“オーディオのソニー”、次世代育成に賭ける。ニューヨーク大学との協業の狙いを訊く

“オーディオのソニー”、次世代育成に賭ける。ニューヨーク大学との協業の狙いを訊く

■ソニーとニューヨーク大学による学術プログラム

今年3月、ソニーがニューヨーク大学(NYU)スタインハート校と共同で、新たなオーディオに関する学術プログラム「Sony Audio Institute」(ソニー・オーディオ・インスティチュート)をスタートさせることが発表された。

ソニーといえばオーディオ、とファイルウェブの読者ならば連想が働くところだと思うが、特に近年のソニーは事業領域を大きく拡大しており、映画やアニメ、ゲーム、センサーや半導体、そして金融と非常に幅広くビジネスを展開している。特に年配のオーディオファンからは、「もうソニーはオーディオの会社じゃないよ」という声を聞くことも残念ながら少なくない。

だがやはりソニーは“オーディオ”に関して並々ならぬ熱意を持った会社である、ということを強く印象付けてくれたのが、このSony Audio Instituteの設立である。

記者はヨーロッパやアジアを含め、世界各国のオーディオショウの取材に行くことが多いが、そこでやはり強く感じるのが「オーディオのソニー」への強いリスペクトである。特にアジア圏の新興ブランドからは、「ソニーに憧れて自分たちもオーディオ事業を立ち上げた」といった声を聞くことも多い。先進的な技術開発に積極的に取り組み、オーディオに大きな夢を与えてくれる会社である、と受け止められているようだ。

「オーディオのソニー」は何を狙い、このSony Audio Institute設立したのだろうか。その背景について、ソニー株式会社 パーソナルエンタテインメント事業部 サウンドソリューション事業部門 部門長の池澤良泰さんに詳しく伺った。

■音楽ビジネスに関わる次世代を育成する

ーーSony Audio Instituteがニューヨーク大学でスタートするというニュースを拝見して、非常にワクワクしています。池澤さんはどういった立場で今回のプロジェクトに関わっているのでしょうか?

池澤さん 私たちは音に関連した事業部で、コンシューマー向けのヘッドホンやスピーカーの開発に加えて、プロオーディオの機器も取り扱っています。もともとソニーは非常に長いプロオーディオの歴史を持っており、ソニー・ミュージックスタジオをはじめとして、各地の音楽スタジオに機材を納入してきました。

ここ数年、音楽の制作環境が大きく変わってきています。一部のプロの方々が音楽を作ってヒットを生む時代から、家で一人で作った音楽がいきなりチャートの上位に入るなど、クリエイターの裾野が広がったという現状があります。

ソニーグループとしては、クリエイターに寄り添ってビジネスをしていく、ということを大切にしており、従来にような大掛かりなスタジオビジネスだけではなく、より現状の音楽制作スタイルに合わせ、領域を広げていくべきなのではないか、と考えていました。

ーーソニーのヘッドホンやマイクは、日本だけではなく、世界中のプロの現場でスタンダードとして愛されていますね。

池澤さん 音楽業界への貢献というのは、ずっとソニーが大切にしてきたことです。業界の変化の中でどのように音楽業界に貢献できるかと考えたときに、次世代の育成を重視したい、そのために教育機関とパートナーシップを組むことを考えました。世の中には多くの教育機関がありますが、ミュージックビジネスと最先端研究とクリエーション、それらすべてを実現できるのがニューヨーク大学だったのです。

ーー次世代の育成というのがキーワードとなるのですね。

池澤さん なぜ教育機関なのか、ということについてもうひとつ深堀りしますと、「立体音響」というのが重要なトピックとなります。ステレオの時代は長く、音楽や映画などさまざまなコンテンツが作られてきました。しかし、ここ数年、急速に立体音響が一般化しつつあります。

ソニーグループとしては、立体音響技術を活用した音楽体験である360 Reality Audioを展開しています。新しい立体音響のフォーマット、そのトレンドや技術の変化を捉えて、教育機関に展開していきたいと考えています。具体的なところでは、立体音響制作の講座を設ける予定です。

ーー立体音響の制作ノウハウに関しては、まだまだ発展途上にあり、レコーディングエンジニアの方々が日々知恵を絞っているのを感じています。ですから、著名な大学でそういった講座が設けられ、研究が進むことを期待します。ニューヨーク大学を選ばれた理由について、もう少し教えていただけますか。

池澤さん はい、先ほども申し上げました通り、学術的な研究と、コンテンツ制作、そしてそれをビジネスとして成立させていく、それらすべてを包含できるところは少ないのです。私たちが探した範囲内ではベストな判断だと考えています。

ーー確かに、日本ではそれは少し分断されている印象です。

池澤さん 学術に強いところ、コンテンツ制作に強いところなど、個別に強いところはありますが、全部ができるというのは少ないですね。ニューヨーク大学は、卒業生がクリエイターもビジネスも含めさまざまな分野に羽ばたいていっており、産業界への強いコネクションがあるということも重要です。

■一企業だけではできない最先端研究にも力を入れる

ーー10年間の契約ということですが、具体的にどのようなプログラムを進めていくのでしょうか?

池澤さん 日本とアメリカでは、大学の組織構成が少し違うので、単純に比較はしにくいのですが、Sony Audio Instituteは「学部」のようなものと捉えていただくとよいかと思います。

基本的には研究機関ですので、何を研究テーマとするのか、というテーマ設定が必要です。専門的知識を持った講師を集め、学生とともに研究を深めるための講座を設けていきます。また学生と長期間にわたってリレーションシップを持つための奨学金プログラムを準備しています。

ーーテーマ設定について、今の時点でやりたいことはありますか?

池澤さん 立体音響というのは重要なテーマですね。現在は映画や音楽といったコンテンツへの応用がメインですが、もしかしたら将来的には、医療の世界へ展開できるかもしれない。私たちは一企業ですので、そこまで研究を深めることは難しいです。そこは大学と連携することで、10年後の新しい産業を作れるかもしれないと期待しています。

ーー何名くらいの学生を集める、といった目標値はあるのでしょうか?

池澤さん もちろんイメージとしては持っていますが、人数ありきではなく、研究テーマと講座から考えていくべきものと考えています。ですから具体的に何名、というのはいまは定めていないです。

ーー今後、360 Reality Audioの制作・視聴スタジオなどもご用意されるのだと思います。そういった続報も期待しています。

池澤さん 今回のSony Audio Instituteは、将来に向けての大きな投資と考えています。技術は一方通行のものではなく、どのように使いたいか、という実社会からのフィードバックをもらいながら磨いていくものです。

未来を待つのではなく、自分たちの手で未来を作り出していく、そのきっかけになればと考えています。サウンドは、あらゆるエンタテイメントに共通するものですから、それをどのようにビジネスにしていくか、ということはソニーとして重要なことだと思います。

ーー若い人たちに向けて「オーディオのソニー」というイメージが繋がっていくことを大変誇らしく思っています。本日はありがとうございました!

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