タイで巻き返し図る日本車、低価格HV投入で中国勢に対抗…かつてはシェア9割超の「牙城」
日本の自動車大手が、中国勢による電気自動車(EV)の販売攻勢で苦しむタイで巻き返しを図っている。かつて9割を超えた日本車の新車販売シェア(占有率)は、2025年に7割を切る可能性もある。各社は低価格のハイブリッド車(HV)の投入などで、日本車の「牙城」を守ろうとしている。
環境と利便性
トヨタ自動車は21日、タイで小型セダン「ヤリスエイティブ」のHVを発売した。年内は71万9000バーツ(約324万円)で販売し、これまでHVで最安だった小型スポーツ用多目的車(SUV)「ヤリスクロス」よりも約1割安い。現地法人の山下典昭社長は首都バンコクで開いた発表会で「実用性を考えれば、HVが重要な役割を果たし続ける」と述べ、環境性能と充電が不要な利便性を両立するHVの利点を強調した。
タイ工業連盟によると、タイの1~6月の新車販売台数(30万2694台)のうち、日本勢が得意とするHVは2割の6万2083台で、台数は前年同期比で7・5%減った。一方、中国勢が注力するEVは1・6倍の5万4084台に増えた。トヨタは低価格車の投入でHVの販売をテコ入れし、中国勢に対抗する。
三菱自動車も5月、小型SUV「エクスフォース」のHVを発売。音響大手ヤマハとオーディオシステムを共同開発し、若者の取り込みを進めている。マツダは25~27年にHVやEVなど計5車種を投入し、タイ工場の生産体制を強化する。
値引き販売
タイでは10年に日本車の販売シェアが92・3%に達し、11年以降も80%台後半と高いシェアが続いた。だが、タイ政府がEV産業振興策を本格導入した23年に77・8%に急落し、今年1~6月には前年同期比6・6ポイント減の70・6%に落ち込んだ。「年間のシェアが7割を下回ると、日本車の存在感低下に歯止めがかからなくなる」(日本車メーカー幹部)との懸念が広がる。
1~6月のメーカー別シェアを22年の同期間と比べると、トヨタとホンダは増えたが、いすゞや三菱自、マツダなど大半は減った。22年時点で大半が未参入だった中国勢は計16%以上となり、日本勢の減少分が「流出」した格好だ。
中国勢トップのEV大手BYDは7・8%で、全体でもトヨタ、いすゞ自動車、ホンダに続く4位に入った。大幅値引きで販売を急拡大している。今月の販促キャンペーンでは小型車「ドルフィン」の価格を、23年7月の発売時より約3割安い49万9900バーツに下げた。
日本勢にも、トヨタが日本からSUVのEV「bZ4X」の輸入拡大を決めるなど、タイでEV販売を強化する動きはある。だが、各社は欧米で人気が高いHVを重視し、タイだけEVに傾いた販売戦略を講じにくいのが現状だ。現地でEV市場が拡大する中、HV中心の戦略でシェアを回復できるかは見通せない。