脱・税理士 天下一品を襲った閉店ラッシュから見る中小企業が学ぶべきこととは?財務のプロが解説します。

ラーメンチェーン「天下一品」が6月末に首都圏で大量閉店 フランチャイズ離脱が原因か

ラーメンチェーン「天下一品」の大量閉店がSNS(交流サイト)などで話題となっている。鶏ガラベースのこってり味がやみつきになると根強いファンも多い天一だが、首都圏の店舗が6月末に大量閉店することが店頭の掲示物などで明らかとなった。ラーメン業界は競争の激化に加え、食材価格や人件費の高騰に苦しんでおり、関係者は「フランチャイズ(FC)店舗の離脱が増えているのではないか」と指摘する。

■ピークから2割近く減少

6月30日で閉店するのは渋谷店、田町店、目黒店、新宿西口店、吉祥寺店、池袋西口店、蒲田店、川崎店、大船店、大宮東口店と少なくとも10店舗。いずれも東京や神奈川など首都圏にある。

天一を手がける天一食品商事(滋賀県)の公式サイトによると、5月29日時点で209店舗を展開。同社の広報担当者は「この件に関する取材はすべてお断りしている」とし、近年の店舗数がどう推移しているかも「ネガティブな印象を与えかねない」として回答を控えた。

ただ、過去の公式情報をたどると2004年に全国で200店舗に到達。230~240店舗まで広げ、全国300店舗を目指して拡大路線を敷いていたことが分かる。今回の大量閉店によって6月末時点で200店舗ほどとなり、ピーク時からは少なくとも2割近くは減っていることになる。

■昨年の倒産、過去最高を更新

ラーメン業界を取り巻く経営環境について、ある大手ラーメンチェーンは「新規参入や出店が多く、トレンド(流行)の移り変わりも激しい」と厳しさを明かす。

実際に近年のラーメン店市場は、その人気と裏腹に生き残りが難しい環境となっている。東京商工リサーチによると、24年に倒産したラーメン店は前年比26・6%増の57件で、23年の45件を上回り過去最高を更新した。「行列のできる人気店がある一方で食材や光熱費、人件費が上がり経営に行き詰まる店の淘汰がハイペースで進んでいる」(担当者)という。

天一の大量閉店は必ずしもこの背景と重ならないが、食材や運営コストの高騰は共通する。同社は他の外食チェーン同様にコスト上昇を理由とする値上げを少なくとも22年6月と23年2月に実施。かつて600円台で提供されていた看板メニュー「こってりラーメン」(並)の価格は900円台と大幅に上昇しており、それに伴ってFC店舗が本部から仕入れる食材費も値上がりしているとみられる。

■「千円の壁」超えていないが…

首都圏は、こってり味で天一と競合する「二郎系」や「家系」に加え、つけ麺などさまざまなラーメン業態がしのぎを削る激戦区。「京都発祥の天一は知名度が比較的高く、ファン層が厚いのは関西に限られる」との見方もあり、〝千円の壁〟を超えていなくても値上げで客離れが生じ、FC店舗の経営を圧迫している可能性がある。

正式に公表していないが、同社は店舗の約9割をFCが占めるという。業界に詳しい関係者は「FC店舗の離脱が大量閉店につながっているのではないか」と指摘する。

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「天下一品」大量閉店は“愛弟子の反乱”によって起こった…「こってりスープ」「徒弟制」で見えた“限界”

全国で200店以上を展開するラーメンチェーン「天下一品」が、6月末をもって都内23店舗のうち7店舗を閉店する。なお同ブランドは昨年6月にも6店舗を閉鎖しており、1年間で都内の店舗数がほぼ半減したことになる。

1981年に京都で創業した天下一品の「こってりスープ」は他チェーンにない独自のもので、熱烈なファンも多い逸品だ。閉店が相次ぐということは、その味や集客力に陰りが見えたのかと疑う人もいるだろう。これまで天下一品を愛してきた人々にとって、今般の一斉閉店は「衝撃」以外の何物でもない。

 しかし、閉店を予定している新宿西口店、池袋西口店、吉祥寺店などが、店としての活気を失っている様子はない。そもそも、ここ1年で閉店した店舗は運営元の直営店ではなく、フランチャイズ店舗だと、各社がすでに報じている。つまり、昨年6月の閉店分も含めて都内13店、首都圏全体で16店という大量閉店の真因は「天下一品の凋落」というわけではない。フランチャイズ店舗を運営していたエムピーキッチン、ティーフーズの2社に何らかの理由がある、と考えるのが妥当だろう。

 では、その理由とは何かを本稿では探っていきたい。なお、今回の執筆に当たって天下一品の運営会社(天一食品商事)や、エムピーキッチンなどに閉店理由、フランチャイズ店舗の詳細などを確認したものの、回答は得られなかった。また、本稿では各社報道や、購入時のレシート、過去の求人サイト記載分を参考にしながらエムピーキッチンとティーフーズ、エムピーキッチンホールディングスを、基本的に同グループとして扱う。

確かに美味しいが…天下一品店舗で感じた「違和感」

 チェーン店において、都心部への出店は「ウチは激戦区でも人気あるぞ!」とばかりに、ブランド力・競争力を世に示すのに有効だ。その点、6月末で閉店となる店に渋谷センター街の渋谷店や、池袋西口店などが含まれているのは見逃せない。

 再出店が困難であろう立地の店舗を一斉に失う天下一品のダメージは、「たかが数店の閉店」で片付けられないほどに深いだろう。

  今回の記事を書くために、閉店する新宿西口店へ足を運んだ。辺りは都内でも屈指のラーメン激戦区で、並の店なら逃げ出したくなるほどの競合がひしめく。この中で、天下一品はおおよそ20年にわたって鎮座してきた。この日も行列になるほど人気で、20分待って、やっと入店できた。

 天下一品のこってりスープは、“飲むスープ”ではなく“食べるスープ”というキャッチフレーズに相応しい濃厚さを誇る。ご飯や唐揚げとの相性も抜群——なのだが、店の壁やテーブルが至る所で古びており、カウンター席は肘が当たるほどに狭いのが気になる。

味は良いのに、細かい部分が「もったいない」

 一つ気になると、いろんなことが目に付く。例えばメニューでは「どのセットが人気なのか」「なぜ天下一品のこってりスープは美味しいのか」といった訴求がきわめて少ない。初心者には優しくないかもしれない。昨今のチェーン店にしては珍しくキャッシュレスに対応しておらず、レジにたどり着くまでも行列。その並ぶ時間で、こってりスープの余韻も冷めてしまう。

 「直営ではないフランチャイズ店舗だからかな?」と思いきや、都内の直営店でもキャッシュレスは非対応。ある店舗では故障した自動ドアがずっとそのままになっていたり、いまひとつ清掃状況が良くなかったりする。全体的に直営・フランチャイズを問わず「昔ながらの古びたラーメン屋」のような佇まいの店舗が多い印象を受けるのが天下一品である。

三田製麺所は初心者にも優しい店づくり

 比較対象として、閉店する天下一品店舗の多くを運営するエムピーキッチン系列企業が手掛けるつけ麺専門店「三田製麺所」を見てみよう。

 もともと天下一品の恵比寿店だった場所にある三田製麺所の恵比寿店を訪れると、一定の清潔感があって、パーソナルスペースを保った状態で過ごせる。メニューも豊富ながら注文画面はシンプルで、店内の巨大看板でつけ麺のスープが「3種類を炊き出し、抽出して合わせている」と説明されているため「迷ったら特濃つけ麺・つけ麺を頼んだらいいのか!」と、初見の客でもすぐに分かる。スマホオーダーに対応し、キャッシュレス・セルフレジで会計のストレスも少ない。天下一品と比較して、こちらの方が「今どきの普通の外食チェーン店」だと感じる。

 こうして見ると、同じ「チェーンのラーメン店」でも、店づくりが全く違うことが分かる。それでも、エムピーキッチンにとっては「天下一品のフランチャイズ加盟店」「三田製麺所の本部・直営店」の両刀で、収益をあげていく道もあったはずだ。今回、なぜ天下一品から“離反”したのか。

「徒弟制」と「ビジネス」の相性が悪かった

 冒頭で示した通り、同社からの回答は得られなかったため真相は不明だが、推察するに近年の経営姿勢からは「フランチャイズの大量離脱があっても、仕方ないのでは?」と思わせる動きが、多々あった。

 まず、一般的なフランチャイズ制度について、今更ながらおさらいしておこう。直営店の場合はチェーン店の本部が運営、利益を得る。加盟店は、本部と契約を結んだ企業(フランチャイジー)が運営し、利益は基本的にフランチャイジー側が得るのだが、本部も慈善事業ではないので加盟店から「ロイヤリティ」(手数料。一般的に売り上げの3〜10%)や「使用食材の販売」などで利益を得ている。また、加盟店のメニューや店づくり、経営方針は「基本的に本部の言いなり」だ。

 話を戻す。天下一品を運営する天一食品商事と、フランチャイズ加盟店として天下一品との関係を保ちつつ、同時に三田製麺所も展開してきたエムピー側は、両社の持つ経営上のノウハウや、フランチャイズ加盟店との関係で大きく違う印象を受ける。

 まず天下一品では「こってり」の注文が全体の7割を占めている。他がマネできないメニューの存在は、誰もが認める安定経営の武器だ。ただ、こってりスープの人気が強烈すぎるのは、逆に弱みにもなり得る。新規顧客層がこってりスープにハマるきっかけを作れなければ裾野を広げられない。先に触れたような「昔ながらのラーメン店」的な店作りも含めて、よくも悪くもコアなファン頼み、といった印象を受ける。

 それでも天下一品は、フランチャイズ加盟店も含めて、200店以上まで店舗数を増やしてきたのは素直に評価できる。まとめると、秘伝のスープ誕生までのストーリーや、創業者のカリスマ性も含めた「徒弟制型フランチャイズ」と例えればわかりやすいだろうか。

 一方のエムピーキッチンは、天下一品のフランチャイズ加盟店として会社の基礎を築きつつ、2008年に1号店を出店した独自ブランド・三田製麺所が難なく50店を突破、自らフランチャイズ加盟店を募るまでになった。

 三田製麺所の店づくりは、外食チェーンらしい「癖がなく、入りやすい店」と言える。ラーメン店を支える「成人男性」以外も入りやすく、こってりスープよりも好みが分かれないメニューのつけ麺は、幅広く顧客層を獲得しやすい。

 SNS施策などを基に「どれくらいコアユーザーを獲得できているか」などの分析を行うなど、今どきの外食企業に必要なブランディング・マーケティングの基本も押さえている。もともとライバルが少ない「つけ麺特化」や、粉モノのプロという印象を受ける「製麺所」という屋号(先達には「丸亀製麺」がいる)といった戦略からも、したたかな計算が垣間見える。まとめると、エムピー側の戦い方は、徒弟制のような天下一品と比べると、今どきの外食企業型と呼べるものだ。

 ゼンショーで「すき家」など約2000店の出店に関わった村上竹彦氏(現:エムピーキッチンホールディングス会長)や、のちに「資さんうどん」を全国進出に導く佐藤崇史氏を社長として招聘する(退任済、現在は資さん社長)など、人材登用の面でも一族経営を続ける天下一品の人材登用と対照的だ。

こうして見ると「天下一品・天一食品商事」と「三田製麺所・エムピー」の両陣営は、あまりにも社風が離れている印象がある。かつ、エムピー側が三田製麺所のフランチャイズ本部として得た「今どきの外食企業」としてのノウハウを、師匠筋である天下一品のフランチャイズ加盟店で生かし切るには、何らかのハレーションが起きる可能性が高い。偉大な師匠(天下一品)に付き従ってきた弟子(エムピー)が、自ら軍団(フランチャイズ)を率いるようになり、外食企業の経営者として違った地平線を見渡すようになってしまったようなものだ。

天下一品は「ジリ貧」になる可能性も?

 さて、今後の天下一品と三田製麺所(エムピー)はどうなっていくのだろうか。

 唯一無二のこってりスープがある限り、天下一品ブランドが消えることはまずないだろう。直近では、2024年に閉店した五反田店の代わりを担うべく、別のフランチャイジーが同エリアで新店をオープンした。ここから反転攻勢で、再び都内での店舗増を果たす可能性は十分にある。

 ただ、順調に拡大できるかは正直分からない。ひと昔前なら「こってり一本足打法」で十二分に勝てたはずだが、最近は横浜家系や博多豚骨系を中心に「魁力屋」「山岡家」「来来亭」「豚山」といった満足感が高い「ガッツリ系」のチェーンが勢力を拡大している。「濃い味・ガッツリ」を求める消費者は、単価1000円をゆうに超える天下一品を、むしろ選ばないのではないか。天下一品は今後、過去の全国展開時にはなかった、濃い味・ガッツリチェーン同士の競争に巻き込まれていくだろう。

 三田製麺所を展開するエムピー側は、グループの経営目標として「2025年に100店舗&上場達成」を掲げているが、三田製麺所や「渋谷餃子」などのブランドを含めて、ホームページ記載分だと現状は60店少々しかない。2024年に閉店した天下一品の都内6店のうち、5店(歌舞伎町店、池袋東口店、恵比寿店、八幡山店、多摩ニュータウン店)を三田製麺所へ転換したように、6月に閉店する都内7店舗(首都圏全体で10店舗)も、同様に三田製麺所やグループの他ブランドに転換される可能性は高いだろう。

「いきなり大量閉店」は今後も起こり得る

 外食業界以外でも、九州の一部でコンビニ「サンクス」のフランチャイズ加盟店が100店規模でローソンに転換するなど、フランチャイジーの“乗り換え”事例は意外と多い。本部と関係性が悪化し、「ほっかほっか亭」とのフランチャイズ加盟企業がいっせいに契約解除→新ブランド「ほっともっと」立ち上げに至った一件を覚えている方も多いだろう。

 このようなケースでは、本部が「裏切りやがったな!」とばかりに、加盟企業を相手取って訴訟を起こすような事例が絶えない。しかしフランチャイジー側も、先細りするブランドから脱却、生き残るため乗り換えに踏み切ったわけで、リスクは百も承知のはず。今後も乗り換えはあらゆるブランドで起こり得るだろう。

 推計6000億円というラーメン店市場は、底支えしてきた個人店が次々と閉業しており、次なる局面はチェーン店同士の熾烈な競争だろう。もはや「美味しい」だけではなく、ビジネス面での強みもないと生き残れない時代がすぐそこまで来ている。愚直に昔ながらを維持する天下一品と、ビジネスに長けたエムピーキッチン・三田製麺所がどのように戦っていくのか、目が離せない。

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