「トランプ大統領」が日本に難癖つけるも「アメリカ人すらアメ車を買わない」不都合な真実…米国内のアメ車販売シェアは“過半数割れ”との声
日本時間の4月17日、トランプ大統領は赤沢亮正・経済再生相とホワイトハウスで会談を行った。この時、トランプ大統領は「日本でアメリカ車の販売台数が少ない」との不満を伝えたという。さらに20日には自身の「トゥルース・ソーシャル」に「非関税障壁」を問題視する投稿を行った。(全2回の第1回)
トランプ大統領が挙げた非関税障壁の例は全部で8項目。そのうち7項目は具体的な国名が記載されなかったが、6番目の項目だけは「日本」を名指しした。
《6・保護的な技術規格(ボウリングのボールを使った日本のテスト)》
4月29日現在、トランプ大統領は、このボウリング・ボール・テストについて、何の説明も行っていない。
ただし第1次政権の時には詳細が発覚し、かなりの騒動を巻き起こした。2018年3月、ワシントン・ポストの電子版が、トランプ大統領のボウリング・テスト発言をすっぱ抜いたのだ。
トランプ大統領はミズーリ州で支援者との会合を開催。その際、「日本ではアメリカ車を排除するため、ボウリングのボールを高さ20フィート(約6メートル)の高さから落としている」と主張したのだ。
「わずかでも屋根がへこめば日本人はダメだと言う」、「我々は脅かされている。ひどいことだ」などと支援者の前で日本をこき下ろした。
もちろん事実無根でデタラメな内容であり、トランプ大統領の頭の中にしか存在しない“妄想テスト”であることは言うまでもない。
会合は非公開だったが、ワシントン・ポストは録音を入手して記事を報じた。担当記者が言う。
石破首相も反論
「2018年の時は報道官が『明らかに冗談だ』と火消しに努めました。にもかかわらず、今回も全く同じ荒唐無稽なテストをネット上に投稿したわけですから、日本でトランプ大統領に困惑する声が相次いで上がっているのは当然でしょう。ただし、トランプ大統領が投稿した意図は明白だと言えます。とにかく日本でアメ車が売れないので、日本に圧力をかけて買わせようとしているのです」(担当記者)
4月21日の衆院予算委員会で石破首相は「日本で左ハンドルの車がそんなに売れるとは思えないのですよね」とトランプ大統領に反論した。
石破首相は「左ハンドルに乗ってる、かっこいいオレ」といったタイプならアメリカ車を買いたいと思うかもしれない──と自説を披露。その上でアメリカ車の売れ行きが伸び悩んでいる理由として燃費や日本の交通事情を挙げた。
それでは、どれくらいアメリカ車は日本で売れていないのか、具体的なデータを見てみよう。日本自動車輸入組合は4月4日、「2024年度輸入車新規登録台数(速報)」を発表した。
これによると、輸入車における乗用車の新規登録台数は1位のベンツが約5万2000台、2位のBMWが約3万6000台という具合で、7位のポルシェまで全て欧州車が独占した。
アメリカでも売れるトヨタ
「1位のベンツから7位のポルシェまでの欧州メーカーが登録台数に占めるシェア率は76・61%に達します。8位でやっとアメリカのジープが登場しますが、新規登録台数は約9500台、シェアは4・19%に過ぎません。日本で人気のアメリカ車は他にテスラがありますが、こちらの販売台数は非公表です。一部のマスコミは約5600台との推計を使うことが多く、これを輸入組合の速報値に当てはめると約8000台で9位のランドローバーと、約5400台で10位のプジョーの間に位置します」(同・記者)
話題のテスラでさえ意外に売れていないのが興味深い。
では逆に、日本車はアメリカでどれだけ売れているか見てみよう。CAR DRIVER ONLINEは昨年5月3日、「2024年第1四半期・米国新車販売データ発表。トップはGM」との記事を配信した。
調査の対象期間が異なるため比較は不可能であり、参考情報となるわけだが、記事によるとトップは約59万台でGM。ただし2位はレクサスを含むトヨタで約56万台。その差は約3万台しかない。
3位は約50万台でフォード。4位は約36万台でKIAを含めたヒョンデ。5位は約33万台でアキュラを含むホンダ、これがベスト5だ。
5位以下は台数を省略する。6位はステランティス。日本ではまだ馴染みのないメーカー名だが、フランスのグループPSA、イタリアとアメリカのフィアット・クライスラーが対等合併で2021年に誕生した。
アメ車を買わないアメリカ人
その後は7位がインフィニティを含む日産、8位がSUBARU、9位がマツダ、10位がMINIを含むBMW──という具合だ。
また、Motar Fanが昨年1月6日に配信した「2023年全米TOP10 アメリカでもっとも売れたモデルは? メーカーは?トヨタ、ホンダ、日産、スバル、マツダの日本勢は?」との記事でも、1位GM、2位トヨタ、3位フォード、4位ヒョンデ・KIA、5位ステランティス──というベスト10が伝えられた。
記事に掲載されている10位までの販売台数からシェアを計算しよう。1位GM、3位フォード、5位ステランティス、8位テスラの合計シェア率は48・7%。何と過半数に届かない。
一方、2位トヨタ、4位ヒョンデ/KIA、6位ホンダ、7位日産、9位SUBARU、10位BMWという“非アメリカ車”のシェアは51・3%。うちに日本4社の占める割合は36・57%と4割に近い値だった。
ちなみに2021年のアメリカ新車販売台数はトヨタがGMを上回り、初めて年間首位となって大きく報道された。GMは1931年にフォードを抜いて首位に立ち、それから90年間、首位を守ってきた座をトヨタに奪われたのだ。
「確かにトランプ大統領の言う通り、日本でアメ車は売れていません。しかしアメリカならアメ車が圧倒的に売れているかといえばそうでもないのです。もしGM、フォード、そしてクライスラーを含むステランティスがアメリカ市場のベスト3を独占しているのなら、アメ車の性能、品質、顧客満足度は相当に高いと推測されます。日本でも今より売れる可能性があり、日本市場が閉鎖的という疑いも出てくるでしょう。しかし事実は逆なのです」(同・記者)
第2回【トランプ大統領「日本人はアメ車を買わない!」のウラで…バンス副大統領は「人生で初めて買った車はホンダのシビック」と告白していた】では、バンス副大統領の数奇な人生や、海兵隊の上官が日本車を買うよう説得したことなどをお伝えする──。
トランプ大統領「日本人はアメ車を買わない!」のウラで…バンス副大統領は「人生で初めて買った車はホンダのシビック」と告白していた
第1回【「トランプ大統領」が日本に難癖つけるも「アメリカ人すらアメ車を買わない」不都合な真実…米国内のアメ車販売シェアは“過半数割れ”との声】からの続き──。トランプ大統領が「日本ではアメリカ車を排除するため、ボウリングのボールを高さ20フィート(約6メートル)の高さから落とすテストをしている」と事実無根の言いがかりを付けたことは日本でも大きく報じられた。(全2回の第2回)
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トランプ大統領は「アメリカ車は日本市場から不当に排除されている」と主張している。確かにアメリカ車が日本で売れていないのは事実だろう。だが、アメリカ車はアメリカ国内でも売れているわけではない。
アメリカの消費者はアメリカの車を熱烈に支持しているわけではないのだ。燃費や性能の問題は大きい。にもかかわらず、トランプ大統領は無理矢理にアメリカ車を日本人に買わせようとしている。
では、ここでアメリカのバンス副大統領に登場していただこう。彼が社会人になって初めて乗用車を買った時、一体、どこの国のメーカーを選んだのだろうか。
答えをお伝えする前に、バンス副大統領の生い立ちについて触れておきたい。彼は1984年、オハイオ州のバトラー郡にあるミドルタウンという小さな街に生まれた。2020年現在、人口は約5万人だという。
製鉄で栄えた“企業城下町”だったが、70年代にアメリカの製造業は壊滅状態となる。そのためミドルタウンは現在、典型的な“ラストベルト”の地方都市だと言える。
日本語では「さび付いた工業地帯」と訳される。街には貧困、暴力、窃盗、薬物汚染が蔓延しており、住民のモラル低下は著しい。
子供の尿を必要とする母親
バンス副大統領も貧困家庭に生まれ育ち、幼い時に両親は離婚。母親は睡眠薬などの処方薬に依存し、次々に男性と交際した。そのうちの何人かとは再婚したが、短期間で離婚してしまうという極めて不安定な家庭環境だった。
その苛酷な人生は自伝『ヒルビリー・エレジー アメリカの繁栄から取り残された白人たち』(光文社)に詳しく描かれている。
何しろ母親が薬物検査で陽性反応が出ることを恐れ、息子に「クリーンな尿をくれないか」と頼むような生活なのだ。精神的な安定からは遠く、バンス副大統領は地元の高校をドロップアウトする寸前だったという。
だがバンス副大統領には裕福ではないものの、それなりに安定した日々を送る祖父母がすぐ近くに住んでいた。ただし祖父母の生活も“普通”という概念からは遠い。
特に祖母は良くも悪くも出色の存在だ。ヘビー・スモーカーで常に銃を手元に置き、独自の信仰心と信念を持ちながら、たくましく悪口雑言を吐きながら生きる。読者は強い印象を受けるだろう。
母ではなく祖父母の家に住むことでバンス副大統領は静かな日常生活を手に入れた。学業を立て直すことにも成功し、SAT(大学進学適性試験)で高得点を得る。
海兵隊を選んだ副大統領
貧困層を対象とする奨学金を利用し、バンス副大統領はオハイオ州立大学に進学することを一度は決断した。しかし「普通の人生」を知らない不安から、大学生として一人暮らしができるか自信が持てない。
何しろミドルタウンで多数派を占める貧困層は食生活ならジャンクフードが中心、炭酸飲料の飲み過ぎで歯はボロボロ、勤労意欲が低いため簡単なバイトも休みがちで、家計は借金だらけだ。我が子にクリスマスプレゼントを購入するため、犯罪で金を得ようとする両親も決して珍しくない。
そこでバンス副大統領は高校を卒業後、海兵隊に入隊することを決める。大学の学費を自分で稼ぐという目的もあったが、何よりも普通で健全な日常生活を送れる社会人になりたかったのだ。
結論を先に言えば、副大統領の判断は正しかった。規則正しい生活、栄養バランスの取れた食事。海兵隊員として仕事に従事することで、貧困と虐待で著しく低下していた自己肯定感を取り戻すことに成功した。一人の社会人として普通に生きていけることを学んだのだ。
「彼の自伝で興味深いのは、海兵隊では新兵のため給与をバランス良く使う家計管理や、貯金や投資の意味を教える授業も用意されていることです。自伝によると初任給は1500ドル(約21万円)。すぐに先輩の隊員がバンス副大統領を海軍の信用金庫に連れて行き、口座を作ってくれたと回想しています。海兵隊は民間企業とは異なり、勤務時間が終わっても身だしなみや部屋を清潔にしているか上官がチェックします。バンス副大統領の母親は育児放棄も日常的だったので、プライベートに積極的に介入し、規律を守らせる海兵隊の伝統に自伝で感謝しています」(同・記者)
BMWからホンダへ
初任給を預金する銀行口座でさえ先輩が指導してくれるのだ。海兵隊に入って初めて車を買う時も同じだった。自伝の該当部分をご紹介しよう。
《初めて車を買いに行ったときも、上官が年長の隊員を指導役として私に同行させたので、本当はBMWが欲しかったのに、実用的なトヨタやホンダといった車に落ち着くことになった》
《23歳の誕生日の数日後、私は人生初の大きな買い物をした。手に入れた中古のホンダ・シビックに乗り込み、除隊書類とともに、ノースカロライナ州チェリーポイントからオハイオ州ミドルタウンまでの最後の家路についた》(関根光弘・山田文訳)
バンス副大統領が生まれて初めて買った車のメーカーはホンダだった。しかも、最初に思い描いていたのはBMWであり、それを上官が日本車に変えるよう説得したのだ。バンス副大統領も上官も、アメリカ車を全く想定していないというのは衝撃的な事実だろう。
「アメリカでレンタカーを借りた人から面白い話を聞いたことがあります。大手のハーツに行くと、何かのキャンペーンでアメ車から日本車への“アップグレード”が期間限定で無料、と大々的に宣伝されていたそうです。どれだけアメリカで日本車が人気かよく分かるわけですが、トランプ大統領が関税で脅迫し、日本にアメ車の購入を要求するのは全くの反則技です。とはいえ、トランプ大統領を擁護するわけではありませんが、裏ワザを使わなければアメ車を日本人に買ってもらうのは不可能、ということなのかもしれません」(同・記者)
第1回【「トランプ大統領」が日本に難癖つけるも「アメリカ人すらアメ車を買わない」不都合な真実…米国内のアメ車販売シェアは“過半数割れ”との声】では、アメリカ車がアメリカ国内でも売れていない事実を、2023年の販売シェアから明らかにしている──。