OpenAIが225カ国数億人の本人確認に活用、米Personaの評価額が2860億円に

OpenAIが225カ国数億人の本人確認に活用、米Personaの評価額が2860億円に

現代のインターネットは、ボットであふれている。すでにインターネットの全トラフィックのうち約50%が人間以外からのもので占められており、この割合は人々が人工知能(AI)エージェントにさまざまなタスクを代行させることで、2030年までに90%にまで跳ね上がると予想されている。

これは企業にとって大きな問題だ。オンライン小売業者は、ボットが人間よりも速く人気商品の在庫を買い占めることを望まないし、銀行は詐欺師がアカウントを乗っ取るのを防ぎたい。同時に、正当な目的を持つ良性のボットがその役割を果たすことを妨げないようにしたい。

ここにAIが加わることで問題はさらに悪化する。たとえば、ユーザーに特定の画像を選ばせたり、判読しづらい単語を読み取らせたりするCAPTCHA(キャプチャ)といった旧来のボット検出技術は、高度なAIモデルの手にかかればスルリと突破されてしまう。

■OpenAIやLinkedInはじめ、3000社に本人確認ソフトウェアを提供

「AIは、人物の声の模倣や顔の偽装、偽造IDの作成を飛躍的に容易にしてしまった」と、サンフランシスコを拠点とする本人確認プラットフォームの新興企業「Persona(ペルソナ)」の共同創業者兼CEOのリック・ソン(34)は語る。

同社は、OpenAIやLinkedIn(リンクトイン)、Reddit(レディット)、DoorDash(ドアダッシュ)といった大手を含む3000社に本人確認ソフトウェアを提供している。ペルソナは、ユーザーに政府発行のIDの写真をアップロードさせたり、自撮り写真を撮らせたり、パスポートに内蔵されたNFCチップをスキャンさせるといった複数の手段を組み合わせて本人確認を行っている。

ペルソナは、リスクが高いと判断されたユーザーに、「生体確認テスト(liveness test)」を受けさせることもある。これは、IDを手に持って顔を動かすよう求め、そのユーザーが生身の人物であり、IDの本人であることを確認する手法だ。また同社の機械学習モデルは、ユーザーが利用しているネットワークや現在地とIDに記載された住所との距離、デバイスとのインタラクションの仕方といった要素からもリスクを検出可能だ。

2018年に創業のペルソナは2025年4月30日に、評価額20億ドル(約2860億円。1ドル=143円換算)で2億ドル(約286億円)を調達したと発表した。今回同社のシリーズDラウンドを主導したのはファウンダーズファンドとリビットキャピタルで、既存投資家のインデックス・ベンチャーズらも参加した。ソンによれば、同社の累計調達額は4億1700万ドル(約596億円)に達した。

■OpenAIは225カ国数億人の審査に活用、コーセラは200カ国1億6800万人

OpenAIはペルソナを利用して、ChatGPTやそのAPIに登録しようとする世界225カ国の数億人のユーザーをスクリーニングし、国際的な監視リストや制裁リストに載っている人物が紛れ込んで同社モデルを有害な目的や犯罪に使用することを防いでいる。オンライン学習プラットフォームCoursera(コーセラ)は、世界200カ国の1億6800万人のユーザーを、受講しているクラスに基づいて確認するためにペルソナを導入した。フードデリバリーのドアダッシュは、コロナ禍の期間中にプラットフォームに殺到した配達員の身元確認のためにペルソナを導入し、政府発行のIDと自撮り写真を照合させるプロセスに利用した。

サイバーセキュリティ企業Imperva(インパーバ)の2024年報告書によれば、米国企業はAIベースの攻撃により、毎年180億ドルから310億ドル(約2兆5740億円から約4兆4330億円)の損失を被っている。ボット攻撃による世界全体の損害は、680億ドルから1160億ドル(約9兆7240億円から約16兆5880億円)に上るという。典型的な悪用例としては、ボットを用いて偽のアカウントを大量に作成し、紹介クレジットや割引、プロモーションなどの特典を不正に取得するというものが挙げられる。

その一方で、視覚障害者がAIを利用してネットにアクセスするといった、正当な理由でボットの使用する例も存在する。インパーバによると、2024年には正当な目的のボットが自動化トラフィックの14%を占め、悪意のあるボットはインターネット活動の37%を占めていたという。

そのためある企業の場合は、「無差別な対応は避けたい」との理由からペルソナを使って新規ユーザーの本人確認を行っている。別の顧客は、ユーザーの個人識別情報(PII)を自社で保管したくなかったために、ペルソナの利用を選んだという。

ガートナーのアナリストのアキフ・カーンによれば、ペルソナは本人確認市場における比較的新しいプレイヤーだ。インパーバの競合には、2021年に上場した空港向けの生体認証プラットフォームClear Secure(クリアセキュア)や、AIを活用した本人確認ツールのJumio(ジュミオ)などが挙げられる。さらに新しい企業としては、サム・アルトマンのWorldcoin(ワールドコイン)がある。ワールドコインは「オーブ」と呼ばれる球体型の生体認証デバイスで人々の虹彩をスキャンし、見返りに暗号トークンを提供するというかなり風変わりな方法で「人間であること」を確認している。

カーンは、ディープフェイクの脅威が高まるなか、企業は警戒心を強めており、オンライン上のリスクシグナルを活用するペルソナにとっては、こうした状況がビジネスチャンスになり得ると述べている。

■企業ごとに異なる確認ニーズに対応できる、柔軟な自動化ソフトウェア

ペルソナが創業した2018年ごろは、本人確認業務は主に東欧を拠点とする企業などにより人間による手作業で実施されていたという。ソンのアイデアは、これをソフトウェアを使って行うというものだった。

ソンは以前に、ジャック・ドーシーが創業したフィンテック企業スクエア(現在はBlockに改称)でエンジニアとして5年間、本人確認や詐欺対策ソリューションの開発に携わっていた。スクエアは2010年代初頭に決済アプリのCash Appや融資サービスSquare Capitalといった製品を立ち上げ、いずれも異なる本人確認の手段を必要としていた。

ソンは、企業ごとに異なる確認ニーズに対応できる柔軟な自動化ソフトウェアの必要性に気付き、当時ルームメイトだったチャールズ・イェー(現在のペルソナCTO)と共に開発に着手した。

「オンライン上の本人確認における根本的な課題は、それが曖昧な要素を含むものであり、コンプライアンスから詐欺防止やセキュリティに至るまで、あらゆる目的で使われる点にある」とソンは指摘する。「企業は本人確認を万能薬のように扱ってきた。しかし、私が見てきた限り、それを解決する単一のソリューションは存在しなかった」。

■人々が自分自身で所有する持ち運び可能なID

AIエージェントに関しては、まったく別の解決策が求められることになりそうだ。ソンは、企業が開発するエージェントについては、見分けやすくするために登録制にすることを想定している。一方人間に関しては、日常のオンライン活動の蓄積をもとに、各人の「IDプロフィール」をペルソナが構築できるようにしたいと考えている。

これにより、人間であるかどうかを迅速に確認できるようになる。このプロフィールは改ざん耐性があり、再利用可能な形であらゆるサイトの本人確認プロセスで提出できるようにするという。ソンは、明らかなプライバシー上のトレードオフがあったとしても、利用者はこうした仕組みを使いたがるだろうと考えている。

「今の時代、人々は自分自身についてどんどん多くの情報を開示している。あまりにも多くの情報を差し出している」とソンは語る。「私たちの夢は、人々が自分自身で所有する持ち運び可能なIDをデジタルの世界で実現することだ」と彼は続けた。

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