本物そっくりの“偽サイト”で個人情報を抜き取る「ファーミング」とは?
いつも通りログインしているのにログインに失敗する。よく使うWebサイトの見た目が少し違う気がする。このような場面に遭遇した場合、「ファーミング」の被害に遭っている可能性がある。本稿はファーミングの攻撃手法、ファーミングの被害者になっている場合の兆候などを紹介する。
典型的なファーミングの手口
ファーミング(pharming)とは、DNS(ドメインネームシステム)を悪用してエンドユーザーを偽のWebサイトに誘導し、個人情報や機密情報を窃取する攻撃手法だ。ファーミングの具体例には以下がある。
・ログイン認証情報を窃取する:エンドユーザーを偽のWebサイトに誘導し、ユーザー名とパスワードを盗む。
・マルウェアを配布する:正規のダウンロードファイルを装った添付ファイルにトロイの木馬といったマルウェアを仕込んで実行させ、エンドユーザーのPCのDNS設定を改ざんする。
・ソーシャルネットワーキングサービス(SNS)のアカウントを乗っ取る:正規のユーザーアカウントに不正アクセスして乗っ取り、その信頼性を悪用して、乗っ取ったエンドユーザーの知人や友人を偽のWebサイトに誘導する。
・インターネットサービスプロバイダー(ISP)を標的として攻撃する:ISPを攻撃し、複数のエンドユーザーを同時に偽のWebサイトに誘導する。
・ルーターを悪用する:ルーターの設定を変更し、接続されているデバイスを偽のWebサイトに誘導する。
ファーミング攻撃を受けたかも? その見分け方
ファーミング攻撃をすでに受けてしまった、またはこれから受ける恐れがある場合、以下の観点に着目することが有用だ。
着目点1.アクセスしているWebサイトの外観が微妙に違う
偽のWebサイトは正規のサイトと似ているが、わずかに違いがある。WebサイトのURLにわずかなスペルミスがある場合もある。
着目点2.認証に失敗する
普段利用しているWebサイトでログインできなくなったり、別のWebサイトにリダイレクトされたりする。
着目点3.警告や通知が増加する
マルウェア対策ソフトウェアの警告や通知が増加する場合、ファーミング攻撃をこれから受けるか、すでに受けた可能性がある。ISPが、エンドユーザーや組織に対してファーミングによるセキュリティ侵害の可能性を警告する場合もある。
着目点4.WebサイトのURLが「http」から始まっている
安全ではない偽サイトに共通する特徴として、URLの先頭に「https」ではなく「http」と表示されていることが挙げられる。「HTTPS」(Hypertext Transfer Protocol Secure)は、WebブラウザとWebサイト間のデータ通信を暗号化するプロトコルで、広く普及したサイバーセキュリティ対策だ。
ファーミング攻撃への対策
ファーミングを防ぐために、エンドユーザーは以下の対策を講じることができる。
対策1.PCを最新の状態に保つ
OSやソフトウェアを最新の状態に保つことは、ファーミング対策の一つだ。パッチ(修正プログラム)を適用して脆弱(ぜいじゃく)性を修正することも重要だ。
対策2.Webブラウザのキャッシュを消去する
Webブラウザはエンドユーザーが訪れたWebサイトの情報をキャッシュとして保存する。PCを異なるLANに接続する際、そのLAN内のサイバー攻撃者がPCに侵入して、Webブラウザのキャッシュにアクセスする可能性がある。このリスクを避けるためには、新しいLANに接続する前にキャッシュを消去することが有効だ。
対策3.マルウェア対策ソフトウェアをインストールする
マルウェア対策ソフトウェアはサイバー攻撃からPCを保護する効果的な方法だ。ファーミングを仕掛ける攻撃者は一般的に、OSやWebブラウザの脆弱性を悪用するマルウェアを用いるからだ。
対策4.HTTPSで保護されたWebサイトを利用する
WebブラウザとWebサイト間の通信内容を暗号化するのがHTTPSだ。HTTPSの前身である「HTTP」(Hypertext Transfer Protocol)は、インターネットのセキュリティリスクが増大する前に設計されたため、HTTPSより安全性が低い。
対策5.VPNを使う
VPN(仮想プライベートネットワーク)は、エンドユーザーのIPアドレスをVPNサーバのIPアドレスに置き換えることで、Webサイトがエンドユーザーの地理的位置やネットワーク情報を隠す。デバイスと組織のネットワーク間の通信を暗号化するため、DNSを乗っ取るファーミングからの機密情報保護に役立つ。VPNサービスを選ぶ際は、そのVPNサービスが使うDNSサーバも安全で信頼できるものであることを確認しよう。
対策6.ブックマークを使用する
頻繁にアクセスするサイトをブックマークし、メールやソーシャルネットワーキングサービス(SNS)のメッセージに含まれる不審なURLをクリックしないようにすることで、ファーミングの可能性を低減できる。
ファーミングとフィッシングの違い
ファーミングとフィッシングは両方ともエンドユーザーの個人情報を盗み取る手法だ。しかし、これらの攻撃手法には違いがある。
フィッシング
攻撃者が人気のあるWebサイトや本物の組織になりすまして、メールやメッセージを送信して、ユーザー名、パスワード、社会保障番号、クレジットカード情報などの機密情報を取得しようとするのがフィッシングだ。
フィッシングは「数の勝負」と言われることがある。攻撃者が100万通のフィッシングメールを送信しても、わずかな件数の返信しか得られないことはしばしばだ。しかし数件の返信に価値がある。1万人の潜在的な被害者のうち1人からでも反応があれば、攻撃は成功したことになる。
ファーミング
ファーミングはDNSシステムを使用してエンドユーザーを偽のWebサイトに誘導するフィッシングの一形態だ。エンドユーザーが利用する銀行のWebサイトに見せかけた偽のWebサイトに被害者を誘導するといった手法がある。
ファーミングは個別のエンドユーザーに働き掛ける必要がないため、フィッシングよりも多くのエンドユーザーを同時に被害に巻き込むことができる。フィッシングとは異なり、被害者の意識的な行動を必要としないという特徴もある。