次世代フロッピー「Zipドライブ」はなぜフロッピーディスクの代わりになれなかったのか?

次世代フロッピー「Zipドライブ」はなぜフロッピーディスクの代わりになれなかったのか?

数十年前のパソコンユーザーにとって、データの持ち運びやバックアップは日常的な課題で、その中心にあった媒体がフロッピーディスク(FD)です。しかし、当時の標準だった3.5インチFDの記憶容量はごくわずか。数MBのファイルをFD数枚に分割して保存・運搬するのは珍しくなく、その手間と時間、そしてFD自体の信頼性の低さ(読み取りエラーの頻発など)は、多くのユーザーにとって悩みの種でした。

このような状況下で、より大容量で高速、かつ信頼性の高い記憶媒体への渇望は日増しに高まっていました。そこに現れたのが、米Iomega(アイオメガ)社が1994年末に発表した「Zipドライブ」です。

しかし2025年現在、フロッピーディスクがインフラ業界や航空業界、軍事分野などでなお現役の媒体として使用され続けている場合があるのに対し、Zipドライブを目にすることは個人利用でも法人利用でもほぼないのではないでしょうか。

では、なぜ次世代フロッピーとして期待されたZipドライブは、いまひとつフロッピーディスクの代替として定着できなかったのでしょうか。

安価なドライブ、高価なディスク

Zipドライブの普及における最初のつまずきは、その価格戦略にありました。ドライブ本体の価格を戦略的に抑える一方で、専用のZipディスクの販売で利益を確保するという、いわゆる「プリンターとインク」のようなビジネスモデルでした。

その結果、Zipディスク1枚あたりの価格が高かった。フロッピーディスクのように気軽に何枚も購入して使い捨てるような感覚では使えませんでした。これは、バックアップやデータの種類ごとの整理といった用途には大きな障害となりました。さらに、競合となるMOディスクや、後述するCD-Rメディアが急速に価格を下げていく中で、Zipディスクの価格はなかなか下がりませんでした。

「Click of Death (死のクリック)」

Zipドライブの評価に最も深刻なダメージを与えたのが、通称「Click of Death(死のクリック、CoD)」と呼ばれる致命的な不具合でした。Zipドライブにディスクを挿入すると、「カチッ、カチッ」という異音(クリック音)が連続して発生し、ディスクが読み取れなくなる、最悪の場合にはディスクメディア自体を物理的に破損させてしまうという深刻な問題です。

この現象の原因としては、ドライブのヘッドがディスク上の正しい位置を見つけられずにリトライを繰り返すことによるとされています。ユーザーにとっては、保存していた大切なデータが一瞬にして失われるリスクを意味しこれは作業の中断だけでなく、精神的にも大きな打撃となりました。

「死のクリック」は1998年頃から世界的に問題が顕在化し、Zipドライブの信頼性は地に落ち、売上低下に拍車をかけることになりました。一度失った信頼を取り戻すのは非常に困難でした。

MOディスクの牙城

なお、フロッピーディスクの代替として日本国内で定着した媒体には、MOディスクがあります。MOはデータの書き換え耐性や長期保存性において評価が高く、特に信頼性を重視するユーザー層に支持されていました。

そのため「フロッピーディスクの代替」を求める層は、Zipドライブに頼らずともすでにMOドライブと多数のMOディスクという資産を持っているケースがある程度多かったと考えられます。

ユーザーにとって新たにZipドライブと高価なZipディスクを購入し、環境を移行するだけの強い動機付けがなかったとも言えるでしょう。

【2000年代以降】CD-Rやフラッシュメモリの登場と急激な低価格化

2000年代初頭には、多くのPCにCD-ROMドライブだけでなく、CD-R/RW(書き込み可能)ドライブが標準搭載されるようになりました。CD-Rメディアは、1枚あたりの価格が数十円レベルにまで急速に低下し、Zipディスクとは比較にならないほど安価になりました。これにより、バックアップやデータの配布に「使い捨て」感覚で利用できるようになりました。

加えて同時期に普及し始めたUSBフラッシュメモリ(USBメモリ)は、Zipドライブの存在意義を根底から揺るがしました。非常に小型軽量で、ドライブ本体が不要。PCのUSBポートに直接挿すだけで手軽に利用できる利便性は圧倒的でした。

総じて2000年代以降は、すでに記録媒体としての信頼性が低下していたZipドライブは「信頼性」「価格」の両面で競争力を完全に失ったと考えられます。

なぜ「フロッピーディスク」が生き残り、Zipドライブは姿を消した?

もっとも、CD-Rやフラッシュメモリの登場といったトレンドは、Zipドライブ「のみ」に影響したものではなく、フロッピーディスクにも影響したものです。

そして冒頭でも述べた通り、フロッピーディスクは2025年現在でもレガシー業種の産業機械などで現役で使われている場合があります。ではなぜ、フロッピーディスクは生き残り、Zipドライブは姿を消したのでしょうか。

その要因には、やはりZipドライブの「死のクリック」問題が挙げられます。この問題は、インフラ業種などでは致命的なものです。よって90年代に問題が顕在化した時点で、Zipドライブを廃止した企業も多かったと考えられます。

また産業機械や航空機など数十年単位で稼働し続ける高価な設備や制御システムでは、フロッピーディスクが組み込まれたまま運用されています。これらのシステムを新しい記録媒体に対応させるには巨額の投資や再認証などの手間がかかるため、現状維持が選ばれています。

またフロッピーディスクはインターネットから物理的に切り離された媒体であるため、今日のクラウドに比べ、サイバー攻撃や情報漏洩のリスクが低いと評価されることも。米軍や航空業界など、極めて強固な機密性が重視される現場で再評価されている側面もあります。

さらに、特定の制御データや小規模なファイルのやり取りなど、フロッピーディスクの容量(1.44MBなど)で十分なケースでは、あえて新しい媒体に移行する必要がありません。

このように、技術的には時代遅れでも、現場の実情やコスト、セキュリティ、互換性の観点から、フロッピーディスクは今もなお一部分野で現役の記録媒体として利用されています。

Zip(ジップ)は1994年後半にアメリカのアイオメガによって開発されたリムーバブル磁気ディスクメディア。ディスク容量(および対応ドライブ)は、最初は100 MBのものが、後に250 MB、750 MBの製品が登場した。主にパソコンで使用される。大容量フロッピーディスクの一種として知られているが、サイズは3.7インチで互換性は全くない。ドライブは既に製造終了している。

Zipドライブが標準搭載されていた1997 – 1999年代のPower Macintosh(Macintosh G3 MT)

ZipドライブとZipディスクの売り上げは1998年から徐々に下降していった[4]。1998年9月、Click of death(英語版)と呼ばれるZipディスクの不具合に関する集団訴訟が起こされた。この訴訟はアイオメガの敗訴に終わっただけでなく、Zipへの信頼性を低下させるものであり、売上低下に拍車をかけた。

1998年9月に報告されたZipドライブの欠陥。

販売初期の普及規格である100 MBドライブにおいてディスクをセットした後にクリック音とともにZipドライブへのアクセスおよびディスクの読み取りができなくなってしまう現象。この現象が発生した場合、ドライブが使用不能になるだけでなく、その際にセットしていたディスクも使用不能になる可能性が高い。原因はディスクメディア上に塗布された金属粉と、読み出し装置に蓄積された潤滑油で、1995年1月以降に生産されたドライブに集中した。アイオメガの発表では製品の0.5%に発生しているという。

🍎たったひとつの真実見抜く、見た目は大人、頭脳は子供、その名は名馬鹿ヒカル!🍏