兵庫県にある住宅メーカーが突然破産して、家が建たないなどの被害を訴えるトラブルが出ています。ローンを組んで2000万円の着手金を支払ったのに、いまだに更地のままになっている被害者を取材しました。
■更地に35年ローン
被害を訴えるAさん
「ここが玄関になって、靴を脱ぐ形ですね。ここから中に入っていく。入ったらリビングがあって、小さな和室があって」
「(Q.何階建て?)2階建てですね。2階は子ども部屋と僕たちの寝室を予定していました」
兵庫県に住むAさん(40歳)は、共働きの妻と来年小学生になる子どもと、3歳の子の4人家族です。
被害を訴えるAさん
「小学校入学前に永住する土地を考えて、あとは今後の将来のことも考えて夢を持って家の購入を考えましたね」
将来を見据えて兵庫県内に土地を購入。去年12月に姫路市内にある「企広」という住宅メーカーに新築住宅を注文しました。
被害を訴えるAさん
「自分たちの希望にも沿えて、本当に家を買うんだな、夢のマイホームの購入にこぎつけたんだなというので、とても前向きな気持ちで打ち合わせには臨んでいましたね」
「(Q.支払いはいつ行われたんですか?)(去年)12月の末、契約時に250万円。着工前の支払いで1900万円の支払いをしました。ほとんどが住宅ローンです」
工事が始まる前に合計2150万円を支払っていたAさん。その後も打ち合わせを重ね、地鎮祭も行い、あとは4月からの着工を待つばかりでしたが…。
被害を訴えるAさん
「まる1カ月は何もスタートしない。スタートするのを待っている状態でした」
開始予定から1カ月以上遅れているにもかかわらず、一向に工事は始まらず。その矢先、仲介業者から1本の電話がありました。
被害を訴えるAさん
「倒産したらしいです。ご存じですか?そういう形でしたね」
告げられたのは「企広」の倒産という、にわかには信じがたい現実でした。
被害を訴えるAさん
「もう絶望ですよね。もう頭の中が真っ白になって、何も考えられなくなりましたね。従業員の方にも連絡を取ろうとしたんですけど、もうどなたとも連絡つかなかったですね。電話が鳴るだけですね」
その直後に届いた担当者からのメッセージ。
担当者だった男性のメッセージ
「大変申し訳ございませんが、株式会社企広(きこう)は4月28日に倒産致しました。従業員一同も当日、企広の代理人弁護士に告げられ直ちに解雇され事務所から閉め出される形になり、突然のことで大変驚いております。今後一切の窓口・決定は破産管財人になります。この度は大変申し訳ございませんでした」
被害を訴えるAさん
「もう体が震えましたね」
それ以降、会社や従業員なども音信不通。“夢のマイホーム”が建つはずだった土地は今も“更地”のまま。残ったのは2000万円を超える35年ローンだけです。
被害を訴えるAさん
「住宅ローンがスタートするのに建物は存在しない。このこと自体がすごく無念ですよね。もちろんそれまでにかけた時間もそうですし、僕自身家族の気持ちもそうですし、大金高額なお金を払って、何も得るものがないというのが本当に無念で苦しいですよね」
住宅メーカー「企広」の倒産で被害を訴えるケースは他にもあるといいます。
■突然倒産「計画的」疑う声も
この男性は3月に新築住宅の購入額の6割にあたる1600万円を「企広」に支払い、完成後に残りを支払うはずでした。しかし倒産が発覚。工事が行われることはありませんでした。
被害を訴えるBさん
「何の説明もなしに『倒産します』『破産しました、だから関係ありません』『チャラです』と言われるのが一番憤り感じますし、お金は返ってきませんし、こっちは35年間ずっとそれを払い続けなあかん。訳の分からない借金を」
分かっているだけで未着工か、ほぼ手つかずにもかかわらず、お金を支払ったのは12人。総額はおよそ1億円です。それ以外にも下請け業者への未払いなど、合わせると100件に上るといいます。
住宅メーカーの“突然の倒産”に被害を訴える人たちは“ある疑念”を抱いています。
約2000万円 被害を訴えるAさん
「限りなく計画倒産に近い倒産をしているんじゃないかなとは疑っていますね」
約1600万円 被害を訴えるBさん
「準備して破産しています。計画倒産やと思います」
「企広」は、「SUMU STYLE」の名前で兵庫県を中心に注文住宅などを手掛けてきた創業50年を超える老舗の住宅メーカーです。
「企広」のホームページから
「お客様が楽しい人生をこれから送る場所で、苦しい思いをして頂かないよう個別に資金計画のご相談に乗っております」
ホームページでは4月10日からキャンペーンが始められていました。
「企広」のホームページから
「家づくり応援キャンペーン 最大300万円相当おトクに建てれる」
「期間中のご成約で140万円相当設備特典あり!」
「補助金最大160万円」
しかし、20日後には突然の破産。姫路市にある「企広」の本社を訪ねると人がいる様子はありません。シェードがかかっていますが、わずかな隙間からはオフィスがそのままの状態だというのが分かります。資材置き場でしょうか。もう扉もない状態で、残された資材が散乱しています。
被害を訴える人たちが疑う“計画倒産”。社長への取材を試みました。インターホンで呼び出しましたが、応答はありません。
長年「企広」から仕事を請け負ってきた男性が語ったのは“倒産前の異変”でした。
企広の元下請け会社代表
「今年に入ってから急にひどかったね」
「(Q.ひどいというのは?)やはり、お金の支払いの遅さと、あと会社の状況もね。あと仕事の量が急に増えたね。安く請け負うから仕事は入ってくるわね。安く仕事をとって、お金をお客さんから頂くだけ頂いて、業者には払わず…」
「(Q.仕事は最後までやるつもりだと思いました?)何とも言えないところですけどね…」
倒産直前まで働いていた企広の元従業員でさえも事前に知らされることはありませんでした。
企広の元従業員
「4月28日の朝に弁護士さんが来て、『きょうから倒産します』『私物もって出て行ってください』って話で。僕らは急に解雇になったということですね」
「(Q.何か前触れは?)全然僕らは分からなかったですね」
この日、突然の倒産で職を失った元従業員。ただ経営は数年前からすでに厳しい状況に陥っていたと証言します。
企広の元従業員
「自転車操業というのは、もちろんあったんですけど、着工する前の着工金でまた別の工事の払いに充てたり」
「(Q.駆け込みでとにかく仕事とることは?)あったと思います。3月末から4月ぐらいには営業の人に『絶対この仕事どないか取ってきてくれ』と…」
契約を取りたいがゆえに、価格設定が利益を度外視した状況になっていたといいます。
企広の元従業員
「マイナスで終わっているような現場も何個かあって、最後の3月、4月は入ってくるお金よりも完全に出ていくお金、出ていくお金、出ていくお金になってしまって。最後、社長が『なんぼお金が出ていくのか、なんぼお金入ってくるのか、俺も分からへんねん』と言っていた…」
倒産寸前の時には、社長自らも経営状況を把握できていなかったといいます。
■飛び交う怒り 住宅メーカーは…
先月22日に行われた債権者集会に「企広」の社長と代理人弁護士などが出席。債権者からは、厳しい質問が投げかけられました。
債権者
「3月初旬に1600万円振り込んだにもかかわらず、4月14日に弁護士さんに相談。これ悪質じゃないですか?その経営状況で契約、明らかに詐欺じゃないですか?」
「企広」社長
「ご迷惑をおかけしております。そのつもりは一切なく、本当に工事を進む予定で契約させて頂きました」
債権者
「これは詐欺じゃないですか?」
「企広」の代理人弁護士
「それはないと考えております。私の理解では先にお金を逃がして、払えない分をすべて踏み倒すというお金の動きはありませんでしたので、計画倒産にはあたらないと考えています」
債権者集会のなかで、代理人弁護士は「計画倒産」を否定していたといいます。
債権者
「私の1000万円、何に使ったんですか?」
「企広」社長
「大変申し訳ございません」
債権者
「謝らなくていいので、お金返して下さい。一生かかってでも返してください。それだけです」
「企広」社長
「申し訳ございません」
2時間に及んだ債権者集会。債権者の怒りは収まらず…。
ディレクター
「お話だけ聞かせて頂けないでしょうか?」
債権者
「謝って下さい」
何も話すことなく、走り去っていきました。
被害を訴えるCさん(60)
「(Q.計画倒産に関しては?)違います、違いますとずっと言われていました。誰も信用しないです」
実家を大規模リフォームして移り住む予定だった60歳のCさん。企広に1000万円以上を支払うも多くの工事が残ったまま倒産。
被害を訴えるCさん
「今これ(リフォーム)してもらっている工務店さんにも、企広の見積もりはやっぱり安いし、入っていないところがいっぱいあるから、とてもできひんというのは言われていました」
新たにリフォームをお願いするにも企広の見積もりが安すぎたこともあり、さらに追加で1000万円以上リフォーム代を捻出せざるを得ない状態に。
被害を訴えるCさん
「今の家を完成させるには倍ほどの値段がかかってしまうから、そんなのを考えると何とも言葉にならないですけど」
「今も賃貸のお金とローンと両方払っているので」
「(Q.老後の貯金とかっていうのはあったんですか)あって、それも出しています。いやもうお金返してほしいです。もう謝罪いらないから、お金返してください。もうそれだけです」
番組では改めて「企広」の代理人弁護士に計画倒産という指摘が出ていることなどについて質問状を送りました。
「企広」の代理人弁護士からの回答
「質問状について検討いたしましたが、回答は差し控えさせていただくこととなりました」