中学受験に生成AIは役に立つのか!?生成AIとの向き合いかた、親が知っておきたいこと

中学受験に生成AIは役に立つのか!?生成AIとの向き合いかた、親が知っておきたいこと

2022年に登場したOpenAIの「ChatGPT」。会話形式で回答してくれる手軽さから大きな話題となり、生成AIは瞬く間に広まりました。そうしたなか、教育現場でも大きなトピックとなっているのが、「生成AIをいかに子どもたちの学びに役立てるか」という点です。なかでも注目されているのが、中学受験などの家庭学習における活用です。成績向上や学習効率化の可能性に期待が寄せられる一方で、「AIに頼りすぎてしまうのでは」「思考力が育たないのでは」といった懸念の声も少なくありません。保護者はどのような姿勢で向き合えばよいのでしょうか。

教育現場でも生成AI活用は大きなテーマに

「ChatGPT」をはじめとする生成AIの普及に伴って、文部科学省は2024年12月、小学校から高校までを対象にした生成AIの最新ガイドラインを発表しました。このガイドラインには、学校で安全かつ効果的に生成AIを活用するポイントやリスク対策などが盛り込まれています。

さらに2023年度からは、「生成AIパイロット校」を全国の学校から募集し、授業や校務などに生成AIをどのように取り入れるか、実証を始めました。小学校低学年では、生成AIで音楽を作成したり、理科の実験でアドバイザー的に生成AIを活用したりと、さまざまな学びが展開されています。

一方の大人たちは、最初の生成AIブームが落ち着いて以降、「生成AIを積極的に使う人」「まったく使わない人」の二極化が進んでいます。特に保護者からは、「子どもが生成AIに頼りきりになって、考える力が弱くなってしまうのでは」といった心配の声も聴きます。

では、「AI時代」と呼ばれる未来に向けて、保護者はどのように生成AIに向き合っていけばよいのでしょうか。

「生成AIは子どもの優秀な家庭教師になり得る」

中高生向けプログラミングキャンプ・スクールを運営する「ライフイズテック」取締役で最高AI教育責任者を務める讃井康智さん(写真1)は、「生成AIは、子どもに伴走してくれる優秀な家庭教師になり得ます」と話します。

  そのひとつがプログラミング教育です。ライフイズテックでは、プログラミングや生成AI、アート・デザインなどを夏休みや春休みに学べる「IT・プログラミングキャンプ」を開催しています。「2023年から始まった『AIクリエイティブコース』は、ゲームプログラミングコースの次に受講者が多い人気講座となっています」と讃井さん。

「このコースの最大の特長は、開発スピードが圧倒的に早いということです。これまでは完成に10日間以上かかっていたような作品が、生成AIを使えば短時間で完成します。参加者はそこから自分なりのアレンジや工夫を加えて、作品をさらに作り込むことができるので、自己肯定感を得やすいというデータも出ています」

このように生成AIは使い方次第で、子どもたちに成功体験を積ませる、有効なツールになり得るのです。

中学受験で生成AIを使う前に知っておきたいこと

では、年々激化する中学受験においても、生成AIは効果的なツールとして活用できるのでしょうか。

「東大卒のプロ家庭教師」として2,500以上の家庭を指導してきた長谷川智也さん(写真2)は、「保護者の方が、子どものわからない問題をサポートをする際、解説が少ない塾の教材の基礎問題や標準問題レベルであれば生成AIで対応できるでしょう」といいます。

  

ただし、生成AIの回答が間違っている場合もあるため、それを見抜く力が保護者側に求められるということも指摘しています。

「一方で、難関校レベルの問題はまだ解けないと思います。特に、図などを使った複雑な解説が必要な問題や、インターネット上に十分な学習データが蓄積されていない可能性のある内容については、理解が難しい場合があります」

つまり現在の生成AIは、中学受験の基礎から標準、応用の一部までの「パターン化できる問題」には対応できるものの、難関校で求められる「初見で考える力」や「読解力」を必要とする問題にはまだ対応しきれないと、長谷川さんは説明します。

また、子どもが今後一人で生成AIを活用していく際、「子どもの基礎学力、特に語彙力や日本語力といった言語で考える力が必要でしょう」と、長谷川さんは強調しています。

土台となる語彙力や基礎学力がない状態で生成AIを使っても、その効果は薄い可能性があるというのです。

同時に長谷川さんは、「土台ができていれば効率化はできますが、ズバ抜けた天才は出にくくなるかもしれません」と、AIによる「平均化」のリスクも懸念しています。読書感想文など、自由な発想が求められるものについても、AIに頼ると発想が平均化されてしまうリスクをあげています。

考える力を育むには生成AIとの適切な距離感が大切

長谷川さんは、保護者の今後のスタンスとして、「もはや生成AIを使わせないという選択肢はない。どううまく使うかを考える必要がある」と話しています。

「今やスマートフォンと同様に、生成AIを使うという流れは止められないでしょう。ただし、生成AIは基本的に自分を怒らせるようなことはいいません。また、人間と違って根気強く対応してくれるため、コミュニケーションという点では気を付けなければいけません」

もう一点、生成AIだけでなく、スマートフォンやゲーム機器など、長時間画面に向かっていることの弊害を長谷川さんは指摘しています。「画面のなかだけで交流していることで身体感覚が薄れてきたり、他人の気持ちに意識が向かなくなったりする子どもが増えている傾向がある」という現状から、「実際にメンタル面に支障が出て不登校になることもあります。成績が落ちることよりも深刻な問題です」と長谷川さんは話し、バランスを見てデジタルを活用していく必要性を伝えました。

また、他者の気持ちを意識するという点については、「中学受験の入試問題には、必ず作問者や学校としての思いが込められている」ことを挙げました。

「大学受験も、今後この方向に進んでいくと予測されますので、『この問題では何を問いたいのか』をキャッチできる力、いわば“思いやり”はさらに大切になってくるでしょう」

生成AIの家庭学習で保護者ができること

生成AIを親子で上手に活用していくためにまず知っておきたいのは、「ChatGPT」やGoogleの「Gemini」といった主要な生成AIのサービスは、利用規約で「13歳以上」が対象となっている点です。したがって、小学生の子どもが一人で使用するのは原則として難しく、親子で一緒に使う、あるいは保護者が活用する形になります。

ライフイズテックの讃井さんは、生成AIを楽しむには「デジタル遊び」が有効だと話します。

「生成AIは、単なる勉強だけでなく、探究学習や創造的な活動にも活用できます。生成AIを使って絵を描いたり、デジタル漫画やアニメーションをつくったり、音楽を作曲したりといった活動が可能です。子どもが描いた絵をもとに、生成AIに画像を生成させてLINEスタンプをつくるなど、親子で楽しみながらデジタルに触れるきっかけになります」

また、学習に使う例としては、以下のような具体的な活用方法があるといいます。

◆わからない問題の解説

子どもが塾や問題集でわからなかった問題を、生成AIにわかりやすく解説してもらう。解説部分の写真を撮ってAIに読み込ませ、「小学生にもわかるように説明して」「読み上げて」と指示することで、わかりやすく教えてくれます。

◆類似問題の作成

特定の単元に興味を持った子どもや、克服したい弱点がある子どもに対して、類似問題を生成AIに作成してもらいます。問題集をもう一冊買うよりも手軽で、生成AIに「子どもにとって面白いストーリーを加えて」や「子どもの名前や好きなキャラクターを入れて」と指示すれば、個別化された、より子どもが興味を持つ問題をつくることも可能です。

◆学習スケジュールの管理

生成AIに子どもの学習状況を伝えて、復習のタイミングや取り組むべき学習内容を提案してもらうなど、学習スケジュールの作成や管理を相談してみるのもよいでしょう。

学ぶより使ってから理解する

讃井さんによると、「生成AIについて十分理解してから使い始めようとするのではなく、『まず使ってから理解する』という姿勢が大事」とのこと。難しく考えず、わからないことや思いついたことを、何でも生成AIに聞いてみることが第一歩だそうです。

「たとえば、『ピーマンが余っているからレシピ教えて』など、身近なことから気軽に使い始めてみてください。あるいは、生成AIにプロンプト(指示文)の書き方自体を聞いてみるのもよい方法です」

一方で、「生成AIに宿題を全部やらせてしまうのではないか」という保護者の懸念に対して、讃井さんは「親が子どもに伴走しながら、学びを深めるための生成AIとの対話の仕方を教えることが重要です」と指摘します。

たとえば感想文なら、いきなり全文を生成AIにつくらせるのではなく、「自分のアイデアをベースに構成案を考えてもらう」「書いた文章をより良くするための意見をもらう」など、生成AIを思考のパートナーとして活用するやり方を親子で試してみます。そうすることで、子ども自身が感想文を書くプロセスを俯瞰的に捉える力が養われ、深い学びにつながるといいます。小学生のうちに保護者が使い方を教えることで、子どもが一人で使うようになった時にも、生成AIとの建設的な対話ができることが期待されます。

生成AIの活用次第で格差も

そして何より大切なのは、「保護者自身が生成AIを楽しんで使い、そのポジティブな体験を子どもに見せること」だと、讃井さんはいいます。

「生成AIをまったく活用していない家庭と、うまく活用している家庭では大きな格差が生まれる時代が来るでしょう。たとえば情報収集一つをとっても、生成AIを使えば、何倍ものスピードと量でより正確な情報を得られるようになります。また、子どもの学習サポートにおいても、分からないことが即座に解決できるか、子どもの『もっと知りたい』という探究心にどこまでも応えられるか、といった点で大きな差が出ることも考えられます」

長谷川さんも、生成AIや動画といったツールを「うまく使える子」と「そうでない子」の間で、学力に大きな差が開くのを感じているといいます。特に生成AIは「基礎学力や語彙力といった土台のある子が使うことで、より効果を発揮する」ため、基盤がない子はツールをうまく使いこなせず、置いていかれてしまう可能性があることを指摘しています。

もちろん、生成AIにすべてを任せるのは危険です。特に小学生の場合、親の伴走が不可欠です。生成AIの回答が正しいかどうかを見極めたり、効果的な対話の方法を教えたりする役割が求められます。

生成AIは、急速に進化しています。讃井さんは「半年で別物になる」 ほどの速さで進化するため、昔少し使った知識のままだと、現在の生成AIの能力を理解できない可能性があると指摘します。だからこそ、保護者が「触り続ける」ことが大切です。「特に小学生の家庭学習において、生成AIは保護者の皆さんを“エンパワー(力づけ)してくれる存在”となります」と讃井さんは話しています。

「ChatGPTやGeminiなど、主要なサービスだけでも十分な機能があります。生成AIを強力なアドバイザーやサポーターとして活用できるよう、まずはどれか一つを使ってみるとよいでしょう」

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