トランプ関税の"最大の犠牲者"はアメリカ人…米紙が報じた「日本車に勝てないアメリカ車」の不都合な真実
トランプ政権は4月3日、輸入車や自動車部品への追加関税措置を発動した。2日には相互関税と、全世界を対象とした一律関税を発表した。強硬な関税政策で、アメリカ経済は良くなるのか。米メディアは、かえってアメリカ国民が窮地に立たされることになると指摘する。不安の声はアメリカの自動車業界からも上がっている――。
追加関税が車社会のアメリカに打撃
アメリカのトランプ大統領が先月発表した輸入車と自動車部品を対象とした25%の追加関税が、4月3日に発動した。ワシントン・ポスト紙の報道によれば、この政策は米国内の自動車生産を活性化させる狙いがあるという。
しかし、アメリカ国内で売られている自動車の実に半数近くが、海外からの輸入品だ。関税で新車価格が跳ね上がれば、ただでさえ急速なインフレにあえぐ米消費者にとって、生活の足である自動車を一層購入しづらくなる可能性が出てきた。
影響車種は決して限定的ではなく、「アメリカ製」と米国民に広く認識されているような車でさえ、実態として多くの部品を海外から調達している。ウォール・ストリート・ジャーナル紙が明らかにしたところでは、ほぼすべてのモデルの自動車に何らかの輸入部品が使われているという。
価格への影響は甚大だ。自動車業界の専門家たちはワシントン・ポスト紙に対し、今回の新たな関税によって車1台あたり平均6000ドル(約90万円)の値上がりが予想されると警鐘を鳴らしている。コックス・オートモーティブの首席エコノミスト、チャーリー・チェスブロー氏は同紙に、時機としては「すぐにも」上がり始めるだろうとの見方を明かした。
近年ではSUVが売れ筋だが、なかでもコンパクトSUVなどの比較的安い車種は海外で造られていることが多いため、最も大きな打撃を受けることになるとみられる。比較的手頃な価格で愛されている車種ほど上げ幅が大きくなる、皮肉な状況だ。
フォードの部品は24カ国から輸入…幻想だった「アメリカ製」
トランプ大統領は、懸念の払拭に躍起だ。「アメリカ内で製造された自動車には関税を課さない」とアピールし国民の不安解消に努めているが、ウォール・ストリート・ジャーナル紙の検証によれば、この発言には大きな落とし穴がある。アメリカを代表する車種であるフォードF150ですら、完全な国産品とは言えない状態なのだ。
同紙が詳しく調べたところ、フォードF150には「数千点の部品」が使われており、それらが実に「24カ国以上から調達されている」ことがわかった。たとえば、発電を担うオルタネーターはメキシコ製、タイヤに動力を伝えるハーフシャフトはカナダ製、タイヤ本体は韓国製、そしてデザインを重視したホイールはメキシコからと、いずれも追加関税の影響をもろにうける輸入品となっている。
追加関税を回避するにはサプライチェーン全体を国内化せざるを得ないが、複雑に絡み合った供給網を短期間でアメリカ内にまとめることは、現実問題としてほぼ不可能な状況だ。
自動車業界のある専門家は、ウォール・ストリート・ジャーナル紙の取材に対し、「こうした生産体制をまるごと変えるのは、(東岸の)メイン州全体を(中部)ワイオミング州に移すようなものです」と例え、ほぼ実現不可能であると強調する。完全国産化に至ればトランプ氏も満足だろうが、業界の現実を鑑みるに、ほぼ無理筋といった状況だ。
日本車が直撃を受ける理由
一方、追加関税の影響が最も早く及ぶとみられるのが、日本車だ。
ワシントン・ポスト紙によれば、レクサス、トヨタ、ホンダ、スバルなど日本の自動車メーカーは、アメリカ内に現時点で確保している在庫数が米国内メーカーと比較して少ない。このため、関税による調達価格の高騰は、ほぼ即座に市販価格に反映される見通しだという。
日本企業側としては、アメリカ市場への依存度が高い。このことから、日本企業への打撃は非常に大きくなるおそれがある――と同紙は言う。
日本の輸出産業全体を見ても、自動車は代表的品目のひとつだ。ワシントン・ポスト紙は記事を通じ、トヨタ、ホンダ、マツダ、日産、スバルといった日本の自動車メーカーがアメリカ市場に大きく頼っていると指摘している。同紙によると、2024年の日本の輸出額のおよそ6分の1を自動車が占め、輸出された車の3分の1がアメリカ向けだったという。
こうした状況で25%の追加関税が課されれば、日本車の値上がりとアメリカでの販売落ち込みは避けられない。さらに、自動車業界への打撃は半導体や鉄鋼などサプライチェーン全体に波及し、30年ぶりの勢いで上がり始めていた日本の賃金にも悪影響を与えかねない、と記事は論じる。
「対抗手段はほぼない」日本政府の苦境
突然の追加関税措置に、日本政府はどう反応したか。石破茂首相は25%の自動車関税に対し、「適切な」対応を取るべく、「あらゆる選択肢」を検討すると表明した。だがワシントン・ポスト紙は、現実として日本の選択肢はほとんどないとの見通しを示している。
記事は日本が報復関税を導入する可能性も否定していないものの、専門家は、日本の反撃の難しさを指摘する。日本の経済が輸出依存の体質であり、また、アメリカとの安全保障同盟を損なう恐れへの懸念があるためだという。
ニューヨーク・タイムズ紙は、日本がアメリカへの報復に消極的な背景に、国内のインフレが影響しているとみる。日本の対米輸入品は主に天然ガスや農産物などの必需品だ。ムーディーズ・アナリティクス東京のシニアエコノミスト、ステファン・アングリック氏は同紙に、「これらに報復関税を設けると(当該品目の価格上昇で)日本自身が苦しむことになるため、現実的な選択肢とは言えない」と述べている。
7年ローンで無理して購入も…アメリカ国民の苦渋の選択
日本にとって手痛い状況だが、関税の導入で最も苦しむのは、他ならぬアメリカ国民自身でもある。
ワシントン・ポスト紙の報道によれば、自動車価格はコロナ禍以降、すでに2割超も跳ね上がっている。コックス・オートモーティブが集計したデータを見ると、2022年末には車両の平均価格が4万9900ドル(約734万円)を突破し、今なお高い水準のままだ。追加関税の導入で、この苦境はさらに深刻さを増すとみられる。
テキサス州アマリロでフォルクスワーゲン販売店を営むジョン・ルチアーノ氏は同メディアに対し、「4万ドル(約588万円)の車両が一気に4万5000ドル(約662万円)、あるいは5万ドル(約735万円)にまで跳ね上がるでしょう。打撃から逃れる術はなく、新たな関税の影響は私たちを直撃しそうです」と懸念を示している。
買い手側の不安も広がっている。ミシガン州サウスフィールドで自動車販売グループを取り仕切るジョージ・グラスマン氏によると、関税発動前に購入契約を済ませたい客からの問い合わせが殺到しているという。「現代(ヒョンデ)、起亜、スバルなど、うちが扱うブランド全てに(値上げの)影響が及ぶ」と、グラスマン氏は危機感を募らせている。
購入を急ぐ消費者たちだが、手元資金ですぐに購入できる家庭ばかりではない。従来3年が標準的だったローン期間だが、ここにきて、金利負担の大きい7年(84カ月)で契約してでも購入に踏み切る消費者が増えているという。
「チキン税」が生んだ自動車産業の歪み
大幅な関税強化は消費者を困窮させるだけでなく、長期的にはアメリカの自動車産業全体を弱体化させるおそれがある。類似の関税によって、すでに市場に異変が生じた実例があると指摘されている。
アメリカで1960年代から続く奇妙な制度に、通称「チキン税」がある。輸入ピックアップトラックに25%の関税をかける制度だ。当初はアメリカ政府が、ドイツの鶏肉輸入税に対抗するために打ち出した措置だった。ところが、全米公共ラジオ(NPR)が取り上げるように、この関税は今日まで50年以上にわたり続いている。
その結果、アメリカの自動車メーカー各社は、海外勢との競争が少ないピックアップトラック分野に力を入れるようになった。そして、その反動として、競争の激しいコンパクトカー市場からは徐々に手を引いていった。
レイモンド・ジェームズ社のチーフエコノミスト、エウヘニオ・アレマン氏はNPRの取材に対し「関税の作用の一つに、市場の歪みが挙げられます」と指摘する。「ピックアップトラックへの25%関税がもたらした歪みのせいで、アメリカ自動車業界はコンパクトで安価な車を造りたがらなくなったのです」
また、このような保護貿易の恩恵に浴する企業は、世界市場での競争意欲やイノベーションへの取り組みが薄れる傾向にある。NPRは、アメリカの自動車メーカーは米国内でこそ大型ピックアップトラックで大きな収益を上げているが、こうした車両は世界の他地域ではほとんど通用しないと指摘する。
アレマン氏は語る。「ヨーロッパの道を見たことがあるでしょうか? あそこは古い街ばかりです。アメリカ車は大きすぎて、曲がり角を曲がれないんです」
「アメリカを再び偉大に」が生んだ代償
貿易の不平等を主張するトランプ氏は「アメリカを再び偉大に」をスローガンに掲げ、関税導入を強行した。だが、そもそもアメリカの自動車が国際的に魅力的であれば、米自動車企業は自ずと、今よりも強い存在感を国際市場で発揮していたことだろう。
そうならなかった原因として、何があったか。米メーカーが世界的競争力のある車を造れなくなった理由の一端に、過去の米政府自身が導入し現在まで残る「チキン税」の関税政策があったというわけだ。今回の追加関税も、車両価格の値上げで国民に負担を与えるだけでなく、米自動車企業に長期的な悪影響を残しかねない。
その一方で、韓国の現代(ヒョンデ)自動車は、米国内の生産能力拡充と1400人超の雇用創出を目指す210億ドル(約3兆1000億円)規模の投資計画を打ち出した。ワシントン・ポスト紙によると、トランプ大統領は「関税政策が非常に効果を上げている明らかな証拠だ」と自賛している。
国外各社がこうした投資に動けば、保護貿易政策は一時的に国内産業を守るように見えるかもしれない。だが長期的には、国際競争力の低下や技術革新の停滞を招く危険性を秘めている。「チキン税」の例が物語るように、市場のゆがみは何十年も続き、産業構造を非効率な状態に固定化してしまうことだろう。
トランプ関税は「アメリカ離れ」を引き起こす大愚策…トランプ大統領の暴走でトクをする"唯一の国"とは
トランプ米大統領による関税政策で、世界経済が混乱に陥っている。政治ジャーナリストの清水克彦さんは「トランプ氏が仕掛けた貿易戦争は、世界第2位の経済大国である中国の求心力を高め、習近平が狙う『アメリカVS中国+国際社会』という構図につながりかねない」という――。
国際社会に喧嘩を売るトランプ政権
「中国が報復関税をかけたのは過ちです。アメリカが殴られれば、トランプ大統領はさらに強く殴り返します。したがって、きょうの真夜中に中国への104%の関税が発効します」
4月8日、ホワイトハウスで記者団にこう語ったのは、27歳で報道官に抜擢されたキャロライン・レビット氏だ。
学生時代から反リベラル色を打ち出し、1期目のトランプ政権で報道官補佐としてメディア戦略に関わってきた彼女は、今やトランプ氏の方針をオブラートに包むことなく国際社会に発信する「首都ワシントンの顔」だ。もっと言えば、一方的な関税政策で国際社会に喧嘩を売る「ホワイトハウス」、いや「ファイトハウス」の申し子と言っていい。
しかし、レビット報道官の会見の翌日(9日)、中国への関税率は、わずか1日で104%から125%にまで引き上げられ、さらにその翌日には、「2月と3月分を加算すると145%になる」と修正された。
中国を「偉大な国家」にする愚策
日本をはじめ、トランプ氏による関税政策に報復措置を取らなかった国々への関税率は、90日間、10%に留め、対決姿勢を示した中国に対しては過去に類を見ない高関税を課したことになる。
筆者はこれまで、トランプ氏が「良くも悪くも公約を守る」という1点において、その動静を好意的に見てきたが、中国に仕掛けた貿易戦争は、「パリ協定からの離脱」や「不法移民の強制送還」といった政策とは比べようもないほどの悪手というほかない。
なぜなら、トランプ氏が仕掛けた貿易戦争は、結果的に中国の国内を引き締め、国際社会の中国への傾斜をもたらす可能性が大きいからだ。トランプ流に言えば、「Make China Great Again」につながりかねない愚策中の愚策なのだ。
すでに中国経済は虫の息だが…
今、中国は、2020年から2022年までの「ゼロコロナ政策」で景気が冷え込み、不動産バブルの崩壊や反スパイ法改正を受けての国際社会からの投資控えもあって、青息吐息の状態にある。
そのうえに高関税による輸出産業へのダメージが加われば、中国にとっては「泣きっ面に蜂」状態になりかねない。
中国当局は、3月開催した全人代(中国の国会)で、今年の経済成長率目標を5%前後に据え置き、景気下支えのため内需を喚起する方針を打ち出した。しかし、関税率が145%ともなれば、外需への下押し圧力は避けられず、経済成長率は少なくとも2%以上は下落するとの見方も出ている。
ただ、筆者の見立ては少し違う。トランプ関税によって最も得をするのは中国だと断言できるからである。
多くの国々が世界第2位の中国へなびく
中国は、1期目のトランプ政権と熾烈な貿易戦争を繰り広げて以降、貿易相手国を東南アジア諸国などへとシフトした。アメリカの貿易額に占める中国の割合は14%弱にすぎない。
また、オーストラリア・シドニーに本部がある研究機関「ローウィ国際政策研究所」(Lowy Institute)によれば、すでに200を超える国々のうち、実に7割の国で対米貿易額より対中貿易額が多く、2023年には100を超える国が、アメリカとの貿易額の2倍を超える貿易を中国と行っているという実態もある。
トランプ氏が「アメリカを再び製造大国にして、アメリカの黄金時代を築く」ことだけを目的に、この先も関税政策を継続すれば、中国の対米貿易額はさらに低下し、多くの国々が、世界第2位の経済大国で、かつては「世界の工場」とも称された中国になびくに相違ない、と筆者は見ている。
4月4日、イギリスのBBCはトランプ氏による関税政策について、「中国首脳にとって『贈り物』」になるとの分析を公表した。
習近平総書記(71)は、この機に乗じて、トランプ氏率いるアメリカを「混乱、貿易破壊、自国利益優先」の国として位置づけ、習氏率いる中国については、「安定、自由貿易、国際協力」を推進する国だとアピールできるというのがBBC記事の要旨だ。
中国の報道官「保護主義に未来はない」
「中国人はトラブルを起こさないが、恐れもしない。圧力や脅迫、恐喝は正しい方法ではない。貿易戦争と関税戦争に勝者はなく、保護主義に未来はない」
これは、ホワイトハウスのレビット報道官同様、すっかり顔が売れた中国外務省の林剣報道官(47)が4月8日の記者会見で国内外に発信したフレーズである。
中国は、その数日前まで台湾を取り囲む形で大規模な軍事演習を実施し、頼清徳政権に圧力をかけ脅迫していた国だ。個人的には「よく言うよ」とは思うが、言葉だけ聞けば、トランプ氏やレビット報道官が放つコメントよりも、はるかにまともに感じてしまう。
そんな中国も今、1期目のトランプ政権下で貿易戦争を繰り広げたような体力はない。
台湾統一への余力も残しておきたい。そこで、習指導部が目指しているのが、アメリカと1対1で勝負するのではなく、「団体戦でアメリカに勝つ」という体制づくりだ。
代表的なのが、トランプ政権誕生をにらんで進めてきた「戦狼外交」(攻撃的な外交スタイル)から「ほほ笑み外交」への転換である。
習近平の「この指とまれ」大作戦
中国は、アメリカとの貿易戦争を、「トランプ氏の理不尽さに、みんなで対抗していこうよ」とアピールする好機ととらえ、「この指とまれ」と言わんばかりに同調国を募っているのである。珍しく習氏自らが動いた4月14日からの東南アジア3か国歴訪は、それを象徴する動きだ。他にも最近の動きをまとめておく。
(1)EUへの接近
2月、王毅外相が、ドイツ、スペイン、フランスなどを回り25か国の首脳と会談。アメリカに依存しない「多極主義」に賛同するよう呼びかけた。ウクライナ戦争の解決策をめぐってアメリカと対立するEU諸国を中国側に引き入れる狙い。
(2)日本との関係改善
3月、来日した王毅氏は、石破首相らと会談し、相互信頼と協力強化を求めた。日本に「脱トランプ」を迫り中国に傾斜させたいという思いの表れ。
(3)アジア運命共同体の促進
3月、中国・海南省のボアオに60カ国以上の代表者を集め、中国共産党序列6位の丁薛祥副首相が、アメリカを念頭に「開放的な地域主義の堅持」を訴え、アジア各国の結束強化を求めた。これもアジア諸国を中国になびかせるため。
このように、中国は、国際社会が「トランプ恐慌」に陥っている現状を利用し、「アメリカVS中国+国際社会」という構図を作ろうとしているのだ。また、国内的には、習氏の経済対策に対する国民の不満の矛先をアメリカにすり替えようとしているのである。
思えば、アメリカがバイデン政権だった時代は、経済も安全保障も「アメリカ+国際社会VS中国」という構図だった。景気の低迷で習氏の指導力にも「?」がつけられたものだ。わずか数カ月で変われば変わるものである。
ウォール街と国民の反対にビビるトランプ
とはいえ、そんな中国の野望も長くは続かないだろう。
「トランプ氏の狙いは、来年11月の中間選挙で、上下両院ともに共和党が勝つこと。トランプ氏が関税の発動に90日間の猶予を設けたのは、アメリカの株価の急落や物価高を恐れる国民の反発が予想以上だったため、ビビッてしまったからです。高関税はあくまで取引材料で、長続きはしません」
とは、ボストンのTV局、WGBHのプロデューサーが筆者に語った予測である。
UNIQLOなどを展開するファーストリテイリングの柳井正会長兼社長(76)も、4月10日に開いた決算会見で「トランプ氏の関税政策は、たぶん続かない」と予想している。
これらの見方には筆者も同調する。バイデン前大統領に対する「不満のポピュリズム」で再選を果たしたトランプ氏がもっとも神経質になるのがウォール街や国民の反応だからである。
4月13日、トランプ氏が「スマホなどの電子機器には別の関税を課す」との考えを示したのは、中国からの輸入が多い情報通信機器の販売価格が関税によって急騰し、若者らの反発を買うことを恐れたためだ。
日本で言えば、石破茂首相(68)が近く、赤沢亮正経済再生相(64)をアメリカに派遣し、相互関税の見直しを求めることにしているが、トランプ氏とすれば、各国との間でアメリカへの投資やアメリカ製品の輸入拡大にメドがつけば、「中国を利するだけ」で「自分への支持率を下げるだけ」の政策は取り止め、対中関税に絞る可能性も十分にある。
石破政権は「土下座外交」するしかない
ただ、石破政権としても対策は急務だ。政府・与党内では、所得制限は設けず1人あたり5万円を給付する案や、食料品等を念頭に置いた消費税の減税策が浮上している。
前者は、参議院選挙を意識したバラマキにすぎず、過去の給付を見ても政権浮揚にすらならない愚策だ。後者も、一国民としては助かる反面、国の税収の3割を占める安定財源を大幅に減らしてしまう付け焼刃の政策だ。
筆者が思う関税対策は、石破政権として愚策をゆるゆると考えながら、トランプ氏の翻意を待つことだ。強いてやるなら、格好は悪いが「土下座外交」を繰り返すことである。
トランプ氏には、潜在的に「われわれは日本を守るが、日本はわれわれを守らない。何も支払わない」という安全保障上の不満がある。それはおいそれとは消えない。
日本としては、「日本の対米投資は世界一」で「アメリカとはこんな共同プロジェクトが可能」といったファクトを示しながら、トランプ氏に「どうぞ、お目こぼしを」と懇願し続けるしかない。そうしている間に、今、国際社会を襲っている豪雨は止むと思うのである。