Intelはオワコン?AMDやApple製チップの普及と「インテル入ってる」の終焉
2000年代から2010年代前半にかけて、PCの世界はIntelを中心に回っていたといっても過言はありません。「Intel入ってる(Intel Inside)」というキャッチコピーがまだ耳に残っている人もいるでしょう。このフレーズは単なる広告キャンペーンに留まらず、品質と性能の証として広く受け入れられました。
しかし今、その状況は大きく変わりつつあります。2025年現在、AppleのMシリーズチップやAMD「Ryzen」などが注目されており、それらを「Intel製より良いチップだ」と主張する人も少なくありません。
では、Intelの「オワコン化」は、なぜここまで急速に進んだのでしょうか。現在のCPU市場で起きている地殻変動を見ていきましょう。
「脱Intel」時代の到来と自社製チップの潮流
現在のCPU市場の最大の変化は、Intel一強時代の終焉と、巨大IT企業による「自社製チップ」開発の本格化です。たとえばApple、Google、Microsoftといった、いわゆる「ビッグテック」が、自社の製品やサービスに最適化された独自の半導体開発に巨額の投資を行っています。
その代表例が、Macに搭載されているApple独自の「Mシリーズ」チップです。2020年の登場以来、Mシリーズは従来のIntel製CPUを凌駕する「圧倒的な電力効率」と「高い処理性能」を両立させ、業界に衝撃を与えました。
ソフトウェアの巨人であるMicrosoftも、この流れに乗り遅れてはいません。同社はクラウドサービス「Azure」及びAI機能の強化を見越して、すでに独自プロセッサと独自アクセラレータをそれぞれ開発。
さらに家庭用ゲーム機「Xbox」の次世代機向けには、長年のパートナーであるAMDと半導体を共同開発することを発表しています。
自社のソフトウェアやサービスが求める性能を最大限に引き出すために「独自チップを開発する」というのは大きな潮流と化しています。このトレンドはIntelが長年築き上げてきた「汎用CPUを供給する」というビジネスモデルそのものへの挑戦であり、同社が厳しい立場に置かれている大きな要因の一つです。
AMD『Ryzen』シリーズの猛追
「脱Intel」の潮流と並行して、Intelを揺るがしているもう一つの大きな要因が、長年のライバルであるAMDの猛烈な追い上げです。特に、一般消費者向けのデスクトップPC市場において、AMDのシェアは近年劇的に上昇しました。ベンチマークソフト開発元による統計でも、2025年第1四半期にはAMD製CPUのシェアがIntelから大きくシェアを奪う形で急増したことが報告されています。
この躍進は、単に「Intelより安いから」という理由だけではありません。後述する革新的な技術「チップレット」を採用した「Ryzen」シリーズが、Intel製品を性能面で凌駕する場面が増え、高いコストパフォーマンスを実現したことが最大の要因です。
■AMDはなぜ、低迷期を乗り越えることができたのか
IntelとAMDの関係は30年以上に渡る「ライバル」です。そして長く続いたIntelの黄金時代は、AMDにとって長い苦難の時代でもありました。性能面でIntelに追いつけず、市場シェアも低迷。一時は経営危機さえ囁かれるなど、厳しい冬の時代が続きました。しかし、この状況を劇的に変えるゲームチェンジャーが登場します。それが、2017年に発表された新設計「Zenアーキテクチャ」を採用したCPU、「Ryzen」シリーズです。
「Ryzen」シリーズはそれまでのAMD製CPUの弱点であったシングルコア性能を大幅に向上させると同時に、多くのコアを搭載することでマルチコア性能においてIntelを圧倒しました。特に、動画編集や3Dレンダリング、ソフトウェア開発といった複数の処理を同時に行うプロフェッショナルな用途で、RyzenはIntelの同価格帯の製品を大きく上回る性能を発揮。それでいて価格は競争力のある設定だったため、「コストパフォーマンスのAMD」という定評を獲得しました。
IntelとAMDのCPUの設計思想の違い
では、具体的にIntelとAMDのCPUは何が違うのでしょうか。両社の製品の性能や価格、得意分野の違いは、その根底にある「設計思想」と「製造戦略」の違いから生まれています。
Intelは伝統的に「モノリシック(Monolithic)」と呼ばれる設計を採用してきました。これは、CPUの頭脳である「コア」や、データを一時的に保存する「キャッシュ」、その他の制御回路(I/O機能など)といった全ての要素を、一枚の大きなシリコンウェハ(半導体の基盤)上に作り込む方式です。
この方式には大きな弱点があります。チップが大きくなればなるほど、製造過程で微細な欠陥が一つでも発生すると、そのチップ全体が不良品となってしまうのです。そのため、高性能な多コアCPUを製造しようとすると、製造コストが急激に跳ね上がるという課題を抱えています。
一方、AMDはRyzenシリーズで「チップレット(Chiplet)」という革新的な設計を導入しました。これは、CPUの機能を小さなブロック(チップレット)に分割し、それぞれを個別に製造した上で、最終的に一つのパッケージ基板上で組み合わせる方式です。小さなチップレットは、大きなモノリシックチップに比べて不良品率が低く、製造コストを大幅に抑えられるのです。
「インテル入ってる」時代の終焉は近い?
2022年以降の生成AIブームは、半導体市場の主役をCPUからGPU(画像処理半導体)へと移しました。この巨大な波に、CPU中心の製品構成だったIntelはうまく乗ることができず、NVIDIAやAMDが業績を大きく伸ばす中で「一人負け」と評される状況に陥りました
こうした一人負けの発端となったのは、過去の悪い経営判断であるという指摘も少なくありません。たとえば、Intelは2005年頃にAppleから初代iPhone向けプロセッサの製造委託を打診されたものの、これを断ったという有名なエピソードがあります。この判断が結果的に、モバイル市場という巨大な成長機会を逃す結果となり、ライバルであるTSMCを世界最大の半導体企業へと押し上げる遠因になったとも指摘されています。
Intelは今なお世界トップクラスの技術力と開発力、そして巨大な資本を持つ半導体企業です。しかし『インテル入ってる』は圧倒的な品質の証ではなく、消費者にとっては「数ある選択肢の1つに過ぎないもの」となりました。
AMDの技術革新と巧みな戦略、そしてAppleをはじめとするビッグテックの「脱Intel」という大きな潮流によって、かつてのような絶対的な王座が失われたのは事実です。Intelは厳しい競争の真っ只中にあります。Intel一強時代が終わり、健全な競争が生まれたことは、消費者にとっては歓迎すべきこととも言えるでしょう。