ホンダと破談、赤字7500億円を見込む日産とは大違い…「日野自・三菱ふそう統合」の未来が明るいワケ
● 日野自・三菱ふそうの 統合協議が再加速へ
商用車メーカーの日野自動車と三菱ふそうトラック・バスの経営統合がようやく決着する。
両社の経営統合は、日野自の親会社であるトヨタ自動車と三菱ふそうの親会社である独ダイムラートラックによって2023年5月に基本合意されていたが、日野自のエンジン認証不正への対応が長期化したことで統合は延期されていた。しかし、今年に入り日野自が米当局と和解の合意をしたことで、統合に向けた大きな課題が解消された。
4月24日に発表した25年3月期決算では、認証関連などを中心に特別損失として2892億円を計上し、2177億円の最終赤字となったものの、これで「ほぼ損失計上が一段落」(小木曽聡社長)した。26年3月期の最終利益は200億円と黒字に転換する見通しだ。
小木曽社長は決算発表の場で「三菱ふそうとの経営統合の最終契約に向けて前向きな話を続けている。1日でも早く実現したい」と、統合基本合意から2年越しでの決着に意欲を見せた。5月の連休明けから経営統合に向けた動きが一気に加速するとみられる。
筆者は、1月24日公開のダイヤモンドオンラインで関連の記事を執筆している(『【独自】三菱ふそう次期会長に元経産省幹部が就任へ、日野自動車との統合が一気に進展か』を参照)。
その記事でも触れているが、今回、両社の経営統合への最終合意の協議におけるキーマンとして、改めて3月に三菱ふそう会長に就任した永塚誠一・前日本自動車工業会副会長と長田准・日野自取締役の二人が浮上している。
永塚氏は経済産業省の出身で、自動車課課長などを歴任。14年から自工会副会長・専務理事を10年間務めていた。業界を熟知していることに加え、自工会時代は、自工会会長を3期務めた豊田章男・トヨタ自動車会長のサポートを行ったことから、豊田氏からの信任も厚い人物だ。三菱ふそう会長就任前から、シャープの社外取締役にも就いている。
一方の長田氏は、トヨタの渉外広報本部長に加えて、執行役員兼チーフ・リスク・オフィサー(CRO)兼チーフ・コンプライアンス・オフィサー(CCO)などを歴任し、豊田章男トヨタ体制の“スポークスマン”を務めた豊田氏の腹心だ。24年6月に日野自取締役に就任し、25年1月にトヨタの役員を離れて日野自取締役に専心している。日野自の関係者からは、小木曽社長の後継に長田氏が有力との声も聞こえる。
永塚・長田氏の両者に共通するのは、いずれも豊田氏との距離が近いことだ。日野自の統合は、トヨタにとっても商用車部門の位置付けに関わる大きな課題なだけに、キーマンの両者を支える豊田氏などが中心となって統合検討が進んでいくと考えるのが自然だ。また、永塚氏と経産省の“パイプ”から、経産省のバックアップも含まれることになるだろう。
それ故、この永塚・長田の両者が統合におけるキーマンといえるのだ。
三菱ふそうトラック・バスは非上場だが、日野自はこの6月の株主総会を最後に、上場を廃止するとみられる。統合後も日野自と三菱ふそうの両ブランドを継続していく考えで、日野自と三菱ふそうが傘下にぶら下がる、トヨタとダイムラートラックが同等出資する持ち株会社が上場を目指すことになりそうだ。
独占禁止法といった課題をクリアする必要もあるが、日野自・三菱ふそう統合では、CASE技術や水素技術での連携を図るとともに、重複する各トラック・バス分野の効率化を進める。
● 統合実現で 国内商用車は2陣営に
ホンダ・日産自動車の経営統合が破談となったことで乗用車メーカーの再編はつまずいたが、商用車で日野自・三菱ふそう統合が実現すれば、日本の商用車メーカー構図は、いすゞ自動車・UDトラックス連合との2陣営に集約されることになる。また、トヨタ・ダイムラーの世界最大規模の連合が誕生し、商用車でのCASE技術競争も激しくなる。
ここで、日野自と三菱ふそうの統合の動きを振り返っておこう。
元々、統合機運の契機となったのは、日野自のエンジン認証不正問題だった。22年3月に日野自が公表した一連のエンジン認証不正は、少なくとも03年から続いていたことが判明。主力トラックの出荷停止などに追い込まれ、米国・カナダ・オーストラリアなど海外で集団訴訟も発生した。その結果、業績は悪化し23年3月期まで3期連続の赤字に沈んだ。
トヨタは、グループの商用車領域を任せていた日野自の対応については、14年間(09年〜23年)トヨタ社長を続けた豊田氏マターの経営課題とした。そして豊田氏が最終的に決断したのが、日野自の単独再建ではなく、ダイムラー傘下の三菱ふそうとの統合だった。
本来、日野自とトヨタは切っても切り離せない、非常に密接な関係にある。日野自はトヨタグループの商用車事業として国内普通トラックで首位を堅持し、アジア市場でもトヨタと日野自は協業を深めてきたことで信頼関係を築いてきた。
1966年にトヨタ・日野自は業務提携し、01年にはトヨタが日野自の出資比率を50.1%に引き上げ子会社化した。以来、トヨタから社長も送り込んできた。
17年に日野自の社長に就任した下義生氏は、日野自の生え抜きからの抜擢(ばってき)だったが、当時の豊田章男トヨタ社長があえて16年にトヨタの常務役員に起用し、トヨタの経営を1年間内部で勉強させてから日野自トップに送り込んでいる。ちなみに、下氏は、商用車事業を熟知しており、トヨタグループにおける日野自ブランドを高めたほか、独フォルクスワーゲングループ傘下の商用車トレイトンとの提携を築くなど意欲的な経営を進めた。
この下氏の後任として、21年6月には、トヨタでハイブリッド車プリウスのチーフエンジニアなどを務めた技術開発畑の小木曽氏が、トヨタから社長として送り込まれた。
だが、下会長・小木曽社長体制に移行して1年もたたない22年3月に、エンジン認証不正が明るみに出た。しかも、不正が2000年代初頭から続いていたこともあって、日野自への対応とその位置付けが改めて問われる状況となった。
そもそも、日野自の不正による業績悪化と財務悪化だけでなく、商用車と乗用車では市場や商品の性質が異なることに加えて、商用車は乗用車以上にCASE対応のための莫大な投資が迫られており、個別での生き残りは難しいという状況もあった。
日野自と三菱ふそうの統合を発表した23年5月の記者会見で、トヨタの佐藤恒治社長は「われわれが日野を支えることへの限界も正直ある」と本音を明かしていたこともある。それ故、最終的にはトヨタは、日野自の単独再建ではなく、他社との連携によって商用車部門全体の最適化を図ろうとしたのだ。
商用車のCASE技術は、電動化(EVとFCV)、自動運転、コネクテッドなど多様なものが求められており、世界的な競争が激化していくとみられている。日野自は、下前社長時代に世界第3位のトレイトンと提携していたが、トヨタはこのトレイトンのライバルである世界第2位のダイムラートラックと連携することを選んだ。トヨタ・ダイムラーと日野自・三菱ふそうの連携により、CASE技術革新への投資合理化やスケールメリットを追うことで勝ち残りを目指すことになる。
なお、日野自の経営統合相手となる三菱ふそうは、本来、三菱自動車工業のトラック・バス部門だったが、03年に「三菱ふそうトラック・バス」として独立し、その後05年からダイムラーの完全子会社となった(現在、ダイムラートラックが89.29%出資)。また、ダイムラートラックは、19年11月に独ダイムラーAGの商用車子会社として分離独立している。
日本ではダイムラーといえばメルセデス・ベンツの乗用車のイメージだが、ダイムラートラックは、世界でもトップクラスのトラックメーカーだ。
さて、日野自・三菱ふそう連合の誕生で国内は2陣営に集約されるが、対抗するライバルメーカーであるいすゞの業績は、日野自とは対照的に堅調そのものだ。
利益もさることながら、いすゞの片山正則会長が24年1月から豊田自工会会長の後任として、トラックメーカー代表として初めて自工会会長に就任しているなど、業界内での存在感も高めている。また、いすゞはボルボとの連携に加えて、トヨタと21年に5%の相互出資で資本提携も行っているなど、“したたかな経営”の一面も見せている。まずは、日野自と三菱ふそうの新連合は、いすゞ陣営と伍する水準へと業績を改善することが急務だ。
乗用車再編では、ホンダ・日産の経営統合があっという間に“破談”となり、日産は25年3月期に最大7500億円もの最終赤字が見込まれ、自力再生が危ぶまれる状況だ。
一方の商用車再編では今回、日野自が認証不正問題を乗り越えてダイムラー・三菱ふそうとの連携を進め、いすゞ・ボルボ連合に対抗する勢力となることで、国内の商用車の2陣営が切磋琢磨(せっさたくま)する環境となり、ひいては世界での競争で勝ち残ることが期待される。