人型ロボット開発競争、中国が米国に先行 テスラやエヌビディアに危機感か 中国自動車大手は既に導入済み
米テスラや米エヌビディア(NVIDIA)などの米国のテクノロジー大手が次世代の成長分野として人型ロボットの開発に注力している。しかし、専門家らは中国が既にこの分野で優位に立っていると指摘する。
中国企業の台頭、テスラと同等の生産目標
人型ロボットは、AI(人工知能)を搭載して人間のように振る舞う能力を持つことから、産業やサービス部門など幅広い分野での活用が期待されている。エヌビディアのジェンスン・ファンCEO(最高経営責任者)は、2025年3月に人型ロボット開発のための新技術を発表し、「汎用ロボティクスの時代」の到来を宣言した。
一方、テスラのイーロン・マスクCEOは、同社の人型ロボット「Optimus(オプティマス)」について、2025年中に約5000台を生産する計画を発表した。しかし、中国企業はその先を行きつつある。中国・杭州の宇樹科技(Unitree Robotics)は既に消費者向け人型ロボットを販売している。上海に拠点を置くロボットスタートアップ、智元機器人(AGIBOT)は、テスラのOptimusと同等の生産目標を掲げている。
専門家らは、比亜迪(BYD)のような中国の電気自動車(EV)大手がテスラの成長率を上回り、価格競争で優位に立ち始めているように、人型ロボット分野でも同様の状況が起こり得ると指摘する。
米CNBCによれば、半導体とAIを専門とする米調査分析会社、セミアナリシス(SemiAnalysis)のアナリスト、、レイキー・クヌートセン氏は、「中国は、EV業界での破壊的な影響を人型ロボット分野で再現する可能性がある」と語った。「しかし、今回の破壊は単一の業界にとどまらず、労働力そのものを変革する可能性がある」(同)
中国の強み、価格競争力と政府の強力な後押し
中国企業は、価格競争力でも米国企業を上回るようだ。Unitree Roboticsが2025年5月に発売した人型ロボット「G1」の価格は1万6000米ドル(約240万円)からとなる。米金融大手モルガン・スタンレーはテスラの「Optimus Gen2」の販売価格は2万米ドル(約300万円)になると推計している。
中国は関連の特許数でも米国を大きく上回っている。モルガン・スタンレーの調査によると、過去5年間で「ヒューマノイド」に関する特許出願件数は、中国が5688件であったのに対し、米国は1483件にとどまった。加えて、中国政府もロボット産業を強力に後押ししている。2023年には、中国工業・情報化部が人型ロボット産業の発展に関するガイドラインを発表し、2025年までに「大規模生産」を目指す方針を示した。
イーロン・マスク氏は、2025年内にテスラの工場で1000台以上のOptimusを稼働させる計画を明らかにしている。これに対し、BYDや中国・浙江吉利控股集団(Geely Holdingグループ)などの中国自動車大手は、既にUnitree Roboticsの人型ロボットをそれぞれの工場に導入している。
世界年間販売台数、2030年までに100万台 米国の課題
人型ロボットは、労働力不足の解消や生産性向上など、様々な恩恵をもたらすと期待されている。米銀大手バンク・オブ・アメリカのアナリストは、人型ロボットの世界の年間販売台数は2030年までに100万台に達し、2060年までに30億台が稼働すると予測している。
今後、人型ロボットの普及は、AI技術の発展とともに加速すると予想される。米国企業は、中国企業との競争に勝つために、国内または同盟国企業との連携を強化し、部品調達や製造のサプライチェーンを見直す必要があると指摘されている。
筆者からの補足コメント:
アマゾンもロボットに積極投資しています。同社は、出資する米新興企業、アジリティ・ロボティクスが開発した人型ロボット「Digit(ディジット)」の運用テストを始めました。2足歩行ロボットであるDigitは、物流施設内を移動し、二本の腕で物品を持ち上げ、別の場所に移します。これらのロボットは現時点で主に工場や倉庫での作業に使用されています。しかし、可能性は物流センターよりもはるかに広いと専門家はみています。将来的には、家庭やオフィスで人々と共に働き、様々なタスクをこなせるようになるとしています。
米金融大手ゴールドマン・サックスの分析によると、人型ロボット市場は今後20年で380億ドル(約5兆5000億円)規模へと拡大する見通し。スマートフォンや電気自動車(EV)のような必須デバイスになるといいます。