから運用を開始しているという。大島氏は「今後の製造においてもこの体制を導入し、厳格な品質管理の実現に取り組んでいる」と語り、システムとして品質を担保する仕組みを確立したことをアピールした。
なお、ミッドレンジモデル「Xperia 10 VII」についても、改善後の体制のもと製造されており、大島氏は「安心してほしい」との考えを述べた。
「総力戦」で挑んだ原因究明と情報発信の舞台裏
この迅速な原因特定について「なぜ早く分かったのか」と問われると、大島氏は「総力を挙げて原因解析に努めてきた」と、品質保証部隊を含む技術者たちが、製造工程をゼロから洗い直すという地道な作業で原因にたどり着いたことを明かした。
大島氏は、「お客さまにとっては、これでも時間をかけすぎたと考えている」との姿勢を見せた。なお、ユーザーへの最初の情報発信は7月4日のキャリア各社と自社のWebサイトが最初で、その後にSNSなどでも発信したという。
経営への影響は「軽微」も、問われるブランド価値 事業継続は?
夏商戦という絶好の販売機会を逃したことによる経営へのインパクトはあったのだろうか。これに対し大島氏は、「今回のこの不具合対応におけるわれわれの経営インパクトというのは、既に8月の頭に出している経営報告の方に盛り込んでおり、エンタテインメント・テクノロジー&サービス分野(ET&S分野)にかかる影響は軽微である」との見解を示した。
一方、X上では「ソニーは大丈夫なのか」「スマホ事業を辞めてしまうのではないか」といった不安が広がっている。これに対し、大島氏は一切迷うことなく明確に答えた。
「今回起こした品質の不具合は、われわれも非常に重く受け止めている。一方で、通信の技術はスマホだけにとどまらず、ソニー全体における重要な技術と捉えており、それの基点がこのスマートフォンのビジネスだと考えている。引き続き、われわれはスマートフォンのビジネスに真摯(しんし)に取り組んでいきたい」
この力強い言葉は、スマートフォンを単体のビジネスとしてではなく、ソニーグループの未来を支える基幹技術に位置付けていることを改めて示したものだ。カメラやオーディオなどの要素技術だけを届けるのではなく、通信技術の中核を担うXperia事業が不可欠であるという経営判断を明確にした形だ。
「想像を超えたエクスペリエンス」は好きを極めたい人々に届くか ここから先が正念場
今回の説明会は、製品の不具合という企業にとって最も避けたい事態を起点としながらも、ソニーが顧客と真摯に向き合い、技術的な問題だけでなく、組織としての課題にも正面から取り組む覚悟を示す場となった。具体的な原因内容や再発防止策を提示したことは、信頼回復への長く険しい道のりの第一歩といえる。
しかし、一度失った信頼を取り戻すのは容易ではない。会見で語られた品質管理体制の強化が、言葉通りに機能し、今後の製品でその成果が一般ユーザーに証明されるのかは時間を要するだろう。Xperiaが掲げる「好きを極めたい人々に、想像を超えたエクスペリエンスを」というビジョンを再び体現するためにも、ここから先が正念場といえる。