ソニー「RX1R III」は何が変わった? 10年越しフルサイズセンサー搭載の高級コンデジ

ソニー「RX1R III」は何が変わった? 10年越しフルサイズセンサー搭載の高級コンデジ

まさかのお盆休みのタイミングで「Cyber-shot RX1」復活である。

 ソニーのCyber-shot RX1は(初代だけがRX1で、その次からRX1RになったのでRX1とRX1Rは同じと思っていい)、2012年に誕生した35mmフルサイズセンサー高級コンパクトカメラである。それが15年に「RX1R II」(発売は16年)が出て以来、音沙汰はなく、もう役目は終えたのかなと思っていた矢先だったのだからびっくりである。

RX1R IIと大きく変わったのはここだ

 RX1の特徴はシンプル。35mmフルサイズセンサーにZWEISSのSonnar 35mm/F2を組み合わせた高級コンパクト機。それは初代から変わらない。

 時代に合わせてセンサーは約6100万画素の高画素タイプになった。おそらくは「α7R V」と同じセンサーだろう。

 ボディのデザインも前モデルを踏襲しており……と書こうとして「あれ?」となった。なんか違う。

 確認してみると、ボディに大きな違いが2つあったのだ。

 一つはファインダー。

 RX1R IIIは左肩に普通にファインダーがある。外からの光を防いでより集中できるアイカップも付属する(着脱式)。

 アイカップを付けた方が覗きやすいが、その分背面がちょっと出っ張るのでバッグの出し入れでひっかけたりしやすい。

 で、前モデルのRX1R IIはというと、そのファインダーが普段は隠れていて、レバーを下げるとぴょこんと飛び出るポップアップ式だったのだ。

 もう一つの大きな違いは背面モニター。RX1R IIIは固定式だが、RX1R IIはチルト式だったのだ。

 デジタルカメラらしい機構を駆使した前モデルに対し、最新モデルではよりクラシカルでベーシックなスタイルに回帰したのだ。

 個人的にはRX1R IIのポップアップ式ファインダーやチルト式モニターの機構って好きなのだけど、RX1の持つ「フルサイズセンサーを擁した王道高級コンパクト」って魅力はRX1R IIIの方がシンプルに表現されてると思う。

 収納式のポップアップファインダーを止めた分、2.5mmほど高くなったが全体のサイズ感は変わらない。

 また可動部分が減って機構がシンプルになった分、質量は10gほど軽くなった。バッテリーとSDカードを含んだ撮影時の質量は500gを切っている。

RX1R IIIはその画質を楽しむべし

 では実際に撮ってみたい。

 携帯性が高く、35mmというスナップ向きの画角で気持ちよく撮れるカメラ。中身が最新になったことで、AFをはじめとするレスポンスもすこぶるよく、シャッターの感触もいい。

 ファインダーを覗きながら左手でさっと絞りを決め、構図とタイミングを合わせて撮るのである。

 まず街を歩きながら1枚。

 これがなかなか気持ちいい。

 古い神社を訪れたら、なぜか拝殿の前に林檎がぽつんと置かれていたので絞りを開放にしてぐっと寄って1枚。

 もう一つ、ちょっとカッコいい螺旋(らせん)階段があったので真上から撮ってみた。

 一応いつものアレも。

 RX1シリーズがずっと変わらないのはレンズ。鏡筒にはフォーカスリングとマクロ切替リングと絞りリングがある。

 このデザインだと絞り優先かマニュアル露出にして絞りリングをコントロールしながら撮りたくなるよね。

 そしてマクロ切替リング。最近のカメラでは珍しいけど、標準では30cmまでしか寄れないが、リングを回すとマクロモードになって20cmまで寄れる。この距離の差はけっこう大きい。

 寄ると被写界深度がぐぐっと浅くなるので、古いレンガのディテールが分かるようF8まで絞って撮ってみた。

 このレンズ、絞り開放時は柔らかめの描写だが、ちょっと絞るとシャープになる。

 F2.0とF5.6でディテールを比べてみた。

 で、このカッコいい赤レンガの建築をF8で撮ったのがこちらだ。レンガの色といい空といい見事な映り。で、約6100万画素あるのでレンガの一つ一つがきっちり描写されてる。

 人を撮るときは絞りを開けたいよねってことでF2.0で。

 被写体検出をオンにしてAFはカメラ任せ。認識対象は人物・動物・自動車・虫など多岐に渡るが普段は「AUTO」にしておけば、まあなんとかなる。

 絞り開放できちっと追い込みたい人やそういうときは別にして、被写体検出AUTOとトラッキングAFの併用でなんとかなるから堕落していけない。

 美肌効果機能も持っているが(画素数が多くなるほどこの機能は重要になる)、今回はオフで。

 ISO感度はISO100からISO32000。拡張ISO感度でISO102400まで上げられる。これはISO6400で撮った夜景。

 手ブレ補正機構は持たないからかISOオート時はシャッタースピードを速めに設定する仕様のようだ。

天下での絞り開放撮影はシャッタースピードに注意

 なお、絞り値は鏡筒の絞りリングで、シャッタースピードは右肩の電子ダイヤルで行う。上面には露出補正ダイヤルもある。この構成は前モデルと同じだ。

 上面にあるC1ボタンはデフォルトでは「ステップクロップ」が割り当てられている。

 ボタンを押すたびに35mm→50mm→70mmと切り替わる機能だ。もとの画素数が大きいので、70mm相当にクロップしても約1500万画素はあるので実用上の問題はないけど、このカメラは35mmレンズの単焦点カメラとして、その画角を楽しむのが一番似合うかなと思うわけで、いざというとき用かな。

 続いて背面。固定式のモニターは3型で約236万ピクセル。ボタンやダイヤルの数や位置は前モデルと同じだ。

 ただ、右側面にあった録画ボタンは「C2」ボタンに変更された。録画ボタンはなくなり、動画撮影時は撮影モードを動画系にする必要がある。

 単焦点カメラならではの快適さはたまらないのだが、使ってて注意したいと思ったのは露出オーバー。

 メカシャッターは最高で1/4000秒だが、1/4000秒まで上げられるのはF5.6から。絞り開放(F2.0)だと1/2000秒が上限になる。晴天下で絞り開放で撮ると一瞬で越えちゃうので絞り優先AEで撮る時はそこに注意(NDフィルターは内蔵してない)。

 電子シャッターに切り替えると1/8000秒まで上げられるので問題ないが、メカシャッターと電子シャッターの自動切り替えはないので、必要に応じて買えること。Fnメニューかどこかのボタンに割り当ててやるといいかと思う。電子シャッター時のローリングシャッター歪みはちょっと気になるので常時電子シャッターはあまり勧めない。

 次のカットは70mm相当にクロップし、電子シャッターに切り替えて絞り開放で撮ったもの。快晴下はおそろしいですな。

 最後はクリエイティブルックの話。ソニーといえば画作りを選べるクリエィティブルックだが、RX1R IIIでは2つ種類が増えている。フィルム調のFLにFL2とFL3が追加されたのだ。他のαシリーズにもファームアップで入れてほしい。

 スタンダードとFLからFL3の4つを撮り比べてみた。

 個人的に、FL3は好みかも。ちょっとレトロな感じがいい。

 もうちょっと差が出やすいシーンで。青空とハイライト部の階調に差が出てるのが分かる。

 写真に雰囲気を加えたいときはクリエイティブルックである。

 バッテリーは「NP-FW50」。α7シリーズなどで使われる「NP-FW100」より一回り小さなタイプで、現行機種では「ZV-E10」や「α6400」等で使われている。

 メディアはSDカードが1スロット。

 そんな感じで、派手な機能は無いけれども、35mm単焦点というスナップ向きの仕様を生かした、撮っていて気持ちいいカメラだ。

気持ちよく撮れるカメラのお値段は……

 初代RX1が登場した2012年はまだまだミラーレス一眼もデジタル一眼レフもAPS-Cサイズが主流で、フルサイズ機はハイエンドが中心。α7はまだおらず、大型センサーを搭載したコンパクト機も富士フイルムの「X100」が前年に登場したという時期だった。

 そんな中で登場したRX1は、フルサイズセンサーのコンパクトカメラというだけで唯一無二であり、衝撃的だった。

 RX1R IIが登場した15~16年はフルサイズセンサーのミラーレス一眼はまだα7のみという状況で、世の中が一眼レフからミラーレス一眼へ本格的に移行する直前。RX1R IIの(RX100シリーズでも採用された)ポップアップファインダーやチルト式モニターはそんな時代を象徴していた。

 そしてフルサイズセンサー搭載のミラーレス一眼が当たり前の存在となった今年、高級コンパクトに求められるものが写真をしかり撮れ、撮影やその仕上がりを純粋に楽しめるオーソドックスなスタイルになったのだろう。

 おかげで気持ちよく撮れるカメラになった。66万円するけど。

🍎たったひとつの真実見抜く、見た目は大人、頭脳は子供、その名は名馬鹿ヒカル!🍏