中国が「軍民両用艦」建造、台湾有事には兵員・兵器輸送に利用か…読売新聞など衛星画像分析
中国広東省広州市で、台湾有事を想定した軍民両用艦が建造されていることが、読売新聞などの衛星画像分析で分かった。貨物船に甲板を置いて建造した艦船で、平時には海洋調査などを行う一方、有事には軍が揚陸艦として運用し、兵員・兵器の輸送や監視活動に利用するとみられる。中国軍は建造が容易で安価な民間船を投入し、不足する輸送能力を補完する思惑がある。
建造場所は、中国国有造船大手の関連会社の造船所がある広州市南沙区竜穴島。人工衛星を運用する米宇宙企業プラネット・ラボが昨年10月23日に撮影した衛星画像で同艦が確認され、米宇宙企業マクサー・テクノロジーズが今年3月21日に撮影した衛星画像でも確認された。
衛星画像を読売新聞と公益財団法人「国家基本問題研究所」が協力して分析したところ、中国の軍事関連サイトに同一の船体の写真が昨年11月頃から投稿されていることが判明。同サイトは、中国軍艦艇などの写真が頻繁に投稿され、自衛隊関係者も注目している。船体には軍艦に付与される艦番号がなく、民間調査船であることを示唆する船名が書かれていることなどから、同研究所は同艦が平時には民間で運用される可能性が高いと判断した。
同艦は幅約40メートル、長さ約200メートル。形状は空母と似ているが、中国軍が保有する空母3隻(長さ300メートル超)と比べて短く、戦闘機が発艦する十分な長さはないため、垂直離着陸が可能なヘリコプターや短い滑走路で発艦可能な小型無人機の母艦の役割を担うとみられる。平時には海洋調査や探査を行い、有事には中国軍に不足する揚陸艦としての運用や無人機による攻撃や情報収集での利用を想定している模様だ。
昨年10月時点では甲板上には何も描かれていなかったが、今年3月にはヘリパッドが2か所、白線で描かれ、前回から約600メートル離れた場所に停泊していた。試験航海も既に実施している可能性が高い。
同研究所企画委員の武居智久・元海上幕僚長は、「中国は軍民融合の名の下、商船が軍の海上輸送力を補う体制を強化している」と指摘。同艦が試験的に造られた可能性に言及したうえ、「この造船所での商船の建造ペースを基に計算すれば、(同艦を)年間約10隻建造できる」と分析した。
同艦付近には、ステルス無人作戦艇も確認された。軍事用の船舶も同造船所で造られている模様だ。無人艇は人的被害がなく、台湾有事の際に最前線に投入される可能性がある。
◆揚陸艦=岸壁などの港湾設備に頼らずに陸上部隊を上陸させるための艦艇。攻撃用ヘリコプターなどを甲板から発艦させる強襲揚陸艦や、上陸用舟艇を格納庫から発進させるドック型輸送揚陸艦などがある。英国際戦略研究所の「ミリタリー・バランス2025年版」によると、米国が強襲やドック型などを32隻保有しているのに対し、中国は11隻にとどまる。