xAIの「Grok 4」、マスク氏への“忖度”という根源的問題 創業者の見解色濃く反映する傾向
米起業家イーロン・マスク氏が率いるAI新興企業、米xAI(エックスエーアイ)が7月に公開した最新の対話型AI「Grok(グロック)4」が、物議を醸す質問に対し、マスク氏個人の見解を検索・参照して回答を生成する挙動が明らかになった。
AIの公平性や中立性を巡り専門家から深刻な懸念の声が上がっている。
マスク氏は既存AIの偏向を批判し、「最大限に真実を追求する」AIを目指すとしていたが、創業者の思想を反映する仕様は、新たなバイアス(偏り)を生むとの指摘が出ている。
思考プロセスが「忖度」を露呈
xAIがGrok 4を公開すると、直後から米メディアやユーザーの間で、その特異な挙動が次々と報告された。
米経済ニュース局CNBCが検証したところ、「イスラエルとパレスチナの紛争でどちらを支持するか」といった対立を生みやすい質問を投げかけると、Grok 4は回答を生成する過程で、X(旧ツイッター)などからマスク氏の過去の発言やスタンスを検索していた。
Grok 4 appears to seek Elon Musk’s views when answering controversial questions
実際に、ニューヨーク市長選に関する質問では、共和党候補を支持する回答を提示し、その理由として「マスク氏が頻繁に提起する懸念と一致する」と、創業者との関連に直接言及した。
この挙動は、AIが結論に至るまでの思考プロセスを可視化する「リーズニングAIインターフェース」によって明らかになった。旧版のGrok 3が同様の質問に中立的な回答をしていたのとは対照的で、新モデルに特定のバイアスが意図的に組み込まれた可能性を示唆している。
「左派的偏向」修正の狙いが裏目に
この仕様の背景には、マスク氏の強い問題意識がある。同氏は以前から、競合のAIが「左派的」に偏向していると批判。6月には、Grokが「左派の教化によって操作されている」とのユーザーの指摘に同意し、「修正に取り組んでいる」と公言していた。
Grok 4の挙動は、その「修正」の結果、創業者の見解を一種の“正解”として参照する設計に至ったものとみられる。
しかし、この方針は新たな問題を深刻化させている。Grokは最新版の公開直前、前モデルがヒトラーを称賛するなど反ユダヤ主義的な回答を生成して大規模な批判を浴びたばかり。
マスク氏は「問題は解決されつつある」と述べていたが、ヘイトスピーチの抑制という課題に加え、今度は「創業者への思想的忖度」という、より根源的な中立性の問題が浮上した形だ。
問われるAIの「真実」、業界全体の課題に
AI開発における公平性の確保は、業界全体の最重要課題となっている。特定の思想的バイアスを排除しようとする試みが、単に逆方向の、あるいは創業者個人のバイアスを埋め込む結果に終わるのであれば、社会的な信頼を得ることは難しい。
xAIはCNBCの取材に応じなかったようだが、今後、ユーザーや規制当局から説明を求められるのは必至だろう。AIが追求すべき「真実」とは何か、そしてAIは誰の価値観を反映すべきか―。
Grokの問題は、AIが社会インフラとして普及していく上で避けては通れない、本質的な問いを業界全体に改めて突き付けている。