高速道路で女子大生3人即死~シャオミ製EVが中国スマートカー業界へ与えた大打撃

高速道路で女子大生3人即死~シャオミ製EVが中国スマートカー業界へ与えた大打撃

 中国の家電メーカー「シャオミ」が誇る最新EV「SU7」で事故が起き、女子大生3人が命を落とした。高速道路を走行中、警告から衝突までわずか2秒。ドアが開かず、3人が中に閉じ込められたまま、クルマは炎を上げて燃え上がった……。この事故は、中国で大きな注目を集めている。EVが飛ぶように売れて、自動運転技術への期待も高い中国。「AI化、スマート化、無人化」を掲げる国家戦略の象徴として台頭してきたスマートカー業界は、これからどうなる?(フリーランスライター ふるまいよしこ)

● トランプ関税騒ぎを受け、中国は輸出向け製品を国内市場に投入

 トランプ米国大統領による「対等関税」の主張に始まった前代未聞の関税騒ぎは、現場担当者には申し訳ないが、追いかけて一喜一憂するにはあまりにもバカバカしい「言いたい放題」の様相を呈している。当初は「奉陪到底!」(徹底的にお付き合いしよう!)と勇ましい構えを見せた中国政府ですら、今や「もう知らんわ!」という姿勢に転じている。

 中国政府はその一方で、輸出向け製品を国内市場に向けて投入すべく、アリババやJDドットコムなどの大手Eコマース企業への協力を要請している。すでに11日には、JDドットコムが今後1年間で2000億元(約4兆円)分の輸出向け製品を購入・販売すると宣言し、他の同業企業も同様の動きを見せ始めた。

 しかし、いくら14億人の巨大市場とはいえ、世界向けに輸出される予定だった製品をすべて吸収するのは現実的に不可能だろう。実際、中国政府はこの関税騒ぎの直前に、パンデミック以降続く消費不振への振興策「消費促進専門アクションプラン」(以下、「アクションプラン」)を発表したばかりである。

 このアクションプランは、8つの構想から庶民の消費意欲を喚起しようとするものだ。消費拡大のために、収入増大、養老・医療サービスの充実、家政サービスの発展、消費財の買い替え促進、消費生活のグレードアップ、業界・イベント支援などに向けた政策見直しが掲げられている。

 このような国内消費市場に、さらにダブついた輸出向け製品を大量投入するという中国政府の戦略がどのような結果をもたらすのか注目される。

● シャオミ製スマートカーが炎上、女子大生3人が死亡

 そんな中、アクションプランで特に強調されていた「AI化、スマート化、無人化」グレードアップ策として大きな期待を担っていたスマートカー業界で、衝撃的な事故が発生した。

 3月29日夜、湖北省から安徽省に向けて高速道路を走行していた、シャオミ製のスマートカー「SU7」が、路上の道路工事を避けそこねて中央分離帯に激突、炎上した。車には翌日安徽省で行われる公務員試験を受ける予定だった女子大生3人が乗車しており、全員が炎上する車内で命を落とした。

 事故直後、運転者の女子大生の家族がSNSに「3人は事故の衝撃で開かなくなった電動ドアのせいで、車内に閉じ込められて焼き殺された。なぜシャオミは未熟な製品を販売したのだ」と投稿し、大きな注目を集めた。

 XIAOMI EV ERUPTS IN FLAMES AFTER DEADLY CRASH

A Xiaomi SU7 electric vehicle was involved in a deadly crash on a Chinese expressway, with local media reporting 3 fatalities.

Xiaomi confirmed the vehicle’s driver assistance system had been active less than 20 minutes before… https://t.co/cQxOcgj634 pic.twitter.com/1srmPlKmw9

— Mario Nawfal (@MarioNawfal) April 1, 2025● シャオミのスマートカー戦略

 SU7は、シャオミが昨年3月に発売したEVで、発売時から、目的地を設定すると自動運転できる機能を備えていると謳っていた。

 シャオミは格安ながら高機能なスマホで成功を収め、そこからスマート家電メーカーへと急成長を遂げた企業だ。そのスマート化構想における最大の野心がこのスマートカー事業だった。近年、中国で急増した「スマートカー新勢力」と呼ばれるメーカーの中でも、最初の10万台を最速で出荷したことで話題となった。シャオミの顔である創設者の雷軍CEOは、発表時に予約を入れた人々の6割が長年のシャオミファンであり、それを「シャオミに向けられた厚い信頼の証だ」と評していた。

 現在、SU7にはスタンダード、プロ、マックス、ウルトラの4つのバージョンがあり、価格は約22万元(約430万円)から約30万元(約586万円)と「お手頃」に設定されたことも注目を集めていた。勢いに乗った雷軍CEOは、事故発生直前の3月に、年内の納車目標を30万台から35万台に引き上げることを宣言していた矢先だった。

 しかし、そのスマートカーが3人の若い命を奪う事故を起こしたことで、様々な面から激しい非難と疑惑の目が向けられることになった。

 雷軍CEOは事故後、しばらくSNSでの発言を控えていたが、3日後に沈黙を破り、亡くなった3人への哀悼と遺族・友人への弔意を表明した。また、自社のチームが事故直後に現地に向かい、警察の要請に応じて同社が保管していた事故車両のデータを提供したことも明らかにした。

 しかし、その時点でシャオミのチームはまだ、警察が保管・捜査中の事故車両に接触できておらず、事故に関する具体的な質問に回答できる状態ではないとも述べた。

● 高速道路を自動運転機能で走行中に事故が?

 ほぼ同時期に、シャオミ車両製造部門のSNSアカウントが、同社が保有する事故車両のデータを公表した。

 それによると、車両は事故発生前、自動運転支援システム「NoA」(Navigate on Autopilot)の補助運転モードで時速116キロで走行中、路上の障害物を検知して運転手に警告。運転手による手動運転に切り替わり、減速しながら車線変更した直後に中央分離帯のコンクリート壁に衝突した。システムが最後に記録した速度は時速97キロで、衝突は22時44分26秒から車の緊急通報システムが作動した同28秒の間に発生したとされる。

 緊急通報システムによってシャオミへの通報と救急車の出動要請が自動で行われ、シャオミが車の所有者と連絡を取ったところ、SU7の所有者(運転者の女子大生のボーイフレンド)は車に乗っていなかったことが判明した。家族の投稿によると、この車はボーイフレンドから「シャオミファン」の彼女へのバースデープレゼントだったようだ。

 シャオミによれば、警察、消防、救急車は夜11時過ぎに現場に到着したが、事故車両はその後も1時間ほど燃え続けていた。途中、対向車線の運転手が後部座席の女子大生を救助しようとしたものの、ドアが開かずガラスを破って車外に引き出したという。しかし、救出された彼女もその後死亡。運転席と助手席の2人はそのまま焼死し、家族は「黒焦げ状態の遺体と対面した」とSNSに書き込んでいる。

● ドア、バッテリー……浮かび上がる疑問点

 この事故からまず、「なぜドアが開かなかったのか」という疑問の声が上がった。

 電動自動車の事故でバッテリーが損傷すると電動ドアは機能しなくなるのかという質問に対し、シャオミ側は「バッテリー不能時に備えて、各ドアポケットの奥に手動でドアを開けられるボタンがある」と回答している。しかし、一見しただけでは気づきにくい位置にあるそのボタンの存在を、運転手の女子大生は認識していたのだろうか。また、仮に知っていたとしても、事故の混乱した状況でそれを思い出し、同乗者に伝える余裕があったのかという疑問も提起された。

 また、中央分離帯に衝突した直後になぜ車が炎上したのかという点も多くの人々が疑問視している。バッテリーの設計や配置に問題があったのではないかとの指摘も出始め、バッテリー供給メーカーに疑いの目が向けられた。

 これを受けて、同モデルにバッテリーを供給している2社のうちの1社、大手車両バッテリーメーカー「寧徳時代」(CATL)が「事故車の電池は当社のものではない」と発表。もう1社の「比亜迪」(BYD)は沈黙をしたままだ。さらに業界事情に詳しいエンジニアからは、「EVはバッテリーの上に座席がしつらえられているようなもの。そのため衝突時の安全設計はガソリン車以上に重要になってくる」との指摘も挙がっている。

● 自動運転機能の限界、廉価モデルの不幸

 シャオミが公表したデータによると、事故車はNoAによる障害物発見の警告から、減速、手動運転への切り替え、ハンドル操作、そして衝突までわずか2秒しかなかったことも明らかになった。

 さらに障害物警告の15分前には、NoAが運転手の注意散漫を警告し、事故のわずか8分前にも、運転手にハンドルを握るよう注意喚起していたことも判明した。これらの情報から、運転者は夜間の高速道路を自動運転モードにして、ハンドルから手を離して走行していたのではないかと見られている。

● 母親は「スマート運転なんか信用しちゃダメ」と諭していたが……

 さらに、運転者の女子大生はかつて、「しっかりハンドルを握って運転しなさい。スマート運転なんか信用しちゃダメ」と諭した母親に対し、スマートカーは便利で安全だと反論し、「いろいろもう証明されているんだから」と主張したことがあったとも伝えられている。彼女は実際に、湖北省から広東省まで800キロをSU7で走行したこともあったという。その経験が彼女に過信を生んだのかもしれない。

 しかし、スマートカーとはいえ、今回事故を起こした車両はSU7の中でもっとも基本的な装備のスタンダードバージョンだった。衝突軽減ブレーキ装置「AEB」が事前に作動しなかったのではないかという声もある。これに対しシャオミ側は、「スタンダードバージョンのAEB装置は業界の同レベル構成のものとほぼ同等で、現時点では三角コーン、プラスチックバリケード、石、動物などの障害物には反応しない」と回答。つまり今回の事故ではAEBは機能しなかったことが明らかになった。ネットメディア「界面新聞」は、これらの物体はAEBの誤作動を引き起こしやすく、それを避けるために反応しないよう設定されていることが多い、とする専門家の見解を紹介している。

 さらに、SU7のスタンダードバージョンではLiDAR(レーザーレーダー)が搭載されておらず、障害物の識別は主に車載カメラで行っていることも判明した。上位モデルがレーザーレーダーとカメラを組み合わせて車の周りを認識するのと比較すると、認識できる対象物までの距離が短く、精度にもブレが生じやすい。特に夜間走行では障害物の認識が困難になる。

 「界面新聞」によると、時速116キロで走行していた車がNoAの警告から2秒後に中央分離帯に衝突したことから、NoAが障害物を認識したのは障害物(工事現場)の約64メートル手前だと推定されている。夜間のライトに照らされた路上でNoAはギリギリの範囲で警告を出したようだという。

 しかし、わずか2秒で運転者に何ができただろうか?

● 消費者の不安とスマートカー業界への影響

 事故の詳細については現時点で公式の発表はなされていない。日本とは異なり、こうした事故や事件の詳細が社会に公開される習慣のない中国では、調査報告が公開されるかも不透明だ。事故原因もまだ完全には解明されていない。特に、事故現場となった高速道路上の工事が、規定通りに工事標識を設置していたかなどの調査結果も出ていない。夜間工事の実施方法に問題があった可能性も否定できない。

 しかし現時点で、消費者の間で広がりつつあるのは、ひたすら業界や行政主導で持ち上げられてきたスマートカーや自動運転への不安感である。

 現在、中国メーカーが市販する乗用車※に搭載された「自動運転」機能は、国際基準のレベル2。レベル3ではない以上、車を運転する主体はシステムではなく人間であり、運転時の監視や何かあったときの対応は運転手が行うことになる。メーカーがたとえ「自動運転機能が付いている」と言っていても、実際には運転手が完全に手や目を放して、車に運転を任せっぱなしにしてはいけないのだ。

 ※編集部注:中国では複数の都市でレベル4の自動運転タクシーのサービスが展開されており、無人の商用車がお客を乗せて走っている。詳しくは別記事を参照→「テスラ参入で話題の自動運転タクシー、爆速で実用化が進む中国で「愚か者」呼ばわりされる理由とは」

 これまで「最新技術バンザイ」とばかりに前のめりに技術開発を推進してきたスマートカーメーカーや業界は、社会の期待をふくらませ続けてきた。消費者に提供される情報は夢のような話ばかりだった。シャオミに限らず、多くのスマートカーメーカーが最高装備モデルの機能を宣伝しながら、最も安いモデルの価格を強調する手法を取ってきた。

 今回の事故直後の一週間、シャオミの販売台数は5000台と、過去2カ月で最低の販売実績となった。シャオミへの打撃は大きい。

 シャオミだけでなく、これまで夢の車と信じられてきたスマートカー、いやスマートカー販売の「弱点」も露呈した。事故でドアが開かなくなるという基本装備の問題から、障害物認識機能は期待されたほどではないということまで、自動運転に夢を抱いていた人々を震え上がらせるには十分な出来事だった。

 今回の事件を受けて、人々の間でスマートカーの買い控えが起こるという声もある。消費拡大を目指す中国にとって、「外も内も頭が痛い」状況が続きそうだ。

Fatal Xiaomi EV Crash Sparks Outrage: Self-Driving Tech Under Fire After 3 Die in Fiery Wreck.

Xiaomi EV Crash in China Raises Concerns About Smart Driving Software

🍎たったひとつの真実見抜く、見た目は大人、頭脳は子供、その名は名馬鹿ヒカル!🍏