年1,000万本のスポーツ動画を「自動生成」、もう起きているAIスポーツ革命

年1,000万本のスポーツ動画を「自動生成」、もう起きているAIスポーツ革命

スポーツエンタメ業界でAI活用が加速している。スポーツAIに関するWSC Sportsの技術により、今では年間1020万本ものハイライト動画が自動生成されるまでに至っているという。また、Elevateが開発した「EPIC」プラットフォームは2億2000万人分のデータを分析し、米アメフトのNFLチームのスタジアム開発やチケット販売に革命をもたらした。ここでは、AIがスポーツビジネスに「すでにもたらしている変革」について詳しく解説する。

AIで激変するスポーツエンタメ市場

 スポーツエンタメ業界のさまざまな側面がAI・生成AIにより大きく変貌を遂げつつある。その1つがコンテンツ配信と、それによるファンエンゲージメントの強化だ。

 米国の大学スポーツにおける主要カンファレンス(競技連盟)の1つBig 12 Conferenceは、WSC Sportsの支援を受け、同リーグのデジタルプレゼンスを向上させる取り組みを加速。

 連盟に加入する16の大学向けにフットボール、男子バスケットボール、女子バスケットボールのカスタマイズされたビデオコンテンツを作成し、SNSや同カンファレンスのコンテンツプラットフォーム全体に即座に配信できる体制を整えた。

 この仕組みは、試合の短縮版動画やハイライト、個別選手クリップなどを自動作成できるもので、これまでに550時間に及ぶ9500以上の動画が作成された。これによりBig 12のYouTubeチャンネルは、投稿数で前年比5290%、動画視聴数で2212%、獲得登録者数で3333%という飛躍的な成長を達成したという。

 こうしたAI活用による顕著な成長は、Big 12だけでなく業界全体の傾向として注目を集めている。実際、Stats Performが実施した「2025年ファンエンゲージメントとマネタイゼーション調査」によると、すでにAIを採用している組織は、まだ投資していない組織と比較して、コンテンツの商業化が3倍容易になっていることが明らかになっている。

年間1000本以上のハイライト動画の生成も

 このようにスポーツコンテンツ作成や配信のあり方を大きく変えるWSC Sportsのテクノロジーは一見に値するだろう。

 中核となってきたのは縦型コンテンツ配信用の「Stories」やコンテンツ収益化システムだが、生成AIを活用した複数言語生成ツールや動画生成ツールとの連携により、著しい躍進を見せている。

 「Stories」は、インスタグラムやTikTokのような縦型動画体験をスポーツチームや放送局の公式アプリに組み込む技術。ファンがわざわざSNSに移動しなくても、お気に入りチームのアプリ内で縦型コンテンツを楽しめるようになった。縦型コンテンツ需要は急速に拡大しており、WSC Sportsの顧客の間でも生成AIツールを活用した縦型コンテンツ制作が急増。2024年には前年比81%増となる400万本以上の縦型ハイライトコンテンツが制作された。

 同社はAI開発チームを立ち上げ、現在スポーツに特化した生成AIモデル「大規模スポーツモデル(LSM)」の開発を進めている。このモデルを活用し誕生したのが、試合ハイライトに複数言語の解説を自動生成するAI音声ツールとスポーツ記事を読み込み関連動画を自動制作するツールだ。2024年だけで同社のAIツールにより、縦型コンテンツを含め1020万本ものハイライト動画が制作された。

スポーツ広告におけるAIの影響

 AIは、スポーツコンテンツの広告収益を拡大する可能性も秘めている。

 動画配信プラットフォームBitmovinの共同創設者ステファン・レデラー氏は、AIの真価は膨大なコンテンツを効率的かつ正確に検索・分類できる点にあると指摘する。これにより、埋もれていたアーカイブ映像や特定ファン層向けのニッチコンテンツが、適切な広告主とマッチングされることで突如として収益化資産に変わる可能性があるという。

 またBitmovinは、AIによる解析技術により、リアルタイムでもコンテンツ文脈を理解した広告配信の最適化を実現している。たとえば、試合中のハイライトシーン(ゴール、決定的なプレイ、選手の感情が高まる瞬間など)では視聴者の感情や関心に即した広告をタイムリーに挿入したり、インターバルやハーフタイムなど視聴者の注意が少し散漫になるタイミングではそのムードに合わせた広告を配信したりすることが可能となる。これにより、クリック率やコンバージョン率の向上が期待できる。

 広告在庫の価格設定においても、AIは市場を一変させつつある。広告管理プラットフォームOperativeのデイブ・デンボウスキー上級副社長によると、AIで視聴者データを分析することで、放送事業者はより正確な需要予測ができるようになり、スマートな価格戦略を構築できるようになると説明する。たとえば、テレビ視聴データ、SNSの言及量、アプリ使用状況などの複合データからAIが試合視聴者数を予測し、広告枠の最適価格を導き出すことも可能になった。

AIスポーツアナリティクスの「ヤバすぎる」進化

 スポーツにおけるAI活用はアナリティクス分野でも急速な広がりを見せる。

 スポーツ組織は機械学習(ML)、IoT、予測分析などのハイテクソリューションを採用し、意思決定と運用効率を向上させているのだ。たとえば、AIツールが選手データを分析して練習スケジュールを作成し、怪我のリスクを軽減する取り組みが挙げられる。またリアルタイム分析による試合中の戦略調整やパフォーマンス向上も実施されている。

 さらに、サッカーではパフォーマンス追跡と怪我の予防、バスケットボールでは戦略最適化のための選手の動き分析、eスポーツではリアルタイムゲーム分析と観客インタラクションなど、各スポーツ種目に応じた垂直的なAI活用も進んでいる。

 アメフトのサンフランシスコ49ersの社長でもあるアル・グイド氏率いる企業Elevateが興味深い事例を示す。同社は、2億2000万人の消費者データを統合した「Elevate performance and insights cloud(EPIC)」を立ち上げた。これはAnthropicのClaude 3.5 haikuを中核としつつ、消費者インサイト、チケット管理、プロパティ分析を組み合わせたAIプラットフォームだ。

 米アメフトプロリーグNFLのテネシー・タイタンズはEPICを活用し、2027年に開業予定の新スタジアム(21億ドル規模)の開発を進めている。EPICによって構築された詳細なファンペルソナは、メッセージングからプレミアムシーティング、ホスピタリティ提供まで、ターゲットを絞ったマーケティング戦略の基盤になっているという。新スタジアムの開業はまだ数年先だが、タイタンズはすでにデータとAIを活用したインサイトに基づき、プレミアムシート販売目標を上回る実績を達成したとされる。

 アナリティクス技術は大学スポーツにも恩恵をもたらしている。イリノイ大学アスレチック部は、EPICプラットフォームを活用することで、フットボールと男子バスケットボールのチケット販売戦略を大幅に改善。また、卒業生や支援者からの年間寄付を効率的に集めるための新しい仕組みを構築することにも成功したという。

スポンサーシップ、マーケティング収益を劇的改善「新特許」

 AI導入によるスポンサーシップやマーケティング収益の最適化も注目トピックの1つだ。その中でも、スポンサーシップ分析プラットフォームRelo Metricsの新特許は特筆に値するだろう。

 この特許は、スポンサーシップの価値測定において、業界標準になり得るものとして関心を集める。これはAIの画像認識と機械学習を駆使し、スポーツ中継でスポンサーロゴがどれだけ視聴者の目に触れているかをリアルタイムで分析できるもの。たとえば、スタジアムのフィールド看板やユニフォームに表示されたロゴの露出時間を正確に計測し、その広告価値を金額換算する。これにより広告主や代理店、スポーツチームは投資対効果(ROI)を明確に把握できるようになる。

 広告市場では、より効果的かつ高い投資対効果を求める声が強まっており、こうしたAIツールの開発はさらに加速するものと思われる。

 Comscore傘下のProximicによる最新調査では、広告主の72%が2025年にプログラマティック広告(自動化された広告買付)への投資を増やす計画と回答。特に接続テレビ(CTV)市場で、広告予算に占める割合は2024年に28%と、2023年から2倍増を記録しており、2025年はさらなる拡大が見込まれている。

 視聴者データとAI分析により、放送事業者は視聴者が最も関心を持つコンテンツを特定できるようになった。また個人の好みや視聴中のコンテンツに合わせた広告配信も可能になっており、収益最大化の可能性も広がる。スポーツエンタメ業界において、AIはもはや実験的技術ではなく、激しい競争を勝ち抜くための必須ツールとなりつつあるのが現状のようだ。

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