YouTubeはテレビで観るものに、20年間で生活を変えた進化の歴史

YouTubeはテレビで観るものに、20年間で生活を変えた進化の歴史

インターネット接続と、スマホやタブレットのようにユーザーがストアからアプリを導入できる機能を備えたテレビで、YouTubeのコンテンツをアプリから視聴するユーザーが増えている。YouTubeのテレビ向けサービスの責任者である カート・ウィルムス氏が、4月下旬に米国本社で開催したプレスツアーの壇上に立ち、いまテレビの周辺で起きているYouTubeの「大きな変化」を語った。

【画像】テレビでの視聴が増え、機能も充実するYouTube

■サービス開始時に考えていた「YouTubeが新しいテレビになる」が現実に

2025年4月にコンテンツプラットフォームとしてのYouTubeが生誕20周年を迎えた。YouTubeの関係者はサービスを開始した当初は「YouTubeが新しいテレビになる」と考えていた。ところが2000年代後半からスマートフォンやタブレットなどモバイルデバイスが急速に普及したことから、YouTubeをモバイルで見るスタイルが一般的になった。YouTubeもその勢いを受けて、当時はモバイル視聴環境の整備に投資を振り向けた。

「とはいえ、私たちはテレビのことを忘れていたわけではない」。ウィルム氏は、今から10年前ごろから「テレビで快適にYouTubeが見られる環境」をつくるため、自身の部署を中心にさまざまな改革を進めてきたと振り返る。最初は視聴デバイスを拡大しながら体験を最適化することに着手した。対象のデバイスはゲームコンソールに始まり、以降はテレビにセットトップボックス(STB)、そしてグーグル純正プロダクトを含む各社のメディアストリーミングデバイスなどにYouTubeの視聴アプリを搭載した。

その結果、YouTubeの発表によると、現在はユーザーがYouTubeのコンテンツを「テレビで視聴する」時間が1日あたり10億時間を超えた。米国ではモバイルデバイスよりもテレビでYouTubeがより多く見られているという。

ウィルム氏は、テレビによるYouTube視聴が活発になった2つの大きな要因を説いた。

ひとつは、YouTubeのクリエイターたちが「テレビで見られることを意識したコンテンツづくり」にも注力したことだ。モバイル向けコンテンツとの違いは、映像やサウンドがさらに高品位であることや、長時間視聴を促す没入型のストーリー展開を重視していることなどが挙げられる。

「YouTubeの視聴者は本当にコンテンツの解像度を気にしているのか」。ウィルムス氏の説明に対してジャーナリストから質問が飛んだ。

昨今は多くのテレビに、解像度の低いインターネット配信のビデオ映像をアップコンバージョンして高精細化する機能が搭載されている。元の映像がよほど低画質のコンテンツでない限り、大きな画面に表示した時に映像が破綻しないため、視聴者がコンテンツの「画質」に煩わされることは少ない。ウィルムス氏も「要はコンテンツの魅力」であるとしながら、一方で「クリエイターたちの間には、より高品質な映像をつくりたいというモチベーションが高まっている」と答えた。

YouTubeアプリはモバイルにテレビ、最近はヘッドセットデバイスにも体験を最適化している。そのためクリエイターが映像を制作する段階で、「視聴者が何で見るか」を意識して作り込む必要がない。

テレビに最適化した収益化ツール

ただし、昨今ではテレビでより快適に楽しめるコンテンツが好まれる傾向にあることから、ウィルムス氏は「可能であれば4K画質で映像を撮ること。そして、視聴者がテレビでゆったりと楽しめるよう、モバイル向けコンテンツのように無理に尺を短くせずに、むしろ自然にのめり込めるストーリーテリングを重視すること」をYouTubeのクリエイターに助言していると語る。

■テレビに最適化した収益化ツール

YouTubeに音楽、ポッドキャスト、ニュース、スポーツなど、ジャンルやフォーマットも多様なコンテンツがあることが、テレビによるYouTubeが活発化しているもうひとつの要因だ。

最近は長尺の動画だけでなくショート動画もテレビアプリで見られる。ポッドキャストを「ラジオのようにテレビで聞くユーザー」も少なくないという。YouTubeが行った調査によると、視聴者がテレビでポッドキャストを視聴した時間は2024年中に毎月4億時間を超えたそうだ。

テレビでYouTubeを楽しむユーザーは、コンテンツをリラックスしながらじっくりと観る「Lean Backスタイル」(意訳するならば「ねそべり視聴」)を好む傾向があるという。反対に、YouTubeは正式なデータを公開していないが、モバイルやPCによる視聴スタイルとして一般化したYouTubeの「倍速早見再生」をテレビで活用するユーザーも一定数いる(一部のスマートテレビやストリーミングデバイスでは、再生速度の変更機能を利用できない場合がある)。幅広な視聴スタイルの好みに応えられるように、YouTubeもテレビアプリに細やかな機能拡充を図ってきた。

YouTubeにはユーザーの視聴行動を解析した結果から、視聴者が好みそうなコンテンツをおすすめするレコメンデーション機能がある。そのアルゴリズムはYouTubeが独自に開発したものだ。テレビとモバイルのユーザーでは視聴傾向が異なる部分もあることから、テレビ向けのレコメンデーションエンジンにも独自のチューニングを施している。例えば最大480pの低解像な動画は、テレビの大きな画面で視聴すると粗さが目立つ。そのため、テレビのYouTubeアプリでは表示優先度を下げて提示する。

YouTubeにとってコンテンツをつくり、発信するクリエイターはプラットフォームを支える大切なパートナーだ。クリエイターがテレビも主戦場として活躍できるように、ウィルムス氏のチームは収益化のチームと連携しながらクリエイターのための収益化ツールもテレビ向けに最適化している。

アプリもテレビで使いやすくする

2024年には、YouTubeパートナープログラム(YPP)に参加するクリエイターの中で、テレビによるコンテンツ視聴から収益の大部分を獲得しているクリエイターの数が前年比で30%増加した。YouTubeにアップロードされた4K高画質コンテンツの数は前年比で35%増。クリエイターたちがテレビで映える高品質な映像制作に注力すれば報われる環境ができつつある。

クルト氏のチームでは、今後の導入に向けて「テレビファースト」の広告フォーマットも開発する。例えば「ミッドロール広告の一括表示機能」がある。ウィルムス氏が「伝統的なテレビ広告に近い」と表現する広告の表示形式は、コンテンツの視聴時に再生される動画広告(インストリーム広告)の「表示回数」を減らし、代わりに一定の合間に「CM時間」を設けて広告をまとめて表示するスタイルのことを指している。

あるいはウィルムス氏が「ポーズ広告」と呼んでいる表示形式は、視聴者が離席するタイミングで動画を一時停止した際、画面に広告を表示する。広告の内容に興味があればリンクをたどって確認できる。

■アプリもテレビで使いやすくする

ウィルムス氏は、クリエイターの要望にも耳を傾けながらYouTubeのテレビアプリのユーザーインターフェースも改善してきたと振り返る。例えば「Hot Ones」という、激辛チキンを食べたセレブのリアクション動画が人気の料理バラエティ系チャンネル「First We Feast」のクリエイター、ショーン・エヴァンスとの対話を通じて「ある機能」を開発した。お気に入りのチャンネルの中で視聴したコンテンツの続きや、ひとつ前のエピソードを見つけやすくする「Shows(ショーズ)」という、日本未導入の機能だ。

「もはやテレビは単純にコンテンツを視聴するためのだけのデバイスではない」とウィルム氏は主張する。その理由は、YouTubeのテレビアプリが搭載するインタラクティブ機能がユーザーに好評だからだ。人気クリエイターのチャンネルに登録してお気に入りのコンテンツを評価したり、あるいは他の視聴者が投稿したコメントもテレビアプリから見られる。スマホやパソコンでは定番の機能が、テレビで視聴する際にも視聴者がストレスなく使えるようにインターフェースも丁寧に作り込んだ。

「YouTube TV」が日本でも始まれば、さらに状況は進化する

例えばYouTubeのテレビアプリにも「チャンネル登録」ボタンがある。テレビアプリからチャンネルを登録したユーザーの数は2023年比で40%以上増えた。視聴者が付けたコメントを閲覧したり、それぞれに「高評価」や「 低評価」をリモコンのボタンを押して簡単にリアクションできる。テレビのリモコンはコメントのテキスト入力には向かないことから、ユーザーが所有するGoogleアカウントで、テレビとモバイル両方のアプリにログインすればスマホからコメントが残せる。

YouTubeがパートナーであるクリエイターと一緒に「良質なコンテンツ」を届けることにこだわる背景には、テレビ番組や映画との競争を勝ち抜きたい思いもあるのだとウィルムス氏は語る。

現在は米国を中心に、まさしく「ハリウッドなみ」に画質と音質にこだわり、ストーリー性にも富んだコンテンツをつくるYouTubeクリエイターが次々に誕生している。ウィルムス氏によると、例えばクリエイターのMichelle Khare(ミシェル・カレ)が、自らさまざまな職業や訓練に体当たりで挑む短編ドキュメンタリーを提供するチャンネル「Challenge Accepted」が、クオリティの面からも高い評価を受けているという。筆者も視聴したが、良く練られた番組の構成、視聴者を引き付けるエンターテインメント性の高さはテレビの人気バラエティ番組の感覚に近い。過去に公開された動画も一気に見てみたくなる。

「クリエイターがテレビという舞台でもビジネスを成功させ、革新的なフォーマットを生み出せるように、YouTubeはこれからもクリエイターを全力で支える」とウィルムス氏は力を込めた話した。

なお、北米地域ではYouTubeでテレビ放送のライブストリーミングが視聴できる「YouTube TV」というサービスがあり、Entertainment Plus、4K Plus、NFL RedZone with Sport Plusなど、大手コンテンツプロダクションが提供するコンテンツが多く並ぶ。映画にドラマ、スポーツや音楽のライブストリーミングなど優良コンテンツが盛りだくさんだ。個人のクリエイターから映像のプロフェッショナルである企業にも、大きなチャンスを掴む機会がある。YouTubeがいつも熱気にあふれるプラットフォームである大きな理由のひとつだ。

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