備蓄米の放出で倉庫業者が“廃業危機”報道も…「大量に保管していたのはJA」との指摘 “江藤米”の流通が遅れた真の理由とは

コメの流通経路は「際立って前時代的」と「ドンキ」社長が喝破…「小泉大臣」方式の圧倒的なスピード感に「これまで遅かったのは誰のせい?」

ちなみに週刊新潮の取材によると、いわゆる“江藤米”の流通は6月に入ってようやく本格化してきたという(註1)。「あまりにも遅すぎる」と怒りを通り越し、呆れる消費者も多いに違いない。

 一方、小泉進次郎・農水相は備蓄米の売り渡しを随意契約で実施した。26日から書類の受け付けなどを開始すると、27日には19社が申請。この日の会見で小泉農水相は「早い事業者とは今日にも契約を完了する。6月2日に並べられるという事業者もいた」と進捗状況を説明した。

 ところが蓋を開けてみると6月2日より早かった。楽天は5月29日に特設ページを開設し、備蓄米の販売を開始。アイリスオーヤマは31日、仙台市と千葉県松戸市にあるホームセンターの店頭に備蓄米を並べると大行列が発生した。担当記者が言う。

「そもそも江藤さんが農水相の時から、JAと卸業者の不要論はネット上で盛んでした。コメ価格の高騰や、備蓄米の流通が遅い原因だと考えられているからです。その一方でJAや卸業者は必要だという反論も決して少なくありません。全国のコメ農家から集荷して精米、保管や流通を担えるのはJAや卸業者という“専門家集団”だけであり、もし消滅すればコメの物流が大混乱するという見解です」

ドン・キホーテが意見書を提出

 なぜ“江藤米”は、なかなか小売店に並ばないのか。江藤前農水相は4月18日の大臣会見で理由を説明した。

「江藤さんは『備蓄米倉庫は東北に多い』、『3月と4月は人事異動の時期』、『トラックの手配が難しい』の3点を主な理由として挙げました。ところが“小泉米”はアイリスオーヤマ、イオン、『ドン・キホーテ』を展開するPPIH(註2)といった大手小売業者が比較にならないスピードで備蓄米を店頭に並べてみせました。こうなると江藤さんの説明は『事実と異なるのではないか』と疑問視されるのは当然でしょうし、JAと卸業者の不要論も再燃したのです」(同・記者)

 議論の場はネットからリアルに移りつつある。PPIHの吉田直樹社長は5月、小泉農水相に意見書を提出、コメ流通の問題として以下の点を指摘した。

【1】集荷を担当するJAと取引する一次問屋は実質的に特約店のようになっており、新規参入が難しい。

【2】問屋は一次、二次、三次とあり、五次問屋まで存在する。ブローカーのような利益だけを目的とする業者も横行しており、中間コストとマージンの累積がコメの高騰を招いている。

【3】今回のように需給のバランスが崩れた時、問屋は流通に協力するより利益を優先させる。このためコメの供給量が抑えられてしまう。

“卸悪玉論”にシフト?

 吉田社長は6月1日に記者団の取材に応じ、「魚や野菜など、ほかの食品と比べても、コメの流通経路は際立って前時代的だ」と厳しく批判。小泉農水相は「一つの参考にすべき意見」と評価した上で、「コメの流通は透明化をしなければいけない」と意欲を見せた。

 備蓄米の流通問題に関してはネット上で「“江藤米”の独占落札でJAは不当な利益を得た」との投稿も散見される。だが、これは事実とは異なるようだ。JAは3月、備蓄米では利益を得ないとの方針を発表している。

 一方の卸業者は、小泉農水相が6月5日、衆議院の農林水産委員会で”爆弾発言”を行って話題を集めた。

 国民民主党の村岡敏英議員がコメの流通過程で上乗せ額があることを問題視。「流通過程が高騰を起こしている原因のひとつだと考えられる」と指摘した。

 これに小泉農水相は「社名は言いませんけど、米の卸売の大手の売上高、営業利益を見ますと、営業利益はなんと対前年比500%くらいです」と回答。「この上がり方は異常。4200円の平均価格がおかしいのではなくて、上がり方がおかしい」と、かなり強い調子で批判した。

 こうなると世論は“JA悪玉論”から“卸悪玉論”にシフトするのだろうか。

 だが、JAに再び猛烈な批判が殺到する可能性も決して低くない。鍵を握るのは備蓄米制度そのものだ。

 第2回【備蓄米の放出で倉庫業者が“廃業危機”報道も…「大量に保管していたのはJA」との指摘 “江藤米”の流通が遅れた真の理由とは】では、JAが“備蓄米ビジネス”を展開している実態をお伝えする。

註1:「今後のコメ価格はせいぜい300円程度しか下がらない」 現場からは批判が噴出 「物流が止まっているのに、小泉さんは何を言ってるのか」(デイリー新潮:6月4日)

註2:パン・パシフィック・インターナショナルホールディングス

備蓄米の放出で倉庫業者が“廃業危機”報道も…「大量に保管していたのはJA」との指摘 “江藤米”の流通が遅れた真の理由とは

第1回【コメの流通経路は「際立って前時代的」と「ドンキ」社長が喝破…「小泉大臣」方式の圧倒的なスピード感に「これまで遅かったのは誰のせい?」】からの続き──。共同通信は6月1日、「【独自】備蓄米放出で倉庫収入消失 月4億6千万円、廃業検討も」とのスクープ記事を配信した。

記事によると備蓄米は60万トンを超える量が放出されるため、全国各地で保管している倉庫では東京ドーム約8個分の空きが生じる。結果、倉庫会社が受け取ってきた保管料が1カ月あたり約4億6000億円失われる見通しだという。

 共同通信は《廃業を検討する事業者もある》と伝えた。記事はネット上でも拡散し、XなどのSNSには様々な感想や意見が投稿された。担当記者が言う。

「何よりも多くの読者が驚きました。『倉庫に備蓄米が保管されていないと、倉庫会社は収入を得られない』との制度設計になっていると初めて知ったからです。これでは凶作や災害が発生して備蓄米を放出するたびに、倉庫会社は経営難で廃業することになるでしょう。Xでは『備蓄米は放出するのが本来の使い方だから、放出して破綻はおかしい』、『倉庫会社には備蓄米の保管料ではなく、倉庫自体のレンタル料を払ってほしい』、『備蓄米の保管は民間委託ではなく、国営の倉庫で行うほうがいい』など、放出しても倉庫会社が困らない制度に改めるべきという意見が目立ちました」

 ところが、である。備蓄米を預かる倉庫のうち、かなりの数をJAが運営していることをご存知だろうか。

JAの低温倉庫で保存

「日本経済新聞の電子版は1月31日、『備蓄米100万トン、維持費は年478億円 低温倉庫で保管』との記事で、備蓄米は《各地のJAなどにある低温倉庫で保管される》と伝えました。また読売新聞の編集委員は自身のXで備蓄米の大量放出問題に触れ、《備蓄米の在庫が減れば1万トンあたり年1億円の血税を払ってきた倉庫費用が浮く》と指摘、《備蓄米の多くを保管してきたJAは収入減で困るだろう》と投稿したのです(註)」(同・記者)

 備蓄米を保管する倉庫の所在地を、国は「防犯上の理由」から非公表としている。だが新聞記事のデータベースで調べてみると、JAの倉庫が備蓄米を保管していると伝える複数の記事が表示される。

 例えば東北地方のJAが低温保存も可能な倉庫を竣工したと伝えた記事では、「備蓄米を保管することも計画」と報じた。上越地方にあるJAの低温倉庫は一般開放を行い、ガイドツアーが備蓄米の保管状況を見学者に説明した。首都圏のJA倉庫では火事が発生し、多量の備蓄米が焼けた……。

「もちろん物流など、備蓄米の保管を引き受けている、JAとは無関係の民間企業もあります。ただ考えてみると当たり前ですが、JAはコメの集荷を担っています。保管用の倉庫を整備することは重要な事業でしょう。最新型の低温管理倉庫も持っていますから、そこで大量の備蓄米を保管するのは理に適っていると言えます。そして、だからこそJAが落札した“江藤米”の流通がなぜ遅れたのかという疑問に再び注目が集まっているのです」

回転備蓄と棚上備蓄

 多くの消費者は「国の倉庫に保管されている備蓄米をJAが落札。JAが国の倉庫から備蓄米を受け取って精米や発送を行っている」と思っていたのではないだろうか。

 しかしJAが備蓄米の相当量を保管しているのだから、中には「JAが倉庫に保管していた備蓄米をJAが落札した」というケースもあったかもしれない。その時にJAが急いで手元の備蓄米を卸に流してしまうと、倉庫の保管料は減少してしまう──。

「JAが備蓄米制度に強い影響力を行使した問題は他にもあります。例えば備蓄米の保管方法は2011年に『回転備蓄』から『棚上備蓄』に変更されました。前者は備蓄米を数年保管した後、主食用の古米として市場に売却します。後者は数年保管した後、飼料用など非主食用として売却します」(同・記者)

 棚上備蓄に切り替わったからこそ、国民民主党の玉木雄一郎代表は5年を過ぎた備蓄米を「エサ米」と呼んで炎上したわけだ。

 実は農水省の試算によると、今の棚上備蓄より昔の回転備蓄のほうが国民の負担は少ないのだという。なぜ国は棚上備蓄に変更したのか、そこにJAの圧力があったのか、第3回【東日本大震災での放出は「4万トン」…備蓄米は本当に「100万トン」も必要なのか JAの影が見え隠れする“備蓄米ビジネス”のカラクリ】では詳細に報じている──。

東日本大震災での放出は「4万トン」…備蓄米は本当に「100万トン」も必要なのか JAの影が見え隠れする“備蓄米ビジネス”のカラクリ

何しろ小泉農水相は備蓄米を徹底的に売り渡す構えだ。主食用だけでなく味噌や日本酒など加工用の放出も検討しているほか、江藤拓・前農水相が入札で売却した“江藤米”も買い戻し、随意契約で価格を下げて再放出することも「一つの選択肢」だと明言している。

 備蓄米の「適性備蓄水準」を農水省は100万トン程度と発表している。「10年に1度の凶作や、通常の不作が2年連続しても耐えられる目安」が量の根拠だ。

 2018年6月の時点では91万トンだった。これがゼロになったら万が一の事態に対応できない。小泉農水相は国会で「仮に全部放出して、その後どうするかについては、ミニマムアクセス米の活用も可能だ」と説明している。年間約77万トンを輸入している外国産米を国産米の代わりに備蓄するというわけだ。

 では実際に万が一の事態が発生した時、どれほどの量が放出されたのだろうか。備蓄米が放出された事例としては、2011年の東日本大震災と2016年の熊本地震が知られている。

 その量は東日本大震災が4万トン、熊本地震が90トンだった。誤記かと目を疑った方もいるだろう。

 東日本大震災でも備蓄量100万トンに対して4%に過ぎず、熊本地震に到っては0・009%という非常に小さな割合だ。おまけに東日本大震災の4万トンは卸業者への売却だ。被災者に無料で届けたわけではない。担当記者が言う。

コメの備蓄は誰のため?

「実は以前から備蓄米の制度設計は過剰なのではないかと囁かれていました。なぜ政府は、これほど大量のコメを保管しているのか、その謎を解く鍵の一つとして、2008年に農水省が発表した『米の備蓄運営等について』という文書があります。ここには政府がコメを買い入れたのは《農協系統の要請》と明記されています。2000年代後半から2010年代はコメの価格が暴落しており、自民党の農水族だけでなく野党の共産党さえも『政府は備蓄米の買い入れ量を増やすべきだ』と強い圧力をかけていました」(同・記者)

 つまり備蓄米制度は凶作や災害の備えになるよりも、農家の収入補償に使われることのほうがよほど多かった。だからこそ100万トンという量は「適性備蓄水準」なのかという疑問が囁かれてきたわけだ。

 JAの剛腕が垣間見えたのは2011年、政府が備蓄米の保管方法を「回転備蓄」から「棚上備蓄」に変更した時だ。

「回転備蓄は保管期限を過ぎたコメは主食用の古米として売却します。一方の棚上備蓄は飼料用など非主食用のコメとして売却します。農水省の文書『米の備蓄運営等について』には3年の保管期限による試算を載せました。それによると回転備蓄での財政負担は年150億円程度なのに対し、棚上備蓄は700億円が必要だというのです。つまり国民の血税が多く使われることは事前に分かっていたにもかかわらず、政府は棚上備蓄に変更したのです。理由はコメの価格安定を求めるJAが棚上備蓄にすべきと圧力をかけたからです」

コメが安くなると困るJA

 消費者にとっては回転備蓄のほうがメリットは大きい。その時点での流通量などで価格に変動が起きるとはいえ、農水省の試算では3年の保管期限を過ぎた「古古古米」は60キロ3万円、つまり5キロ2500円で売却できると予測している。

「もし現在も回転備蓄を行っていたら、保管に使われる国民の税金は5分の1で済んだ可能性があります。しかも農水省の試算で保管期間は3年でしたが、今の制度は5年保管です。JAは備蓄米の保管も引き受けていますから、長く預かると保管料は増えます。また回転備蓄は昨夏から始まったコメ高騰も封じ込めたかもしれません。専門家はコメの価格が異常に上昇した原因としてコメ不足を指摘しています。定期的に5キロ2500円台の古古古米が市場に流れることで、需要と供給のギャップが少なくなったのではないでしょうか。要するに全て話は逆で、コメ価格が安くなるからこそ、JAは回転備蓄を棚上備蓄に変えるよう自民党や政府に迫ったのです。古くなった備蓄米が市場に放出され、価格が下がることをJAは常に嫌がってきました」(同・記者)

 棚上備蓄に変えれば古くなった備蓄米は非主食用として売却される。つまりコメの小売価格には影響を与えない。そして備蓄米が放出されず、ずっと倉庫に置いてもらえれば、JAには保管料が毎年転がり込んでくる……。

 これこそがJAによる“備蓄米ビジネス”のカラクリだ。これでは“江藤米”の流通スピードが遅かったのはJAの責任なのかどうか、政府の調査対象に含まれても仕方ないだろう。

JA批判が再燃する可能性

 JAは“江藤米”の価格を不当に釣り上げ、大幅な収益を手にいれた──ネットでよく目にする投稿だが、これは事実とは異なる。ではJAがコメの価格が下がらないよう“暗躍”していたとの疑惑はどうか。

「“小泉米”は随意契約で売り渡され、『備蓄米』と明記することで低価格での販売が実現しました。一方の“江藤米”は備蓄米の入札が行われ、JAは高値で落札しました。さらに流通時には『販売時は備蓄米と明記しないでほしい』と要請しています。備蓄米よりただのブレンド米のほうが小売価格は高くなるからです。“小泉米”と“江藤米”はまさに正反対の方法で小売に届けられました。小泉農水相はコメ価格高騰の原因分析を行う考えを明らかにしています。もしJAの『コメ価格の高値維持』との狙いが明らかになれば、消費者のJA批判が再燃するのは間違いありません」(同・記者)

 すでに関係者の“JA離れ”は始まっているとの指摘もある。キヤノングローバル戦略研究所の山下一仁研究主幹によると、1980年代まで農協の集荷シェアは95%あったという。

 ところが2022年度を見ると53%とほぼ半減。さらに2024年産に限ると26%にまで落ち込んだ。コメ農家がJAを通さず、様々な販路でコメを売っていることが分かる(註1・2・3)。

着実に進む“JA離れ”

 コメの民間輸入も急増している。関税を払っても国産米より割安なので、スーパーや外食産業が外国産米を買い入れている。当然ながら、これも“JA離れ”の一種だろう。

 第1回【コメの流通経路は「際立って前時代的」と「ドンキ」社長が喝破…「小泉大臣」方式の圧倒的なスピード感に「これまで遅かったのは誰のせい?」】では、「ドン・キホーテ」の社長がJAではなくコメの卸業者を批判するなど、“JA悪玉論”から“卸業者悪玉論”に世論が動く可能性について詳細に報じている──。

註1:令和コメ騒動の農水省にとって不都合な真実 既得権者しか見ない農政を放置してよいのか(キヤノングローバル戦略研究所公式サイト:3月27日)

註2:【農協協会・JAのコメ実態調査】JAの集荷率53% 担い手集積率39%(農業協同組合新聞:2022年8月24日)

註3:全農、24年産米集荷14%減 競争激化で苦戦(日本農業新聞電子版:3月26日)

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