Googleは『検索の会社』から『AI情報サービス会社』へ成長できるのか?
2025年4月25日、Googleの親会社のAlphabetは、2025年度第一四半期(1-3月)の決算を発表した。
売上高902億3400万ドル(約12兆9000億円、前年同期比12%増)、
純利益345億4000万ドル(同46%増)という好調な決算を発表した。検索連動型広告が予想を上回る成長を示し、市場予想を上回る好調な結果となった。
■AIを活用するようになり、同時に『検索』が伸びていることの違和感
今回のAlphabetの発表で、気になったのは『検索広告』がいまだに伸びていることだ。実際にGoogleで検索しても、今までの検索にプラスして、AI検索による要約記事『AI Overviews』も登場するようになり、『広告』そのものを見る機会が激減しているからだ。
しかし、世の中全体で考えると、まだ生成AIだけで暮らしている人は少なく、『検索』の流入結果は、時間差で現れるのかもしれないとこの違和感を納得させていた。
■Appleの幹部エディー・キュー氏による衝撃の証言
そんな中、2025年5月7日、Appleの幹部エディ・キューが『Safariでの検索回数が4月に初めて減少した』と発表し、その理由を『人々はもうAIに聞いているからだ』と説明。
この発言を受けてAlphabetの株価は一日で7.5%下落し、時価総額で約21兆円が失われた。
このエディキューの発言は、Googleの検索市場の独占に関する訴訟の証言での一コマ。
□この訴訟の焦点は、AppleとAlphabet傘下Googleの間で結ばれている年間約200億ドル(約2兆8700億円)と推計される契約にある。同契約に基づき、アップルのスマートフォン「iPhone」などに標準搭載されているSafariで検索を行う際のデフォルト検索エンジンにはグーグルが採用されている。
□同氏は、サファリでの検索数が4月に初めて減少したことに言及し、人々がAIを使うようになったためだと指摘。オープンAIやパープレキシティAI、アンソロピックなどのAI検索プロバイダーがいずれ、グーグルのような従来型の検索エンジンに取って代わるとの見解を示した。
□テクノロジーの進化は非常に速く、数年後には今と同じデバイスを使っていないかもしれないと同氏は発言。「突飛に聞こえるかもしれないが、10年後にはiPhoneが必要なくなるかもしれない」と述べ、「真の競争が生まれるのはテクノロジーの転換が起きた時だけだ。テクノロジーの転換が新たなチャンスを生み出す。AIは新たなテクノロジーの転換だ」と続けた。
米国裁判所がGoogleを検索市場の独占と認定したことで、同社のビジネスモデルに大きな影響が及ぶことは確実となってきた。いや、すでにAI時代に『検索の独占』には、大した意味がなくなっているだろう。人々は『検索』したいのではなく、『知りたい情報にアクセス』できれば良いのだ。その方法が『検索』から『AI』を駆使するようになったきたのだ。
Appleとの検索デフォルト契約を結んでいるが、この契約が2026年に終了する可能性がでてきた。年間200億ドルといえば、四半期あたりで50億ドルに相当する。
今期の売上高902億3400万ドルに対しては、5.54%であるが、
純利益345億4000万ドルに対しては、14.5%に値する広告宣伝料に値する。
これらの『投資効果』が2026年に、なくなるというのはGoogleにとってはとてつもない機会損失につながるのではないだろうか?
■Geminiの有償化とWorkspace統合と広告表示
Googleのメインのコンシューマー向けAIサービスである『Gemini Advanced』は月額約20ドルで提供されている。2025年にはGeminiがGoogle Workspaceに統合され、ビジネスユーザー向けに様々な価格帯(Business Starterが月額7ドル、Standardが14ドル、Plusが22ドル)で提供され、さらに将来的には、Geminiに広告を導入する計画も検討されている。基本は『広告』をどのように挿入し、AI時代においても、広告価値を持続させることが大命題であることはかわりない。
ある意味、第二の『AdSense広告(スポンサードサーチ)』を発明しなければならない状況にあるといえる。入札ベースの検索連動型広告は、idealabが発明し、goto.com、 Overtureが開発してきた『広告技術』の源泉によってGoogleはありとあらゆる『無料サービス』を展開し、インターネットのサービス・インフラを構築してきた。基本は無料が成立するのは、Googleが『広告』によって得られる利益があったからだ。
Googleの広告以外のビジネスは伸びてきたとはいえ、非広告部門は25%でしかない。1/4の広告以外を増やすということは有償化サービスを増やしていくということを示唆する。
■パーソナルなローカルAI、NotebookLMの展開
NotebookLMはGoogleが開発したAI支援研究ツールで、ユーザーが選択した文書から洞察を得るための「パーソナルなAIデータベース」として機能します。2023年に『Project Tailwind』として発表され、PDFやGoogle Docsなどの文書を分析できる。
主な機能は文書の要約、質問ベースの対話、AIによる洞察、ポッドキャストスタイルのオーディオ概要、マルチドキュメント分析などだ。現在では、NotebookLM Plusの有料版も提供(2025年2月)されており、AIによる知識管理の新しいアプローチを提供している。あくまでもフリーミアムモデルで無料と有償の2段階の設定だ。
有償では、高性能なAIモデルを搭載した『Gemini Advanced』を利用できるほか、2TBストレージ、Gmail、Google ドキュメントなどのGeminiなどに対応。ここにNotebookLM Plusが追加される形となる。Googleサービスを横断できるしかけとなっている。しかし、日本語においての横断サービスは決して使い勝手が良いとは言えないのが、2025年5月段階での筆者の印象だ。
■『AI Studio』による開発者エコシステムは拡大中
その一方で、『Google AI Studio』は開発者向けに無料でGemini最新モデルが試せるプラットフォームが存在している。現在は2025年5月6日バージョンの『Gemini2.5Pro Preview 05-06』が使える。
テキスト生成から画像認識、動画・音声処理まで幅広い機能を提供しています。1日あたりのリクエスト数やトークン数に制限があるが、開発者がAI技術に親しみ、実験できる環境を提供している。
有料版では企業向け『Vertex AI』へのGoogleCloudも用意されており、開発者のエコシステムの拡大を図っています。ただ、いろいろと上位の有償が複雑化してカオス化していることも否めない。
■検索からAIへの移行の将来展望:検索とAIの共存が課題
検索市場の変化は、単純な市場シェアの課題ではなく、情報へのアクセス方法自体の根本的な変容を意味している。
AIの進化と共に、ユーザーは『キーワードで検索する』から『自然言語で問いかける』という新しい行動変容へとターンへと移行している。AIが検索機能を持つことによって、ユーザーが検索しなくても、AIボットが『検索』している。しかし、Googleにとっての『資金源』となる『広告』をAIボットは排除してスルーして、中身だけをユーザーに提供している。Googleとしては、AIボットに『ノイズ』にならない『広告』も中身と一緒にユーザーに届けられるような『仕様』を模索しなければならないだろう。
しかし、一度に大量の検索を可能とした『推論:DeepThinking』モードを持つAIにとっては、『広告』を付加されるのは、一番嫌な状況にあるだろう。
■大規模投資によるAIインフラ強化
Googleの『750億ドル(今期の売上の83.1%)に及ぶ設備投資計画』は、AIインフラの強化に重点を置いている。『Ironwood TPU』などの自社開発性AIチップや、大規模データセンターの拡充を通じて、AIモデルの訓練と推論のためのインフラを強化し、競争優位性を保とうとしている。しかし、『広告』の代替を探すのではなく、好調な財務業績を背景に、AI技術を活用した事業転換の重要な岐路に立っています。
米裁判所の決定とは違い、すでに検索事業が『検索の死』とも呼ばれる根本的な変化に直面する一方で、AI Overviewsやクラウド事業などの新たな成長エンジンも確立しつつある。
短期的には、依然として検索広告が主要な収益源であり続けるだろうが、中長期的には、Gemini、NotebookLM、AI Studioなどを通じたAI戦略の進展が、Googleの将来を左右する重要な要素となることだろう。
Googleは『検索の会社』から『AI技術を基盤とした情報・知識アクセスのサービス会社』へと進化できるかどうかが、同社の長期的な成功を決定することだろう。
ある意味、本当の『code red(2023年1月)』の真っ只中にいる状況になってしまった…。2年前の警戒はさらに深刻となった。