8762万円で落札されたフェラーリ「365GTB/4」はオリジナルを貫きとおした1台!
新車時からオリジナルを維持した1台
2025年5月22日にRMサザビーズがイタリア・ミラノで開催したオークションにおいて、フェラーリ「365GTB/4」が出品されました。1972年にヨーロッパ仕様として送り出された同車は、現在に至るまで新車時の状態を維持している1台。さらに2006年にフェラーリ・クラシケを取得しています。車両のあらましとオークション結果をお伝えします。
リトラクタブルヘッドライトを採用した後期型
ミラノオークションに姿を現したフェラーリ365GTB/4(通称:デイトナ)は、それまでの12気筒モデル、275の丸みを帯びたボディスタイルから一新。当時としてはきわめて先進的なデザインのボディを採用し、1968年のパリ・サロンで正式に発表された。
そのスタイリングは当時ピニンファリーナでチーフスタイリストを務めていた、レオナルド フィオラバンティとそのチームによるもの。流れるようなロングノーズにコンパクトなキャビンは、275でも採用されていたテールを垂直に切り落とす「コーダトロンカ」の手法を用いることで、一気に現代的な姿へと生まれ変わった。デイトナは、デビュー時から大きな話題を呼んだ。
ヘッドライトを半透明のプレクシグラスで覆うフロントマスクのフィニッシュは、のちにフェラーリにとって最大の輸出市場であるアメリカの法規に合致させるため、リトラクタブル方式のヘッドライトを採用したものに改められる。今回の出品車はこのマイナーチェンジ後のモデルとなる。オークションシーンにおける人気は、プレクシグラスを備える初期型の方が高いが、だからといってリトラクタブルヘッドライトを持つデイトナが、魅力に乏しいモデルなのかといえばそれは違う。
1406台がマラネロの本社工場からデリバリー
デイトナに搭載されたエンジンは、365というシリンダーあたりの排気量が物語っているように、前身の275からさらに大きく拡大された4390ccのV型12気筒DOHC。最高出力は352psと発表されているが、車重は1280kgと軽量だった。
当然のことながらデイトナが発揮する運動性能は魅力的なもので、セールスに大きな効果を与えたのは間違いのないところ。最高速で280km/h、そして0→96km/h加速で5.4秒というフェラーリからの公称値は、もちろん当時としては世界最高水準に位置する数字にほかならなかったのだ。
デイトナは最終的には1973年まで生産され、のちに誕生するスパイダーを含め、トータルで1406台がマラネロの本社工場からデリバリーされたというのが、フェラーリのクラシック部門である「クラシケ」の見解だ。
フェラーリ・クラシケも取得済み
今回ミラノ・オークションに登場したデイトナは、そのうち1105台を占める左ハンドル仕様のベルリネッタ(クーペ)で、ヨーロッパ仕様としてデリバリーされた1台。ロッソ・キアーロのボディカラーに、ブラックのインテリア、そしてエアコンやセンターロック式のクロモドラ製ホイールを装着している。
生産時そのままの仕様であることは、2006年にクラシケの認証を受けたことからも明らかだ。もちろんこの出品車には、クラシケが発行した認定書、通称「レッドブック」も付帯するから、その価値はさらに高まっているといってよい。
1972年3月30日、このデイトナはドイツのデュッセルドルフにあるフェラーリディーラー、オート・ベッカーにデリバリーされ、同じドイツのホルツミンデンで登録。翌年、スウェーデンに在住のセカンド・オーナー、レイフ・ヴァルストロム氏の手に渡った記録が残る。
そして2005年末にはドイツのフェラーリ・ディーラーが入手して、前述したクラシケのレッドブックを取得。さらにフランスのスペシャリストであるガレージ・ミリアンクールによってクラシケの認証が行われたというのが、大まかなモデル・ヒストリーとなる。
2023年にはV型12気筒エンジンに組み合わされる6基のウェーバー製キャブレターのオーバーホールを始め、燃料システムなどのメンテナンスも行われ、すぐにその走りを楽しめるコンディションに保たれていた。RMサザビーズはこのデイトナに50万ユーロ~70万ユーロ(邦貨換算約8150万円〜1億1410万円)のエスティメート(予想落札価格)を提示したが、実際の落札価格は53万9375ユーロ(邦貨換算約8762万円)という結果に落ち着いた。
このデイトナ以降、フェラーリはV型12気筒2シーターモデルの基本設計をフロントエンジンからミッドシップに変更。再びそのエンジン搭載位置がフロントに戻るのは1996年に誕生した550マラネロまで待たなくてはならない。フェラーリの歴史において、きわめて大きな節目となったデイトナ。その評価が、これからさらに高まっていくことを期待したいところだ。